不動産を他人に貸す際には賃貸借契約の締結が必要です。当然のことながら、賃貸借契約は口頭ではなく文書(賃貸借契約書)を作成して締結することになります。
賃貸人にとって、貸した後のトラブルを避けるためにも賃貸借契約書はしっかりとした文書を作成しておきたいものです。そこで、このコラムでは賃貸借契約の基礎知識とともに、賃貸住宅・借地・駐車場を経営する際に知っておきたいポイントなどを紹介します。
この記事の目次
賃貸借契約の基礎知識
賃貸借契約書
賃貸借契約は、不動産を他人に貸す際に取り交わす契約のことです。この賃貸借契約を締結するには、賃貸人が用意する賃貸借契約書が必要になります。
賃貸借契約書に記載されているもの
(住所や賃料など)
■賃貸人が守ってもらいたい規定
(存続期間・契約解除・保証人・賃料以外の費用・協議条項・特約)
など
そのため、賃借人にとって賃貸借契約書は賃貸人の条件に対する同意書のようなものであるとも言えるのです。
初めて賃貸借契約書を作成する際には、国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書か定期賃貸住宅標準契約書が参考になります。
存続期間
存続期間というのは、賃貸借契約期間のことです。
存続期間は法律によって定められていますが、土地と建物または法律によっても期間の上限などが異なります。
たとえば、土地の場合。民法では20年以上を超えての賃貸借契約はできないとされていますが、民法に優先される借地借家法では最短でも30年以上の契約が必要とされています。
また、借家の場合には存続期間の制限はありませんが1年未満の契約を締結すると、自動的に期間の定めのない契約ということになってしまうため注意が必要です。
契約解除
賃貸借契約書には、契約解除になる事由を明記しておくことができます。賃貸料の滞納や規定違反が主な事由になりますが、そのレベルが双方の信頼関係を破壊していると法律的に認められなければ解除はできません。
保証人
賃借人による賃貸料の滞納や支払い能力の消失という事態に備えて、賃貸借契約書には必ず保証人を明記しておく必要があります。
保証人は個人だけでなく、保証会社と契約するという選択も可能です。
賃料以外の費用
共益費や管理費のことです。また、契約中に起こった建物の修繕費に関しても明記しておくと安心です。
協議条項
賃貸借契約書に明記された規定以外の事態が起こった際には、双方で協議をして解決する旨を明記しておきます。
特約
特別の条件をつけた約束のことです。
特約は、賃貸人に有利となる条件を明記することも可能ですが借地借家法や消費者保護法といった法律に違反する特約は無効になります。そのため、特約を明記する際には自分本位になりすぎないことが大切です。また、賃借人が特約の内容をしっかりと理解していなければせっかくの特約が無効となる可能性もあります。
特約を設けるのであれば、法律や賃借人が納得できる範囲にとどめておくことが得策です。
特約の種類を知っておこう!
