人生で一番大きな買物のひとつが住宅だといわれています。高い買い物であるため住宅ローンを組み、節約してやり繰りしながら支払い続ける人が大半ではないでしょうか。しかし、国の制度である住宅ローン控除を利用することにより、本来支払うべき税金が安くなる場合があります。利用するのとしないのとでは大きな差が出るため、詳しく知った上で住宅ローンを組むのがおすすめです。

ここでは、住宅ローン控除がどのような制度なのか紹介していきます。

住宅ローン控除って何?

住宅ローン控除とは、正しくは「住宅借入金等特別控除」という所得税の減税制度の一つです。2022年4月から制度が新たに改正され、控除期間が最長13年間に延長されました。

所得税の減税制度の一つ

自身が居住する住宅を購入するためにローンを組んだ人に対して、長期にわたり支払う金利の負担を少しでも軽くすることを目的として国が定めた制度です。対象は新築に限らず、中古住宅や増改築のリフォームの際のローンでも、一定の要件を満たせば控除が受けられます。

毎年の所得税から、決められた計算式にローンの借入残高を当てはめて算出された税額が戻る「税額控除」というしくみです。控除されるべき税額が所得税額を上まわり、所得税のみで控除しきれない場合には、翌年の個人住民税からも税額控除されます。

給与の支給が1カ所からのみの給与所得者なら通常は確定申告の必要はありませんが、住宅ローン控除を受ける際には、住宅を購入した初年度のみ個人で確定申告を行う必要があります。翌年以降は、会社が行う年末調整の際に生命保険料控除などと同様に住宅ローン控除の処理をしてくれるため、個人で確定申告をする必要はありません。

住宅ローン控除の対象

住宅ローン控除は、厳しい景気低迷の時代において、中低所得者層でも安心して住宅を購入できるよう景気浮揚の一助として採用された税制度です。

消費税増税に対する負担増の緩和、支払利息の負担を軽減することなどが目的のため、住宅を購入するのにローンを組む必要のない高所得層や親族などからの援助で十分に自己資金がある人は、住宅ローン控除の対象とはなりません。

そのため、贈与による取得や生計を一にする親族などからの取得、親族や知人からの借入金はすべて対象外です。また、勤務先からの借入金の場合、無利子または0.2%に満たない利子による借入金はこの特別控除の対象となる借入金には該当しません。

住宅ローン控除を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

※2022年の制度改正以前に住宅ローン控除の適用を受けた方は、改正以前の要件・控除率が適用されるため一部内容が異なります。

十分に自己資金がある人は住宅ローン控除の対象とはならない

新築・取得・増改築してから6カ月以内に住み年末まで引き続き住んでいること

あくまでもマイホームのための住宅ローンの制度なので、実際に自分が住むために取得した住宅でなければ控除の対象にはなりません。収益目的の投資用マンションや、しばらく自宅を建てる予定のない土地のみの購入には適用できません。

ただし、転勤などで一時的に本人が住んでいなくても家族が居住している住宅の場合には適用できます。

所得が年2,000万円以下であること

給与所得者であるサラリーマン、個人事業主、自営業者などは、その年の合計所得金額が2,000万円以下でないと住宅ローン控除が受けられません。

ここで気をつけたいのは、所得とは年収ではなく基礎控除やその他の控除、必要経費などを差し引いたあとの金額を意味します。また、住宅購入初年度の所得が2,000万円以上あり住宅ローン控除が受けられなくても、翌年の所得が2,000万円以下に減った場合その年は住宅ローン控除の適用が可能です。

借入金の償還期間が10年以上あること

金融機関や公庫などで組んだ住宅ローンの償還期間が10年以上あることが控除適用の要件です。

住宅購入資金は20年や30年という長期ローンを組むことも多く、返済期間が長くなるほどトータルで支払う金利が重くのしかかってくるのが一般的です。10年未満で返済できる人は十分な資金力があるとみなされ、控除の対象にはなりません。

また、適用を受けている期間中でも繰上返済などにより、当初の契約で最初に返済した月から最終の返済月までの期間が10年未満になった場合は、その時点で対象外となり適用が受けられなくなります。

床面積が50平方メートル以上あり、面積の半分以上を居住用に使うこと

登記簿に表示される床面積から判断します。マンションはベランダや階段、通路などの共有部分は床面積には含まず、専有部分の床面積で判断するため注意が必要です。

ただし、合計所得金額が1,000万円以下で、2023年末までに建築確認を受けた新築住宅の場合、住宅の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の住宅も対象となります。

また、住宅の一部を店舗として使う併用物件の場合は、床面積の半分以上を居住用に使うことが条件です。

中古住宅の場合の適用要件

中古住宅の場合は、建築後使用されたことのある家屋で下記①②いずれかの要件を満たす必要があります。

  1. 1982年(昭和57年)1月1日以後に建築されたものであること
  2. 1981年以前に建築された中古住宅の場合、現行の耐震基準に適合していると証明された(耐震基準適合証明書がある)家屋であること

