引越しを控えてワクワクする反面、「退去費用が高額になったらどうしよう」と不安になっていませんか?

「画鋲の穴」や「床の傷」に心当たりがあると、なおさら心配ですよね。

しかし、管理会社から提示される請求金額は、必ずしも「あなたが払うべき正当な金額」とは限りません。

実は、知識がないまま請求書にサインをしてしまい、本来は大家さんが負担すべき費用まで入居者が払わされているケースが非常に多いのです。

この記事では、アパートの退去費用の正しい相場のほか、不当な請求を回避するルールや交渉を有利に進めるためのメール文面まで徹底解説します。

安心して引越しを進められるよう、まずは退去費用に関する知識を身につけましょう。

そもそも「退去費用」とは何のお金?

アパート退去費用の内訳

アパートなどの賃貸物件を出ていく際に、「退去費用」というお金を請求されます。

これは一括りにされがちですが、実は性質の異なる2つの費用の合計であることを理解しておきましょう。

1.ハウスクリーニング費用
次の入居者のために部屋を清掃する費用です。
本来は大家さんが負担すべきものですが、契約書の特約(「退去時のクリーニング費用は借主負担とする」など)によって、入居者の負担になっているケースがほとんどです。
ここは契約で決まっている以上、支払いは避けられないことが多い費用です。

2.原状回復費用(修繕費)
入居者がつけてしまった傷や汚れを直すための費用です。
もっとも注意すべきなのがこの費用です。
「どこまで直す必要があるか」の解釈によって、0円で済むこともあれば、数十万円請求されることもあるからです。

つまり、退去費用とは下記の式で成り立っています。

退去費用=①ハウスクリーニング費用(固定)+②原状回復費用(変動)

一般的には、入居時に預けた「敷金」からこれらが差し引かれ、余れば返金、足りなければ追加請求となります(敷金ゼロ物件の場合は、丸ごと請求されます)。

この仕組みを頭に入れた上で、まずは「一般的な相場」を見ていきましょう。

アパート退去費用の相場はどれくらい?

アパート退去費用の相場はどれくらい?のイメージ

まずは、世間でいわれている一般的なアパート退去費用の相場をご紹介します。

しかし、この数字を見て「みんなこれくらい払っているなら仕方ないか」と安心するのは危険です。

なぜなら、この平均値には「本来なら払わなくてよかったはずのお金(知識不足による過払い)」も含まれている可能性があるからです。

あくまでも参考として、どれくらいの費用がかかるのか把握しましょう。

間取り別の退去費用相場

一般的に、退去費用は「ハウスクリーニング費用」に、傷や汚れを直す「原状回復費用(修繕費)」が加算されて決まります。

間取りごとの目安は下記のとおりです。

間取り 退去費用の目安(相場)
1R/1K 2万~3万円
1DK/1LDK 3万~5万円
2DK/2LDK 5万~8万円
3DK/3LDK 7万~11万円
4DK以上 9万円~

