宅地建物取引士や管理業務主任者など、不動産にまつわる資格は複数あります。その中でも不動産の経済的な価値を鑑定する資格が不動産鑑定士です。ただ、不動産についてあまり詳しくなければ、実際に不動産鑑定士がどのような仕事をしているのかわからないということもあるでしょう。

そこで、今回は不動産鑑定士について詳しく説明します。

そもそも不動産鑑定士とは?

不動産を取引するためには、適切な価格が設定されていなければなりません。しかし、専門家でもなければどのくらいの価格が適切なのかということすら、なかなかわからないでしょう。

不動産の鑑定や評価を行うエキスパート

世間で取引されている相場がどのくらいかということも、把握するのが難しいこともあります。実際、同じようなエリアに建っている建物でも築年数や建物の仕様などが違えば価格も違います。その逆に同じような土地や建物でも、需要のあるエリアと買い手がつかないような場所では取引価格が違っても不思議ではありません。もちろん、社会状況が変われば不動産の価値も変動し価格も上下します。

そんな条件によって価値が異なる不動産の鑑定や評価を行うエキスパートが不動産鑑定士です。

不動産鑑定士になるには?

不動産鑑定士の資格は「不動産の鑑定評価に関する法律」によって定められています。

さまざまな条件を考慮して不動産の適正な価格を判断できる資格としては唯一のものであり、不動産鑑定士の仕事は国家資格を得た者だけができる独占業務です。

実際に不動産鑑定士になるためには、年1回実施される国家試験に合格しなければなりません。

不動産鑑定士試験の詳細

不動産鑑定士の試験は毎年2月ごろに出願が開始され、5月の中旬ごろに短答式試験が行われます。

短答式試験はマークシート方式による択一式試験です。試験内容としては、不動産に関する行政法規や不動産の鑑定評価に関する論理などが問われます。

不動産に関する行政法規では、土地や建物にまつわる法律はもちろん不動産に関連する税制や金融取引・投資信託に関する法律も学んでおかなければなりません。もちろん不動産の鑑定評価を行う職業ですから、不動産鑑定評価の基準や運用するにあたって留意しておかなければいけないことなども試験範囲に含まれます。

なお短答式試験に合格すると、その後に行われる論文式試験に進むことが可能です。また、合格した当年だけではなく翌年と翌々年まで2年間受験資格があり、当年の論文式試験が不合格になってもその後2年間は論文式試験から受験することができます。

短答式試験に合格すれば、次は8月上旬に行われる論文式試験です。論文式試験は3日間あり、記述式で論文問題と演習問題を行います。

試験内容は不動産の鑑定評価に関する理論のほかに、民法や経済学・会計学なども含まれます。なぜなら、不動産取引を行うなかでは民法に関連することが多くあるうえマンションの取引ならば、建物の区分所有に関する法律についても知識を持っていなければなりません。また、借地や借家の場合には借地借家法もかかわってくるなど、学んでおかなければならない法律はいろいろあります。

さらに、不動産取引は経済とも密着しているため経済理論や政策論に関連する内容・企業の財務諸表の作成などに関する会計理論なども知っておかなければならないのです。

不動産鑑定士試験の合格率

不動産鑑定士の国家資格の合格率としては、決して高いものではありません。

国土交通省が発表している2017年の試験では短答式試験の申込者数は2126名で、実際の受験者数が1613名。そのうち合格者は524名であり、受験者数に対する合格者の割合は32.5%です。

その年に短答式試験を通過した者と過去2年間の短答式合格者が受験することができる論文式試験の受験者数は733名で、そのうち合格者は106名・合格率は14.5%でした。

論文式試験を受けた者のなかには過去2年間の短答式試験の合格者も含まれているため、単純に短答式試験と論文式試験の合格率を合わせた数字を出すことはできません。ただ2017年の申込者数が2126名、最終的な合格者が106名として計算すると最終的には5%ほどしか合格できない難関試験だといえるでしょう。

不動産鑑定士の実務修習

不動産鑑定士の仕事は国家試験に合格しただけではできません。

実際に専門家として業務を行っていくうえで必要とされる技能や応用能力を身につけるために、1~2年間実務修習を受けなくてはならないのです。

1年のコースも2年のコースも内容としては同じものであるため、各自の生活との両立などを考慮してどちらかを選択することができます。修習過程で学ぶのは不動産の鑑定評価に関する実務についての講義のほか、鑑定評価報告書を作成するための手順を学ぶ基本演習・評価方法を習得するための実地演習などです。

