不動産を売却する場合は、さまざまな手続きを行うことが必要です。売買契約書の締結や登記、さらに所得税の確定申告などの手続きが欠かせません。手続きを行う際に、マイナンバーの提示を求められる場合もあります。そのため、マイナンバー制度についても理解しておくことが重要です。そこで、不動産売却に関連するマイナンバー制度の基礎知識についてお伝えします。
この記事の目次
マイナンバー制度とは?
不動産売却とマイナンバー制度の関係を理解するためには、まずマイナンバー制度の概要を知っておく必要があります。
マイナンバー制度は2016年から開始された制度です。マイナンバーとは、住民票登録がある全員に付された固有の番号で、桁数は12桁あります。日本人であっても、国外在住の人には付与されておらず、外国人であっても住民票登録をしている人はマイナンバー付与の対象です。
マイナンバー制度の導入目的は3つあります。
1.簡略化を行い事務効率をあげる
1つ目は、行政手続きを簡略化することによって事務効率を上げることです。
国地方公共団体、各省庁などのあいだで社会保障や税金に関するデータをやりとりする場合には、同一人物のデータであるかどうかを人名などによって判断していました。しかし、同姓同名の人の存在や漢字の記載ミスなどが原因で確認手続きに時間がかかっていたという問題があります。
また、別人のデータと取り違えるといったトラブルも発生している状況です。マイナンバー制度の導入によって固有の番号が付されるようになれば、簡単に同一人物のデータであることが確認できるようになります。
2.正確性の向上
2つ目は、社会保障の給付や税金の徴収を正確かつ公平に行うことです。
個人に固有の番号が付されることによって、個人の家族構成や所得などのデータを正確に集めることが可能になります。それによって、受けるべき人が確実に社会保障の給付を受けられることにつながり、意図的に課税逃れをする余地などを最小限に抑えることにも役立ちます。
3.利便性の向上
3つ目は、マイナンバーが付与された人の利便性を高めることです。各種行政手続きなどを行う場合、本人証明や所得証明など数多くの書類の提出が求められます。マイナンバー制度を導入することによって、行政側はマイナンバーの提示を受けるだけで、本人確認や所得情報などを簡単に取り出すことが可能です。
その結果、提出する書類が減るなど行政サービスを利用する人の利便性が向上します。
マイナンバーは個人のさまざまな情報と結びつくため、重要な個人情報です。導入前には、情報流出などに対する懸念もありました。そのため、マイナンバーを使用する対象を絞って導入されています。当面の対象は、税金と社会保障、災害関連です。
不動産売却損益の確定申告とマイナンバー
不動産売却を行った場合、確定申告手続きは欠かせません。マイナンバー制度の対象のひとつは税金ですので、確定申告時にはマイナンバーを申告書に記載するなどの対応が求められます。
不動産の売却によって生じた売却損益は、所得税の計算上、分離課税の譲渡所得に該当します。
分離課税とは
分離課税
売却益が生じた場合
◇5年を超えていれば長期譲渡
◇5年以内であれば短期譲渡
それぞれに対応する税率を適用して税額を求める
確定申告は不動産売却時にはほぼ必要
原則として確定申告が必要です。また、一定の条件を満たした住宅や敷地について売却損が生じた場合は、確定申告することによって損益通算や損失の繰越控除の適用を受けられます。そのため、不動産の売却を行うと、ほとんどのケースで確定申告を行うことになるでしょう。
確定申告書を作成するにあたっては、申告する人のマイナンバーの記載が求められます。記載目的は、申告書の提出を受ける税務署がマイナンバーを認識することです。申告書の記入欄に12桁のマイナンバーを記載するだけでなく、個人番号通知カードまたは個人番号カードのコピーの添付も求められます。
個人番号通知カードとは、マイナンバー制度導入時に郵送されてきた書類のことです。個人番号カードは、ICチップが付いているクレジットカード程度の大きさのプラスチックカードです。市町村に申請することで作成できます。
また、確定申告で配偶者控除や扶養控除の適用を受ける場合には、申告する本人分だけでなく、控除対象となる家族のマイナンバーの記載も必要です。
e-taxによる確定申告とマイナンバー
確定申告は、税務署に持参する方法や郵送で提出する方法のほかに電子申告による方法も認められています。ネットで手続きが完了できる便利な制度で、名称は「e-tax」です。不動産の売却について確定申告を行う場合、e-taxを利用するケースもあるでしょう。
e-taxの利用にあたっては、マイナンバーが関係する部分がありますので正しく理解しておくことが必要です。
e-taxは、パソコンなどで申告書を作成するだけでなく、送信まで行うことによって申告作業を完結できます。その際、送信している人が本人であることを証明することが求められます。本人を認証するやり方は、パソコンにカードリーダーをつなぎ、個人認証データが入っているICチップ付きのカードをカードリーダーで読み込む方法です。
マイナンバー制度導入前は、読み込むカードについては住民基本台帳カードだけが対象でした。住民基本台帳カードとは、住民票登録をしている人が任意で作成するICチップ付きカードのことです。有料だったことや利用範囲が限られていたことなどが原因であまり普及していませんでした。マイナンバー制度導入後は、ICチップ付きの個人番号カードでもe-taxが利用できるようになっています。
マイナンバー制度導入前から住民基本台帳カードで電子申告を行っていた人は注意すべきことがあります。
住民基本台帳カードは有効期限があり、5年間有効です。マイナンバー制度導入前は、カードの期限が切れたら申請して更新発行が可能でした。しかし、マイナンバー制度導入後は更新ができなくなっています。そのため、電子申告を継続して行いたい人は、ICチップ付きの個人番号カードの交付を申請して入手しておくことが必要です。個人番号カードは無料で作成できます。
不動産売却時の支払調書とは?