※上記はあくまで目安です。居住年数や契約内容(敷金の有無など)により変動します。

広さ別の退去費用相場

「間取り」だけでなく「部屋の広さ(平米数)」で計算すると、より正確な相場が見えてきます。

特に「ハウスクリーニング費用」は、多くの管理会社が「1㎡あたり1,000円~1,500円」という単価設定を基準にしています。

ご自身の部屋の広さと照らし合わせて、請求金額が適正かどうかチェックしてみてください。

部屋の広さ 退去費用の目安(相場)
~20㎡ 4万~6万円
20㎡~40㎡ 4万~9万円
40㎡~60㎡ 7万~9万円
60㎡以上 8万円~

※上記はあくまで「故意・過失(借主が壊した箇所)」がない場合の、基本的なクリーニング費用の目安です。

退去費用が決まる「原状回復」のルール

退去費用が決まる「原状回復」のルールのイメージ

前述のとおり、退去費用に「原状回復費用」が含まれていることから、賃貸契約には「原状回復義務」があります。

しかし、これは「入居したときのピカピカの状態(新品)に戻すこと」ではありません。

国土交通省のガイドラインによって、大家さんと入居者の負担ラインは明確に決まっています。

これを曖昧にしていると、本来払わなくていいリフォーム代まで請求されてしまうので注意してください。

大家負担になる「経年劣化・通常損耗」

普通に暮らしていて自然についた汚れや傷は、1円も負担する必要はありません。

なぜなら、自然に古くなる分の修繕費は、毎月支払っている「家賃」の中にすでに含まれているからです。

・経年劣化に該当するもの
日当たりによる畳やクロスの変色(日焼け)など

・通常損耗に該当するもの
家具やベッドを置いた床のへこみ、テレビ裏の黒ずみ(電気ヤケ)など

入居者負担になる「故意・過失」

「うっかり」や「わざと」やってしまった傷や汚れは、入居者の責任になります。

これは「借りた部屋を大切に使う義務(善管注意義務)」を怠ったとみなされるからです。

・故意に該当するもの
イライラして壁を殴って穴を開けたなど

・過失に該当するもの
飲み物をこぼして放置し、床を腐らせた、雨の吹き込みで濡らしたなど

他にも、「掃除を怠り、油汚れがこびりついてしまった」場合なども、入居者負担になります。

【チェックリスト】画鋲は?タバコは?負担者を判断しよう

退去時に特に判断に迷いやすい事例をチェックリストにしました。

こちらのリストを参考にし、あなたなのか、もしくは大家さんが負担をするのかを知っておきましょう。

項目 負担者 理由
画鋲・ピンの穴 大家 下地ボードの張替えが不要な程度なら、通常の使用範囲内。
釘・ネジの穴 入居者 下地ボードまで損傷するためNG。
冷蔵庫裏の黒ずみ 大家 電気ヤケと呼ばれる現象で、通常の使用範囲内。
テレビ裏の黒ずみ 大家 静電気による黒ずみは通常の使用範囲内。
タバコのヤニ・臭い 入居者 クリーニングで落ちない場合、壁紙全面張替えになることも。
家具設置の床へこみ 大家 家具を置くのは通常の生活において必須のため。
キャスターの傷 入居者 イスなどによるひっかき傷や深い傷は過失扱いになりやすい。
エアコンの水漏れ跡 入居者 水漏れ自体は大家負担だが、それを放置して壁を腐らせたら入居者負担。

参考:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」-国土交通省住宅局

6年住めば壁紙はほぼ0円?「減価償却」の仕組み

6年住めば壁紙はほぼ0円?「減価償却」の仕組みのイメージ

「うっかり」や「わざと」やってしまった傷や汚れは、入居者負担と説明しましたが、「負担=新品価格での弁償」ではありません。

ここで登場するのが、入居者の味方となる「減価償却(げんかしょうきゃく)」という考え方です。

ここでは、減価償却の仕組みについて詳しく解説していきます。

そもそも「減価償却」とは?

減価償却とは、簡単にいえば「モノの価値は、時間が経つにつれて減っていく」という資産価値のルールです。

例えば、6年間使い古した家具を壊してしまったとして、弁償する際に「新品の定価で払え」といわれたら違和感がありませんか?

中古市場で価値が下がっているのと同様に、そのモノ自体の価値は落ちているはずです。

賃貸の退去費用も、これとまったく同じです。

たとえ入居者の過失で壁紙を張り替えることになっても、負担するのは「時間が経過して安くなった現在の価値」だけで構いません。

「新品に交換する費用を全額出せ」という請求は、本来の価値以上のお金を要求していることになり、ルール上通らないのです。

居住年数で負担額が決まる!減価償却の計算の仕組み

具体的に、どのくらいのペースで価値が下がるのか見ていきましょう。

その計算基準となるのが、国が設備ごとに定めた「耐用年数(たいようねんすう)」です。

退去トラブルで多い「壁紙(クロス)」の場合、耐用年数は「6年」と決まっています。

これは、「新品の壁紙は6年かけて価値が1円まで下がり続ける」という意味です。

つまり、あなたが負担するのは「退去する時点で残っていた価値」の分だけです。

計算式にすると下記のようになります。

【入居者負担の計算イメージ】

負担割合=(耐用年数-経過年数)÷耐用年数×100

この計算式に基づくと、長く住めば住むほど、負担割合は下記のように減っていきます。

・入居3年で退去の場合
6年のうち半分が経過しているため、残りの価値は「50%」です。
つまり、張替え費用が本来3万円だとしても、あなたが払うのは半額の1.5万円だけで済みます。

・入居6年以上で退去の場合
耐用年数を過ぎているため、壁紙の価値は「1円(ほぼ0円)」です。
仮にタバコのヤニやお子さんの落書きで汚れていても、材料費としての負担は理論上1円で済むことになります。

設備ごとの耐用年数一覧

耐用年数は、下記のように設備によって異なります。

設備 耐用年数(目安)
流し台 5年
壁紙(クロス) 6年
畳床、カーペット、クッションフロア 6年
エアコン 6年
冷蔵庫、ガスレンジ 6年
書棚、たんす、茶だんす 8年
フローリング 10年
シャワー水栓 10年
便器、洗面台 15年

参考:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」-国土交通省住宅局

「長く住んでくれた入居者」は、それだけで退去費用が安くなる権利を持っているのです。

アパート退去費用を最低限に抑えるには?

