普通は、不動産の売買や相続などのときでなければ、なかなか登記簿を見る機会もありません。そのため、相続などで得た不動産に仮登記がついていても、気づかないケースが多々見られます。仮登記とは、不動産売却のときに不利な要素です。
ここでは、仮登記の意味や抹消の方法などについて説明します。
この記事の目次
仮登記のある不動産売却は危険
仮登記がついた物件を、売却することは可能です。しかし仮登記がついていると、売却後にトラブルになる可能性もあり、買手がなかなか見つからず、売却額が極端に低くなるというデメリットがあります。
仮登記がついたまま、売買契約後に所有権移転登記をすると、その後、仮登記は本登記になり所有権移転登記が抹消され、新たな所有者に所有権が無くなってしまいます。これがトラブルの原因になるのです。
このようなトラブルを避けるためには、仮登記権利者と協議して、仮登記を抹消してから売却する必要があります。
仮登記とは
仮登記とは、本登記のために必要な書類などが揃っていない場合や、売買契約が予約の段階で止まっている場合に、将来の本登記の順位を確保するための予備的な登記です。仮登記には、第三者に権利を主張する対抗力はありません。しかし後日、本登記の際に仮登記をした日にさかのぼって、本登記の効力が発生するという順位保全効力があります。
たとえば、登記簿(登記事項証明書)に次のような記載があった場合
平成15年 |
Aへの所有権移転仮登記 |
平成20年 |
Bへ所有権移転 |
平成25年 |
Cへ所有権移転 |
平成25年時点の所有者はCですが、その後、平成15年の仮登記が本登記になると
平成15年 |
Aへ所有権移転 |
平成20年 |
Bへ所有権移転は職権により抹消 |
平成25年 |
Cへ所有権移転は職権により抹消 |
このように、BとCへの所有権移転は職権により抹消され、平成15年の仮登記をした日にさかのぼってAが所有権を得ることになります。
このような事態が起こりうるため、仮登記がついたままの不動産の売買には、注意を要するのです。
仮登記の種類
仮登記は大きく分けると2つの種類があります。
「物件保全の仮登記」(不動産登記法第105条第1号)
当事者間では権利の変動はあったが、本登記の申請をするための必要書類が用意できない場合物件保全とは、不動産に対する所有権を仮登記によって保全することです。
一 号 仮 登 記 |
「所有権移転仮登記」 |
「抵当権設定仮登記」 | |
「賃借権設定仮登記」 |
物件保全の仮登記とは
◇権利の変動に第三者の許可や承諾などが必要で、その許可は得ているもののそれを証明する書面などが添付できない場合
に行う仮登記です。物件保全の仮登記は、不動産売買などによって、所有権などの権利変動が起きていることを前提として行います。
「請求権保全の仮登記」(不動産登記法第105条第2号)
売買予約の場合や金銭消費貸借(住宅ローンやその他の借入金)で返済が滞った際、所有権を移転させる条件付契約が成立した場合などに用いられる仮登記です。
二 号 仮 登 記 |
「所有権移転請求権仮登記」 |
「条件付賃借権設定仮登記」 |
請求権保全の仮登記は、主に2つのケースで行います。
◇将来、一定の条件が揃えば権利変動をする予定あるが、現時点では所有権を移転できない状態にある
などの場合に行う仮登記です。農地の売買では、農地法の許可を得る前に、仮登記をしておくケースも見られます。
不動産の売買予約と仮登記
売買予約とは私法上の概念で、将来、売買契約を成立させることを約束する契約のことです。予約によって、将来成立する契約を本契約、予約によって本契約を成立させる権利を予約完結権といいます。
売買予約には、当事者一方のみが予約完結権を持つものと、当事者の双方が予約完結権を持つものがありますが、当事者が予約完結権を行使するという意思表示をすれば、本契約が成立します。
不動産の売買予約は、主として買主が売買契約を成立させるかどうかの決定権を留保した契約で、買う意思を通知を売主にすれば、売買契約が成立します。売買予約がなされると、所有権移転請求権を仮登記することによって、第三者に対抗することができます。
仮登記の時効
