不動産売却における広告表示にはさまざまな規定や制限があり、消費者に誤解を与えないように配慮されています。その仕組みのひとつに予告広告と本広告があります。

同じ物件の広告でありながら、なぜ、2つの広告方法が存在するのか、その理由を見ていきましょう。

なぜ必要?予告広告が存在する理由

予告広告とは、分譲宅地をはじめ・新築分譲住宅・新築分譲マンション・新築賃貸マンション・新築賃貸アパートの価格や賃料などが確定していなくても打ち出せる広告のことをいいます。

予告広告はなぜ存在する?

正確な物件情報が載っているのは本広告ですが、価格や賃料が決定していないうちは本広告として情報公開ができません。本来の意味では、物件に関するすべての要素が揃わない限り、広告を出して売買取引の申し込み勧誘ができないことになります。

しかし不動産業界は競争が激しく、どの売り主もいち早く物件情報を開示してお客を呼び込みたいと望んでいます。結果、本広告が出されてから売買および賃貸の申し込み締め切り期間が短さにつながっているのが現状です。本広告の公表期間の短さは、売り主にとっても買い主にとってもデメリットが大きくなります。

売り主からすれば広告期間が短いたまに十分な勧誘ができず、申し込みの締め切りを伸ばす必要が出てきます。期間が長引けば長引くほど物件維持にかかる経費はかかり、資産価値も下がってきます。

買い主からすれば限られた時間の中で広告の情報を確認し、急いで申し込みをしなければなりません。住宅は非常に高い買い物になるので、本来はほかの物件と比較したうえで申し込みを決めたいところです。一度購入したら気に入らなかったといって、簡単に買い直せるわけではありません。

広告期間の短さは売り主にはもちろんですが、買い主にとって大きな損害を出すおそれがあります。予告広告は、このリスクを削減するためのものです。

正確な物件価格や賃料はわからないものの、物件の立地や部屋数・周辺環境など不動産を購入するうえで知っておきたい情報が確認できます。予告広告でも、だいたいの目安で価格や賃料の掲載が認められていますので、ほかの物件との比較も容易です。

未完成物件でありながら販売を開始する理由とは?

新築分譲マンションで特に多い青田売りは、なぜ行なわれるのでしょうか。青田売りとは、物件が未完成の状態で宅地や建物の売買を行うことです。

不動産業者にとってメリットが大きい方法ですが、購入を検討している人にとってもメリットとデメリットが存在します。

青田売りって?

不動産業者にとってのメリット

青田売りをする一番の目的は、なるべく早く資金を回収するためです。

工事中に申し込みから成約まで完了させて、工事が終わった頃にはまとまった資金が回収できるようになります。ひとつの物件に関する資金回収が早く終われば、次のプロジェクトに移りやすいメリットもあります。資金の回収が終わっているので金融機関からの融資も下りやすく、潤沢な資金のもとで物件売買が可能です。

十分な申し込み数に達していなくても、物件は完成していないので売れ残りと取られるリスクも回避できます。

不動産業者にとってのデメリット

物件の売買契約が成立しても、購入者が実際に住めるのは工事終了後です。申し込みから引き渡しまでの期間はどうしても長くなるので、その間に契約解除が発生しないとも限りません。

原則、契約完了後の解除はできませんが住宅ローンが下りず購入不可能となった場合は別です。手付金として支払った分も含めて購入希望者に返還しなければなりません。

買い主にとってのメリット

条件の良い物件をいち早く押さえられるメリットがあります。

広告だけの情報であっても理想の条件なら、決定から申し込み、契約までがスピーディーです。申し込んでから引き渡しまでの期間が長いので、引っ越しの準備がじっくりできるのも利点です。粗大ごみの処分や引越し業者の手配、子どもの転校手続きなど、引っ越しではやらなければならない作業がたくさんあります。

青田売り物件ならスケジュールに余裕があるので、少しずつ作業をしながら入居に備えられるでしょう。

買い主にとってのデメリット

住宅が完成してみないと住心地がわからない点は、買い主にとっての大きなデメリットです。

図面を確認したり担当者の説明を聞いたりした時点では感じなかった問題が、実際に住み始めてから出てくる可能性があります。

近隣住居を見落としていて、住宅の採光や通風などが想定と違ったというケースもあります。完成物件を見たうえで購入するよりも、ギャンブル性の高い買い物にならざるを得ません。

把握しておくべき予告広告の決まりごと

予告広告は、表示規約第8条の規定範囲内で表示をする必要があります。

予告広告と本広告の媒体は統一すること

予告広告と本広告の媒体は統一することと決まっています。ただし、予告広告を行ったのが期間限定の媒体で、本広告を同じ媒体で行うのが難しい場合は、媒体の変更が認められています。

この場合は、予告広告の中に本広告を行う新聞や雑誌、webサイト名などの記載が必要です。

予告広告の表示内容

まず、該当広告が予告広告である旨を、文字の大きさ14ポイント以上で目立つように記載します。

予告広告である旨の表示のすぐそばには、販売予定時期や取引開始予定時期、本広告をするまでは契約や予約は一切できない旨などを記述しなければなりません。価格や賃料に関しては未定であること、予定最低価格(賃料)と予定最高価格(賃料)、予定最多価格帯などの記述も必要です。

このほか、予定販売戸数や区画は一括販売になるのか分割になるのかなどを記載します。

本広告とは?予告広告と何が違うの?