アパート退去費用を最低限に抑えるには?のイメージ

ここまではアパート退去費用に関する知識をお伝えしましたが、ここからは「いざ費用を抑える際の行動」について理解を深めましょう。

退去の立会い当日までに、ほんの少しの手間をかけるだけで、請求金額が数万円単位で変わることは珍しくありません。

不動産会社は決して教えてくれない、「効果的なコストダウン術」を3つご紹介します。

うっかり壊した箇所は「火災保険」で直せる

不注意でつけてしまった傷は、自腹で支払う前に加入中の「火災保険」が使えないか確認してください。

多くの賃貸用火災保険には、火事だけでなく「不測かつ突発的な事故」を補償する「借家人賠償責任保険」や「修理費用補償」がついています。

【補償される可能性がある例】
・掃除機をぶつけてドアに穴を開けた
・子供がおもちゃを投げて窓ガラスを割った
・ドライヤーを落として洗面ボウルにヒビが入った

「自腹で数万円払う」前に、まずは保険会社のサポートセンターに「これは保険で直せますか?」と電話してみましょう。

保険が適用されれば、自己負担は数千円で済むかもしれません。

【補足】「借家人賠償責任保険」や「修理費用補償」とは?

「借家人賠償責任保険」と「修理費用補償」は保険の種類です。
主な内容は下記のとおりです。

・借家人賠償責任保険
大家さんに対して「法律上の賠償責任(弁償)」を負ったときに下りる保険です。
火事や水漏れがメインですが、「破損・汚損(うっかり壊した)」が含まれているプランなら、ドアの穴や床の傷も対象になります。

・修理費用補償
賃貸契約に基づき、あなたが「自腹で修理した費用」をカバーしてくれる保険です。
「賠償責任までは問われないけれど、契約上直さなきゃいけない」といったケース(窓ガラスの熱割れや、泥棒に入られた際の鍵交換など)で役立ちます。

小さな傷は100均やホームセンターのグッズで対処する

小さな傷や穴は、100円ショップやホームセンターのグッズを使って「パッと見でわからないレベル」まで隠してしまうのも有効です。

退去立会いの担当者は「第一印象」で部屋の汚れ具合を判断するため、目立つ傷をなくすだけでチェックが甘くなる傾向があるからです。

【具体的な補修術の例】
・画鋲の穴(壁紙)

