不動産の売却において「いくらで売れるか」を気にしない人はいないでしょう。しかし、不動産の価格を算定するにおいて参考となる価格はたくさんあるため、それぞれにどのような違いがあるか分からないという人も多いのではないでしょうか。そこで、この記事では公的に不動産価格の指標を出している「地価公示」についての詳細や路線価との違いについて紹介します。

地価公示の基本を知っておこう

公示された地価はあくまで大体の指標にすぎない

地価公示とは毎年「1月1日時点での地価」を国土交通省が公示することを指します。地価公示の対象となるのは「標準地」と呼ばれる場所です。

標準地は国土交通省が定めている地点で、平成29年の地価公示においては全国で2万6000地点が対象になりました。公示された地価は、あくまでも国土交通省が「これぐらいで評価しますよ」という指標に過ぎないので、実際に取引される価格とは異なります。しかし、もともと地価はあってないようなものなので、1つの目安として参考になる指標だといえます。

価格の表しかたは1平方メートル単位で公示され、抵当権などの特別な事情がないという前提のもとに評価されるのが特徴です。また、その地域における標準的な価格を算出することを目的としているので、最高値や最安値を示す価格ではないことも覚えておいてください。

標準地について

標準地を選定するのは、国土交通省内にある土地鑑定委員会です。選定の基準については、商業地や住宅地といった同一用途内における一団の土地のなかから、利用状況や形状などの点を考慮した結果、標準的な地価になると考えられた土地です。標準地を選定することで周辺地域の類似する土地の目安となるため、あまりにも極端な性質を持つ土地が選ばれることは基本的にありません。

たとえば、極端に不整形で利用しにくいような土地を選定してしまうと、周辺の土地の目安とならないからです。また、区画整理などによって土地の形状は変動する可能性があるため、標準地に適した土地であるかどうかは毎年チェックが行われています。チェックの結果、不適当であると認められた場合には、該当地域内から新たに別の土地が標準地として選ばれます。

地価公示が行われる地域について

地価が公示される区域を公示区域と呼ぶ

地価公示は国土交通省が行う公的な指標ですが、すべての地域を対象としているわけではありません。地価が公示される区域を「公示区域」と呼びますが、それは「都市計画区域」または「その他の土地取引が相当程度見込まれる区域」に限られています。都市計画区域は都道府県が指定するものであるため、市町村の境界と一致するとは限りません。

そのため、公示区域の指定にあたっては複数の市町村が含まれることや、市街地以外の地域が含まれることもあります。

標準地の価格の決め方は?

標準地を選定する土地鑑定委員会によって価格も決められますが、算定にあたっては2人以上の不動産鑑定士が携わることとなっています。ただし、法律上は2人以上となっていますが、実際には実務上の問題もあって2人だけで行うことが多いです。

不動産鑑定士による鑑定評価の結果を受けて土地鑑定委員会が審査を行い、最終的な地価が認められて公示されるという流れになります。ここで覚えておきたいのは、公示価格で示されるのは「不動産鑑定を行った2つの値の平均ではない」ということです。公示される地価は正常価格で算出することが求められているからです。

正常価格とは簡単にいうと「売り手にも買い手にも特別な事情がない状況化で行われる取引」を指します。

たとえば、Aという土地を売却するときに「不特定多数の人に売る場合」と「知人に売る場合」とでは、心情的に後者のほうが安くしてしまいがちです。つまり、売る相手によって価格が変動してしまうため、土地をものとして考えた場合に客観的に見て正常な価格を表していないといえます。

しかし、一般の市場では不特定多数の人が参加するケースも多く、売り手と買い手に特別な事情がなくて、結果的に妥当な価格で契約が結ばれるものと考えられます。

このように特別な事情がないもの同士で取引が行われる価格を正常価格と呼び、地価公示は国が民間にも公表する指標の1つであるため、客観的に評価される正常を算出することを目的としています。そのため、不動産鑑定士が算出した2つの価格をそのまま按分するようなことはせず、土地鑑定委員会で精査が行われるのです。

地価公示は誰でも利用できる?

