個人でも法人でも、自己破産の手続きを行うと破産管財人が選出されるケースがあります。ただ、すべての破産手続きで破産管財人が必要になるわけではありません。
そこで同じ破産手続きでもなにが違い、そもそも破産管財人が破産手続きのなかでどんな役割を果たしているのかについて詳しく説明します。
この記事の目次
そもそも破産管財人とは?
破産に関することには破産法という法律が適用され、破産法第2条12項で
破産管財人
と定義されています。
ある程度の財産を所有している場合、残った財産は精算して債権者に返済されることとなります。ただ、破産手続が開始されると自分の財産であっても勝手に処分することはできません。また、管理する権限も失ってしまいます。
そこで破産者に代わって財産を精算・換金し、適切に債権者に分配する役割を果たすのが破産管財人です。
破産管財人は裁判所によって選出されることが破産法第74条で定められていますが、特に資格等が決められているわけではありません。ただ、実際に破産者の財産を的確に精算・換金し、公平に債権者に分配するためには法的な専門知識が必要です。そのため、ほとんどのケースで弁護士が選任されています。
また、破産管財人は必ずしも1人だけというわけではありません。破産の内容や規模によって複数人が選任されることがあるほか、法人が破産管財人として選ばれることもあります。
なお、破産手続きを申し立てた地域に所在している弁護士のなかから選任されることが通常です。
管財人が選任されるのはどんなとき?
同じ自己破産という結果になっても、必ず破産管財人が選任されるとは限りません。
破産手続のなかでも、まったく返済に充てられるような財産が残っていないということもあれば一定の財産を所有している場合もあるからです。そのため破産手続の処理方法はケースによって違い、破産管財人が選任されるかどうかも異なります。
破産管財人が選出されない同時廃止
借金の返済を続けていけなくなった状態とはいえ、残っている財産があれば換金して債権者への返済に充てるというのが基本です。
しかし、破産を申し立てる状況に陥っている人のなかにはすでにほとんど財産と言えるようなものが残っていないということもあります。そのような場合は残った財産を換金して債権者に返済するということが実質不可能だといっていいでしょう。
そのため、破産手続の開始が決定されると同時に破産手続も終了(破産手続廃止)させてしまう同時廃止という手続きがとられます。同時廃止の場合はそもそも破産管財人が調査するほどの財産が残されていない状況ですから、破産管財人が選任されることもありません。
破産管財人が選出される管財事件
同時廃止になるケースとは違い、財産が残っていれば債権者に公平になるように分配される必要があります。そのため責任をもって財産を的確に調査し、債権者に分配してくれる存在として破産管財人が選任されるのです。
管財事件として処理される場合、裁判所に対して予納金を納めなければなりません。予納金は借金の総額によって決められており数十万円から数百万円かかることもあります。しかし予納金の負担も大きいことから個人の場合、よほどの高額でもない限りは少額管財事件として手続きされることが多いのが現状です。
ただ、少額管財事件でも破産管財人は選出されます。
法人が破産する場合は?
個人の場合は同時廃止で破産管財人が選出されずに手続きが終了することもあります。しかし法人の場合は破産手続を行うことにより、法人自体も消滅してしまいます。
また、負債の金額も個人の規模とはかなり違い顧客や取引相手・従業員などかかわる人も多いでしょう。債権者の数も多いことが考えられるほか法律関係が複雑であることも珍しくありません。
破産により損害を被る利害関係者は、少しでも債権を回収したいと考えています。そのようなときに、それぞれの利益を調整して適切に配分できなければ不満が噴出してしまうでしょう。
そのため、法人の破産手続に関しては必ず破産管財人が選任されます。
破産管財人の職務のなかでも大切な財産の調査
破産管財人は、まず破産者が提出した破産申立書に記載された内容をもとに財産状況を調査します。
破産者が不動産を所有しているときは物件の調査を行い、場合によっては査定額の照会を行うのも職務のひとつです。申立書以外の隠し財産がないかどうかも含めて厳しく調査し、調査上必要だと破産管財人が判断すれば破産者に説明を求めることがあります。
破産者には説明義務があるため、調査で問われたことに対してきちんと答えなければいけません。もし協力せずに無視したり、嘘を言ったりすると刑事罰の対象になります。
破産手続が開始されると、本来破産者のもとに届く郵便物をチェックするのも破産管財人の職務です。郵便物のなかには銀行や証券会社など財産に関係する金融機関から届くものもあり、申請されていない財産がないかどうかを探します。
隠し財産については、ただ物理的に財産を隠しているというだけではないため注意が必要です。破産管財人には否認権の行使が認められ、破産財団を原状に復させることができます。
たとえば、破産手続をして財産を失うことを避けるため申し立てを行う前に財産を減らす目的で友人などに渡していたとします。
破産者は友人に渡した分を財産として記載せずに申立書を提出するはずですが、この分については破産者が友人に渡したという行為をなかったことにできるのです。つまり本来財産として組み入れるべきものが持ち出されていた場合、本来あるべき財産として取り戻すことができます。
また法人の破産手続のなかでも、特に中小企業の場合は破産の申し立てをする前に特定の取引相手にだけ返済を行ってしまうケースがあります。破産の申し立てを行わなければならない状況になったとき、個人的に親しくしている相手にだけは債務を返済しておきたいと考える経営者もいるからです。
経営者の心情としてはわからなくもありません。しかし、債権者全員に公平な配分をするという観点では問題であり破産管財人が債権者に返還を求めることがあります。相手がすぐに返還に応じてくれれば問題はありません。
ただ、万一返還を拒んだ場合は回収するのに民事訴訟を起こす場合もあります。
破産管財人のその他の職務は?