原状回復費用の特約
契約を終了して借りていた不動産を退去する際に、賃借人は原状回復を行う義務があります。
原状回復は、賃借人の使用によって発生した破損や損耗のうち賃借人の故意や過失などによって生じた破損や損耗のことです。しかし、ただ「賃借人の故意や過失などによって生じた破損や損耗は賃借人が費用を負担する」と明記したのでは十分ではありません。
トラブルを避けるためにも、何が賃借人の負担になるのかをできるだけ具体的に示しておく必要があります。
たとえば「家具の取付け痕・襖やクロスの大きな破損は賃貸人の負担とする」といったように、どのような破損や損耗が賃借人の負担になるのかを明確にしておくことが大切です。
更新料特約
賃貸借契約書に更新料の特約を設けるこができます。ただし、更新料は本来請求することができません。そのため、あまりに高額の更新料を請求すると特約が無効になる可能性があるため注意が必要です。
敷引特約
敷引特約は、賃借人が退去する際に敷金の一定金額を差し引くことをあらかじめ約束しておくことです。この特約を設けることによって、敷金を全額返還する必要がなくなります。
ただし、あまりに差し引く金額が高すぎると賃借人に拒否される可能性があるため、きちんと説明をしたうえで賃借人が納得できる金額を差し引くようにしてください。
賃貸借契約書を公正証書で作成する場合
公正証書
賃貸借契約書は賃貸人が用意して自分で作成するのが基本です。ただ、賃貸借契約書を公正役場に依頼して公正証書という形式で作成することもできます。公正証書は、公証人と呼ばれる公務員によって認証された文書のことです。
民間人が自分で作成した文書よりも、法的に強い効力(裁判所による強制執行など)を持つことが認められています。そのため、賃貸借契約書を公正証書で作成しておくと賃借人が賃料を滞納した際には、裁判所のお墨付きを得て強制的に取り立てることが可能になるのです。
公正証書を作成するには、最寄りの公証役場に行く必要があります。自分で行く以外に、行政書士や弁護士に依頼してもかまいません。賃貸借契約書を公正証書で作成するには手数料を支払う必要があります。なお、相談だけであれば無料です。
定期借家契約
賃貸借契約書を公正証書で作成したほうが良いケースがあります。それは、定期借家契約を締結する場合です。
通常の借家契約は賃貸人と賃借人の合意によって更新ができます。つまり、賃貸人が拒否すれば更新をせずに済ませることも可能ということです。ただし、更新を拒否するには存続期間満了6カ月前に更新拒否の告知をする必要があります。と言っても、6カ月前に告知すれば必ず更新拒否できるわけではありません。
更新拒否には、法律的に認められる正当な事由が必要です。正当な事由というのは、賃料の滞納や規定を無視しているといった賃借人側の行為のことになります。ただ、正当な事由以外にも賃貸人による立ち退き料の有無も考慮して判断されるため、更新を拒否するのは簡単なことではありません。
そこで、もし限られた期間だけ賃貸に出したいのであれば定期借家契約を選択することができます。
定期借家契約というのは、あらかじめ設定した期間が満了すると自動的に契約が終了するという契約法です。この定期借家契約を締結する際の賃貸借契約書も、通常契約と同様に自分で作成することができます。ただ、その時になってトラブルになることを防ぐためにも法的なお墨付きを得られる公正証書で作成しておくほうが得策です。
尚、定期借家契約の賃貸借契約書を公正証書で作成する際には更新がない契約であることをしっかり明記することを忘れないでください。
賃貸住宅を経営する場合
一戸建ての場合
一戸建ての空き家対策として、賃貸住宅経営は有効です。
一戸建てを賃貸住宅にする場合、賃借人は概ね子育て世代が対象になります。子育て世代は、10年・20年という単位で住み続ける可能性が高いというのが特徴です。そのため、一度賃貸借契約を締結すれば長期間にわたって安定した賃料収入が見込めるというのが、一戸建てを賃貸住宅にする最大のメリットです。
また賃借人が退去する度にメンテナンスを施すコストも必要なく、一軒だけであれば普段の管理にも手間はかかりません。実家などが空き家になっていると、固定資産税といった税金だけが発生しますし庭の草刈りや建物のメンテナンスにもコストが掛かります。こういった、実家の空き家対策としても、賃貸住宅経営は有効な手段の1つです。
また、短期間だけ自宅を貸したい場合には、定期借家契約を締結することもできます。
アパートの場合
アパート経営の場合は空き家だけでなく、空き地対策としても有効です。
