不動産売買の広告などで「私道負担あり」「セットバック要」といった表記を見かけることがあるでしょう。私道負担ありの土地を売買する場合は、あらかじめその特徴を把握しておく必要があります。よく知らずに私道負担ありの土地を購入してしまい、後にトラブルになることも少なくありません。また、経済的な負担が発生する可能性もあるため注意が必要です。

今回は私道負担とは何か、メリット・デメリットについて、またセットバックとの違いについて詳しく解説していきます。

私道負担とは

私道負担のイメージ画像

道路には公道と私道の2種類があり、管理者がだれなのかによって区別されています。

■公道
国や地方公共団体が管理する道路をさします。道路の所有者が個人でも管理者が公共機関であれば公道として扱われます。

■私道
個人や民間企業が所有・管理する道路をさします。私道をつくること自体は所有者の自由ですが、私道をつくらざるを得ない場合もあります。

そして私道負担とは、売買する土地の一部に私道が含まれていることを表します。私道とは言え、道路であるため自由に使うことはできません。

私道がつくられる経緯はさまざまですが、代表的な事例としては不動産会社や地主が広い土地を分割して売りに出すような場合に道路をつくるケースです。区画割りの結果、公道に接していない土地ができてしまうと、私道をつくる必要性が出てきます。
また、公道から離れた奥まった土地に建物をつくる場合も私道をつくらなくてはなりません。

尚、私道の所有者は、地主や土地を購入した人の共有名義、または土地を購入した人で私道を分筆して持ち合う場合などがあります。
加えて、私道負担が付いた土地を売買するときは、敷地面積のほかに私道負担面積やセットバック面積を明記するよう定められています。よって不動産売買の広告などで「私道負担あり」「セットバック要」といった表記をみたら、具体的な面積などの詳細を確認しておくことが大切です。

セットバックとは

セットバックとは道路幅が4m未満の場合、その道路に接している土地を敷地側に後退(セットバック)させて道路として使う部分をつくり、4mの幅を確保しようという取り決めです。

土地を後退させてまで道路幅を4mとする理由は、建築基準法によって幅4m以上の道路に2m以上接していない土地には、建物をつくれないと定められているからです。これを「接道義務」と呼び、接道義務は火災や地震などの災害時に救助活動をスムーズに行うために欠かせない規定となっています。また、これは公道、私道どちらも幅4m以上を確保する必要があります。

一方で、建築基準法が施行された1950年以前につくられた私道では、幅4m未満の道路がたくさん存在します。しかしいきなりセットバックしてくださいというのは現実的に難しいため「いずれ建て替る際は必ずセットバックして建て替えてください」と定められており、古い建物を建て替える際は注意が必要です。

セットバックした土地の所有者は?

セットバックした土地の所有者は、各自治体によって取り扱いが異なります。
土地の所有者が所有権をもつ場合(私道)や自治体が所有権をもつ場合(公道)などがあります。
自治体によってセットバックに関与しない場合や積極的にセットバックに協力する場合があるため、各自治体の建築に関する部署(建築指導課など)に問い合わせると良いでしょう。

私道の多くは位置指定道路

私道負担の内容は、ケースバイケースで一様ではありません。セットバックによるもの以外で多いのが、位置指定道路になっているケースです。
位置指定道路とは、都市開発法の開発許可を受ける必要がない小規模の宅地開発でつくられる道路のうち特定行政庁から位置の指定を受けた道路です。

位置指定道路の指定を受けるための条件としては

  • 幅が4m以上であり、原則としてすみ切りを両側に設けること
  • 道路形態、道路境界が明確であり、排水設備が設けられていること
  • 原則として通り抜け道路であること

などがあげられます。

このような条件にあう道路をつくり、位置指定道路の認可を得ることによって、建築基準法上の道路と認められます。位置指定道路は、建築基準法の要件を満たす私道といえます。

一方で、土地を区画割りし販売する際に私道をつくっても、その道路が建築基準法上の道路として認められなければ、道路に接した土地に建物をつくることができないため注意が必要です。
また、位置指定道路は私道ですが、完成後に公共機関に移管されて公道となるケースもあります。

