後継者不足などの理由から、遊休農地や耕作放棄地など、耕作されずに農地としての機能を果たしていない場所が増加しています。農地が放置されると食料自給率が下がるのはもちろん、荒廃すれば周辺の環境に悪影響を与えることもあります。
ただ、場所によっては農業以外の活用ができない農地もあり、自分で耕作できないなら貸し出すことも選択肢として考えた方がいいでしょう。そこで、農地貸出について詳しく紹介します。
この記事の目次
農地をほかの農家に賃貸で使ってもらう
農地を貸出すのは自身にも周辺環境にもメリットがありますが、一方で注意点もあります。
賃貸は農地を適切に管理するためにも有効的な方法
農業をしていない人が農家だった親から農地を相続した場合など、農地を所有していても実際に農業を続けられないこともあります。耕作されなくなった農地はすぐに雑草が生え、あっという間に荒廃してしまいます。
害虫が発生したら周囲の農地に迷惑をかける可能性もあり、適切な管理をする必要があるでしょう。もちろん本来農地として作物を生み出してきた土地ですから、農地として活用できるなら農業を営む方がいいはずです。
そこで、手放す予定がないのならほかの農家に貸し出して耕作してもらうという方法が選択肢として考えられるでしょう。全国的に見ても離農する人が増加しているため可能性としては高くないかもしれませんが、それでも新しく農業を始めたいという人はいます。また、近隣で農業を営んでいる農家のなかにも、もう少し農地を増やして規模を拡大したいと考えている人がいるかもしれません。
もし、借主を探すことができれば賃貸借契約を結んで農地貸出が可能です。
農地を貸し出すときの注意点
農地は貴重な資源であり、食料を安定供給するためにも農地を守る必要があることから農地法という法律でさまざまな規制がかけられています。そのため、普通の不動産のように簡単に売買や賃貸借の契約ができないという注意点もあります。
農地を相続したときは届け出をしなければいけませんし、売買や賃貸借をする場合は農業法第3条による許可を受けなければなりません。手続きの流れとしては、農地のある住所地を管轄する市町村の農業委員会に申請書を提出し一定の要件を満たしていれば許可されます。
許可を受けるための要件
◇また、一定の面積を経営する・周辺の農地利用に支障がないなどの要件も検討される
農地を賃貸借する場合の期間については特例が認められており、民法では通常賃貸借の期間が20年間のところ農地は50年間まで可能です。
なお、賃貸借期間の終了前に更新しないという通知をしなければ、同じ条件で賃貸借の契約を継続したものとみなされます。もし、契約を解除したいならば契約を終了する旨を伝え、原則農地のある都道府県知事(指定都市の長)の許可を受けなければなりません。
農地バンクは公的機関があいだを取り持って賃貸できる方法
農地貸出をしたいと考えても、簡単に借主を見つけられるとは限りません。そこで、利用できる制度として農地中間管理機構があります。農地中間管理機構は「信頼できる農地の中間的受け皿」として、2014年に設置されました。農地バンクや農地集積バンクとも呼ばれ、全都道府県ごとに第3セクターとして設置されています。
日本の農地はもともと小規模なものが点在していることが多いうえ、遊休農地や耕作放棄地となった農地があると、なおさら耕作可能な農地が細分化されてしまいます。そこで、農地バンクでは分散している農地や遊休農地などを借り受けて集積・集約し、農業の担い手ごとにまとまった形で貸し出すという形をとっているのです。
農地バンクを利用するメリットとデメリット
農地バンクには安心感というメリットがある一方で、貸出期間の定めがあるというデメリットもあります。
農地バンクを利用するメリット
農地を貸す側としては、公的機関が行う事業ということもあり安心して貸すことができます。通常の賃貸借の場合は借主が何らかの理由で賃料を支払ってくれなくなるというリスクも考えられるでしょう。しかし農地バンクの場合は、あいだに農地中間管理機構が入ってくれるため賃料が未払いになる心配がありません。
また、遊休農地は2017年度から固定資産税の負担が大きくなり、耕作しない農地を所有している人にとっては問題です。しかし、農地バンクを利用して借主に農地として利用してもらえば税金が高くなることを心配せずに済みます。
さらに、農地バンクは賃貸借を中心とする仕組みです。そのため、農地を所有しているものの耕作はできない、それでいて手放したくはないという所有者が利用しやすいというメリットもあります。