築年数についての要件はありませんが、一定の耐震性能があると証明された建物でなければ適用が受けられません。

一定期間特定の所得税控除を受けていないこと

税金の負担を軽減してくれる控除や特例も、全てを同時期に利用できるわけではありません。マイホームの買い換えなどで住宅購入前後に他の特例を利用していた場合、住宅ローン控除を利用できないこともあるので注意が必要です。

新居に入居する年とその前後2年の間に、マイホームの売却利益(譲渡所得)で「3,000万円の特別控除の特例」や「長期譲渡所得の軽減税率の特例」を利用していた場合は住宅ローン控除の適用外となります。

マイホームを買い換える際は「売却時の譲渡所得で節税の特例を利用する」「新居の購入時に住宅ローン控除を利用する」どちらかを選ぶことになるのです。

もし売却時の譲渡所得が小さい場合は、売却時に1回だけ受けられる特例を利用するより、最長13年間控除を受けられる住宅ローン控除を利用する方が節税効果は高くなることが多いですが、どちらを利用した方がお得になるかは譲渡所得金額によります。しっかり計算して、利用時期もシミュレーションした上で制度を活用しましょう。

増改築の場合、工事費用が100万円を超えること

規定を満たしていれば、自宅の増築やリフォームをした際にも住宅ローン控除を受けることができます。

リフォームの要件は、増改築や大規模な修繕、模様替え工事、耐震改修工事、一定のバリアフリー改修工事、一定の省エネ改修工事などの場合です。増改築等の額が100万円を超えており、店舗と併用の物件でも、その2分の1以上の額が居住用部分の工事である場合は対象となります。

ただし増改築等に関し補助金等の交付を受ける場合には、その補助金の金額は控除する必要があります。また、一つの工事に要した金額で判定されるため、数回に分けて工事を行った場合は注意が必要です。増改築等での適用条件は複雑なため、リフォームで住宅ローン控除の利用を検討する際には専門家へ相談することもおすすめします。

控除できる金額は?

住宅ローン控除の控除額は、毎年末の住宅ローン残高の0.7%、あるいは1年間の最大控除額のうち少ないほうの金額が所得税から控除されます。ただし、最大控除額は住宅の性能や種類、入居時期によって異なります。

控除額はいくら?

2022年の制度改正により、省エネや環境に配慮して建てられた長期優良住宅や低炭素住宅といった認定住宅が優遇される設定となっています。

認定住宅の判定基準として建物の耐久性ももちろんですが、耐用年数が短い配管の補修や交換が容易であること、家族の成長に合わせて間取りが変更できることなど色々な条件をクリアしなければなりません。

持続可能な社会に向けて、環境性能の高い住宅の普及を目的にしているのですが、環境や省エネに配慮した認定住宅は一般住宅よりも建築コストがかかるため、税制面で優遇されるわけです。

なお、2024年以降に建築確認を受ける新築住宅などで一定の省エネ性能基準を満たさない場合は住宅ローン控除の対象外となります。

◆2022年~2023年に入居した場合

  住宅の種類 借入限度額 控除率 控除期間 最大控除額
年間 期間合計
新築住宅・買取再販 長期優良住宅・低炭素住宅 5,000万円 0.7% 13年 35万円 455万円
ZEH水準省エネ住宅 4,500万円 31.5万円 409.5万円
省エネ基準適合住宅 4,000万円 28万円 364万円
その他の住宅 3,000万円 21万円 273万円
既存住宅 長期優良住宅・低炭素住宅
ZEH水準省エネ住宅
省エネ基準適合住宅
3,000万円 10年 21万円 210万円
その他の住宅 2,000万円 14万円 140万円
リフォーム 2,000万円 14万円 140万円

◆2024年~2025年に入居した場合

  住宅の種類 借入限度額 控除率 控除期間 最大控除額
年間 期間合計
新築住宅・買取再販 長期優良住宅・低炭素住宅 4,500万円 0.7% 13年 31.5万円 409.5万円
ZEH水準省エネ住宅 3,500万円 24.5万円 318.5万円
省エネ基準適合住宅 3,000万円 28万円 364万円
その他の住宅 (※)2,000万円 10年 14万円 140万円
既存住宅 長期優良住宅・低炭素住宅
ZEH水準省エネ住宅
省エネ基準適合住宅
3,000万円 21万円 210万円
その他の住宅 2,000万円 14万円 140万円
リフォーム 2,000万円 14万円 140万円