地価公示は誰でも利用できる?

地価公示は一般消費者に向けても公表されています。また、公示された地価についての利用制限みたいなものはなく、土地取引などの目安にすることも問題ありません。むしろ、正常価格の算定方法から分かるとおり、それらの目安になることを想定して作成されています。そのため、法人だけでなく個人でも利用できる指標として不動産売却の際には助かるでしょう。

実際に不動産会社が土地の価格を算出する際にも地価を基準にしている場合があります。詳細に算出する場合は周辺の取引事例を参照しながら金額を修正しているでしょうが、不動産のプロ達も参考にしている指標なのです。

他にも、不動産取引業を営んでいない企業も参考にする例があります。たとえば、貸借対照表に記載する保有資産を把握するためで、地価公示によって示された価格を参考にして評価しているケースもあります。これらの例からわかるとおり、地価公示による価格は「国が公表した客観性が高いもの」として非常に重要度が高い指標と一般的には考えられ、さまざまな場所で活用されています。

公示価格があるおかげで、不当に高い金額で売り付けられたり、安く買いたたかれたりする恐れが低くなっているといえるでしょう。

公示地価を見るためには?

公示地価を確認するのであれば、国土交通省の「国土交通省地価公示・都道府県地価調査」というwebサイトで誰でも簡単に確認できます。都道府県と地域を選ぶと、検索条件を入力できる画面に移動するので、「対象」の項目で地価公示を選んでください。

その他の項目として、住宅地や商業地といった「用途区分」や「地価の価格帯」を選択できます。それらの項目を選択後に検索をかけると標準地として認定された土地の価格や地積、利用区分などが一覧で表示されるので、参考になりそうな場所を探してみましょう。また、このシステムでは実際に鑑定した不動産鑑定士の評価書を閲覧できる点が非常に優れています。

土地の売却を検討している人は、参考までに閲覧しておくことをおすすめします。

国や自治体は公示価格を参考にしなければならない!?

道路の拡張などで国や自治体が公共事業に必要な土地を収用する場合、所有者に対して買い取り金額を打診しなければいけません。買い取り金額については土地の所有者との交渉になりますが、他の人たちにも同額を提示しなければいけないため、公示価格で提示するように決められています。

民間の取引では公示価格は参考指標のひとつにすぎませんが、公共工事においては絶対的な意味を持つのです。

地価公示と基準地価の違いは?

地価公示は国土交通省によって示される指標ですが、都道府県が発表している似たような指標もあります。それが基準地価です。基準地価は毎年7月1日時点での地価を9月ごろに公表します。地価公示と比べると公表時期が半年ほどずれているため、地価公示の価格を補完するような指標として扱われることが多いです。また、参照時期によっては、地価公示よりも最新の価格を反映している指標であるともいえます。

これら2つは似たような指標ではありますが、決定的な違いとしては

地価公示
土地鑑定委員会が標準地を選定している
基準地価
都道府県が基準地を標準地とは別に(場所によっては重複することもある)定めている

そのため、地価公示が行われる公示区域外でも基準地が設定されることがあり、そのような地域において土地取引の指標となる目安が欲しいときには特に重宝されます。

基準地の選定基準とは

基準地の選定基準は標準地における考え方と基本的には変わりません。類似の利用価値があると認められる地域内から、環境や利用状況が正常だと思われる土地を選びだすという方法です。また、基準地の価格を決める過程においても、やはり不動産鑑定士による評価が義務付けられているので、公示価格の算定方法と変わりないといえます。

ただし、公示価格は2名以上の不動産鑑定士による評価が必要であるのに対して、基準地では1名以上で問題ありません。

基準地の調査区域については「都市計画区域外を含む全域」となっているため、地価公示ではカバーしきれない範囲の指標としては有効ですが、正確性という点では劣ることもあるでしょう。また、根拠となる法律も地価公示が「地価公示法」であるのに対して、基準地は「国土利用計画法」という点も異なります。

