不動産登記では、往々にして「担保」が設定されます。担保があることで債務者はローンを組むなどの取引を許可されるのです。担保権は「抵当権」とも呼ばれています。そして「共同担保」という形式で抵当権を行使する債務者もいます。
ここでは「共同担保」と「目録」について、解説します。
この記事の目次
共同担保と通常の担保
不動産物件の支払いを、ローンを組んで行う場合
支払う側
■債権者
支払う側
にあたります。ローン契約をすると、債務者の支払い能力がなくなったときに大きな問題になります。そこで、債務者に債権と同等の価値がある財産を「引き換え条件」として提示してもらうことです。これが通常の「担保」です。
債権を払えなくなる
↓
債権者
◇担保を差し押さえ
◇担保を転売するなどして損失を補填
担保に選ばれやすい財産が「不動産物件」「土地」などです。これらの財産は価格が高いうえ、査定がしやすい長所があります。また、高確率で転売したり、ビジネスに利用したりできるので債権者にとっても「損失の補填がしやすい」特徴があるのです。
そして基本的には、ひとつの債権に対して債務者はひとつの不動産を担保するのが通常ですが、場合によってはひとつの債権に複数の不動産を担保する取引もあります。これが「共同担保」です。
共同担保目録
担保は、差し押さえの段階でトラブルに発展しないように目録として書面化され、債権者と債務者の間で共有されます。
共同担保を文書にまとめたものが「共同担保目録」です。共同担保目録では、1枚の書面にすべての担保を記載されることが許可されています。担保ごとに別々の登記を行う必要はありません。
共同担保にするメリットとは?
債権者のメリット
債権者にとって、共同担保で契約を結ぶメリットは「担保の安全性を確保」できるからです。
通常の契約では、ひとつの債権にひとつの不動産を担保しますが、不動産とは価格の変動が激しく契約成立時の価値を維持できるとは限りません。また、建物や私道を担保にされていた場合だと債権の支払い中に災害に遭うなどして、差し押さえが不可能になることも考えられます。その結果、債務者が支払い能力を失ったとしても損害が埋められません。
共同担保にすると、仮にひとつの担保が価値を失ったとしても、別の担保で埋め合わせが可能です。また、「土地」を担保に入れてもそこに立つ「建物」が担保でないなら、差し押さえが複雑になるため、同じ場所にある土地と建物を共同担保にしてもらうほうが債権者の手間は省けます。
債務者のメリット
債務者としても、メリットは少なくありません。
たとえば、500万円分の担保を求められている状況で、担保にできる不動産が「300万円」の価値だけしかなかったとします。当然、そのままではローンを組めません。しかし、ほかの場所にある不動産に「200万円」の価値があるとすれば、共同担保にしてローンを認めてもらえます。また、不動産取引において、土地と建物を一緒に査定してもらうより単体で査定してもらったほうが、価値が上がる傾向があります。
担保物件の査定額を高くして、より有利なローンを組むためには共同担保を選ぶのが得です。単価が、あまり高くない不動産物件を複数所有している債務者は、共同担保を望みがちです。
共同担保目録がつくられる手順
共同担保目録を作るのは「登記官」の役目です。
「登記事項証明書」を用意
↓
不動産取引に必要な項目を埋めていく
(担保についての項目も出てくる)
↓
抵当権の登記欄に「共同担保目録番号」を記載
(番号の表す担保を確認できるようにしておくのがルール)
↓
担保に入れる不動産の住所や注意事項などを記して登録は完了
共同担保目録は、通常の担保目録と料金は変わりません。
共同担保目録は、同じ紙に担保一覧が縦に並んでいるので、すぐに内容が把握可能です。また、後から目録の追加があったときでも「更新日時」が記載されています。担保から外れたり、担保としての価値を喪失したりした不動産物件については「抹消扱い」となります。抹消された情報は目録からも除外されるのが普通です。
共同担保目録は、「登記事項証明書」とともに保管されていきます。共同担保目録の保管期間は「すべての事項を抹消した日から10年間」と定められているので、厳重にしまっておくよう心がけましょう。実際に、差し押さえを行ったり登記の修正などを行ったりする際には、登記事項証明書が根拠となります。
勝手に、内容を書き換えられるなどのリスクを防ぐためにも、共同担保目録の取り扱いは慎重になりたいところです。不安な人は、専門家に保管を任せるのもひとつの方法です。多くの弁護士・司法書士が不動産登記や保管を請け負っています。
共同担保を嫌がる債務者もいる!
