経営が難航したり、建物の経年劣化で管理が大変であったりと、アパートの売却理由はさまざまです。
入居者がいる賃貸アパートの売却は可能ですが、大きな利益を生む可能性があるため、売り出すタイミングが重要です。
本記事では、アパートを売却するタイミングの見極め方や流れ、かかる諸費用、税金などを解説します。
ケース別の売却時の注意点や、売却を成功させるために知っておきたいコツを知ることで、収益を上げながらも不動産にあった売却方法が把握できるでしょう。
この記事の目次
アパートを売却する最適なタイミングとは
アパート売却の最適なタイミングは次の通りです。
- 築20年以内のアパートを売却するとき
- 入居者の稼働率が高いとき
- 前回の修繕から期間があいていないとき
- 今後の不動産価値が上昇傾向にあるとき
- 所有期間が5年を超えるとき(譲渡所得税の節約)
ご自身のケースにあてはめて売却時期をイメージしてみましょう。
築20年以内のアパートを売却するとき
アパートは築年数が経過するにつれて売却しにくくなりますが、ひとつの目安となるのが築20年です。
売却価格の下落スピードはアパートの建つエリアにもよりますが、築16〜20年の木造アパートでは新築時の50%、築21〜25年になると新築時の30%ほどが売却価格の目安です。
したがって、築20年以内のアパートであれば比較的売却価格が下がらないため、最適な売り出しのタイミングと言えるでしょう。
不動産には、資産が経年劣化していく分を減らして経費計上できる、減価償却があります。
木造建築物の法定耐用年数は22年であるため、築年数が22年以内であれば課税額が抑えられ、売却時期の目安にもなります。
また、法定耐用年数が長いほど、買い手がローンを組むときに審査に通りやすいメリットもあるでしょう。
入居者の稼働率が高いとき
入居者が多く家賃収入も多いときの方が資産価値が高く、売れやすい傾向があります。
買い手の立場から見ても、利益の多い不動産であればあるほど魅力的です。
できれば、高稼働であるときに売るのがベストです。
売却を先延ばしにしてしまうと、売却価格を下げなければいけないなど、損をする可能性があります。
前回の修繕から期間があいていないとき
大規模修繕履歴など、前回の修繕から期間があいていないと売却に好都合なタイミングです。
買い手としては購入後に管理コストがかかりにくいほか、修繕が計画的にされている不動産ほど資金計画が立てやすいメリットもあります。
適切な修繕がおこなわれていないアパートや、前回の修繕から期間が開いていた場合は、なかなか買い手が見つからないかもしれません。
投資用不動産を購入する方の約7割は、修繕履歴を重要視しています。
購入希望者への安心感にもつながるため、売却前には修繕履歴を手元に準備しておきましょう。
今後の不動産価値が上昇傾向にあるとき
今後の不動産価値が上昇傾向にある場合、アパートを売却するのに最適なタイミングです。
周辺環境の変化や動向を調べましょう。
都市開発や商業施設の建設予定などがあれば、人口は増加します。
人口が増加すると地価が上がるとともに、アパートの売却相場も上がる可能性が高いからです。
一方、近くにあった商業施設や大学などのなくなる予定があるケースでは、売却価格の下がる恐れがあるため、早めの売却を検討します。
数年先の未来を見据えながら、売却のタイミングを予測しましょう。
所有期間が5年を超えるとき(譲渡所得税の節約)
売却時にかかる譲渡所得税は、譲渡した年の1月1日時点で5年を超えると税率が安くなるため、所有期間が5年を超えたアパートは売却のタイミングに最適です。
売却時にかかる税率は、所有年数によって次の通りに異なります。
- 所有年数5年以上「長期譲渡所得」:課税長期譲渡所得×15%(住民税5%)
- 所有年数5年以下「短期譲渡所得」:課税短期譲渡所得×30%(住民税9%)
たとえば、5,000万円で取得したアパートを6,000万円で売却し、譲渡費用が300万円だった場合の課税譲渡所得は、1,300万円⦅6,000万円ー(5,000万円+300万円)⦆です。
長期譲渡所得の場合は、260万円(1,300万円×20%)、短期譲渡所得の場合は507万円(1,300万円×39%)と、所有年数で譲渡所得税に247万円ほどの差が出ます。
ただし、アパートの所有期間が長いほど売却価格は下がるのが一般的です。
必ずしも、5年を超えてからが売却タイミングとは言い切れません。
売却で利益を生み出しやすいタイミングについては、市場動向などほかのタイミングとともに見極める必要があるでしょう。
アパートの売却の流れ
アパート売却の流れは、一般的な不動産売却と同様に次の通りおこないます。
- 不動産査定の依頼
- 査定の実施
- 不動産会社との媒介契約締結
- 売却活動
- 売買契約の締結
- 引渡し
- 確定申告