一方、借りる側はまとまった農地をニーズに合わせて借りることが可能です。農地バンクはバラバラになっている農地を集めて効率よく耕作できるように農地の区画整理を行います。つまり、あちこちに点在している小さな農地をバラバラに管理するより農作業にかかるコストを削減できるとともに、生産性も向上させられるのです。そのため、効率よく農業を行いたいと考えている農家にはメリットの多い制度だと言えます。
もちろん、直接貸主と借主がやりとりする必要がなく、農地中間管理機構に依頼や相談をするだけで農地の賃貸借ができるという点はどちらにとってもメリットです。
また、農業経営の規模を拡大することができる環境が整えば、個人だけではなく法人も参入しやすくなります。法人ならば農家とは無縁ながら農業を志したいという人が、自分の農地を得る苦労をしなくても農業にかかわることが可能です。雇用を生み出すという意味でもメリットだと言えるでしょう。
農地バンクのデメリット
農地バンクを利用しての農地貸出は原則10年間と定められており、再契約をしないかぎりは10年すると戻ってきます。そのため、10年間は確実に賃料や協力金などを得られますが、再契約できないと借主がいない状態になってしまうのです。
また、そもそも貸出を希望していても必ず借主が見つかるとは限りません。さらに、10年の間には貸し出した農地を返してもらいたいという事情や相続が発生するなど、貸主の状況も変わる可能性があります。
ただ、賃貸借の契約の期間内は簡単に返還してもらうことができないかもしれません。もし、農地バンクでの農地貸出よりもいい条件の賃貸借や売買の話があっても、その話に乗れない可能性がある点はデメリットだと言えます。
農地バンクを利用した農地貸出の成功例
ここでは、農地バンク活用の成功事例を2つ見ていきましょう。
農地利用最適化推進委員が活躍して農家の理解を得た例
実際に農地バンクを利用した例はさまざまあり、2017年6月に農林水産省から発表された農地中間管理事業の優良事例集によると、茨城県桜川市上城地区では農地利用最適化推進委員が活躍して農地集積を実現しています。
上城地区では主に水稲を中心とした農業が盛んでしたが、農家の高齢化および後継者不足で将来農業の担い手が不足することが予測されていたのです。そこで、研修を受けた地区の推進委員が、まずは農地所有者や担い手を個別に訪問し、熱心に農地バンクの活用に関する説明会への参加を呼びかけました。そして、農地バンクの制度やメリットなどをまとめた説明資料や分かりやすく色分けをした農地の現況図などを作成し、賛同を得たのです。
結果として9ヘクタールの農地(遊休農地を含む)が新たに農地バンクを経由して借主に集積・集約されています。全体的には、地区内の農地面積41.1ヘクタールのうち、10ヘクタールだった集積面積が19ヘクタールに増えました。
集積率においては25%から47%にアップしています。
農業の管理方法を要望に沿った形でマッチングさせた例
富山県南砺市高屋地区で行われた貸主と借主の農地管理の要望を踏まえたマッチングが成功例のひとつです。
地域内でもともと農業の担い手が少ない状況のなか、兼業農家ががんばってカバーしていました。しかし、農業従事者の高齢化などが原因でさらに農業の担い手が減少するおそれがあり、新たな担い手を確保することが課題だったのです。そこで、JR職員や市の職員の協力を仰ぎながら、地域の普及指導員経験者が中心となって話し合いの場を設けました。
その結果、すでに数カ所の耕作を引き受けている地域内の農業法人に加え、近隣集落の集落営農法人にも協力を仰ぐこととなったのです。ただ、農業法人は全作業を自らが行いたい、集落営農法人は農地の管理作業を農地所有者に委託したいというように、要望が一致しません。そこで、それぞれの管理作業に対する意向を尊重して農地の分配を行い、結果として地区内農地面積29.2ヘクタールのうち、12.8ヘクタールの集積面積だったものが23.5ヘクタールにアップしました。
また、集積率も43.8%から80%まで上昇しています。
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市民農園として農地貸出する方法
通常、農地貸出は農家に対してだけしかできません。しかし、プロの農業従事者ではない一般の人に農地を使ってもらうことのできる方法として市民農園があります。市民農園を開設する方法としては3パターンあります。
1.特定農地貸付法で賃料を得られる市民農園を開設する
通常5年を越えない貸付期間で「10アール未満の農地の貸付けで相当数の者を対象として定型的条件で行われること」という規定があります。つまり、小さく区画した農地を複数人に貸すことができ、賃料を受け取ることができます。
開設する場所に関しては特に規定はありませんが、農業委員会の承認を受けなければなりません。