私道負担ありの土地を所有するメリットとデメリット

私道負担ありの土地にはデメリットが少なくないものの、いくつかのメリットが存在します。

メリット

私道負担の部分はあくまでも所有者のもの

原則として所有者の許可がない人は通行できず、通行料を取るのも自由です。
さらに第三者が、私道を通った奥の土地に建物を造りたい場合は、私道の下に水道管などのインフラ設備を敷設しなければならないことがあります。工事を進めるには、あらかじめ私道の所有者に許可を取るか承諾料を支払わなければならないため、近隣住民に許可を与える立場となり優位性が担保されます。

私道部分を含めた売却益が得られる

土地売却の際には私道部分を含めた売却益が得られます。
土地に、私道が付いていることを知らずに敷地部分だけを売却してしまうケースは少なくないため、確認しておく必要があります。

デメリット

次にデメリットについて解説していきます。

スペースを自由に使えない

私道負担は、道路として利用する目的で確保された部分であるため、建物はもちろん塀や門扉などを設置することができません。火災や地震などの災害時に、緊急車両がスムーズに出入りできることが必要となるため、障害物を置くことも禁止されています。
すなわち、土地購入者の所有物であるにもかかわらず、自由に使えるわけではないのです。
但し、第三者による通行を認めない私道の場合は、通行を妨げる遮蔽物の設置は認められます。ですが、よっぽどのことがない限りはこのようなことをすると周辺住民との関係は悪化しますのでおすすめはしません。

また私道負担の面積は、容積率や建ぺい率の敷地面積には含まれません。100平方メートルの土地を買っても、20平方メートルが私道負担だった場合、利用できる敷地面積は80平方メートルとなります。このように利用できる面積が減る点はデメリットとなるでしょう。

経済的負担が発生する

上記の通り、実際に利用できる敷地面積は減りますが、私道負担の部分は個人の所有物となるため固定資産税が発生します。

また、道路の修繕が必要になったときは、所有者が費用を負担しなくてはなりません。共有名義や分筆の場合、一般的には分割して支払うことになり、負担は軽くなるでしょう。しかし、一人でも承諾しない人がいる場合や決めごとがまとまらない場合などにトラブルも生まれやすくなります。実際2022年11月に兵庫県西宮市にある周辺住民が所有する生活私道の補修に6億円掛かる試算が出ており、所有者である周辺住民と西宮市とで現在も協議が続けられています。

土地を売買する場合は注意

私道の所有者が地主など一人の場合、敷地のみの売買のため他の売買とそれほど変わりません。しかし共有名義の場合、買主は私道の共有名義部分も買うことになります。

また、飛び地として私道部分がセットになっている場合、買主は私道部分を買わないということもできますが、セットで購入しておいたほうがトラブルを避けられるでしょう。

私道を非課税にするための条件

私道は原則として固定資産税がかかりますが、公共性が高いと判断され「公衆用道路」として認められると、非課税となるケースがあります。

公衆用道路として認められると非課税となるケースがある

「公衆用道路」とは登記簿に記載する地目の一つで、法務局に地目変更登記申請を行うことで変更が可能です。しかし「公衆用道路=非課税」ではありません。一定の条件を満たしたうえで、非課税の対象として認められる必要があるのです。

通り抜け私道の場合、主な条件としては

  • 道路幅が1.8メートル以上
  • 不特定多数の人に利用されている
  • 客観的に道路として認定できる形態であること

などが挙げられます。

私道を非課税にするための申告は市区町村の窓口で「私道の非課税申請」をおこなう必要があります。認定基準は、市区町村によって異なり一様ではありません。また、申請には測量図が必要であるため、土地家屋調査士に作成してもらいましょう。

このような条件を満たし、公衆用道路として認められれば非課税となりますが、原則として管理やメンテナンスは所有者が行うことになります。
さらに、私道については市区町村への寄付を考える場合もあると思いますが、寄付を行う場合、審査基準があるため、寄付すると言っても認められない場合も多々あります。

まとめ

負担を考慮した土地の売買を

私道負担ありの土地は、資産価値が低くなりがちであるため、銀行から融資を受ける場合は不利になることもあります。また所有者が複数いる場合、メンテナンスや通行権をめぐって、近隣住民とトラブルになることも珍しくありません。

一方、安く入手できることも多く、好んで購入したがる投資家もいます。私道負担ありの土地には、ほかの土地にはないさまざまなメリットとデメリットがあるため、しっかり知識を付けてから土地の選定や売却を検討することが大切です。

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