土地を空き地のままにしておいても固定資産税などの税金がかかります。ところが、少し投資をしてアパート経営を始めれば毎月安定した家賃収入が見込めるだけでなく、必要経費が増えることなどによって所得税や住民税の軽減も可能です。
アパートは一戸建てとは違い、賃借人は間取りによって異なります。そのため、まずは自分の土地の立地条件からどういった賃借人を対象にするかを決めることが重要です。
たとえば、近くに大学や大きな会社があるのなら単身者用のワンルーム、幼稚園や保育園があるのなら2DKくらいの間取りのアパートを選択します。アパートは、入・退居が頻繁に繰り返されるというのが特徴です。そのため、メンテナンスなどに手間がかかるイメージがあります。ただ、単身者用のワンルームであれば、賃借人はほとんどの時間を外出しているため意外と部屋の損耗が激しくない場合が少なくありません。
アパート経営は、立地条件に合わせた適切な経営ができればかなり有効な空き家・空き地対策と言えます。
借地契約や駐車場経営の場合
借地契約の場合
所有している土地の有効活用の1つに、土地を他人に貸す借地契約があります。
借地契約に必要なのは、空き地を貸す賃貸借契約を締結するだけです。これといった投資やメンテナンスといった手間も掛かりません。ただ、借地契約には注意する点があります。
借地契約というのは、賃借人が借りた土地に建物を建てたりできる地上権や土地を使用して収益を得られる賃借権のことです。民法では、この借地権を登記すれば賃借人は第三者に対して借地権を主張できるとされています。こうなると、賃借人の立場が強くなり地主である賃貸人の立場は弱くなることが考えられるのです。
こういった事態を避けるためには、登記を拒否するしかありません。賃借権の場合、賃貸人はこの登記を拒否することが可能です。ただ、地上権の場合は要請された登記に応じる義務があります。そこで、賃貸人は登記義務のない賃借権を選択するのが一般的です。
ところが、借地借家法では土地に建っている建物に賃借人の名義が登記されていれば、賃借人は借地権を第三者に主張できるとされています。借地借家法は民法に優先されるため、借地契約を交わした時点で賃貸人と賃借人の立場は逆転したといっても間違いではありません。しかも、借地契約は最短でも30年以上という長期契約になります。
所有している土地を他人に貸す場合は、こういった点を考慮して決断することが大切です。
駐車場経営の場合
もう1つの有効な空き地対策に駐車場経営があります。
駐車場の整備は初期投資も比較的少なくてすみ、特に青空駐車場の場合はメンテナンスなどの手間もほとんどかかりません。立地条件にもよりますが、数ある賃貸経営業のなかでも比較的安定した収益の見込める事業であると言えます。
特に、地方都市では一家で2〜3台の車を所有していることも珍しくありません。ところが、意外にも自宅に複数の車を保管するスペースがない家があります。そのため、駐車場に対する重要はけっして低くありません。また都市部であれば、家と家の間にぽっかりと空いた狭い土地に立体駐車場を建設することも可能です。
駐車場経営のメリットは他にもあります。
たとえば、駐車場経営に借地借家法は適用されないため賃貸住宅や借地契約の賃貸借契約に必要な専門知識は必要ありません。また、借地借家法の対象外であるため賃貸借契約書も自由に作成可能で、問題のある賃借人とは直ちに契約を解除することも可能です。ただ、駐車場経営にも駐車場法という法律があります。
場合によっては、都道府県知事への届出が必要になることがあるため駐車場法は必ずチェックするようにしてください。
特定空き家に指定される前に賃貸借契約を考えよう!
実家や自宅を空き家のまま放置していると、最悪の場合「特定空き家等」に指定されます。
特定空き家というのは、平成27年に施行された空き家対策特別措置法(空き家等対策の推進に関する特別措置法)によって定義された危険な状態にある空き家のことです。
具体的には、倒壊の恐れがある・著しく不衛生である・周囲の景観を著しく損なっている状態の空き家を特定空き家等と呼びます。特定空き家等に指定された場合のペナルティーが、固定資産税が軽減される固定資産税の住宅用地特例からの除外です。
特定空き家等に指定された住宅には、市区町村長による改善や取り壊しの助言・指導が行われます。応じない場合は勧告に変わり、それでも放置していると最終手段として行政による強制的な取り壊し(行政代執行)に発展するため注意が必要です。もちろん、この取り壊しにかかった費用は特定空き家等の所有者に請求されます。
こういった最悪の事態になる前に、住まなくなった自宅や実家があるのなら賃貸借契約を現実的に考えてみても良いかもしれません。