不動産の取引は、さまざまな手数料や税金といった費用がかかります。それらの出費をできるだけ抑えて売却することで、売却益は増えます。不動産取引にはたくさんの節税に関する特例や手法がありますが、中間省略登記もそのなかの一つです。そこで、この記事では中間省略登記のメリットや注意点について紹介します。
中間省略登記とは
中間省略登記とは、簡単にいうと複数回にわたって行われた所有権の移転登記を一度で済ませてしまう方法です。
基本的に不動産売買においては、後々のトラブルを避けるために所有権が移転するたびに移転登記を行います。たとえば、取引上の問題などで不動産を購入後すぐに第三者に売却するときでも、所有権の移転登記を2回行わなければいけません。
しかし、所有権移転登記をするには登録免許税がかかりますし、司法書士等の専門家へ依頼するのであれば別途費用もかかります。また、不動産を購入して所有権移転登記を行うと不動産取得税の課税対象にもなってしまいます。すぐに第三者へ売却することが決まっているにもかかわらず、所有権移転登記や不動産取得税などの費用を2回支払うのは無駄だと考える人もいるでしょう。
その問題の解決策が中間省略登記です。基本的には「A→B→C」と不動産が売買されるときは、所有権移転登記をBとCで2回行うのが一般的です。
しかし、あらかじめBからCに所有権がすぐに移転することが分かっているときはBでは所有権移転登記を行わず、Cが取得した段階で行います。通常であれば2回行わなければいけない登記を1回だけで済ませられるので、節税やコスト・手間を削減することが可能です。
中間省略登記のメリット・デメリット
中間省略登記のメリットには、「登録免許税や不動産取得税の節税効果が期待できる」というものがあります。登録免許税の計算方法は、「固定資産税評価額×税率」です。
たとえば、固定資産税評価額が3000万円の土地(宅地)を2018年10月に購入して登記します。すると、「3000万円×1.5%(2019年4月1日以降は2%)=45万円」が所有権移転登記1回あたりにかかる登録免許税です。また、この例における不動産取得税の計算方法は「3000万円×50%×3%=45万円」となります。
つまり、固定資産税評価額3000万円の土地取引1回あたりに、税金だけで90万円程度の出費があるのです。中間省略登記を利用すれば、それだけ節税できます。
中間省略登記のもう1つのメリットとして挙げられるのは、契約書類はそれぞれ別個に作成されるので、「第三者に売買代金を知られることはない点」です。契約書はAとB、BとCの取引ごとに作成されますので、Aの売却金額をCに知られることは基本的にありません。つまり、Bがいくら転売で利益を上げたのか把握されることはないといえます。
一方、中間省略登記のデメリットは、「正しい取引経過が登記に反映されない」「所有権移転登記が完了するまでに時間がかかる」の2つです。中間省略登記では、本来であれば登記するはずのBは所有権移転登記を行いません。そのため、正しい取引経過が保存されなくなるので、後々トラブルになる恐れもあります。また、中間省略登記の仕組み上、AからBへの契約がまとまっただけでは取引が成立することはありません。BがCとの契約をまとめてから所有権移転登記が行われることになるので、時間がかかります。
中間省略登記は認められるのか
中間省略登記は違法ではありませんが、正しい不動産取引が登記簿に記載されない恐れがあるので、これまでにも正当性をめぐってたびたび問題になっていました。
過去においては、最高裁判所までもつれ込んで、「ABCすべての関係者の同意があれば問題ない」という判決がでています。ただし、登記事務を扱う法務局の考え方はこれと異なっている点には注意しなければいけません。
法務局は不動産登記に所有権の保存登記や所有権の移転登記などの必要性が発生すれば、その経緯を正確に反映させるべきだと考えています。そのため、法務局の見解としては、中間省略登記を認めていません。
2005年3月以前の旧不動産登記法では、登記申請のときに売買契約書の写しは必須の書類ではありませんでした。そのため、法務局が実務上で中間省略登記が行われているか把握する方法はなかったのです。しかし、それ以降に改正された不動産登記法では売買契約書の写しが必須の書類となっています。
つまり、AとB、BとCで別個の契約書を作成したうえで中間省略登記を行うと、法務局に実態が把握されてしまいます。また、売買契約書の写しを添付しない場合には、BからCへ所有権が移転することをAに確認してもらうための記名押印が必要になりました。そのため、Bが転売目的で不動産を購入しようとしていることがAにばれてしまうので、実質的に中間登記を利用することが難しくなったのです。
中間省略が可能な「新・中間省略登記」
中間省略登記は、正しい登記記録が保存されなくなるという観点から法務局の反対によって、実際の利用が難しくなっていました。しかし、不動産証券化などで、実務的に中間省略登記を利用したほうが便利なケースもたくさんあります。そこで、内閣の諮問機関である「規制改革・民間開放推進会議」によって検討が重ねられました。
結果的には2006年の第3次答申において中間省略登記が認められ、2007年1月には法務省から全国の法務局へその旨が伝えられています。この通達はそれまでの中間省略登記の考え方とは異なる部分があるため、「新・中間省略登記」と呼ばれています。
新・中間省略登記で適法とされるものは、「第三者のためにする契約(直接移転売買方式)」「買主の地位の譲渡契約」です。つまり、前者ではBの転売目的のためではなく、あくまでももとの所有者であるAのためなら中間省略登記を認めるということです。また、実際に売買するのではなく、債権のように買主としての地位だけを譲渡する契約であれば中間省略登記を行ってもよいと認めています。
中間省略登記を行う際の注意点
売り主Aにおける中間省略登記を行う際の注意点は「契約から売却金の入金まで時間がかかるケースが多い」ことです。
一般的に、売り主Aが中間省略登記の契約を行うときは、買取業者Bとまずはコミュニケーションを取ります。買取業者Bは売り主Aから依頼を受けた段階で、買い主Cを探しに行くので、AとBで契約が成立してもすぐに売却が完了するわけではありません。
実際にAに対して売却金が振り込まれるのは、BとCの契約が成立してからとなります。また、買い主Cがなかなか見つからないと、契約書に添付する印鑑証明書の有効期限が切れてしまうという可能性もあるのです。そのときは、売り主Aは印鑑証明書を再取得しに行かなければいけないという手間がかかってしまいます。
一方、買い主Cの注意点としては、中間省略登記による不動産の取得は「宅建業法適用外である」ことです。そのため、買取業者Bは買い主Cが不動産の素人であっても重要事項の説明事項責任は負いません。
また、買取業者Bは瑕疵担保についても責任がなくなりますので、買い主Cはよほど慎重に契約を進めないと不利益を被る危険性があります。
中間省略登記を行うなら細心の注意を
中間省略登記の主なメリットは、登記する回数を減らすことによって費用や手間の削減をすることです。そのため、売り主A、買取業者B、買い主Cの三者のなかでは、買取業者Bのメリットが最も大きくなります。
とくに売り主Aや買い主Cにはそれなりのデメリットも存在するので、もしも当事者として中間省略登記を持ち掛けられた場合は、注意しなければいけません。買取業者Bが中間省略登記を持ち掛けてくる理由について詳しく聞いて、納得するまで打ち合わせを重ねるようにしましょう。
まとめ
不動産取引にかかる税金を抑え、利益を増やすための手段である中間省略登記について解説させていただきました。
「利益が増える」というメリットは確かに魅力的ですがトラブルが起こる可能性も増えるため買取業者と納得行くまで打ち合わせを重ねた上でどのようなデメリットがあるのかを理解した上で行うようにしましょう。