不動産の売却をお考えの方は、「不動産査定書」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。不動産を売却する際は、不動産査定書を事前に用意しておく必要があります。
この不動産査定書は「不動産業者の不動産査定書」と、「不動産鑑定士の不動産査定書」の2種類があり、意味合いが異なります。
それぞれどのようなシチュエーションで利用するのでしょうか?
今回は、2種類の不動産査定書についてわかりやすく徹底解説していきます。
不動産査定書とは?
不動産査定書とは、不動産の査定額を明示した書面であり不動産を売却する際に必要になるものです。
この、不動産査定書は、「不動産会社が作成するもの」と「不動産鑑定事務所が作成するもの」の2種類があります。
不動産業者の不動産査定書
一般的に「査定書」というと、この不動産業者が作成する不動産査定書を指します。
不動産を売却する際に、不動産業者に査定依頼をすると作成してくれる書面が、不動産業者の不動産査定書になります。
査定依頼は無料ですることができるので、この査定書も無料で入手できます。
ただ、不動産業者の不動産査定書は規定のフォーマットがなく、不動産業者が独自に作成できる書面のため、各不動産業者によって内容も用紙ですら異なります。
また、不動産業者の不動産査定書は3ヶ月以内の売却を前提で作成されるので、3ヶ月経過すると査定額が変わる可能性があるので、注意が必要です。
参照:不動産査定は無料でできる!有料査定との違いや流れ、注意点を解説
不動産鑑定士の不動産査定書
「不動産査定書」というと、不動産鑑定士が作成する査定書を指す場合が多く、「不動産鑑定書」と呼ばれることもあります。
不動産鑑定士は、不動産鑑定評価基準に基づいて査定を行い正確な査定額を算出します。
不動産鑑定士は不動産を鑑定する専門家であり、査定依頼すると15万円~30万円の作成費がかかります。
不動産業者の不動産査定書と不動産鑑定士の不動産査定書の違いは、対外的な信用度ということです。
それぞれ利用するシチュエーション
では、2種類の不動産査定書はそれぞれどのようなシチュエーションで利用するのでしょうか?
結論からいうと、一般的に不動産を売却する際は無料で入手できる不動産業者の不動産査定書で問題ありません。
不動産業者の不動産鑑定書の場合
不動産業者の不動産査定書は、「自分の不動産はどの程度の価格で売却できるのか?」という、あくまで参考資料ですが、目安になる売却価格を知ることができれば十分なのです。
また、不動産業者が行う査定には規定がなく各不動産業者の独自の基準で査定することができます。
そのため、不動産業者によって査定額も異なることがあり、査定依頼する際は複数の不動産業者に依頼することをおすすめします。
不動産鑑定士の不動産査定書の場合
一方、不動産鑑定士の不動産査定書は対外的な信用度が高いので、法人の不動産売買や相続による遺産分割・離婚による財産分与の際に利用されることが多いです。
法人の不動産売買では利害関係上、適切でない価格での取引が行われる場合があります。
このような際に税務署から不動産査定書を求められることがあり、正確な査定額が明示された不動産鑑定士の不動産査定書が必要になります。
また、遺産分割や財産分与など正確な査定額が知りたい際も、不動産鑑定士に作成依頼をします。
不動産査定書の内容
不動産業者による不動産査定書は、「公共財団法人 不動産流通推進センター」による、テンプレートをもとに記載されています。
そのため、ここでは、このテンプレートを元にご紹介していきます。
不動産の基本内容
不動産査定書には、まず査定する不動産の基本内容が記載されており、下記のような内容が記載されています。
- 所在地 (住所)
- 交通のアクセス
- 都市計画におけるその土地の目的
- 種類 (「土地付き建物(戸建て)」「区分所有建物」など)
- 土地 (地積、建ぺい率、容積率、接道など)
- 建物 (種類、専有面積、構造、築年数、間取りなど)
