郊外ではなく都心で暮らしたいという人の間で大きな注目を集めている制度に高層住居誘導地区があります。住居用に定められた地域では、さまざまな制限から高層タワーマンションの建設が難しいものですが、この制度を導入している地域ではそうした制限が緩和されていることが大きな特徴です。

そこで今回は高層住居誘導地区の概略と、その具体例について詳しく解説しましょう。

高層住居誘導地区とは

高層住居誘導地区とは、都市計画法第9条16項に基づく都市計画区域です。この制度の目的は住居とそれ以外の用途の建物を適正に配分し、高層住宅を指定地区に誘導することにあります。

そうすることによって職住近接都市環境を形成し、大都市の都心に住居を確保しようという狙いがあります。

高層住居誘導地は高層の住居とそれ以外の建物を分けることを目的とした都市計画区域

高層住居誘導地区の対象となる地域は

◇第一種住居地域
◇第二種住居地域
◇準住居地域
◇近隣商業地域
◇準工業地域
の中のいずれかの地域であることに加え

◇建物の容積率が400%または500%と定められていることが前提
◇この地区では、建物の住宅部分が延べ面積の3分の2以上である場合
最高で600%まで容積率を引き上げることができる

同時に
高さ制限
前面道路幅員容積率制限の緩和
日影規制
の対象外地区であるという特徴もある

そうしたことから、他地域と比較して高層マンションなどを建設しやすいのが特徴です。

都市計画区域の種類

都市計画区域にはさまざまなものがあります。通常、区域は都道府県が定めますが、都道府県にまたがって指定される場合には国土交通省が定めることになります。

都市計画区域には大きく分けて市街化区域と市街化調整区域があります。

市街化区域
■制限を緩和することによって建物の建設を促進していく
高層住居誘導地区は市街化区域に含まれるといえる
市街化調整区域
制限を強化することによって建設を抑制しようとする意図がある
非線引都市計画区域
市街化区域にも市街化調整区域にも含まれない都市計画区域

市街化区域に指定されるためには、その用途地域があらかじめ定められていることが前提条件となります。

高層住居誘導地区の場合、第一種住居地域・第二種住居地域・準住居地域・近隣商業地域・準工業地域がその用途地域です。

容積率と建ぺい率とは

高層住居誘導地区では容積率と建ぺい率における制限が他の地域よりも緩和されているという特徴があります。

容積率
敷地面積に対する延床面積の割合を指す

たとえば、容積率が100%に指定されている区域があるとしましょう。その場合、100平方メートルの敷地内に建てられる建物は、それぞれの階の延床面積が合計で100平方メートル以内でなければなりません。

2階建ての建物であった場合は、1階の延床面積が60平方メートル、2階の延床面積が40平方メートルというようになります。

高層住居誘導地区では容積率と建ぺい率における制限が他の地域よりも緩和されている

一方、建物には建ぺい率という制限もあります。

建ぺい率
敷地面積に対する建築面積の割合
建築面積
建物を上空から見た場合の水平投影面積が基準となる

つまり、最も面積が広い階の面積ということです。もしも建ぺい率が60%と制限されていれば、最も広い部分の階の限界が60平方メートルまでということになります。

容積率や建ぺい率は、建物の形状や立地条件によって細かな緩和規定があります。床面積の場合には延床面積の3分の1までの地階は含まれませんし、建ぺい率の場合には幅が1メートル以内の軒・庇・バルコニーなどは算入されません。

そのため、実際の容積率や建ぺい率がどれくらいになるのかということは細かな計算が必要となります。

高さ制限と日影規制

高層住居誘導地区においては、高さ制限と日影規制が緩和されているというのも大きな特徴です。

高さ制限

高層マンションが建つことによって日照や採光、通風といった住環境が阻害されたり、周辺の景観が損なわれることを防いだりするためのものです。

高さ制限には6つの種類がありますが、第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域において用いられているのが絶対高さの制限です。これは、これらの地域では建物の高さは10メートルか、あるいは12メートル以内でなければならないというものです。高層住居誘導地区はこの地域には含まれないため、この絶対高さの制限は考慮されません。

道路斜線制限

これは建物の前面にある道路の反対側の境界線を頂点とし、建物の頂上を底辺の始まりとする逆向きの直角三角形を想定するとよいでしょう。

この逆三角形における勾配の比率が、住居系地域では1:1.25、商業系地域と工業系地域では1:1.5となります。高層住居誘導地区では住居地域であるものの商業系地域と工業系地域の勾配比率である1:1.5が適用されます。

日影規制

高さが10メートルを超える建築物にかかる制限です。

基準となるのは日照時間が1年で最も短く、影が長くなる冬至日です。この冬至日の午前8時から午後4時までの8時間における影の長さが一定の基準を超えることは許されません。