仮登記自体には、時効による消滅という制度はありません。しかし、仮登記の原因が時効で消滅すれば、仮登記の効力も無くなります。時効を成立させるためには、期間の経過だけでなく時効の援用が必要です。
ここでは「所有権移転請求権仮登記」と「農地の売買による条件付所有権移転仮登記」の原因となる、債権の時効について説明します。
所有権移転請求権仮登記の場合
将来、生じる可能性がある権利の変動についての請求権を、保全するためになされる仮登記のことです。
所有権移転請求権仮登記の原因には
売買予約や代物弁済予約
などがあります。
金銭債権を返済できないときに、不動産などで弁済に代えること
売買予約を原因とした、所有権移転請求権仮登記では、売買予約の契約を締結したときから10年を経過すれば、本登記請求権が消滅することがあります。これは売買予約により発生した、予約完結権が消滅時効になるためです。代物弁済予約や贈与予約の場合も、予約完結権が消滅時効になります。
しかし、時効期間が経過しても予約義務者から時効の援用がなされないときは、予約完結権の時効は成立せず、所有権移転請求権仮登記の、本登記請求権は消滅しません。このため、予約完結権の消滅時効を成立させるためには、時効の援用をする必要があります。
時効の利益を受けることを相手に伝えること
消滅時効を援用するという通知を、債権者に郵送します。
農地の売買による条件付所有権移転仮登記の場合
「年月日売買予約(条件は農地法第5条の許可)」 を原因とする仮登記
農地を、宅地など他の用途に変更し売買や賃貸借などを行う場合は、 農地法第5条の許可が必要
農地については、売買契約が成立しても都道府県知事の許可がなければ、農地所有権移転の効力は生じません。しかし、売買契約が成立しているので、売主は買主に協力して農地法第5条の許可申請をする義務を負います。
買主には売主に対しての「所有権移転許可申請協力請求権」があります。この請求権は債権に当たるため、売買契約が成立してから10年経過すれば消滅時効です。そのため、条件付所有権移転仮登記の本登記請求権も消滅します。
なお、所有権移転許可申請協力請求権の消滅も、売主が時効の援用をしたときに確定することになります。時効期間が経過しても、時効の援用をしなければ、農地が非農地に転用された時点で売買契約に効力が発生し、買主に所有権が移転します。
このため、売主が時効の援用をするまでは、条件付所有権移転仮登記の移転登記請求権も消滅しません。
仮登記の抹消
親などから不動産を相続で相続登記をしても、それ以前に「所有権移転請求権仮登記」などの記載があれば注意が必要です。なるべく早く仮登記を抹消しておくようにしましょう。
仮登記原因が消滅した場合、仮登記原因が不存在・無効である場合には、仮登記の抹消を申請することができます。
仮登記の抹消は、原則として一般の登記と同様に、登記権利者と登記義務者との共同申請です。しかし、例外規定により仮登記の登記名義人あるいは登記上の利害関係人による単独申請も、認められています。仮登記を命ずる処分による仮登記の抹消も、当事者の申請によるものです。
登記権利者
↓
不動産売買では買主
登記義務者
↓
不動産売買では売主
登記名義人
所有権・賃借権・抵当権
などの権利を有する者として 記載されている者
登記上の利害関係人
不動産売却をする前に仮登記を抹消しよう
仮登記がついたまま長期間、放置している不動産も多く見られますが、必ず仮登記を抹消して不動産売却しましょう。登記簿に仮登記の記載があると、不動産売却や相続などのときに、ほとんどのケースでデメリットにしかなりません。
仮登記されてから何十年も経っていたり、利害関係が複雑になっている場合は、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。もし、司法書士にいきなり相談するには気が引ける場合には、不動産売却専門サイト「イエイ」を一度利用してみることをおすすめします。
イエイは、不動産の査定比較だけでなく、専門知識を持った専任スタッフに不安や悩みを相談できるサポート体制があるのです。悩みや不安はできるだけ早く解消し、安心して不動産売却に臨めるようにしましょう。