住宅の販売広告などに面積が記入されている場合は注意が必要です。特にマンションを購入する際には、実際の部屋の面積がパンフレットなどに記載された面積より狭くなるケースがあります。これは、法律による面積算出法の違いによるものです。
この記事では壁芯と内法の面積算出法の違いやマンションを購入する際の注意点を紹介していきます。
この記事の目次
壁芯面積と内法面積
不動産の面積を考える際には、大きく分けて2つの算出法があります。1つは「壁芯面積」、もう1つは「内法面積」です。ここで、考え方の違いを押さえておきましょう。
壁芯面積は設計で使う
壁の厚みの中心線を想定し、この中心線に囲まれた面積を床面積とするものを「壁芯面積(かべしんめんせき)」と呼んでいます。壁の中心線を「芯」というのですが、これが問題になるのは、主に建築設計業務です。
設計段階では、部屋の居住スペースを考える前に、まず建物の構造的な強度を確保することを第1に考えます。一般的に、柱や壁が多ければ多いほど、建物は構造的に強くなりますが、逆に、住みやすさや使いやすさは失われます。
そこで、設計者はなるべく柱の数や壁の量を減らそうとするのです。
具体的には、柱と柱の間の距離(「スパン」といいます)を長くしたり、壁と壁の距離を離そうとしたりするわけです。その際に、構造的に合理的かどうかが重要なポイントになるのですが、構造設計では柱や壁の中心または中心線で計算します。そのため、意匠や設備も含めて、建築設計では壁芯を基準にして、お互いの設計内容にズレが出ないようにしているのです。
内法面積は不動産で使う
壁芯で面積を出す考え方とは異なり、壁の内側の線を基準にした面積を床面積とする計算方法を「内法面積(うちのりめんせき)」とよびます。
内法面積というのは、実際に目に見える範囲で考えた広さともいえます。住む人の立場に立って考えれば、目に見えていて、実際に使える部分の面積が重要です。
壁から壁までがどれくらいの距離があるのかによって、配置が可能な家具の大きさが決まるからです。そこで、物件の賃貸で部屋の広さが問題になる不動産業界では、この内法が基本となっています。
建築基準法と不動産登記法の違い
建築基準法では、「床面積は建築物の各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による」と定められています。
つまり、建築基準法を根拠法とする建築設計に関係する場合の床面積の算出には壁芯を使う必要があるのです。建物を建てる際には、監督官庁に対して「確認申請」という届け出が必要になります。この際にも壁芯面積で床面積を計算しています。
建築確認で確認されるのは、申請された建物の設計が、建築基準法を始めとする関連法に違反していないかどうかという点です。実際に使える部屋の広さではなく、構造や周辺建物や環境との関係を調べるのが目的なので、壁芯で考えるのです。
これに対し、不動産登記法施行令第8条では、建築基準法と同じように、まずは「建物の床面積は、各階ごとに壁その他の区画の中心線」と記載されています。ただし、「一棟の建物を区分した建物については、壁その他の区画の内側線」という注記が付けられているのです。
要するに、マンションなどの区分所有物件では、区画の内側線としての内法で面積を考えるわけです。不動産の登記の際の面積算出方法はこの条文に従うため、内法面積で床面積を計算することになります。
壁芯面積と内法面積はどのくらい違う?
壁の内側で距離を考えるのが内法です。そうなると、壁芯面積と内法面積では、壁の芯から測る壁芯面積の方が床面積が広くなります。
どれくらいの差がでるかについては、建物の壁の厚みが関係してきます。一般的に、同じ壁芯寸法で作られた建物であっても、壁が厚ければ内法面積は少なくなるのです。壁の厚さは、採用する構造形式によって変わるので、主な構造について確認してみましょう。
木造の場合の壁の厚さは?