修習過程の最後には口頭試問および小論文による終了考査があり、終了を認められれば晴れて不動産鑑定士登録することができます。

不動産鑑定士が行う業務のひとつ!不動産鑑定業務の詳細

不動産鑑定士という名称からもわかるように、不動産の鑑定をする業務はメインとなる業務です。不動産の価格はさまざまな要因に影響を受けるため、地理的な状況はもちろん市場の動向や法規制などを鑑みながら鑑定評価を行い不動産鑑定評価書を作成します。

不動産鑑定業務がメイン

不動産売買を行う場合、売主にはこのくらいの金額で売りたいという希望があるでしょう。

もちろん、買主がその金額で納得しているなら取引は成立します。しかし、あまりに法外な金額では買主が見つからないかもしれません。つまり、不動産の価値を客観的に判断するためや売主と買主の両方が納得できるような適正価格を設定するための材料として、不動産鑑定士の作成した不動産鑑定評価書が用いられることがあるのです。

同じように、賃貸借契約をする場合も不動産鑑定評価書の価格を根拠として家賃や地代を決定されることがあります。

また、相続問題や贈与には不動産が絡んでくるケースも多いです。ただ、不動産の価格は常に変動しているため、相続人が納税する際に対象の不動産にどのくらいの価値があり、納税額がいくらになるかはよくわからないこともあるでしょう。そんなとき、不動産鑑定士の出してくれた評価書の価格が参考になります。

もちろん、複数の相続人がいる場合には公平な分配をするための客観的な判断材料として必要です。また、相続であるかどうかにかかわらず現時点での資産を把握しておきたいというときにも鑑定評価が必要になります。

さらに、複数の権利者がいる不動産は権利関係が複雑です。トラブルが起こることもあり、公平で客観的な観点で算出された評価額をもとに権利関係の調整を行うこともあります。

不動産を担保にして融資を受けるときは、対象となる土地や建物などの価値がどのくらいあるかで融資額が左右されることもあり、適正価格を算出するための目安となるものが必要です。また、不動産を証券化する場合も将来的に利益の見込める不動産なのかどうか、どのくらいの価格で売却できるのかを知っておかなければなりません。

そのようなとき、不動産鑑定評価書があれば的確な判断ができるでしょう。

土地の価格については、地価公示法に基づいて毎年1月1日時点における標準地の公示価格が発表されています。公示価格は、土地鑑定委員会が2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を踏まえたうえで判定されます。

ほかにも、都道府県や市町村などから依頼を受けて都道府県地価調査や固定資産税標準宅地の鑑定評価を行うなど、不動産鑑定士は公的評価でも大きな役割を果たしています。

調査・分析等業務やコンサルティング業務も不動産鑑定士の業務

不動産鑑定士は単に不動産の鑑定業務を行うだけではなく、不動産に関する調査・分析を行ったり、専門性を活かしたコンサルティング業務を行ったりしています。

市場で不動産がどのくらいの金額で取引されているか、賃貸物件の賃料や地代がどのくらいかなどの調査をさまざまな方面から行い、分析して売買や賃貸、投資などをする際に判断する資料として蓄積するのです。

また、不動産鑑定士は専門家として、個人が所有する不動産の有効活用や法人などが開発を行う際の計画策定に関して適切なアドバイスを行っています。

不動産鑑定士が活躍するのはこんな現場

不動産鑑定士として実施に仕事をする場としては、もちろん不動産業界があります。

不動産鑑定を専門に行う不動産鑑定事務所ならば、個人や法人はもちろん公的機関からも依頼を受けてさまざまな不動産鑑定業務を行うことができるでしょう。もちろん、不動産鑑定業務だけではなく顧客のニーズに合わせて不動産活用のコンサルティングを行ったり、税務相談を受けたりすることもあります。

顧客もさまざまで取り扱う不動産も多岐にわたっているため、幅広い活動ができる現場です。経験を積めば独立し、自分で不動産鑑定士事務所を開業する可能性も出てきます。また、世の中には賃貸物件の運営をしている人や不動産の有効活用を考えている人、不動産に投資している人は多いです。