債権者からすれば、安心感が強い共同担保ですが、正しく行われれば債務者にとっても損のない契約方式です。ただ、すべての債務者が賛同してくれるとは限りません。むしろ、人によっては共同担保を求められる契約を嫌がります。そのようなときに、債務者の心理を理解できると債権者は交渉を有利に運びやすくなります。
債務者が嫌がる理由を把握
万一の時に失う担保の数が多い
ほかの契約にまわせる担保が少なくなる
別の取引の際に担保にできる不動産を確保しておく必要があり、できれば通常の担保にしたい
契約内容に不信感を抱いている
債務者も共同担保を避けようとする
こんな債務者には共同担保を勧めましょう!共同担保で得をする取引
共同担保はすべての債務者にとって、メリットがあるというわけではありませんが、特定の取引では確実におすすめできます。
には共同担保が向いています。
貯金がない、年収が低いなどの要素を含んでいる債務者とローン契約を結ぶのは不安なものです。万が一、債務者が早々と返済能力を失い債務整理を行った場合には、残債の回収はほとんどできず、債権者にはマイナスしかない取引となってしまいます。しかし、所有する不動産物件が多ければ損失を担保できます。
この場合も、共同担保を進めてみましょう。債務者が非常に将来性のあるビジネスプランを抱いていたとします。しかし、そのためにはどうしても不動産物件が欠かせません。共同担保でなければ債務者との契約は不可能です。ただし、もちろん債務者の事業計画を入念にチェックするのは大前提です。成功の見込みのない事業については、契約そのものを考え直しましょう。
このように、共同担保を認めてもらい不動産取引を成立させるためには、丁寧に「根拠」を示す必要があります。ただ強引に、共同担保を提案しても債務者から怪しまれるだけです。共同担保は、債権者と債務者の信頼関係があってこそ成り立つものです。交渉は誠実に行うよう、気をつけましょう。債務者が共同担保に納得し債権者を信じることができれば、実りある契約内容が実現します。
こんな取引には要注意!共同担保を断るべきケース
債務者の経済状況が悪く、不動産契約をしぶっているときに「共同担保」を持ちかけられても、安易に首を振らないようにしましょう。たしかに、共同担保は契約のリスクを減らしてくれます。
ただそれは
場合に限ります。頑なに、共同担保以外の選択肢が見えていない債務者には「裏」があるのかもしれません。
たとえば、債務者がほかに多額の債務を抱えているときの共同担保は、危険です。すでに、共同担保として挙げている物件がほかの債権の担保になっているおそれがあるからです。もちろん、この行為は許されていることではありません。しかし、経済的に追い込まれている債務者が嘘をつき、契約を結ぼうとすることも珍しくありません。
また、共同担保になる物件の一つひとつの価値が小さすぎるのも、考えものです。担保とは、差し押さえた後で利用価値があるため意味があるのですが、価値のない物件や、不人気の物件を差し押さえても損失は補填できません。むしろ、債権者にとって新たな負担を抱え込んでしまうともいえます。
まとめ
共同担保を提案されても、債務者の状況を信用情報などを提出してもらい、念入りに確認しましょう。また時には、上手に断り損失を防ぎましょう。担保の価値は、長期的な視野で見極め、判断が難しい場合は、法律事務所や不動産仲介業者に相談してみるのもひとつでです。