都市計画法で定められている地区のひとつに「重要伝統的建造物群保存地区」があります。歴史的景観を守るために指定されたこの地区は、他の地域とは異なる制限があるのが特徴です。今回はこの地区内で新築・増改築を行う際の注意点などについて詳しく紹介します。
この記事の目次
重要伝統的建造物群保存地区とは?
重要伝統的建造物群保存地区とは、文化財保護法で規定された地区を指します。
規定では、伝統的建造物群と一体をなして、その価値を形成している環境を保存するために市町村が定めた地区という定義です。
1975年に文化財保護法の改正によって重要伝統的建造物群保存地区の制度が発足し、対象地区の保存が図られるようになったのです。規定の対象となっている地区は、全国各地の城下町や宿場町・門前町などで、歴史的な建造物や街並みが対象地区として指定されています。
全国各地の市町村は、自分の地域の重要伝統的建造物群保存地区を決定して、地区内の保存事業を計画的に進めるために保存条例に基づいて計画を定めます。国は、市町村からの保存地区の申請を受けて、我が国にとって価値の高い地区であるかどうかという審査を行います。国によって保存地区であると判断されたものが、重要伝統的建造物群保存地区として選定されるのです。
このようにして選定された重要伝統的建造物群保存地区および市町村が行う地区の保存・活用の取り組み方に対して、文化庁や都道府県教育委員会は指導や助言を行っています。
これらの機関が行うサポート
◇修景事業
◇防災設備
◇案内板の設置事業
◇税制優遇措置を設けるなどの支援
が対象
2017年11月28日現在、全国の97市町村で117地区(合計面積約3907.7ヘクタール)が保存地区として、約2万8000件が伝統的建造物および環境物件として指定されているのです。
保存地区にある建物のリフォーム
自身が所有している建物を増改築する際、その建物が重要伝統的建造物群保存地区にある場合は、保存地区の規定に沿って行わなくてはいけません。
重要伝統的建造物群保存地区の規定は、日本の美しい景観を守るための決まりです。そのため、その地区に建てられている建造物には厳しい規制があります。
例えば、建物の所有者がおしゃれな洋風のもの、近代的なデザインにリフォームを希望したとします。しかし、リフォーム後の建物が、保存地区にふさわしくなく景観を損なうと判断された場合、自分の希望通りのリフォームは却下されるのです。
重要伝統的建造物群保存地区の規制は、全国の市町村の地区によって異なります。屋根の形状や素材、外壁のカラーや素材など、地区によって細かい規制が設けられており、建物周辺に設置する自動販売機や消化器も規制の対象です。
ある地域では「屋根は切妻づくり」「寄棟」「灰色の日本瓦」などが増改築の際に条件として指定されています。たとえ、素材が耐久性に優れたものであっても、規制によって定められたもの以外の素材は使用禁止です。
建物の外観を増改築する際は、厳しい規制がありますが、建物内部のリフォームは景観を損ねるとは判断されにくく比較的自由に行うことができます。
保存地区での建物新築
重要伝統的建造物群保存地区として指定された地域では、新築の一軒家を建てることはできないというイメージがあります。
しかし、重要伝統的建造物群保存地区であっても、条件をクリアすれば市町村に申請して許可を得ることによって新築は可能なのです。保存地区の条件は地域によって細かい違いがあります。
主な条件として挙げられるのは
屋根
「入母屋づくり」
「寄棟づくりで日本瓦(灰色)桟葺」
など
外壁
も条件として挙げられている
重要伝統的建造物群保存地区は、条件を満たせば近代的な素材を使用することが可能です。その条件とは素材のカラーで、茶色など指定されたカラーであればアルミサッシなども使用できます。指定されたカラーは、地域によって異なるので、事前にどのようなカラーが使用可能であるか把握しておくことが大事です。
重要伝統的建造物群保存地区で新築を希望する場合、景観を損ねるという理由でおしゃれな洋風の一軒家を建てるのは難しいといえます。保存地区の景観にふさわしく、さらに耐久性・耐震性に優れた近代的な機能も取り入れた一軒家を建てるには、建築を担当する専門業者とよく話し合うことが重要です。
保存地区で活用できる補助金制度
重要伝統的建造物群保存地区で、区内の街並み・景観の保存を継続するためには修理や修景工事も行う必要があります。保存地区で美しい街並みを維持するためには、コストもかかるのです。
保存地区で制度の規定を守りつつ建物の新築・増改築を行う人のために、全国の多くの自治体では、補助金制度が設けられています。建物の所有者全員が税金の滞納がないことなどの条件をクリアすれば、補助金を受けることが可能です。
条件をクリアして審査に通過できれば、新築や増改築の際にかかる工事費用の一部が自治体から支払われます。補助金の対象となるのは建物外部であって、内部の改装などは対象外であることが多いです。また、保存地区の建物は、工事費用だけでなく建物を維持する費用もかかります。
自治体では保存地区の不動産の所有者の負担を軽減させるために、固定資産税の減税および免除も行っています。保存地区の場合は、固定資産税以外の税金も減税・免除の対象です。
保存地区での土地・建物の売買
重要伝統的建造物群保存地区に関する決まり事は、新築・増改築など、あくまで建物に関する規制であるため、保存地区の不動産の売買に関する規制はありません。したがって、保存地区の土地・建物は、売買に関しては通常の不動産と同様の扱いです。
売買を行うために自治体へ申請するなどの手間は必要ないので、売り手と買い手で自由に売買の交渉をすることが可能です。
ただし、売買が成立した場合、保存地区の不動産を購入した買い主は、購入した土地・建物の所有者となった時点で所有物が保存地区の規制対象となります。当然ながら規制を無視して自分の思い通りの新築・増改築をすることはできません。
保存地区の制度によってさまざまな制約のある不動産は、一般的なものに比べると厄介なものといえます。通常の不動産と違ってさまざまな禁止事項があることから、保存地区にある不動産を所有したいと名乗り出る買い手は決して多くはありません。
売買に関しては成立しにくいのが、重要伝統的建造物群保存地区の特徴です。
保存地区に移住する方法も
重要伝統的建造物群保存地区は、日本情緒あふれて歴史を感じさせる景観に恵まれている地域です。保存地区にある建物は機能的・近代的なものとは異なるため住みにくいという人も、なかにはいることでしょう。
しかし、保存地区の建物には自治体による補助金の交付や固定資産税の減額および免除などもあるため、新築・増改築や建物の維持などの手間を軽減することもできます。
建物の内部は保存地区の規制の対象外なので、保存地区の建物を購入してから内装をリフォームすることも可能です。手間がかかると思われている保存地区の建物を自分の好みにリフォームして、素晴らしい景観に囲まれて暮らすのも魅力的といえるでしょう。
自治体のなかには、保存地区の移住者を募集しているところもあるので、保存地区での生活に興味があれば自治体の窓口へ相談してみてはいかがでしょうか。