壁の色に合った「穴埋め材」を爪楊枝で注入し、指でなじませる。

・床の浅いひっかき傷
床色に合った「クレヨンタイプの補修スティック」を塗り込み、平らにならす。

・水回りの汚れ・手垢
「メラミンスポンジ」で優しくこすって落とす(壁紙を破かないよう注意)。

これらの補修術は、あくまで「目立たなくする」のが目的です。

失敗して傷を広げそうな深い傷は、無理に触らないのが賢明です。

頑固な汚れがつきやすい箇所を念入りに掃除する

退去後には必ずプロの清掃業者が入るため、あなたが部屋全体をピカピカに磨き上げる必要はありません。

ただし、通常の清掃では落ちない汚れがあると「特別清掃費」を追加請求される恐れがあります。

下記の「頑固な汚れがつきやすい3箇所」だけに絞って掃除をしておきましょう。

・キッチンの換気扇・コンロ
ベタベタの油汚れは、マジックリンなどで表面だけでも拭き取っておく。

・お風呂のカビ・水垢
黒カビはカビキラーで撃退し、排水溝の髪の毛は捨てておく。

・トイレの黄ばみ
便器の裏側など、見えにくい部分の汚れを落としておく。

「きれいに使っていたな」という印象を与えられれば、その後の減額交渉もスムーズに進みやすくなります。

退去費用の高額請求を回避する!立会い・交渉テクニック

退去費用の高額請求を回避する!立会い・交渉テクニックのイメージ

知識と事前の対策が整ったら、最後は退去立会いと請求書の確認です。

実際に請求書を目の前にすると、専門用語が並んでいて「プロに言われたとおりにするしかないのかな」と感じてしまうかもしれません。

しかし、一度合意のサインをしてしまうと、後から訂正するのは難しくなります。

焦って損をしてしまわないよう、手続きの段階で必ずチェックしてほしい3つのポイントを見ていきましょう。

金額に納得していないなら絶対にサインはしない

立会い業者は、その場で傷のチェックを行い、最後に「こちらの内容で間違いありませんか?」と書類へのサインを求めてきます。

ここで「金額に納得していない」なら、絶対にサインをしてはいけません。

一度サインをしてしまうと、「この金額(内容)で合意しました」という証拠になり、後から取り消しすることが難しくなるからです。

もし「サインしないと帰れない」ような雰囲気になっても、「内容を持ち帰って、専門家に相談してから回答します」と伝えれば問題ありません。

サインを拒否することは入居者の正当な権利です。

納得できない場合は交渉メールをする【コピペOK】

届いた請求書を見て、「ガイドラインより高い」「減価償却が考慮されていない」と感じたら、電話ではなく「メール」で交渉しましょう。

メールで交渉することで、記録が残り、「言った言わない」のトラブルを避けることができます。

下記のテンプレートを、ご自身の状況に合わせて書き換えて送信してください。

件名:退去費用の請求に関する確認のご相談(物件名・号室 氏名)

○○管理会社 ご担当者様

お世話になっております。○○号室の(氏名)です。
送付いただきました退去費用の請求書について、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と照らし合わせた結果、下記の点について確認させていただきたくご連絡いたしました。

1. 壁紙(クロス)の費用負担について
私は本物件に○年○ヵ月入居しておりました。
ガイドライン上のクロスの耐用年数(6年)を考慮すると、減価償却により私の負担割合は○%程度になる認識です。請求金額の修正をお願いできますでしょうか。

2. クリーニング費用について
契約書を確認しましたが、特約事項に金額の明記がございませんでした。
平米単価○○円という金額の根拠となる詳細な内訳をご教示いただけますでしょうか。

お忙しいところ恐縮ですが、納得した上で支払いを進めたく存じます。ご確認のほど、よろしくお願いいたします。

話がこじれたときは公的な窓口へ相談する

もし、正当な主張をしているのに管理会社が聞く耳を持たず、「払わないなら保証会社に連絡する」などと脅してきた場合は、下記の公的な相談窓口を頼りましょう。

相談窓口 特徴
消費生活センター・国民生活センター 「188(いやや)」に電話すると、最寄りの相談窓口につながります。
専門の相談員がトラブル解決のアドバイスをくれるので、「管理会社の言ってることが正しいかわからない」という段階でも気軽に相談できます。
法テラス(日本司法支援センター) 「法的措置をとる」と脅されたり、金額が大きくて弁護士への依頼を検討したりするときに役立ちます。
経済的に余裕がない方のために、無料法律相談や弁護士費用の立替え制度などを案内してくれます。
不動産に関する相談所 公益財団法人の「日本賃貸住宅管理協会」や、不動産会社の団体である「宅建協会」の相談所です。
不動産業界のルールに精通した相談員がいるため、実務的な観点からのアドバイスが期待できます。

「しかるべき機関に相談します」と伝えるだけでも、強引な請求が止まるケースは多々あります。

万が一お困りの際は、一人で抱え込まず、プロを頼りましょう。

まとめ|退去費用の正しい知識を理解し、資産を守ろう

退去費用の正しい知識を理解し、資産を守ろうのイメージ

アパート退去費用は、仕組みやルールを知っているかどうかで、最終的な負担額が数万円単位で変わることも珍しくありません。

管理会社からの請求書の提示額をそのまま受け入れるのではなく、「本来払うべき費用」を正しく見極めることが大切です。

最後に、不当な請求を防ぐためのポイントをあらためて整理しました。

・相場はあくまで目安
平均値には、知識不足による「払いすぎ」も含まれています。

・経年劣化は大家負担
減価償却により、6年住めば壁紙の価値は1円(ほぼ0円)です。

・保険と補修を活用することも大切
火災保険や100均グッズなど、使える手段はフル活用しましょう。

もし強引な請求を受けそうになっても、焦ってサインをする必要はありません。

この記事で紹介した「交渉メール」などを活用し、納得いくまで確認することが、あなたのお金を守ることにつながります。

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