高層住居誘導地区では高さ制限の緩和や日影規制は適用除外

高層住居誘導地区においては、高さ制限の緩和や日影規制は適用除外が大きな特徴です。

ただし、高層住居誘導地区の場合、敷地面積の最低限度や、建ぺい率の最高限度が一般的な制限よりも強化されています。そうすることによって、まとまった空地を確保し、市街地環境への配慮をしているというわけです。

高層住居誘導地区が導入された経緯

そもそも高層住居誘導地区が導入されることになった大きな要因は、昭和50年代以降の高度成長期における都心人口の減少でした。

都心に住む人が減る一方、郊外に暮らし始める人が増加するというドーナツ化現象が大きな問題となっていたのです。

ドーナツ化現象がもたらす弊害として挙げられるのは、夜間人口の減少による治安の悪化とコミュニティの崩壊です。また、郊外に移転するのは子どものいる世帯であることが多いことから、児童数の減少とそれに伴う学校の統廃合といった問題が出てきます。

郊外地域では増加する児童数に対応できず、待機児童が生まれてしまうという問題もあります。そのほか、高齢化が促進されることも忘れてはならない問題です。

東京の都心部では平成8年まで住民人口が減少するという傾向が続いていました。このことに対し、都心への住民の呼び戻しや居住環境の改善のため、平成9年に高層住居誘導地区が導入されることになったというわけです。

高層住居誘導地区が利用された例

高層住居誘導地区が利用された例として、芝浦アイランドと東雲キャナルコートが挙げられます。

芝浦アイランドは、東京都港区芝浦4丁目にある再開発地区の愛称です。平成11年に建設され、全国で初めての高層住居誘導地区の実例として大きな注目を集めました。

芝浦アイランドは4つの街区から構成されており、それぞれの街区で賃貸棟2棟、分譲棟2棟の超高層マンションが建設されています。

北地区はA1街区からA3街区に分かれており、A1街区にはエアタワー、A2街区にはグローヴタワー、A3街区にはブルームタワーという高層マンションがあります。南地区にある高層マンションはケープタワーです。

この地域の容積率は本来であれば400%ですが、芝浦アイランドの高層ビルは600%です。また、斜線制限は本来であれば1:1.25ですが、この地域は商業地域並みの斜線制限である1:1.5が適用されています。

日影規制は適用除外です。エリア内にはスーパーや公園、医療機関、港区の公共施設があり、この地区全体で総戸数は約4,000戸、人口は約10,000人の街を形成しています。

東雲キャナルコートは、東京都江東区東雲一丁目にある再開発事業の愛称です。地区内に8つの高層マンションが林立しており、中央に東雲キャナルコートCODANがあります。

このタワーマンションの東部に4つ、南部に3つのタワーマンションが建設されています。東部のタワーマンションは北からプラウドタワー東雲キャナルコート、ビーコンタワーレジデンス、キャナルファーストタワー、アップルタワー東雲キャナルコートです。

南部にはWコンフォートタワーズEAST&WESTというツインタワーマンションのほか、パークタワー東雲という高層タワーマンションが建っています。

注意するべきポイントとして、東雲一丁目の南側である東雲二丁目にもいくつかの高層マンションがありますが、こちらは高層住居誘導地区ではないということが挙げられるでしょう。

特例容積率適用地区とは

高層住居誘導地区とよく似た制度に特例容積率適用地区があります。

これは、地区におけるある面積の容積率制限が500%だったとして、その面積の中に2つの建築物があったとします。そして、いずれかの容積率200%だけしか使用していなかった場合には、隣にあるもうひとつの建物は残りの300%を加えた800%までの容積率が認められる、というものです。

ただし「敷地間における容積の移転」は特例容積率適用地区内でしか行うことはできません。別の都道府県であったり、別の地域に移転したりすることはできないので注意が必要です。

この制度は、平成12年に都市計画法および建築基準法の改正によって創設され、平成16年に適用区域が拡充されました。そのため、第一種・第二種低層住居専用地域と工業専用地域を除いた9つの用途地域内で適用することが可能です。

とはいうものの、実際に制度が適用された例はあまり多くはありません。最も有名な例としては平成14年に導入された「大手町・丸の内・有楽町地区」が挙げられるでしょう。

あまり普及しない大きな理由として考えられているのは、容積率が余っている建築物の所有者とのあいだにおける空中権の売買に多額の費用がかかるということです。

高層住居誘導地区は売却価格が高くなる?

かつては都心の人口減少が懸念されたこともありましたが、平成9年以降、都心の人口は増加傾向にあります。このような都心回帰の傾向を促進するものとして、高層住居誘導地区に代表されているようなウォーターフロントの高層タワーマンションが人気を集めているのです。

 高層住居誘導地区はその利便性の高さから、都心で暮らしたい人にうってつけの地域として知られています。その分だけ、ほかの地域よりも売却価格が高くなることが期待できます。

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