査定価格とその根拠
実際に査定した価格とその根拠が記載されています。
査定価格には、以下3つの基準で記載がされています。
- 上限価格:売れる可能性のある上限の価格
- 基準価格:一般的な価格
- 確実価格:ほぼ確実に売れるだろう価格
査定の根拠となるのは、建物の築年数や新耐震基準の適合性、外装や設備などです。
また、リフォームの有無や不動産担当者による目視での評価項目などもあります。
売り出し価格
不動産査定書には、売り出し価格の記載もあります。
この売り出し価格とは、不動産会社がこの不動産を売却するにあたって告知する物件の価格の事です。
予想される手取り額
仮に査定額で不動産が売却されたからといって、査定額がそのまま手に入る訳ではありません。
そこから、仲介手数料や印紙税代など、諸々の諸費用が引かれます。
不動産査定書には、それらを引いた、予想される手取り額の記載もあります。
不動産査定書の見るべきポイント
不動産業者の不動産査定書は、複数の業者に依頼する事がおすすめという事をお伝えしてきました。
では、この複数の査定書をどの様に、見比べたらいいのでしょうか。
ここでは、不動産査定書を受領した時の見るべきポイントをご紹介していきます。
査定額
まずは、査定額をチェックしてみましょう。
先ほどもお伝えした通り、各不動産業者の独自の基準で行われるため、査定額にもバラツキがあると思います。
ここで重要なのは、高い査定額よりも、低めの査定額の確認をしっかり行うという事です。
査定額には、上限価格から、この価格ならほぼ確実に売れるだろうという価格の記載があります。
特に、査定する不動産の住宅ローンが残っている場合、この確実に売れると予測される価格で、住宅ローンの返済が出来るのか、チェックしておきましょう。
また、他社と比べても極端に高すぎる価格を提示していなければ、一番高い査定額を提示してくれた不動産会社を選んでも大丈夫です。
価格アップの要因はきちんと反映されているか
リフォーム済みの場合などは、査定額がアップされる大事な要因となります。
また、「住宅性能評価書」がある物件の場合でも、1割程度ですが、高めに査定してくれる事もあります。
このような不動産を所有している場合、査定額にもきちんと反映されているか、確認しましょう。
住宅性能評価書とは?
国土交通大臣に登録した第三者評価機関が、全国共通のルールをもとに、住宅の性能を公平な立場で評価し、その結果を表示した書面のこと。
住宅の性能については、10個の分野を、等級や数値などで表示します。
成約時期の目安は書いてあるか
不動産査定書は、一般的に3ヶ月間が有効期限となっています。
これは、大体売却までに3ヶ月程度かかると見込まれているからです。
ですが、中にはこの有効期限が、半年や1年といった長期で設定されている事もあります。
これは、不動産会社が数か月では売れないと考えているからです。
有効期限が長期になっている場合、その理由を必ず、確認しておきましょう。
しっかりと確認しておくことで、売却スケジュールも立てやすくなりますよ。
査定書の見やすさ
不動産会社が提出してくれる査定書は、その不動産会社独自のものです。
査定書が見やすく分かりやすいかは、その不動産会社の集客力を見極めるポイントの一つでもあります。
不動産会社は物件を売り出す際に、サイトやチラシにその情報を記載して宣伝を行います。
査定書が見づらければ、その不動産会社のサイトや、チラシも同じ様に見にくくあまり集客が上手な不動産会社とは言えないかも知れません。
査定書が見やすく、センスのいいものになっているかも一つの見るべきポイントです。
査定を行う上であった方がいい書類
不動産査定書を依頼する場合、原則必要な書類はそんなに多くはありません。
しかし、査定時に準備しておく事で、精密な査定が出来たり、査定価格が高くなったりもします。
ここでは、査定を行う上であった方がいい書類をご紹介していきます。
原則必要な書類
- 登記済証または登記識別情報通知書
- 確定測量図