※2023年までに新築の建築確認が行われた場合のみ適用されます。

最大控除額はあくまで目安であり、必ずしも全額が控除できるわけではありません。実際に控除を受けられる金額は所得や納税額によって異なりますし、住宅ローン残高は毎年減っていくので年末残高が少額になればその分控除額も減るため年々変化します。35年ローンを組んだ場合でも、控除を受けられるのは最大で最初の13年間だけです。

住民税からの控除の上限

控除額が所得税から控除しきれない場合は住民税からも控除できるのですが、住民税の控除には上限額が決められています。

その上限が「前年度課税所得×5%」で、最大9万7,500円までです。

例えば、長期優良住宅の新築住宅に2023年入居、年末ローン残高が3,000万円の場合でシミュレーションしてみます。

2023年入居の長期優良住宅の最大控除額は35万円ですが、年末ローン残高3,000万円×0.7%=21万円なので、金額が小さい方の21万円が住宅ローン控除額として適用されます。

そして本来の所得税が8万円、住民税が17万円だった場合、所得税の8万円は全額控除が可能です。控除額はあと13万円分残っていますが、住民税の控除は最大9万7,500円までのため、実際に控除できるのは所得税8万円+住民税9万7,500円=合計17万7,500円となります。

住宅ローン控除は、本来納めるはずの税金から控除額を差し引く減税制度なので、控除できる金額が大きくても、本来の所得税額+住民税の控除上限額以上の金額の控除は受けられません。

繰上返済や借り換えをした場合

住宅ローンは、最初に計画した返済回数と返済金額を返済期間の途中で見直すことができます。

住宅ローンは返済金額を返済期間の途中で見直すことができる

一時的に多額の収入があった場合は、住宅ローンの返済回数を少なくして支払う金利を少しでも安くするために繰上返済を行う人もいるでしょう。もしくは、当初の金利よりも低金利になったときに、ローンの借り換えを計画する人もいます。そのように返済期間の途中で住宅ローンに変更があったときでも、引き続き住宅ローン減税を受けることが可能です。

ただし、変更後の住宅ローンの返済期間が10年以上あることが条件です。つまり、新たに組み直した住宅ローンも、住宅ローン減税を受けるための要件を満たしていることが必要になります。繰上返済をして残高が少なくなったため、以降9年間の108回払に変更したという場合は、年数が要件を満たさないため減税の対象とはなりません。

また、当初の住宅ローンにプラスして教育資金などで借入額を増やしてローンを組み直した場合なども適用外になってしまいます。あくまでも当初の住宅ローンとして返済するものでなければ認められません。

さらに、住宅ローンを組み直しても、新たにそこから10年間の控除が受けられるわけではありません。あくまでも購入当初からの10年間という定められた期間内でのみ、控除が可能です。

控除を受けるための手続き

住宅ローン控除を受けるためには、給与所得者の場合、個人で確定申告をしなければ減税の適用となりません。

住宅ローン控除を受けるためには個人で確定申告をしなければ減税の適用とならない

個人事業主や自営業者は、今まで通りの確定申告で毎年手続きをすることになります。必要書類は、確定申告書、住宅借入金等特別控除の計算明細書、住民票、住宅ローンの年末残高等証明書、土地や住宅の登記簿謄本、売買契約書か工事請負契約書のコピー、給与所得者の場合は源泉徴収票を用意し、税務署へ提出してください。

給与所得者の場合は、住宅ローン控除の手続きをする必要があるのは初年度のみで、2年目以降は勤務先で年末調整の際に手続きを行ってもらえます。初年度はいわば、納め過ぎた税金を返してもらうための還付申告です。

2年目からは、年末調整の時期に勤務先へ借入金の年末残高証明書と給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書を提出するだけで税額控除が適用されます。勤務先で給与計算を行い、年末調整で過不足を調整した正しい税額で納めるため個人で手続きをする必要がありません。

なお、借入金の年末残高証明書は住宅ローンを組んだ金融機関などから毎年10~11月頃に郵送で届きますが、10月以降に住宅ローンの繰上返済や借り換えをした場合は年末残高証明書に記されている残高の予定額など内容が変わってしまうため、書類の再発行が必要です。そのような場合は早めに金融機関へ連絡し、再発行の手続きを行いましょう。

ローンを組んだら確定申告を!

住宅ローンを組んだ1年目は、給与所得者でも、自営業者でも、住宅ローン控除を受けるためには確定申告が必要になります。

1年目の還付申告は、確定申告シーズン中である必要はなく、翌年の1月1日以降から受け付けてもらえるため、混み合う2月16日前までに済ませるのがおすすめです。

年収が2,000万円以上の自営業者も、必要経費や控除を差し引いた後の所得が2,000万円以下になることもあるため、必ず事前に確認をして住宅ローン控除の手続きをしましょう。

2年目以降も年末調整のための書類などが必要になりますので残高証明など銀行から届く住宅ローン控除の書類はきちんと保管しておきましょう。