不動産の売却手続きを本人が行えない場合は代理人を立ててその行為を委任することができます。ただ、動くお金が大きいので安易にまかせるとトラブルになりかねません。そこで重要になってくるのが代理人の選定と委任状の作り方です。いざという時に困らないように、それら方法と注意点などについて解説をしていきます。
この記事の目次
不動産売却における代理人の役割と委任状の必要性
不動産売却に伴う契約は不動産の所有者本人が行うのが大原則です。しかし、「やむを得ない場合は代理人に売却手続きを委任できる」とされています。それは具体的にどういった場合でしょうか。
たとえば、不動産の所有者が海外に住んでいたり、入院中だったりして本人が契約に出向けないといったケースです。また、不動産の所有者である親が子どもに対して「不動産を自由に売っていいよ」と言った場合なども委任に当たります。
民法99条でも「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる」とあります。つまり、不動産の所有者が代理人を立てると宣言すれば、その代理人は自分の意志で不動産を売却することができるようになるわけです。
ここで注意が必要なのが代理人は単なる使い走りではないという点です。
代理人の権利とは
所有者に相談なしで勝手に相場の半額で売却しても法律的には問題ないのです。取引が終わってから「なんでそんな安い値段で売ったの」と文句を言っても後の祭りです。委任状はそうしたトラブルを防ぐために存在します。
そのなかに代理人が判断できる範囲や禁止事項などを記載しておけば、自分の意に反した取引をされる心配もなくなりますし、代理人の方もどこまで自分で判断してよいかが分からずに困ってしまうといったこともなくなるはずです。
ただ、不動産の所有者が認知症などになっており、自分から代理人に依頼することもできない場合もあります。そういったケースでは家庭裁判所によって選任された後見人が代理人の役割を果たすことになります。本人のために必要な費用を捻出する場合においてのみ、後見人の判断による不動産売却が認められているのです。
まずは必要な書類をそろえよう!
委任状の書き方に決まった形式はありませんが、法的に有効なものにするためにはおさえておきたいいくつかのポイントがあります。
揃えるもの/人 |
備考 |
所有者の実印による押印 及び直筆の署名 |
不動産所有者本人から委任されたことを証明するため |
印鑑証明 |
印鑑証明書の有効期限は発行後3カ月以内となっているため手続きを行うタイミングに注意 初めて発行する場合は区役所に実印と身分証明書を持参して印鑑登録を行う必要がある |
代理人 |
印鑑証明書、実印、身分証明書が必要 |
これらの手続きに不備があると正式な代理人とは認められず、委任状を差し戻されることにもなりかねません。そうなると、改めて委任状を作成しなくてはならないのですが、それがスケジュールの乱れにつながる可能性もあります。そのため、準備には慎重さが問われます。
これだけはおさえておきたい!委任状の基本的な作成手順
委任状にはこうでなくてはならないといった決まりごとはないため、自由な形で作成することができます。ただ、多くの場合は取引をする不動産会社に指定のフォーマットがあるものです。したがって、まずはその点を確認しておきましょう。
特にないようなら自分でオリジナルの委任状を作成することになりますが、その場合でもわかりやすいように、ある程度基本に沿った形で作成していくことが大切です。
不動産売却委任状
一例を挙げると、縦書きで作成するとして、書類の一番右にはこれが委任状であることをはっきりと示すために「不動産売却委任状」と記します。次に、売却する不動産の「所在地」を書くのですが、この部分は非常に重要です。日常的に使用している住所では正確さに欠けるおそれがあります。
物件種別
そのため、必ず法務局で登記簿謄本を取得して、それを見ながら正確な住所を書かなければなりません。また、その横には「物件種別」も忘れずに記入するようにしましょう。物件種別とは、たとえば中古マンションや中古住宅といったものです。
この2つを明記しておけば、頼んでもいない物件を売却されてしまったという事態は避けられます。そして、その左側に「右記物件を左記条項により売却することを委任します」といった文言を挿入します。
トラブルを防ぐための記載
続いて「売却予定金額」「委任期間」「売却手数料についての規定」などを記しておきます。いずれもあとになってトラブルになるのを防ぐための重要事項です。さらに、その左には不動産所有者の氏名・住所・電話番号を書き、実印を押印します。最後に一番左に代理人の氏名を記せば形式は一応整ったことになります。
もちろん、これは必要最低限の内容です。実際には、ケースバイケースで他の項目も追加されていくことになります。何が必要かは取引内容を見て慎重に検討していきましょう。
それから、忘れてはならないのが委任内容を記した文章の最後に「以上」と記載することです。この文言によって、記載内容を勝手に追加されるのを防ぐ効果があります。
トラブルを防ぐために!委任状作成の際の注意点
わかりやすい記載方法を心がけよう