- 登記簿謄本
- 身分証明書、印鑑証明書、住民票
あるといい書類
- 公図
- 売買契約書や重要事項説明書
- リフォームの履歴が分かるもの
- 固定資産税納税通知書
登記済証または登記識別情報通知書
法務局から登記名義人(不動産を取得した人)に対して交付される書類で、登記名義人がその不動産の真正な所有者であることを証明するものです。
査定時には本人確認のために必要な書類となります。
確定測量図
確定測量図は、すべての境界が確定している時に発行されるものになります。
土地や建物を売る場合は、原則鑑定測量図の提出を不動産会社から求められるケースが多いです。
基本的には、物件購入時にもらう書類ですが、万が一紛失している場合は、法務局に申請すれば、いつでも取得可能です。
登記簿謄本
登記簿謄本は、不動産の権利所有者、借入状況などが分かる公的書類です。
不動産について、重要な事柄が記載されている事から、査定時にあると、より精度の高い査定額を出してもらえます。
こちらも、法務局で取得することが可能です。
身分証明書、印鑑証明書、住民票
不動産査定時には、登記簿謄本で記載されている、所有者と、不動産査定の依頼者が同じであるか、本人確認書類を求められる事が多いです。
本人確認書類としては、身分証明書、印鑑証明書、住民票などです。
公図
土地の図面で、この公図によって土地の形状や、地番、道路、水路や隣接地まで分かる書類です。
土地の実態がより詳しく分かるので、こちらも査定時にあると参考になる書類です。
こちらも、法務局で取得できますが、法務局のインターネットでも取得が可能です。
売買契約書や重要事項説明書
査定の精度を高めるために、売買契約書や重要事項説明書があれば、準備しておきましょう。
売買契約書では、境界線の情報など不動産を売買する際の決まり事などを確認する事が出来ます。
また、重要事項説明書では、物件の法規制やライフラインの状態などを確認できます。
リフォームの履歴が分かるもの
リフォームの履歴が分かる書類があると、中古物件でも、査定額を上げるための大きな要因となります。
この書類は、いつ何をリフォームしたのかなどが分かれば十分です。
直近5年ぐらいに、リフォームを行っていれば、査定額もプラスになる可能性が高いです。
固定資産税納税通知書
不動産を所有していると固定資産税という税金を払わなくてはなりません。この税金の通知書が固定資産税納税通知書です。
この固定資産税納税通知書に記載されている評価額は不動産の公的な価値です。
こちらは、あくまで不動産売買にあたっては、参考程度になりますが、念のため、準備しておき、不動産会社へ提出しましょう。
不動産査定書の注意点
ここからは、不動産査定書を依頼する際や、取り扱いにあたっての注意点をご紹介していきます。
不動産会社による査定は証拠力はない
不動産会社による査定書には、第三者に対する証拠価値はありません。
なぜなら、先ほども紹介した通り、各不動産会社によって不動産査定書の規定はなく、独自の基準で作成されているからです。
第三者にきちんとした証拠価値を示すのなら、やはり査定のルールが厳格に決められている、不動産鑑定士の査定書がいいでしょう。
離婚などの場合は不動産鑑定士に依頼がおすすめ
離婚の際の財産分与で、不動産鑑定書が必要な場合もあると思います。
その場合は、なるべく不動産鑑定士に依頼する事をおすすめします。
なぜなら、大体の査定額で財産分与をしてしまうと、どちらかが損をする事になったり、後々トラブルになる恐れがあるからです。
費用はかかってしまいますが、正確な査定書を作成してもらえる、不動産鑑定士に依頼する事がおすすめです。
まとめ
不動産査定書は2種類あり、意味合いや利用するシチュエーションが異なります。
先ほどお伝えした通り、一般的に不動産の売却をする際は、不動産業者の不動産査定書で問題ありません。
しかしどうしても正確な査定額が知りたい場合や、トラブル回避のために信頼できる不動産査定書が必要な場合は、不動産鑑定士に査定依頼しましょう。