不動産を不動産会社などの法人に売却した場合、買い取った法人は支払調書と呼ばれるものを税務署に提出することになっています。支払調書にはさまざまな種類がありますが、不動産の売却に関連する支払調書の名称は「不動産等の譲受けの対価の支払調書」です。
作成する義務があるのは不動産を買い取った法人側ですので、売却した人については特に手続きは発生しません。しかし、不動産の売却によってだれがいくらの収入を得たかという情報が税務署に提出されていることは知っておく必要があります。
不動産等の譲受けの対価の支払調書の提出が義務付けられているのは、売買代金が100万円を超える場合に限られます。しかし、一般的には不動産の売買価格は高額になりますので、土地などを含む売買を行った場合はほとんど対象になると考えておいたほうがよいでしょう。
不動産を買い取った法人は、この支払調書を作成にあたって売却代金支払い先の個人名や金額を記載するだけでなく、代金を受け取った人のマイナンバーを記載することも義務付けられています。そのため、不動産を売却した人は、売却先の法人からマイナンバーの提示を求められます。マイナンバーは重要な個人情報ですので、行政窓口など限られた場合にしか提示しないことが基本です。
しかし、民間の会社に対しても提示する可能性があることを理解しておきましょう。
確定申告以外の手続きとマイナンバー
不動産を売却した場合、確定申告や支払調書手続き以外にもさまざまな手続きが生じます。所有権の移転登記や抵当権抹消登記など登記関連の手続きや、売買契約書の締結なども行うことになるでしょう。また、売却資金をローンの返済にあてるなど場合は、金融機関とのやりとりも発生します。
そういった場合にマイナンバーの提示が必要になるかどうかも知っておくことが必要です。
これらの確定申告以外の手続きにおいては、マイナンバーの提出が求められることはありません。マイナンバーの利用は、税と社会保障、災害関連に限られます。登記の管理は、国の管轄です。しかし、登記簿とマイナンバーは関連付けられていませんので、登記に関連してマイナンバーを提示する必要はありません。
また、売買契約締結や金融機関における手続きも税金や社会保障、災害とは無関係ですのでマイナンバーの提示は不要です。万が一求められても、マイナンバーを提示しないようにしましょう。
預金口座の紐づけは現時点では義務ではない
預金口座については、マイナンバーとの紐づけが検討されていますが、2018年時点では義務ではありません。証券や保険などの分野では口座や契約とマイナンバーの紐づけが義務付けられましたが、預貯金口座の数は膨大で金融機関の対応が難しいということで義務付けが見送られた経緯があります。
ただし、将来的には紐づけを検討しています。個人の所得を正確に把握するというマイナンバー制度の目的から考えると、いずれは義務付けられるといわれています。
不動産売却に必要なマイナンバー関連手続きは確実に
不動産を売却するにあたっては、売買価格を決定したり売却資金の使途を検討したりするだけでなく、契約締結や登記、確定申告などさまざまな手続きが必要です。手続きにあたっては、マイナンバーの提示が必要となるケースと必要ないケースがあります。
マイナンバーは各個人に固有の番号として付されたもので、税や社会保障、災害関連の手続きに役立てることで行政手続きの簡略化や行政サービス利用者の利便性を高めることが目的です。基本的には、必要となるケースは確定申告書への記載やコピーの添付、売却先法人へのマイナンバー提示に限られます。
どんなケースで必要になるかをしっかり判断できるようにしておくことが大切です。また、e-taxと呼ばれる電子申告を行う人は、ICチップ付きの個人番号カードを作成しておくことを忘れないようにしましょう。