そのため、顧問として不動産の運用や活用に関してコンサルティングを行う業務に特化した会社を立ち上げることもできるでしょう。

不動産鑑定だけを行っている事務所以外でも、不動産売買や仲介を行っている事務所・建設会社などに在籍して仕事をしている不動産鑑定士もいます。

不動産売買の仲介や賃貸業を行っている事業所では、対象となる不動産の価値を把握しておかなければなりません。また、開発事業を手がける建築会社なども同様です。そのため、不動産鑑定士の知識や技能などが必要であり資格を活かすことができる場となっています。

不動産鑑定士の活躍の場は、不動産業界だけにとどまりません。不動産は金融業界で担保として融資が実行されることがあるほか、信託財産として運用されることもあります。そのため、銀行や信託銀行などでも公平で客観的な不動産の評価が必要です。

また、国や地方公共団体では公的評価を行ったり公共用地を取得するときの土地評価を行ったりしていることから、官公庁などでも不動産鑑定士が活躍していることがあります。

不動産鑑定士は実際どんな手順で鑑定価格を出しているの?

不動産の鑑定評価を行うためには、もちろん対象となる物件の調査をしなければなりません。

調査としては資料を集める業務と、現地で実際に物件を確認する業務があります。資料を集める場所としては公的機関があり、不動産の登記に関する情報は法務局で調べることが可能です。また、市町村役場には対象となる物件のある地域に関する法規制を調べに出向きます。

現地にも赴き物件の調査

例えば建築基準法や都市計画法などです。公的機関では水道や下水道、ガスなどのライフラインの状況がどのようになっているかも調べます。

現地に出向いて物件を確認する作業では、登記情報として記載されているものと相違がないかをまず確認します。登記は公的な機関に保存されているものだということもあり、一般的には登記情報が実際の物件の状況を正しく表していると考える人も多いでしょう。しかし、実は測量技術がそれほど高くなかった古い時代に登記された物件は、現況とは異なっているケースもあり現地確認は大切な業務です。

また、実際に現地に行ってみると書類だけでは得られなかったようなことがわかる場合もあります。そのため、対象となる不動産物件が過去にどのような人にどのような使われ方をしてきたかなども含め関係者や近隣住民、地元の不動産業者に聞き込みをして情報収集することもあるのです。

資料が一通りそろえば実際に鑑定を進める作業に入りますが、単に不動産物件自体の状況だけではなく市況や周辺の取引事例も含めて検討しなければなりません。また、マンションやアパートなどの収益物件については賃料や金利の状況を把握しておく必要もあります。

より詳しい情報が必要な場合は不動産業者や建設業者など、他の専門家からさらに意見を聞くこともあるでしょう。こうして得られた情報を分析してまとめ、不動産鑑定評価書を作成します。

不動産の取引には欠かせない役割を果たす不動産鑑定士

不動産の価格はさまざまな要因で常に変動しています。

そのため、専門的な知識を持っていなければ不動産価格に関して正しい判断をすることはできません。また、適正な価格が算定されないと不動産売買で不公平な状況が発生することもあるでしょう。

不動産を担保として融資をしている銀行や不動産投資をしようとしている人にとっても、適正価格がわからなければ納得の得られる融資や投資を行うことができない可能性もあります。

それほど不動産の適正価格がどのくらいなのかということは、大切なことなのです。そのため、不動産の価値を正しく判断してくれる不動産鑑定士は不動産業界だけにとどまらず、金融業界や官公庁までさまざまな場所で活躍しています。

一般的にはなにか不動産に関連した取引や投資などにかかわらない限り、実際に不動産鑑定士に会ったこともないという人が多いかもしれません。しかし、不動産の売却をしようと考えている人や投資をしようとしている人などは、これからお世話になることもあるはずです。

また衣食住は人間の生活には欠かせない要素であり、住の面では戸建住宅や賃貸物件にかかわらず誰でも何かしらの不動産物件に住んでいます。そのため、直接的には会うことがなくても間接的にかかわっていることもあるでしょう。

それほど不動産鑑定士の行っている仕事は、実は身近なところに関係しているものなのです。