委任状を作成する際には、誰から見てもわかりやすい内容を心がけることが大切です。
たとえば、委任状のタイトルを「不動産売買委任状」にしてしまうと売却を委任されているのか、それとも購入を委任されているのかが不明確になってしまいます。拡大解釈の余地がある書き方はトラブルの元になりかねないので、ここはやはり「不動産売却委任状」と記載するべきでしょう。
また、売却といっても単純に「××万円で売ります」といった話だけではなく、手付金・物件の引き渡し予定日・キャンセルの際の違約金などといった問題が絡んでくる場合があります。不具合のある条件で勝手に契約を結ばれないようにするためには、代理人の決定権はなるべく制限しなくてはなりません。
そのためにも、売却条件についてはできるだけ細かく記載する必要があります。
臨機応変に対応
一方、代理人の委任項目を限定的にしすぎると、本来の目的を達成できないおそれがでてきます。仮に、売却を委任したとしても、代金受領や登記に関する権限を付与していなければ取引を最後まで行うことができません。結局、その都度、委任状を作成しなくてはならなくなり、かなりの手間になってしまいます。
それを避けるには、取引全体で何が必要なのかを考え、それらすべてを網羅した委任状を作成する必要があります。ただ、あまり委任範囲の広いものだと悪用されるリスクも高くなってきますが、その辺はバランスを考えて作成していくことが大切です。
一例
一例としては、高額の取引の場合は委任事項を極力限定し、セーフティネットを設けるためにあえて複数枚の委任状を随時作成します。逆に、それほど重要な取引でなければ利便性を優先してすべての委任項目を1枚の委任状に集約するといった具合です。
あとは代理人が実際の取引内容を逐一チェックすることも大切になってきます。本人に悪意はなくても勘違いでこちらの意に沿わないことをしてしまっている可能性もあるからです。
代理人を立てた場合の仲介業者への依頼から売買契約締結までの流れ!
委任状を作成し、書類を用意
代理人を立てて不動産売却を行う際は、最初に委任状を作成し、印鑑証明などの必要書類を用意します。それから、代理人が不動産仲介業者を訪れて不動産売却を依頼することになります。
ただ、仲介業者は委任状を1枚見せただけではその内容を全面的に信用することはないでしょう。不動産所有者の家族なら、勝手に委任状を作成して実印を押印することも可能だからです。そこで、仲介業者は土地所有者に電話や面談などを行って本当に委任をしたのかの確認をするはずです。
代理人は連絡がついておけるようにしておく
したがって、代理人に売却の交渉を行ってもらう際には、連絡がつくようにしておくことが大切です。全く連絡がつかないようであれば詐欺行為だと見なされかねません。
売買契約の締結
所有者と連絡が取れ、委任の事実が確認されると、代理人と買主がマッチングする場が設けられます。それから、代理人を通して条件交渉を行い、話がまとまれば売買契約が締結されるというわけです。
その際、所有者の同席が求められる場合がありますが、海外にいるなどして出席が不可能なケースもあります。直前になって出席できないということになると仲介業者も困ってしまうので、できれば依頼をする段階で詳しい事情は説明しておいたほうが無難でしょう。
専門家に頼むのもあり!不動産売却における代理人の選定
もし親兄弟に断られてしまったら?
不動産売却では大きなお金が動きます。そのため、委任状は赤の他人ではなく、なるべく親しい人に頼むのが無難です。現実的に考えれば、まずは自分の親兄弟ということになるでしょう。
しかし、身近な親族で代理人にふさわしい人間がいないという場合もあります。それに、責任の重さを感じ、依頼しても断られてしまうかもしれません。
そういう場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するという手もあります。
弁護士の代理人がオススメ
弁護士といえば、裁判や調停を専門にしているイメージですが、実は不動産売却の代理人を業務としているところも少なくないのです。もちろん、費用はかかってしまいますが、その代わり、法律に強いというメリットがあります。何かとトラブルの多い不動産売却を安心して任せられますし、買主側との交渉も有利にすすめられる可能性が高くなります。
一方、いくら親しい間柄であっても友人や会社の同僚などに不動産売却を委任するのはおすすめできません。トラブルがあった際に、問題が大きくなりやすいからです。以上の点を踏まえて代理人の選定は慎重に行うようにしましょう。
委任状作成と代理人選びは慎重に行おう!
不動産売却を委任するという行為は、他人に自分の財産を預けることを意味します。したがって、委任状の作成は慎重に行う必要があります。
特に、委任する内容に間違いがないか、代理人に過剰な決定権を与えていないか、追加項目を書き加えられないように最後に以上と書くのを忘れていないかといった事柄は念には念を入れて確認しなければなりません。同時に、代理人を誰にするかといった問題も重要になってきます。
しっかりとした委任状を作成し、信頼できる代理人を立てることで確実に不動産売却を行っていきましょう。