地価公示と路線価の関係性

すべての区域というわけではありませんが、市街地的形態といえる道路(市街地だけでなく、市街地に近い状態)には路線価といわれる評価額もあります。路線価は主に道路が接する土地の税金を算出するために使われる指標です。この指標の考え方は、「土地の価値は立地に影響を受ける」ことを前提にしており、基本的には大きな道路に面していればいるほど価格も高くなる傾向にあります。

路線価によって1平方メートルあたりの価格を設定し、その道路に面する土地の面積をかけることで土地全体の評価額を算出します。

たとえば「路線価が10万円の道路に面している1000平方メートルの土地」では「10万円×1000平方メートル=1億円」というわけです。ただし、路線価には「相続税路線価」と「固定資産税路線価」の2つがある点には気を付けなければいけません。それぞれ相続税路線価は国税局、固定資産税路線価は市町村というぐあいに設定する機関も異なります。

相続税路線価とは

相続税路線価は毎年1月1日時点での価格を算定するという点では地価公示と変わりませんが、公表される時期は7月という点で異なります。相続税路線価の標準地は地価公示や基準地価の調査点以外にも独自に定めることが可能で、価格の決定においては「売買実例」「地価公示」「不動産鑑定士の鑑定評価」などを総合的に判断して決めます。

ただし、公示地価とまったく同一の標準地であれば、地価公示の価格をベースにすることになっています。そのベースから8割程度を基準として相続税路線価は定められるのです。なぜ、公示価格の8割ほどに減額して評価されるかというと、価格の決定時期が1月1日時点であるにもかかわらず、公表時期が7月という比較的遅い時期だからです。それまでの期間に自然災害や土地の造成などによって、標準地の価格が大きく下落する可能性も0ではありません。

相続税は人によっては非常に高額になるケースもあるため、そのような事態に備えて低めに設定されているのです。

固定資産税路線価とは

その他の指標が毎年見直されるのに対して、固定資産税路線価は基本的に3年に1回しか変更しません。1月1日時点での固定資産に対して評価され、4月ごろに所有者のもとに郵送等で通知されます。

固定資産税路線価の算出方法は、まず主要な道路に接する標準宅地を設定し、その後で周辺の宅地についても標準宅地の価格に準じたものが設定されるという方法です。固定資産税路線価は地価公示のおよそ7割程度だといわれています。なぜ7割なのかというと、相続税路線価と同様に何らかの理由で土地の価格が大きく下落した場合に備えてという意味合いがあります。

ただし、相続税路線価が毎年評価替えをするのに対して、固定資産税路線価では基本的に3年に一度しか評価替えが行われません。期間が長いとそれだけ土地の価格が下落する値幅が大きくなる恐れがあるため、相続税路線価と比べても低い価格になるよう調整されています。

地価公示の価格に一喜一憂しないこと

土地の売却価格を知るためには国土交通省が発表する「地価公示」だけでなく、「基準地価」「相続税路線価」「固定資産税路線価」などの複数の指標を参考にするとよいでしょう。どれも都道府県や市町村などが公表している指標ですので、正常価格を算出することを目的に作られています。公平性の極めて高い指標だといえるので安心して使用してください。

また、土地の売却などの目安になるように作られている部分もあるので、無断で参考にしても問題ありません。ただし、あくまで参考指標であるという点については注意するようにしましょう。地価公示の価格は市町村などの公的機関による土地の収容などでは強制力のあるものですが、民間での取引において強制力はないのです。

 つまり、標準地の価格が高いからといって、必ずしもその値段で売れるとは限りません。反対に標準地の価格が安くても自分の土地の方が高く売れるケースだってあります。標準地の価格は、「その土地における標準的な価格」であり、最高値でも最安値でもないからです。大切なことは標準地の価格に一喜一憂することでなく、さまざまな指標や過去の周辺の取引事例を参考にして相場感をやしなっておくことだといえるでしょう。

「どれぐらいの値段で売れるなら自分は納得するか」という範囲を事前に決めたうえで、売却交渉に臨むようにしてください。