「減価償却」という言葉は、目にしたことはあっても「どのようなものなのか、実のところよくわからない」という人が多いのではないのでしょうか。

不動産における減価償却を正しく理解することは、実は節税対策にもつながります。不動産収入がある人や不動産を売却した人は、確定申告の前にしくみを理解しておきましょう。

本記事では、減価償却の概要や計算方法、注意点などをわかりやすく紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

不動産における減価償却とは

不動産における減価償却のイメージ減価償却とは、高額な資産を取得した際に、購入代金を耐用年数に応じて1年ずつ分割して経費計上する会計処理のことをいいます。

設備や車両など対象になるものはさまざまですが、ここでは不動産における減価償却の概要を解説します。

不動産の場合は建物が対象

不動産における減価償却は、建物などの資産を取得した費用を耐用年数で割り、毎年の経費として計上する会計処理のことをいいます。

たとえば建物を5,000万円で購入した際に、購入した年に5,000万円の全額を計上するのではなく、耐用年数に応じて毎年分割して計上します。

減価償却が適用されるのは、建物のように、時間の経過とともに価値が減少する資産に対してのみです。

これはあくまでも会計処理における考え方で、一定のルールをもとに計算されるため、実際の使用状況や劣化具合は関係ありません。

対して土地は、時間の経過によって価値が下がるものではないため、会計処理の際に減価償却は行いません。

実際の土地の価格は市況によって変化しますが、会計上では土地の価格は経年による変化がないと考えます。

関連記事:不動産売却時に必要な減価償却について知って得する知識

法定耐用年数を用いて計算する

法定耐用年数とは、その固定資産が本来の機能を持ち続けられるとみなされる期間のことを指します。固定資産の取得費用は、法定耐用年数に応じて分割したものを、毎年の経費として計上します。

住宅用の建物の法定耐用年数は、次の通りです。

構造 法定耐用年数
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)
鉄筋コンクリート造(SR造)
47年
鉄骨造 34年(4mmを超えるもの)
27年(3mmを超え4mm以下のもの)
19年(3mm以下のもの)
組積造(れんが造・石造・ブロック造) 38年
木造 22年
木骨モルタル造 20年

出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

関連記事:建物の減価償却とは?耐用年数や計算方法について解説

不動産の減価償却は節税対策になる

アパートやマンションなどの不動産収入がある場合は、所得を計算する際に減価償却費を差し引くため、節税効果が期待できます。

不動産収入における経費として、修繕費用や固定資産税、損害保険料などの実際に支払った費用だけでなく、減価償却費も支出のない経費として差し引くことが可能です。

とくに中古物件は耐用年数が短いため、新築物件と比べると減価償却費も高額になります。

そのため、新築物件よりも中古物件のほうが、取得後の数年間は高い節税効果が期待できます。

ただし、耐用年数が短いと、節税効果が期待できる期間も短くなるため注意が必要です

不動産において減価償却が必要になるケース

減価償却が必要なケースのイメージ

不動産において減価償却が必要になるのは、次の2つのケースです。

  • 不動産収入があるケース
  • 不動産を売却するケース

それぞれのケースについて、詳しく解説します。

不動産収入があるケース

アパートやマンションなどの賃貸経営で家賃収入がある場合は、確定申告でその所得を申告しなければなりません。確定申告の際に、その建物の減価償却費を経費として計上できます。