在来工法で用いられる木造であれば、柱を壁の中に埋め込んでしまう大壁(おおかべ)仕様の場合、130mm程度が一般的な壁の厚さです。
内訳は、柱の幅が105mmとして、その両面に仕上げ下地で使われる9〜12mm厚のプラスターボードを貼り、その上に1〜2mmの壁紙で仕上げたとします。
この場合、単純計算で最低でも125mm、最大で133mmの壁厚となります。
RC構造の場合の壁の厚さは?
中層マンションなどに用いられる鉄筋コンクリート造の場合は、階数やコンクリートの強度などにより変わりますが、壁式構造で160〜180mmが一般的といえます。
これは構造体としての厚さなので、内側の断熱材や壁紙、外側のタイル張りなどを含めると、300mm前後の厚さになることもあるのです。
部屋の広さはどれくらい違う?
壁芯面積と内法面積の差は、壁の厚みによって変わってくるため一律にどのくらいとはいえません。壁の厚みは、木造や鉄筋コンクリート造など構造形式によって異なります。また、同じ鉄筋コンクリート造であっても、壁式構造かラーメン構造かで違ってくるのです。
壁式構造とは、壁が構造体になって建物を支える方式です。一方で、ラーメン構造と呼ばれる柱や梁によって建物を支える方式があります。
構造としての壁量が少ないので、間取りの自由度が増す方式です。間仕切り壁であれば、木造と同程度に薄い壁となり、地震の際の水平力を負担する耐震壁であれば、壁式構造の壁と同程度の厚さになります。つまり、同じ壁芯面積の部屋であっても、仕上げにもよりますが間仕切り壁で囲まれた部屋のほうが、耐震壁で囲まれた部屋より、一般的には内法面積が広くなるのです。
ただし、参考程度の数値としては、おおむね内法面積のほうが5~10%少なくなると考えておけばよいでしょう。
マンション広告の面積は壁芯が多い
マンションのパンフレットや広告に表示されている床面積はほとんどの場合、壁芯面積です。
この理由は、まず面積を大きく表示できるためです。物件を購入する場合、合理的に考えると同じ価格で同じ条件であれば面積の大きさが判断基準となります。
また、物件を販売する立場からすれば、競合他社があるときには、自社だけ内法面積で表示すると誤解される可能性があります。
同じ広さの間取りでも表示面積数値が小さくなるのです。そのため、面積の表示は内法面積ではなく、壁芯面積で表示されることが多いのです。もう1つの理由は、建築確認の際には内法面積ではなく、壁芯面積がベースになっていることが挙げられます。
税制の優遇措置を受ける際の注意点
住宅ローン控除や、不動産取得税・登録免許税の軽減措置を受けようとする場合には、床面積にとくに注意が必要です。
要件として、自己居住用であることなどの他に床面積が50平方メートル以上あることが基本になります。
この際の面積算定に使われるのは、不動産取引に関わる床面積なので、壁芯面積ではなく、内法面積なのです。
たとえば、パンフレットで55平方メートルと記載されていても、登記面積としての内法面積が49.8平方メートルだったとします。この場合、優遇措置を受ける要件を満たしていないことになるのです。
内法面積を確認しよう
優遇措置などで問題になる物件の内法面積の確認の仕方は、中古物件と新築物件で異なります。中古マンションなどを購入する際は、登記簿に記載された登記面積が内法面積になります。一方で、新築マンションではこの方法で確認できないことがあります。
最も簡単で確実な方法は、情報を把握している販売会社に確認することです。パンフレットなどに記載された面積だけで優遇措置の検討を進めるのではなく、販売会社に対して内法面積がいくらなのかを直接確認することが重要なのです。
まとめ
最後に壁芯面積と内法面積についてもう一度簡単に復習しておきましょう。
壁芯面積:壁の中心線に囲まれた面積を床面積とする算出方法
内法面積:壁の内側の線で囲まれた面積を床面積とする算出方法、実際の目で見た広さはこちらで表す。
自分が住んでいる部屋の面積がどちらで表されているかしっかりと把握しておくことで税制の優遇措置を受けようとするときもスムーズに進むので一度確認しておくと良いでしょう。