農地バンクという制度をご存じでしょうか。これは、農地の集積化と農業の活性化を狙った制度で、平成26年に始まった比較的新しいものです。
今回は、この農地バンクについて、どのような制度なのか、利点と欠点は何なのか、どのような流れで利用できるのかについて紹介します。

農地バンクとは

農地バンクとは、農地中間管理機構という機構が提供している制度で、平成26年度に全都道府県に設置された信頼できる農地の中間的受け皿のことです。

農地バンクは、農業をリタイアするため農地を貸したいとき・分散した農地をまとめたいとき・新しく農業を始めるので農地を借りたいときなどに活用できます。つまり、農地バンクとは、持ち主が貸したい・売りたい農地を、借りたい・買いたい農業経営者に提供する仕組みです。

農地の集積化・農業経営の規模拡大・新規参入の促進などが制度の目的として挙げられます。

所有の土地を手放すことなく土地を有効利用できる農地バンク

農地バンク成立の背景

もともと日本の農業は小規模農家が支えており、戦後の農地改革では、政府が介入し農地を小作人に分配した経緯もあります。これは、それまでの農業は地主が小作人にさせていたためです。

また、農業は農道・用排水路など必要な基盤が共通していることから、共同体全体で行ったほうが効率はよかったので集落単位で行われてきました。これがいわゆる農村です。しかし、そういった農村でも農地は個人の所有となりますし、世代交代・売買などにより所有権が移転し続けた結果、農地は分散されていくことになりました。これでは農業を行うにも非効率です。

このなかには、農業から手を引いてしまい、荒れ果ててしまった土地もあります。こういった問題を解決するための試みのひとつが農地バンクです。

もともと、農地バンクは政策として実施されはじめました。安倍政権の農業に関する政策のなかでは代表的なものと言えます。その意図は、分散した農地を集積して、農業経営の拡大を望む経営者に利用させ、農業の効率化と収入増を図ることです。

農地バンクは、すでに持っている土地を手放すことなく、かつ土地を有効利用できる制度です。このため、農家をやめたい(または続けられない)けれど土地は手放したくないという層の利用も期待されています。

農地バンクのシステム

農地バンクの基本的なシステムは、農地を持て余す農家から土地を借り上げて集め、ある程度の規模にまとめ大規模に農業をしたい農家や経営者に貸し出すことです。つまり、貸す側の農家は機構から賃料を払ってもらい、借りる側の農家は機構に賃料を渡す形で成り立っています。

このため、当然ながら機構に賃料を払ってくれる農家がなければいかに農地を持て余していても借りてもらうことはできません。言い換えれば、需要のない土地は農地バンクといえども借りることができないのです。

機構の予算にも限度があるので、無制限に土地を集める制度にはなっていません。なお、希望を出せば機構のリストに載ることはできますが、その地域の農地を借りたいという人が現れない限り、賃料を払ってもらうことはできないのです。また、一度機構に農地を借り受けてもらっても、当然ながら借り手が見つからない場合は返還されます。

農地バンクのシステムは、農地の貸し手・借り手の架け橋にはなっても、使っていない農地の所得保障をするものではないので、ここは注意しましょう。

農地バンクは使用していない農地の所得保障をするものではない

地域によって異なる賃料

農地の賃料は、土壌・気候・地形などで変わるのが基本です。そのため、農地バンクの場合も賃料は一定していません。この場合、優先されるのは土地の持ち主よりも土地を借りる側の意向となります。

借り手がいなければこの制度は成立しないわけですから、これは仕方がありません。そして、借り手はなるべく安く借りたいと思うものです。このため、貸し手側に払われる賃料が地域の水準より高いということはまずありません。

極論をいうなら、タダ同然もありえるでしょう。貸し手側にすれば農地バンクを利用して安定収入を期待したいところですが、こういった事情があるので過度な期待は禁物と言えます。

農地バンクを利用する場合の注意

機構が貸し手から農地を借り受ける期間は10年以上です。これを長いとみるか短いとみるかは人それぞれですが、もしも10年以内に再び自分の農地を使うかもしれない予定があるのであれば、農地バンクの利用は少し考えましょう。

持ち主が高齢の場合は相続の問題も考慮に入れる必要があります。もしも農地バンクに登録した土地に借り手がついた場合、借り受け期間中は当然その借り手が利用しているわけですから「返してくれ」といってもそうはいかないからです。

なお、機構に貸すことで土地の所有者としての自由がなくなってしまいます。農地バンク以外に土地の売買・賃借の可能性があるなら、その場合も利用には熟考が必要でしょう。

農地バンクのいいところ

農地バンクには、多くの利点が期待されています。しかし、なかには欠点と表裏一体となっている利点もあるので、農地の初心者は将来設計を見据えた熟慮が必要です。

1.不要な農地の活用

使わなければ荒れるのが土地の常ですから、農地の荒れを防ぎ、かつ農業の活性化をも狙えるという意味でこれは農地バンク最大の利点ともいわれています。ただでさえ農地の管理は手間がかかるものなので、借り手がいるならば水代(水利費・用水費)を負担してでも借りてもらう農家もいるのが実情です。