2.農園利用方式で入園料を受け取る市民農園を開設する
農園利用方式で市民農園を開設する方法では賃貸借契約を結ぶわけではなく農地所有者自らが農地の経営を行い、農業体験をしたい市民が入園料を支払って農作業に参加します。
ここでいう農作業とは、植え付けから収穫まで一連の農作業を継続して行うことを指し、みかん狩り・いちご狩りなどのように収穫時だけ体験するというものは該当しません。
農園利用方式は開設するのに特に届出や許可は必要ないため、開設しやすいのがメリットです。ただ、農業経営自体や利用者への農業指導・利用契約締結などの作業を所有者自身が行う必要があります。
3.市民農園整備促進法で付帯施設の充実した市民農園を開設する
もうひとつ、市民農園整備促進法によって市民農園を開設する方法もあり、市街化区域では特に開設する場所にかかわる指定がありません。市街化調整区域の場合は「市民農園区域」として市町村が指定した区域(または指定してもらうことが前提の区域)に限られます。
実際に開設するには整備運営計画を作成し、市町村に提出して認定してもらう必要がありますが、特定農地貸付法のように農業委員会の承認を受ける必要がありません。また、利用者が使うトイレや休憩施設・農機具収納施設などを、市街化区域・市街化調整区域にかかわらず転用手続きなしで設置することが可能です。
農地を有効活用して地域貢献もできる市民農園
市街地に住むサラリーマン家庭のなかにも週末に少し農業を体験してみたいと考えているケースや、定年退職して暇ができ野菜を作ってみたいと考えている人はいます。また、自然に親しみながら食材に直接触れることができるため食育の観点から、幼稚園児や保育園児・小学生などが定期的に農業体験する場所として利用される可能性も考えられるでしょう。
農地所有者が農業をしていない・または遠方に住んでいるという場合、所有者自らがある程度運営にかかわらなければならないタイプの市民農園を開設するのは向いていないかもしれません。ただ、市民農園は農家として培ってきたノウハウを活かしたり、良好な農地を提供して市民に有効的な活用をしてもらったりという地域貢献ができる方法です。
もし地域で市民農園のニーズがあるならば、活用方法として検討してみる価値はあります。
農地の貸し借りにおけるトラブル事例
農地の貸し借りは貸主と借主との間で下記のようなトラブルが起きてしまうことも少なくありません。ここではトラブル事例を紹介します。
口約束で農地の貸し借りを行った結果、売却したくなった時に離作料を請求された件
貸主と借主との間で農地の貸し借りの契約を口約束で行い、無償で貸し出していました。その後、市区町村から区画整理のため買い取りの話が出たので、貸主は売却に向けて進めようと思い、借主に返還の相談したところ離作料を請求されました。
上記の事例ように農業委員会を通さない農地の貸し借りは「ヤミ小作」と言われています。通常の土地のやり取りの場合、契約は口約束でも成立しますが、農地の貸し借りの場合は契約の効力がありません。よって今回のようなトラブルが発生した場合、救済が出来ない状態となる場合があります。
農地の貸し借りは農地法の制約により、必ず農業委員会で手続きをし、許可を受ける必要があります。手続きを行った場合、定め契約期間の満了時に離作料を支払うことなく、自動的に農地が返還されます。
このようなトラブルを未然に防ぐために、必ず農業委員会で手続きをした上で契約をするなどの対策をすることをおすすめします。
そもそも賃貸借の継続が難しいのであれば売却も選択肢の一つとして検討しても良いでしょう。
農地貸出で農地本来の持つ力を無駄にせず発揮できる活用方法を!
食は国民の命や生活を支えるために大切なものです。
食料自給率を下げないためにも農地は勝手に売却したり、農業をやめて別の用途で使用したりすることが簡単にはできません。
農業が盛んだった地域では、子孫が先祖代々の農地を受け継いで農業を営んできました。しかし、親が農家でも子どもは街で就職し農業を継がないというケースも増えています。そのため、高齢化した農家が耕作できなくなると遊休農地や耕作放棄地となってしまうことも珍しくありません。
また、親から農地を相続してもどうすればいいかわからないという人もいるでしょう。
実際、農地以外に転用して活用しようとしてもできなかったり採算の取れる活用方法が見つからなかったりということもあります。今回は農地をそのまま活用できる農地貸出の方法をいくつか紹介しました。
所有している農地の活用方法に困っているなら地域のニーズも考慮に入れ、農地本来が持っている力を発揮できる活用方法として農地貸出を検討してみてはいかがでしょうか。