販売価格や販売時期が確定したら、いよいよ本広告を公開します。正確には本広告とは新規分譲物件を売り出す際、1回目に公開する広告のことです。本広告では、すべての必要表示事項を網羅しなければなりません。

必要表示事項は大まかに4つに分類できます。

本広告の詳細

1.広告主に関する事項です

広告主の名称や商号・事務所の所在地・宅建業法の免許証番号などが該当します。

2.「物件の所在地、規模、形質その他の内容に関する事項」です

物件の所在地・開発面積・総区画数・販売区画数・地目と用途地域・建ぺい率や容積率などの内容になります。

3.「物件の価格その他の取引条件に関する事項」です

最低価格や最高価格、上下水道やガス施設などに対しての負担金の有無、取引条件の有効期限などを記述します。

4.「物件の交通その他の利便及び環境に関する事項」です

最寄り駅や鉄道・路面電車・バス停などを記載します。

本広告と予告広告の違いとは?

双方の一番の違いは、売買に関する事項が完全に決まっていない場合に広告を出せるかどうかでしょう。予告広告を出したら必ず本広告も出さなければならないので、この2つは常にセットで考える必要があります。

予告広告では「予定」や「未定」などの文字が多くなりやすく、本広告と勘違いされないような配慮がされています。なかには、予約広告と間違えやすい本広告があり注意が必要です。

よくあるのは「新発表」と「新発売」です。予告広告の時点では「新発表」ですが、本広告になったら「新発売」と表示が変わります。もし、広告を見てどちらか判断できなかった場合は、この2つの言葉に注意してみるといいでしょう。

住宅のマイナス要因は明示しなければならない

本広告を作成する際に注意したいのは、新築物件のマイナス要因に関するものです。

物件の周辺で、道路や鉄道、宅地造成などの都市計画が持ち上がっている場合は、日照や騒音など住宅環境に影響を及ぼすおそれがある旨を表示しなければなりません。また、実際に住んでみないとわからないような住宅環境や立地だった場合、普通の人は購入前にそれらの不具合を予測するのは非常に難しいです。

購入者にとって不利な売買取引になる要素も、特定事項の明示義務として表示する必要があります。

特定事項の明示義務としてよくある事項を紹介します。

本広告を作成する際には新築物件のマイナス要因は明示しなければならない

まず、宅地が市街化調整区域に所在する場合です。市街化調整区域とは、街の景観を守るためにむやみに建築してはいけない決まりになっています。また、もともと地区数十年と古い家が建っていた宅地が売りに出されている場合、セットバックが必要になるケースがあります。

昔の住居は建築基準法の適用外で建てられているケースも多く、一旦更地にして新築物件を建てる場合は、建築基準法に則りセットバックをしなければなりません。

前の住宅よりも建ぺい率が低くなるので、その旨を広告に表示します。このほか、高圧電線下にある土地・傾斜地が多い土地・不整形画地など、住むうえで不具合が生じることが予想される土地に関しては、必ず明示する必要があります。

特定事項が明示されている新築物件に関しては、十分注意をしたうえで購入を決めましょう。

住宅は誰もができる買い物ではないので、価格の安さは重要な選定項目になります。しかし、大切なのは入居後快適に暮らしていける家かどうかです。

特定事項の内容を確認した時点では大丈夫だと思っても、実際に住んでみなければ本当に大丈夫かはわかりません。特定事項が明示してある以上、選んで購入したのは買い主です。

納得したうえで買っても後悔するケースはとても多いので、注意が必要な物件に関しては慎重に検討を重ねるようにしましょう。

予告広告と本広告の違いを理解しよう

 予告広告と本広告の違いについて理解できていれば、まだ竣工していない物件の完成形をある程度は予測できます。

自分が不動産売却を行う側だった場合も、双方の特徴がわかれば実際の広告が適正かどうかの判断が可能です。広告ひとつとっても法令で厳しく制限されていますので、信頼できる不動産業者であれば予告広告と本広告もしっかり行ってくれるでしょう。

不動産にまつわる決まりごとは特例も多く、慣れていない人にはわかりにくいです。しかし、不動産売買で失敗しないためには概要だけでも頭に入れておくと、いざというときに役に立つでしょう。