2.機構が借り手を探してくれるという点

農家の知り合いが他におり、借り手のあてがあるならいいですが、そうでなければ個人で借り手を探すのは一苦労です。その点、農地バンクでは借り手を公募するので農地所有者が手間をかける必要なく借り手を探すことができます。

3.増税を防ぐことができるという利点

実は、耕作放棄地は増税され始めているのをご存じでしょうか。なぜなら、政府が耕作放棄地を何としてでも解消したいと考えているからです。また、仮に自分の農地が増税対象から外れている場合も、固定資産税は土地の現況に基づく原則を持っています。

このことから、耕作放棄地は税金が高くなっても何も言えません。農地バンクを利用することで、こういった増税関連の動向に怯えずに済みます。

4.賃料・協力金が得られるという利点

農地バンクを通して借り手がつくと賃料を得ることができます。そのうえ、貸し手には協力金という農地の広さに応じた金額が交付されるので、これは確実なプラスでしょう。

5.貸付期間が終われば土地が返って来るという利点

原則10年以上という制限はあるものの、農地バンクを利用した場合は期間満了で必ず返還されます。

個人間の賃借の場合、万が一にも土地が返ってこない可能性がありますが、農地バンクの場合はその心配は不要です。逆に、返されても困るという場合は機構と再契約を結ぶことで回避できます。

農地バンクの気をつけたいところ

農地バンクを利用するにあたって気をつけたい点があります。

1.農地バンクでは誰が借りるかわからないという懸念

個人間の賃借の場合は直接相手を見て選ぶことができますが、農地バンクの場合、借り手は公募なので誰が自分の土地を使うことになるかがわかりません。当然、どのように使われるかもわからないため、貸し手にとっては大きな不安となってしまいます。

農地は持ち主が手間をかけて育てる土地でもあるため、こういった貸し手の心情は農地バンクの普及に対しても大きな壁となっているのです。

2.農地バンクを利用したところで借り手がつくとは限らないという点

たとえその農地自体の条件はよくとも、土地が小規模では農地の集積化に貢献できません。

また、広大な農地の確保にも貢献ができないため、小規模な土地を農地バンクではなかなか借り受けてくれないのです。この場合、周辺の農家も同時に農地バンクに登録する必要があります。

周辺で自分だけが機構に貸したいと思っていても、残念ながら望みは薄いといわざるを得ないでしょう。

3.一度貸せば10年以上は返ってこないという懸念

最低でも10年は自分の土地の自由が利かなくなるということなので、そのあいだに別のチャンスがあっても活かすことはできません。

農地バンク以外に有効活用の方法が思い当たるのであれば、機構の利用は少し待ってもいいでしょう。10年後に今と同じ状況が続いている確証はどこにもないのです。

農地バンクの利用方法

農地バンクは、4段階のプロセスを経て利用に至ることができます。この4段階とは、貸付希望の申出・貸付希望農地の確認・借り手とのマッチング・機構による借り受けです。

1.貸付希望の申出

貸付希望の申出は、農地バンクの窓口になる市町村の担当部署または農業委員会などに対してします。こういった場所に農地を貸したい旨を伝え、貸付希望申出書というような書類を提出することで申出は完了です。ただし、この時点では貸付希望者リストに掲載されるだけとなります。

この段階で借り手が付くわけではないので注意が必要です。

2.貸付希望農地の確認

これは貸付希望の申出を受けて機構・市町村・農業委員会などの人間が現況を確認しにくるものです。このとき、農地があまりにも荒廃していた場合は除外されます。

条件に適えば、希望機関・希望賃料の確認に移ります。この時点でもまだ借り手は付きません。

3.借り手とのマッチング

市町村では毎年特定の時期に受け手の公募をします。ここで申込があれば、借り手の希望している農地確保が可能か否か、希望期間・希望賃料を貸し手と同様に確認し、条件が合えば話が進みます。

条件が合わなかった場合は、貸し手と借り手の間に市町村または農業委員会が入り、協議を行ったうえで交渉をまとめます。

4.機構による借り受け

これは受け手が農地を借りる見込みがある場合に行われます。この場合は機構が貸し手の農地を10年以上で借り受け、ここで機構は土地の中間管理権という権利を取得します。

この中間管理権が設定された農地が、機構から借り手に貸し出され、賃料が発生することになるのです。

農地バンクはまだ発展途上の制度

 農地バンクは、平成26年に施行された比較的新しい制度です。そのため、まだ実施状況は暗中模索の面があり、さまざまな利点と欠点が隣り合わせで存在しています。

発展途上の農地バンク制度

また、農地という愛着を持ちやすい土地に対する持ち主の心情を考慮に入れていない政策という指摘もあるでしょう。まだ発展途上の制度である農地バンクですが、今後の農業の未来のためにも、ぜひよい方向へ変わっていってほしいものです。