不動産売却では複数の不動産会社に査定を依頼し、査定額は妥当であるのか、誠意的に売却活動を積極的におこなってくれるのかなどを見極めます。
依頼先の不動産会社が決まったら、媒介契約を締結し、売却活動がはじまります。
売却期間中は不動産会社からの売却活動の報告を受けるほか、場合によっては内覧対応が必要です。
媒介契約の契約期間はおおよそ3ヶ月であるため、売却活動後1ヶ月を経過しても問い合わせなどのアクションがなかった場合は、売却価格の見直しがされます。
無事に購入希望者があらわれると売却価格などの条件を交渉し、両者の合意が得られれば、売買契約の締結にうつります。
売買契約の締結から1〜2ヶ月後に代金の決済がおこなわれると、アパートの引渡しです。
売却益が出た場合は不動産所得となるため、翌年の確定申告を忘れずにおこないましょう。
アパート売却にかかる費用とは?税金と節税対策
アパートの売却時にはどのくらいの税金がかかるのか、節税対策もあわせて解説します。
アパート売却にかかる諸費用や税金
アパート売却にかかる費用の名目と金額は次の表の通りです。
費用 |
金額 |
---|---|
仲介手数料 |
売買価格の3~5%+消費税 |
印紙税 |
200~480,000万円 |
抵当権抹消費用 |
10,000~20,000円 |
ローン返済手数料 |
0~50,000円 |
測量費用 |
300,000円以上 |
譲渡所得税 |
条件で異なる |
仲介手数料や印紙税、譲渡所得税はアパートの売却価格によって変わります。
抵当権抹消費用とローン返済手数料は、ローン残債があるときに必要な費用です。
隣地との境界線が曖昧な場合は土地家屋調査士などに依頼し、測量をおこなわなければいけません。
アパートの条件によっても費用が異なるため、必要な予算をイメージしておくとよいでしょう。
アパート売却の税金対策
アパート売却において譲渡益が発生したときには、譲渡所得税をいかに減らすかが重要であり、主な節税対策が次の通りにあります。
- 譲渡価格の5%となる概算取得費ではなく、売買契約書などから取得費を把握する
- 取得費をもれなく計上する
- 譲渡費用をもれなく計上する
- 3,000万円特別控除を活用する(マイホームでもある場合)
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を活用する
- ふるさと納税を活用する
概算取得費は譲渡価格の5%と決まっていますが、取得費よりも多くなってしまう恐れがあるため、取得費として計上するのがよいでしょう。
購入時に仲介してもらった不動産会社などに、売買契約書の写しをもらうなどで対応するのも可能です。
仲介手数料や印紙代、不動産取得税のほか、購入当時の諸経費やリフォーム費用などは減価償却の処理をおこなうなど、取得費をもれなく計上すると節税に効果的です。
また、国の制度でもある「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」や「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」も活用しましょう。
アパート売却の注意点①オーナーチェンジの場合
入居者がいる状態の売却を「オーナーチェンジ」と言い、入居者と建物をそのままでも売却は可能ですが、アパート売却時には次の点に注意しなければいけません。
- 売却額は現在の収益によって変化する
- 引継がれる権利関係を確認する
それぞれ詳しく解説します。
売却額は現在の収益によって変化する
オーナーチェンジで売りに出される不動産は、現在の収益によって売却額が変化します。
収益性や利回りがよいのかなど、投資目的の購入者に需要があるのかが重要なポイントです。
利回りとは、投資した額に対してどれくらいの収益が出るのかを1年ごとに算出したものであり、アパートの売却価格は「年額家賃÷利回り」でおおよそ算出可能です。
なお、築年数の経過したアパートで稼働率が低いケースでは、収益性が低く売却額がつきにくい場合もあるでしょう。
引継がれる権利関係を確認する
アパート売却時には、次の通りに引継がれる権利と引継がれる義務があり、それぞれをしっかりと把握しなければいけません。
引継がれる権利 |
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---|---|
引継がれる義務 |
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引渡しがすむと、入居者の退去時における原状回復の権利や敷金返還の義務は、新オーナーへと引継がれます。
すでに預かっている敷金も引継ぐ必要があるため、売買契約時に受け渡しのタイミングを確認しておくとよいでしょう。
アパート売却の注意点②建物を取り壊す場合
建物の老朽化や稼働率の低下などから、建物を取り壊してからアパートを売却する際の注意点は次の通りです。
