不動産売却を検討するときには、「簿価」の意味について正しく理解しておくことが大切です。

簿価と減価償却費の関係や、どのようなときに簿価を活用するのか押さえておきましょう。また、法人が不動産売却するときの注意点、簿価以外の評価基準についても詳しく解説していきます。

簿価は年々減少するが時価は景気によって変わる

「簿価」という言葉は、不動産取引に限らず会計用語として使われるものです。

帳簿価格を略した用語であり、不動産取引では取得した価格のことを指します。簿価の対義語にあたるものが時価です。2つの指標の違いを、区別しておきましょう。

簿価と時価を使い分ければ、不動産を売却するべきタイミングの目安を理解できます。
不動産取引で薄価とは取得した価格

不動産を取得したときの簿価
年々価値が減少していくため下がっていくもの
時価
景気動向によって決まるもの

そのため、簿価と時価には差が生まれます。

不動産売却のタイミングは、基本的に取得価格である簿価よりも実際の売却価格の目安となる時価が上回っている時期が、最適だと言えます。何かの理由で、急いで不動原価産を売却しなければならないとき以外は、簿価と時価をよく見比べて有利な取引を進めていくことが重要です。

簿価はどういうときに活用できる?

不動産売却による損益計算は

売却価格ー(取得時の費用と売却のために必要となった費用)=譲渡益

このような、シンプルな計算式によって計算されています。不動産取引は、基本的に売手と買手の双方の話し合いで決まるもので、売却価格の決定は時価のほうが働きやすいと言えます。

ただ、保有する物件の簿価を知っておけば

買手から値引き交渉を受けたときに交渉材料となる

など、役立つ場面もあります。

売手側は、できるだけ高く売りたいという気持ちが働きますが、買手側からすると不当に価格を吊り上げられているのではないか、という気持ちが湧いてくるものです。

そこで、あらかじめ簿価を基に売却価格を提示しておけば、買手から値引き交渉を受けても根拠を持って交渉にあたれます。

減価償却費の計算と簿価

簿価が力を発揮するのは「減価償却費」の計算です。

資産は、取得したときから価値が目減りしていくため、耐用年数に応じて会計上も価値を減少させていく必要があります。その際に「減価償却費」が用いられます。なお、土地の減価償却は行いません。主に建物です。

具体的な計算方法には、主に「定率法」と「定額法」が使われます。

減価償却の計算のさいに重要

定率法と定額法

定率法
はじめは償却費が大きく年数を経過すると共に償却費が減っていく方法
定額法
取得価格を耐用年数で割って毎年均等に減価償却を行っていもの

どちらかの方法で減価償却を行い、一度選択した方法を途中で変更することはなく継続して使っていくのがポイントです。

減価償却に対して意識を向けておくと、不動産売却のタイミングを適切に見分けられる判断材料となるでしょう。市場価格が売却に有利な状態であれば、資産価値が目減りしてしまう前に早めに売却してしまうのも、ひとつの方法です。

簿価だけでなく、時価や減価償却費といった基準を意識することで、不動産売却の時期を見極めてみましょう。

法人の不動産売却にかかる税金と注意点

個人の場合と違い、法人では資金繰りを改善するため不動産を売却するケースもあります。

ただ、売却するタイミングを誤れば、大幅な損失を計上してしまうことがあります。逆に業績が好調なときに不動産を売却すれば、法人税などの負担が大きくなるおそれもあります。

法人では、すべての収入と損失を合算して計算するため、会社の業績も見比べながら売却のタイミングを見極める必要があります。

法人が不動産を売却するときは?