法人の場合、破産して困るのは経営者だけではなく突然働く会社がなくなってしまう従業員も同じです。
従業員は労働の対価として賃金を得ている存在であり、破産手続きのなかでは労働債権者と呼ばれています。従業員も生活がかかっていますから、突然賃金がもらえなくなれば反発が起こることも考えられ従業員に対しての対応も破産管財人の仕事です。
法人が事業を行うなかでは、さまざまな契約を結んでいます。
たとえば、通信費や光熱費などはもちろん仕事に使用する事務機器や車をリース契約している場合や賃貸借契約を結んで事業所を使っているケースなどです。さらに、支払うべき税金をそのままにしておくと租税債権と呼ばれるようになります。こうした契約や税務処理に関しても放置しておくと債務が増えていく可能性があり、整理して解決を図るのも破産管財人の主な職務のひとつです。
破産者の財産の調査が終わり、債権者に分配できるお金がそろったら債権者に分配することになります。
しかし、破産者がどこにどれだけ債務があったかということがわからなければそれもできません。また、債権者もできるだけ多く返してもらいたいということもあり自己の取り分を大げさに主張するということも考えられるでしょう。
そのため、債権の内容や金額に関しても正確に把握しておく必要があります。
破産管財人を監督・監視するシステム
破産管財人は裁判所によって選任され、裁判所の監督のもとに職務を行っています。そのため、裁判所から要請があれば財産の管理や処分に関して報告しなければなりません。
また債権者が多数いる場合、債権者がバラバラに主張をしているとスムーズに破産手続が進まない可能性があります。そのような場合、円滑に手続きを進めるために債権者委員会が設置されることがあり、債権者委員会は裁判所に意見陳述を行うことが可能です。
そして、破産管財人は裁判所だけではなく債権者委員会に対しても報告義務があります。
破産管財人は破産者の財産に関して調査を行い、その経過や結果を最終的に計算報告書としてまとめなければなりません。ただ、債権者や破産者は計算報告書に不服がある場合は異議を唱えることが可能です。
また、裁判所に対して破産管財人の解任を求めることも認められています。
つまり、破産管財人は管財事件や少額管財事件で破産者の財産を調査し把握して債権者に分配するという役目を担っていますが、絶対的というわけではないのです。
破産管財人を解任するかどうかの権限は裁判所が持っており、もし、債権者や破産者から解任の申し立てが出されれば裁判所は破産管財人にも話を聞きながら解任が妥当かどうか検討することになります。もちろん破産管財人の行ったことが妥当だと判断されれば解任はされませんが、場合によっては解任される可能性もあるということです。
破産管財人の報酬はどこから出るの?
破産管財人もそれなりの時間と手間をかけて職務を行う限りは、ボランティアというわけにはいきません。では、誰が報酬を支払うのかというと、実は破産者が支払うことになっています。とはいっても、あらためて破産管財人に対しての報酬を支払わなければならないというわけではありません。
報酬は債権者に配当される分から裁判所の決定により支払われるのですが、通常は破産手続を始めるにあたって裁判所に納めた予納金から出されるため心配ありません。
予納金の金額は少額管財事件の場合20万円です。管財事件では借金の金額や個人か法人かによって異なります。借金総額が5,000万円未満ならば個人の場合は50万円、法人の場合は70万円ですが、借金総額が大きくなると予納金が数百万円になることもあります。
破産手続で公平な結果を得るには大切な破産管財人
借金はきちんと借りたところへ借りた分だけ返済するのが本来あるべき姿です。
しかし、そうはいかない状況に陥ってしまうことがあるのも事実でしょう。そのようなときに、できるだけ公平に債権者のもとに大切なお金を戻すことが大切です。
その役割を果たすのが裁判所によって選任された破産管財人であり、破産者もよほど不服に感じることがない限り破産管財人が職務を行うにあたって協力しなければなりません。
ただ、破産管財人がさまざまな調査を行うのには時間もかかります。
自己破産の申し立てを行おうとする場合、個人ならば同時廃止で時間をかけずに破産手続が終了することもあります。しかし、個人でも返済に充てるべき財産が残っている場合や法人の場合は破産管財人が選任され、破産手続が終了するまでには時間や費用がかかってしまうことを頭に置いておいたほうがいいでしょう。