傾斜地に、家を建築する際にはその土地の状況によってさまざまな規制があります。その中でも代表的な規制が、各都道府県の定める「がけ条例」です。がけ条例を無視すると、後から改築を迫られる手間が出てくるので注意しましょう。

この記事では、がけ条例の内容や家を建てる際の注意点について説明します。

がけ条例とは?

建造物や近隣住民の安全を守るために制定された規制

傾斜地に家を建てると、土台が不安定になりやすく天災などをきっかけに倒壊する恐れがあります。また、傾斜地の下に家を建てると土砂崩れなどの被害に遭う確率が高まります。

そこで、がけ条例では一定の高さを超えるがけの上、またはがけの下に建物を建築する際に制限を設けています。

■がけの定義
2~3mを超える硬岩盤以外の土質があり、30度を超える傾斜の土地

これらの条件を満たした土地に建てる家はがけ条例の対象に含まれます。がけ条例とはあくまで、「がけに関する規制」の通称であり、どのような形で制定されているかは地域によって異なります。そして、がけ条例の詳細も都道府県、自治体によって異なります。

■東京都のがけ条例
「2mを超えるがけの下の端から、がけの高さの2倍以内に建物を建てるなら、高さ2mを超える擁壁を設けるようにする」もしくは「がけの高さの2倍以上遠くに建てる

これはあくまで、東京都だけに適用される条例です。ほかの地域であれば、がけや建物の高さが変動するので注意しましょう。

がけ条例の内容を確認する方法

都道府県や、自治体によって異なるため必ず役所で確認する必要があります。

一見、さほど危険に見えないがけでも過去に事故が起きていたなら、きびしい規制が加えられがちです。こうした条例を、ホームページなどで確認する方法もありますが、どの書面でがけに関する規制を確認できるのか、探すのは非常に手間です。自己判断で動くと失敗する可能性もあります。役所で担当者に教えてもらうのが得策でしょう。

なお、がけ条例では建物の高さなど、一律の規定だけが記されているとは限りません。土質などに応じて細かく規制内容が定められている場合も出てきます。事前に、建物をつくる予定の傾斜地を細かく調べておき、担当者に自ら情報を提示するようにしましょう。

それでも、がけ条例に該当する土地かどうかを判断するのが難しい場合もあります。傾斜地の高さ、土質などを調べるには特別な技術が必要です。しかし、一般人で細かい調査まではできないでしょう。

そこで、自治体の建築指導課に相談するのが賢明です。建築指導課では、近隣区域の細かいデータを見られる可能性もあるうえ、調査方法についてもアドバイスをくれるからです。

がけに面した土地に家を建てるメリット

崖に面した土地に家を建てるメリットはあるの?

多くの人が、平坦な土地に家を建てるほうが楽だと考えがちです。しかし、がけにはデメリットだけでなくメリットもあります。

がけのメリット

眺望がよい
  • 見晴らしがいい家に住んでいるとストレスが解消される 閉塞感を抱かずに毎日を過ごせる
日当りのよさ
  • 日光が差し込む部屋は居心地がいい 洗濯物がかわきやすいなどの便利さもある
地価が安くなる
  • 比較的人気が低くなる傾向があるため地価が安くなりやすい
  • 低予算で家を建てたいならあえてがけを選ぶのも一つ

がけに家を建てるデメリット

建築費用がかさむ可能性
  • がけ条例に抵触している区域に建築物は認められない 場合によっては擁壁等の工事などを徹底しなくてはいけない 予想外の建築費用が発生する可能性がある
天災被害のリスク
  • がけは豪雨や台風の影響を受けやすい土地 大地震や洪水などでも、被害を受ける危険は少なくない
通勤や通学に苦労する
  • 傾斜面に家があるが故に苦労することも

がけに家を建てるなら、メリットとデメリットの両方に目を向けましょう。 がけ下に家を建てる場合 家をがけ下に建てる場合には、さまざまな措置が必要になります。平地よりもリスクが高い地形なので、がけ条例に基づいて安全に暮らせるよう配慮しましょう。

新しい擁壁の設置

がけ下においてもっとも恐ろしい事態は「がけ崩れの発生」です。がけ崩れの規模によっては、家族全員の生死にかかわります。

擁壁によってしっかりと被害防止をしておきましょう。
がけからの距離

がけから一定の距離を取って住宅を建てると、天災や地盤のゆるみから家を守れます。

ちなみに、どれだけの距離を取ればいいのかは自治体ごとに異なるので、役所で確認しましょう。
がけ側への注意

たとえ家をがけから離して建てたとしても、大規模な災害ともなれば被害が押し寄せてくる可能性はあります。

建物のがけ側の壁をコンクリートで造ると、万が一の状況にも太刀打ちできるので、検討してみるのもおすすめです。
防護壁をつくる
建物とがけの間にコンクリートの防護壁を置けば、リスクを大きく軽減できる

これらの対策は「がけ条例に書かれているかどうか」に関係なく、傾斜地で暮らすからには徹底して損のないポイントです。

がけ上に家を建てる場合

家をがけ上に建てる場合にも、自治体によって条例内容は異なるものの、がけ条例はさまざまな措置を求めてきます。

擁壁の設置
  • がけに家を建てると尋常ではない荷重がかかりがち 地盤がゆるむなどのリスクが生まれる そこで、擁壁をつくって安全性を確保することが必須
※ちなみに、擁壁については「鉄筋コンクリート製に限る」といった指定ががけ条例の中でなされている。
がけ崩れ対策

家自体を頑丈に建てても、土台ががけ崩れを起こしてしまえばひとたまりもありません。

  • 建造物の基礎を深くするとがけ崩れから家を守りやすくなる   条例によっては基礎の深さまで規制しているため、建築前には確認しておくこと
浸水防止のための排水設備を設ける

がけ上ではほかの地域以上に、雨水による土砂崩れが起こりやすくなるのも特徴です。土地が傾斜になっているため、上から下へと雨水は流れていきます。そして、浸水によって地盤がゆるみ、土砂崩れの危険が高まります。

  • 浸水を防止するため排水設備を設けることを義務づけている 排水設備は建築後に付け足すには手間になるため、できるかぎり、計画段階から盛り込んでおくようにすること

がけ条例に該当しないか確認しよう

家を建てるとき、傾斜地であれば「土地が安くて済む」と喜んでしまいがちです。また、傾斜地のほうが美しい景色を見られるとして、好んで住みたがる人もいます。

ただし家を建ててしまう前に、傾斜地が「がけ」に該当しないか慎重に調べましょう。もしも、がけ条例に該当する土地だと擁壁工事に何百万円もかかることがあります。家を建ててしまった後でがけ条例に気づくと、想定していなかった工事費用を払わざるをえません。

家を建てる土地ではロケーションや価格だけでなく、法律面もチェックしてから選ぶようにしましょう。