法人が不動産売却する際には

最終的な売却額ー(取得金額+売却のために必要とした費用)=譲渡益×法人税率

で、納める税金が決められています。

法人税率

利益400万円・・・21.4%
利益400万円・・・23.2%
利益800万円以上・・・34.3%

個人の場合は、不動産の保有期間によって税率が異なりますが、法人の場合は保有期間は関係ありません。また、消費税課税事業者のときには売却時の消費税についても、考慮しておく必要があります。

消費税

不動産取引における消費税は、土地については非課税ですが建物については課税対象です。消費税額を割り出すためには、売却金額のうち土地と建物、それぞれの売却金額を明確にしておく必要があります。

たとえば不動産の売却金額が3,000万円のケース
土地価格2,000万円・・・非課税
建物価格1,000万円・・・1,000万円×8%=80万円
(納めるべき消費税)

となります。売却額が大きくなればなるほど、支払うべき消費税額も増えていくので注意が必要です。

大きな利益には大きな税負担

一時的とはいえ、不動産売却によって大きな利益を計上してしまうと、税負担が重くなってしまう可能性があります。会社の業績に、大きな影響を与えないためには不動産売却で得られた利益を、有効活用する方法を検討しておきましょう。

役員退職金として支給・従業員に賞与として支給・万一に備えて生命保険などに加入する

などが、節税対策として有効な手段です。

退職金の支給や保険への加入は、必要とした費用の全額または2分の1程度を損金として算入できるのです。社内の福利厚生制度を整えるために、不要な不動産を処分するなどの判断も、経営においては大切です。不動産取引に伴う会計処理を、どの事業年度に組み込むかという視点を持つのも大切です。

売買契約を結んだ日もしくは不動産を最終的に引き渡した日のどちらか

で会計処理を行うのが、一般的だと言えます。会社業績が好調な事業年度での会計処理を避けて、次の年度に回すというのもひとつの方法です。

いずれにしても、プラスとなるタイミングで不動産取引を行うことが大切です。

簿価以外の評価基準

簿価以外にも、保有する不動産を客観的に見る評価基準があります。

実勢価格
◇不動産における市場価格
◇売却を考える際に最も重視するべきもの
◇不動産における市場価格
◇該当する不動産の過去の取引を基に算出されるデータ
◇売却価格を決めるひとつの判断材料

※取引件数が極端に少なかったり市場の変動が激しい場合には、実際の不動産価値とはズレてしまう可能性あり
公示価格
◇国税庁や国土交通省が定めた地価のこと
◇基準価格とも呼ばれるもの

※誰もが知り得るデータであるため、ひとつの基準ではあるものの実際の売却額になるわけではないため注意が必要
※すべての不動産についているわけではないため、別の方法と組み合わせて使う場合もある
相続税価額
◇相続税を計算するために用いられるもの
◇大きな変動が起こりにくいため相続対策として不動産を売却するときの目安となる

※あらかじめ相続税の計算ができるものの、そのほかの費用や税金についても合わせて考慮する必要がある
固定資産税評価額
◇不動産にかかる固定資産税を算出するための基準となるもの

※贈与税の計算では不動産価値そのものが固定資産税評価額となるため、必要に応じてチェック
鑑定評価額
◇不動産鑑定士などの専門家によって算出された評価額
◇不動産の現況を考慮して割り出されるものであるため精度の高い指標といえる

※ただし、実際の取引は買い手が該当する不動産に対してどのようなイメージを持つかにもよるため、必ずしも売却価格となるものではない

不動産売却価格は、できるだけ多くの指標を参考にして決めていくことが大切です。客観的な基準を知っておけば、買手に対して売却価格の根拠をしっかりと示していけるでしょう。

売却のタイミングと査定額を押さえることが肝心!

不動産売却の際には、売却価格やタイミングをよく見極める必要があります。

一度に大きな金額が動く取引では、誤って行動してしまうと後から受ける影響も大きなものになります。まずは、簿価と時価の違いを知り、保有する不動産の価値を適切に把握することが重要です。客観的な不動産価値を知っておけば、買手との交渉も有利に進めやすくなります。希望する売却価格に近づけるためには、あらかじめ準備を整えておきましょう。

また、法人が不動産売却する際には納税についても、意識を向けておきましょう。不動産売却のタイミングを明確にしておけば、会社経営にとってもプラスに働きます。

いずれにしても、不動産の正しい価値を把握して、有利なタイミングで不動産取引を考えることが大切です。