2003年に改正された建築基準法では、建物を設計するときの高さ制限の考え方に「天空率」という新しい指標が加えられました。従来の斜線制限では違法になっていたものが、天空率では適法になるケースが出てきました。

この記事では、天空率とはなにか、また、天空率を利用することでどのようなメリットがあるのかについて解説します。

高さ制限の新たな指標となる天空率

天空率(てんくうりつ)
ある地点からどれだけ天空が見込まれるかを示す指標

天空という用語は、簡単にいえば「空」のことで、主に太陽光の照度を考えるときの「全天空照度」などにも使われます。

プラネタリウムにある半球状のスクリーンのようなもの

たとえば、プラネタリウムにある半球状のスクリーンのようなものといえます。天空率100%なら全方向に空を望む状態で、逆に0%であれば空がすべて塞がれた状態、つまり空が全く見えないで状態です。砂漠のように近くに建物が何もないところであれば、天空率は100%に近くなります。

マンホールや、井戸の中などに入ったときのように、上の方にだけ空が見える状態では天空率が0%に近くなるのです。

建築環境工学的には、空間の開放感や閉塞感を定量的にあらわす指標として扱われます。天空率計算のためには、同心円状に天空をマッピングした「天空図(てんくうず)」が用いられます。天空自体は3次元の半球なのですが、それを2次元平面に変換して表現しているわけです。半球状の点から半球の端部を含む平面に対して、垂線を下ろすことで変換しています。

専門用語では、天空図は「天空上のある任意点を正射影投影(せいしゃえいとうえい)した図」と表現されます。

天空率を利用するメリット

天空率と斜線制限の関係

2003年の改正以前の建築基準法では、高さ制限は「斜線制限(しゃせんせいげん)」で評価していました。

斜線制限
基準線によって建物のボリュームを制限する考え方です

基準線は、敷地境界線などの基準点から垂直方向に所定の高さまで垂線を伸ばし、そこから斜め方向に所定の角度(傾斜)で線を伸ばしたものになります。斜線制限で建物の高さを制限するということは、基準線から建物までの距離が問題になっていたのです。

道路に面した部分を切り落としたような建物が多く見られる理由は、その基準線に合わせて外形を決めたからです。

ここで、天空率を利用すれば、斜線による規制にとらわれることなく、建築可能な空間を広げられることになります。斜線制限と同程度の採光・通風が確保できれば、斜線制限は不適用になるのです。

天空率を用いる2つのメリット

1.斜線制限で考えるより高い建物が可能になる場合が多いこと
容積率が同じであっても、斜線制限の場合と天空率の場合では、天空率のほうが高さの自由度が向上する
2.良好な街並み形成に効果がある点
■都市に立つ、斜線制限を守るための工夫として外壁が斜めになった中高層建築があるが、この種の建物は都市景観においては美観を損ねるというのが法改正者の立場

規制緩和の一環として、天空率を用いた建物を建てることで「都市の活力ある再生」を推進することが改正の目的

天空率を利用できる建築規模

天空率は、中高層の建物を斜線制限の適用から除外して、良好な街並みの形成を促進するための緩和規定に伴って導入されました。実際に、中高層マンションやオフィスビル等で天空率を用いて、斜線制限内では難しかった高さを実現しているものがあります。

天空率を利用できる建築規模

ただし、戸建住宅などでも、場合によっては斜線制限によって建物のボリュームを切り取るような操作が要求されることがあるのです。その場合は、天空率で対応するほうが居住性も外観の見た目も良いものになります。

つまり、中高層の建物だけではなく、一般住宅の規模であっても斜線制限に対応するより天空率のほうが有利になる場合には利用されています。

天空率を利用する際の注意点

天空率を利用するには、いくつかの注意点があります。ここでは、実務的な面と社会的な面からポイントを確認します。

特定行政庁や民間検査機関による取り扱い方の違い

条文で明示されていないような複雑な敷地条件の場合には、特定行政庁や民間検査機関ごとに取り扱い方が異なる場合があります。

天空率を用いて建物の高さを決める場合には、管轄する担当部署との間で十分に協議を行っておく必要があるのです。

近隣住民への配慮

天空率を用いて建物の外形を検討し、建築基準法的にクリアした建物であっても、そのまま建ててしまうとトラブルの原因になることがあります。特に、設計段階で建物の形や高さが変わる場合には、近隣住民への丁寧な説明は欠かせません。

たとえば、北側斜線を天空率で緩和した建物ボリュームは、適合判定であっても、北側隣地の住民は大きな心理的圧迫を受ける場合があります。そもそも、建物の高さを制限する法律は、新しく建てられる建物の影響を受ける近隣住民の保護が目的です。

その法の趣旨を遵守する意味で、近隣住民への配慮は忘れないようにしましょう。

天空率申請のポイント

天空率を申請する際には、次に述べる3つの項目が重要なポイントになります。

1.適合建築物の区分けが正しいか

天空率を採用すると、「適合建築物」と「計画建築物」の天空率を比較して、計画建築物の天空率のほうが上回っているときに斜線制限が緩和されるという考え方をします。

適合建築物
敷地に適用されるすべての斜線制限を考慮してできた建築できる最大の外形
計画建築物
実際に設計している建物のボリューム

ポイントは、天空率適合判定の基礎となる適合建築物にすべての法的制限が反映されているかどうかという点です。

2.測定ポイントの配置は正しいか

天空率は斜線制限を緩和する目的で導入されているため、斜線制限が適用される面すべてについて正しく測定する必要があります。

さらに、道路斜線、隣地斜線、北側斜線それぞれに測定距離と測定点が決められているのです。なお、敷地と測定距離と測定点の位置は、敷地外形ラインから測定距離だけ離れた位置に敷地外形ラインと同型の線を引き、その上に測定点をプロットするという関係になっています。

まず、道路斜線については、測定距離が道路の反対側になっており、測定点は道路幅の2分の1以下の等間隔に取ります。

次に、北側斜線については、低層と中高層で数値が異なります。

第1種・第2種低層住居専用地域
■測定距離
4m

■測定点
均等間隔1m以内
第1種・第2種中高層住居専用地域
■測定距離
8m

■測定点
均等間隔2m以内

隣地斜線については、斜線勾配が2.5または1.25のどちらかによって条件が異なります。基準高さはどちらも31mです。

斜線勾配が2.5の場合
■測定距離
12.4m

■測定点
均等間隔6.2m以内
斜線勾配が1.25の場合
■測定距離
16m

■測定点
均等間隔8m以内

3.天空率の計算結果が正しいか

天空率の計算を簡単に言えば、ある測定ポイントで空を見上げたときに、空の範囲と計画建物によって空が遮られる範囲の比率といえます。

具体的な計算方法は、天空図全体の面積から投影された計画建物の面積を引いたものを、天空図全体の面積で割ります。

つまり、計画建物の面積が少なくなれば天空率は100%に近くなり、逆に面積が多くなれば0%に近くなるのです。実際の計算は天空率計算用のソフトを使います。

ですが、いかに優れたソフトであっても、入力が誤っていれば結果も誤りになります。入力数値や設定を間違えないようにダブルチェックをするとよいでしょう。

まずは専門家に相談してみよう

天空率を計算するには、天空率関連条文の理解と天空率計算を行うソフトが必要です。

実際の計算はソフトが行いますが、どの数値をどのパラメータに入力すればよいのかについては、測定ポイントの配置を始めとして、天空率の基本の理解が必須になります。

さらに、申請を受ける特定行政庁や民間検査機関によっても細部が異なる場合もあるのです。まずは天空率計算に通じた専門家に相談するのが時間と労力の節約になります。

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