アパートやマンションなどの賃貸経営はもちろん、転勤などのためにマイホームを貸し出している場合もこのケースに該当します。

不動産を売却するケース

所有していたマンションや戸建て住宅を売却して利益が発生した場合は、譲渡所得税が課されます。この譲渡所得税を算出する際に、建物の減価償却費が必要になります。

譲渡所得税が課されるのは、不動産を購入した価格よりも高値で売却できた場合です。

購入時の価格と売却時の価格において、差額分の利益を譲渡所得といいます。

譲渡所得は、不動産の取得費から減価償却費を差し引いて算出します。

この譲渡所得に課税されるのが、譲渡所得税です。

また、譲渡所得を算出した際に損失がある場合も、確定申告をすることで源泉徴収税額の還付を受けられることがあります。

不動産における減価償却の計算方法

減価償却の計算方法のイメージ

不動産における減価償却の計算方法には、次の2つの種類があります。

  • 定額法
  • 定率法

それぞれについて、詳しく解説します。

定額法

定額法とは、毎年同額の減価償却を計上していく方法のことを指します。

たとえば2,000万円の資産を10年間で償却する場合は、毎年200万円ずつ償却していく形になります。

定額法による減価償却費の計算方法は、次の通りです。

減価償却費=固定資産の取得価額×定額法の償却率

定額法は、定率法よりも初期の減価償却費が少ないため、利益が多く残るというメリットがあります。

また、毎年同額を減価していくため、帳簿をつけやすくわかりやすい計上方法であるといえるでしょう。

ただし、修繕などが必要となる時期に負担率が高くなるという点はデメリットといえます。

また、平成19年3月31日以前に取得した固定資産は旧定額法が採用されるため、上記の計算方法は使用できません。

定率法

定率法とは、未償却残高に対して毎年一定の率で減価償却していく方法のことを指します。

初期は償却額が大きく、年々償却額が小さくなっていくのが特徴です。

定率法による減価償却費の計算方法は、次の通りです。

減価償却費=固定資産の未償却残高×定率法の償却率

ただし、上記の減価償却費が償却保証額を下回った年以降は、次の計算方法を使用します。

減価償却費=改定取得価額×改定償却率

償却保証額とは、資産の取得価額に、耐用年数に応じた保証率を乗じて計算した金額のことを指します。

定率法は、定額法と比べて早いうちに多くの減価償却費を計上できるため、節税効果が高い計上方法であるといえます。

また、収益力が低くなる頃の負担が軽減されるのもメリットのひとつです。

ただし、定額法と比べると初期に利益が出にくい点はデメリットといえるでしょう。

事業用不動産の減価償却

事業用不動産の減価償却のイメージ

事業用不動産とは、事業用または貸付用の建物のことです。

事業用とは個人事業用の店舗や事務所、倉庫など、貸付用とは賃貸物件のことを指します。

事業用不動産の減価償却は取得した時期によって計算方法が異なるため、ここではそれぞれの計算方法について詳しく解説します。

旧定額法の償却率

平成19年3月31日以前に取得した事業用不動産の減価償却費は、次のように計算します。

減価償却費=(購入価額−残存価額)×償却率

ただし、残存価額とは取得価額の10%として計算するため、実際には次のような方法で求められます。

減価償却額=取得価額×90%×償却率

旧定額法の償却率は、国税庁が発表している「減価償却資産の償却率表」に記載されているものを用います。

新定額法の償却率

平成19年4月1日以後に取得した事業用不動産の減価償却費は、次のように計算します。

減価償却費=建物購入価額×償却率

新定額法の償却率は、国税庁が発表している「減価償却資産の償却率表」に記載されているものを用います。

非事業用不動産の減価償却

非事業用不動産の減価償却のイメージ

非事業用不動産とは、自分自身が住むための住宅やセカンドハウスなど、居住用の建物のことを指します。

ここでは非事業用不動産の減価償却について解説します。

事業用不動産との違い

非事業用不動産は、事業用不動産の法定耐用年数の1.5倍の年数に対応する償却率で計算します。

たとえば木造の建物の場合、事業用の法定耐用年数は22年であるため、非事業用の法定耐用年数は1.5倍した33年となります。

非事業用の法定耐用年数が長く設定されているのは、マイホームを売却する際になるべく税金が発生しないように配慮されているためです。

法定耐用年数が長いと償却率が小さくなるため、譲渡所得も少額になり、譲渡所得税の負担も軽くなります。

マイホームの売却は事業と違って大きな利益を得るためのものではないため、なるべく税金の負担が少なくなるように設定されています。

非事業用不動産の償却率

非事業用不動産の減価償却は、次のように計算します。

減価償却費=建物購入価額×0.9×償却率×経過年数

ここでの経過年数は、築年数ではなく、所有年数を指します。

経過年数は、6ヶ月以上の端数が出た場合は1年とし、6ヶ月未満の端数が出た場合は切り捨てて計算するのがルールです。

たとえば所有期間が10年6ヶ月の場合は11年、10年5ヶ月の場合は10年として計算します。

中古の不動産の減価償却

中古の不動産の減価償却のイメージ

中古の不動産の場合、事業用と非事業用で減価償却費の考え方が異なります。ここではそれぞれについて解説します。

中古の事業用不動産の場合

中古の事業用不動産を購入した場合、「法定耐用年数のすべてを経過している場合」と「法定耐用年数の一部を経過している場合」のそれぞれについて考える必要があります。

「法定耐用年数のすべてを経過している場合」の耐用年数の算出方法は、次の通りです。

中古物件の耐用年数=法定耐用年数×20%

たとえば築25年の木造物件の場合、法定耐用年数は22年であるので、「22×20%」を計算し、端数を切り捨てると耐用年数は「4年」です。

よって、このケースでは耐用年数が4年の場合の償却率を用いて減価償却費を算出する形になります。

「法定耐用年数の一部を経過している場合」の耐用年数の算出方法は、次の通りです。

中古物件の耐用年数=法定耐用年数-経過年数+(経過年数×20%)

たとえば築20年の木造物件の場合、法定耐用年数が22年、経過年数が20年であるので、「22−20+(20×20%)」を計算し、耐用年数は「6年」となります。

よって、このケースでは耐用年数が6年の場合の償却率を用いて減価償却費を算出する形になります。

中古の非事業用不動産の場合

非事業用不動産、つまり居住用の物件の場合は、事業用不動産のような耐用年数の計算は不要です。

非事業用不動産は、新築の場合と同様に、構造だけで償却率が決まります。

過去にどれだけ償却されてきたかも関係ありません。

不動産における減価償却の注意点

減価償却の注意点のイメージ

ここでは不動産における減価償却の注意点を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

土地と建物は分けて考える

土地と建物を一括契約で購入したとしても、土地は非減価償却資産、建物は減価償却資産であるため、会計上では分けて考える必要があります。

取得価額は建物の分に対してのみ、減価償却をすることになります。

売買契約書に土地と建物の価額が記載されている場合は、その価額を使用するのが原則です。

しかし、土地と建物の内訳が不明である場合は、固定資産税評価額の比率などをもとに按分して考えます。

建物の用途を変えた場合は耐用年数も変わる

建物の耐用年数は、建物を利用する用途によって変わるため注意が必要です。

非事業用不動産の耐用年数は事業用不動産の1.5倍になるため、同じ建物でも利用する用途を変更した場合は、変更後の耐用年数で減価償却費を計算することになります。

たとえば木造の自宅を賃貸物件として貸し出す場合は、非事業用不動産の33年であった耐用年数を、事業用不動産の耐用年数である22年として考えることになります。

ただし、年の途中で用途を変更した場合は、その年の初めから変更後の耐用年数で減価償却費を計算することが可能です。

不動産における減価償却を正しく理解して、節税につなげよう

減価償却を正しく理解し節税につなげるイメージ

不動産における減価償却を正しく理解することは、節税対策にもつながります。

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