- 住人の立ち退き交渉が必要
- 条件によっては建替えてアパート経営を続けた方がよいケースもある
それぞれについて詳しく解説します。
住人の立ち退き交渉が必要
建物を解体する場合は住人の立ち退き交渉が必要ですが、スムーズに退去まで運ぶとは限りません。
入居者は借地借家法により守られており、家賃滞納や建物の老朽化がひどく倒壊の危険性があるなどの正当な理由がない限り、立ち退きに応じる義務が発生しないからです。
賃貸アパートにおいては立ち退き料の必要なケースが一般的であり、立ち退き料は家賃の6ヶ月分が相場です。
建物を解体しての売却を検討しているのなら、新規入居者の募集は控え、入居者が減少したタイミングで立ち退き交渉をするとよいでしょう。
条件によっては建替えてアパート経営を続けた方がよいケースもある
立地はよいが建物の老朽化により稼働率が悪いケースでは、売却よりも建替えて引続き経営をおこなった方がよい場合があります。
経年劣化が原因で売りに出すのではなく、さまざまな視点から収益の可能性について検討するとよいでしょう。
建物を取り壊して売却するか、建替えて不動産経営を続けるべきかどうかで悩んだら、信頼できる不動産会社に相談して最適な方法を見つけましょう。
アパート売却の注意点③相続物件の場合
相続したアパートを売却する際の注意点は次の通りです。
- 共有者がいたら単独名義にしてから売却する
- 売却の1年~半年前から立ち退き勧告をはじめる
- 借金の有無を確認する
親からなどの相続で投資用アパートを受け継いだ場合、投資の知識の有無にもよりますが、建物の老朽化や修繕費が必要になる観点からいうと、基本的には売却がおすすめです。
不動産に複数の共有者がいる場合、全員の意思が一致していないと売却できません。
のちに、遺産分割でトラブル発生を招く恐れもあるため、相続時の段階で単独名義にしておくとよいでしょう。
アパート経営で生じた負債は相続人に引継がれます。
借金がある場合は残債と売却価格を比べ、残債の方が多い場合は相続を放棄しましょう。
一方、自らが相続したアパートの連帯保証人となっている場合は、相続放棄をしても返済のみが続いてしまうため、相続放棄はしないのがおすすめです。
>> 不動産投資はサラリーマンにとって副業になる?資産形成のコツ
アパート売却を成功させる3つのコツ
アパート売却を成功させる3つのコツは次の通りです。
- 稼働率を上げようと賃料を値下げしない
- 経営の現状を確認する
- アパート売却のプロに相談する
最適なタイミングで収益を上げて売却するためにも、しっかりと確認しておきましょう。
①稼働率を上げようと賃料を値下げしない
満室に近い方が売却しやすくはなりますが、だからといって稼働率を上げるために賃料を値下げして、入居者を増やすのはやめましょう。
結果的に、収益が下がる恐れがあるためです。
空室が多いから家賃を下げるのではなく、家賃無料期間を設けるなどして状況に応じた対策をした方がよいでしょう。
建物の老朽化が原因で空室が多いケースでは、稼働率を上げるよりも早々に立ち退き交渉をはじめた方が有利になる場合もあります。
状況に応じた戦略を立てましょう。
②経営の現状を確認する
アパート売却で成功するためには、経営の状態を把握しスムーズな売却を進める必要があります。
ローン残債はあるのか、入居者とのトラブルはないかを確認すると、売却後のトラブル防止にもなるでしょう。
ローン残債があり売却しても完済できないケースでは、自己資金で返済してから抵当権を外す必要があります。
入居者に滞納があるケースでは、売却前に解消しておくと購入希望者に好印象です。
>> 負動産になったマンション・不動産物件の処分方法について解説
③アパート売却のプロに相談する
投資物件の売却に慣れている不動産会社に依頼すると、売却成功率が上がるでしょう。
一般の住居用不動産をメインに取り扱う不動産会社では、売却価格を高く設定し過ぎて売れなかったり、売却活動が適切でなく投資家の目に留まらなかったりする恐れがあります。
査定時などに投資用アパート売却の実績があるのかを確認し、信頼できる不動産会社に依頼をしましょう。
アパートの売却で悩んだら不動産活用のプロに査定を依頼しよう
アパートの売りどきは、築20年以内で入居者の稼働率が高いときなどです。
現状だけではなく、将来的に変わるであろう周辺環境もチェックし、最適な売却のタイミングを見極めましょう。
不動産売却を後悔しないためには、アパートの立地や築年数、売却理由などにあった売却戦略を立てる必要があります。
実績と信頼のある不動産会社を見つけるのが重要です。
イエイでは、不動産売却の一括査定をおこなっています。
投資用不動産の売却に長けている実績のある不動産会社か、相性のよい不動産会社であるのかを見極め、自分にあった最適な計画で売却を成功させましょう。