土地によっては歴史的景観や文化が失われてしまうことを防ぐため、都市計画法に基づいて伝統的建造物群保存地区として指定されている場合があります。そうした地区では好きなように建築ができるわけでなく、さまざまなルールを守らなければなりません。そこで今回は、伝統的建造物群保存地区とはどのようなものなのか、伝統的建造物群保存地区の建築に関する制限や注意点について詳しく紹介しましょう。
伝統的建造物群保存地区とは
重伝建地区や重伝建の略称で知られています。伝統的建造物群保存地区は伝統的建造物群と一体をなしてその価値を形成している環境を保存するため、その地域が存する市町村が制定します。
伝統的建造物群保存地区に指定されている地域は全国各地にあります。たとえば城下町や宿場町、門前町といった歴史的な建造物や街並みが今も残っている場所です。
さらに、その中から特に価値が高いものとして国が選定したものが
です。重要伝統的建造物群保存地区に指定されている地域は2017年11月28日現在、97市町村の117地区です。
ここでいう伝統的建造物群とは、周囲の環境と一体をなして景観を形成している建造物のことを指します。この制度の特徴は一建造物という「点」ではなく、周辺環境も含めた「面」で保存しようとするところにあります。
そのため、この地域では寺社や民家のような建造物単体はもちろんのこと、門や水路、庭園、樹木といった周辺の工作物や環境も保存の対象となるので注意が必要です。
伝統的建造物群保存地区の建築制限
それでは、伝統的建造物群保存地区にはどのような制限があるのか、具体例を挙げながら説明しましょう。制限の中でも多く見られるのが、
■灰色の日本瓦を使用すること
■壁は漆喰であること
などです。つまり、元々その地域に古くからあった伝統的な建築様式を守ることが求められるわけです。
そのため、たとえば京都府の美山町や岐阜県の白川郷のような山村地域の場合には、茅葺屋根の民家が残った町並みを保存することが求められますし、一方で神戸市の北野町山本通りや長崎市では煉瓦造りの異国情緒溢れる港町らしい景観を守ることが求められます。
ただし、こうした地域では住民が暮らしながら歴史的景観が保存されることが前提となっています。そのため、外観においては制限が多くあるものの、電気や水道、冷暖房といった内装設備のリフォームについては比較的自由に行えます。
昔ながらの建物だからといって、暮らしも昔風にしなければならないわけではありません。しかし、建物の外観を変更する場合には、あらかじめ市町村の許可を取る必要があります。
この地域の建造物は個人の財産であると同時に社会的な資産として扱われるため、いくら自分の所有する建造物だからといっても好き勝手に増改築することができないのです。
補助金もある伝統的建造物群保存地区
こうした伝統的建造物群保存地区では厳しい建築に関するルールがあるため、その他の地域よりどうしても建築コストがかさんでしまいます。
その結果、維持したくてもできずに建造物などを手放さざるを得なくなる人が増えてしまうでしょう。すると、結果的にその地域が伝統的建造物群保存地区に選定されたがために廃れてしまった、ということになりかねません。そのようなことになっては本末転倒です。
そこで、そうした事態を防ぐため、多くの自治体では、指定地域での新築や対象建造物を増改築する際に補助金制度を整備しています。
補助金の多くは外観を保持するための防災事業に関するもので、建築やリフォームの際に国や市町村がおよそ5割程度負担してくれる、といったケースが多く見られます。
また、そうした歴史的建造物は通常の建造物よりも維持するためのコストがかかってしまうといった理由から、相続税や固定資産税の面で減額などの優遇措置があることも覚えておきたいポイントです。
当該地域の建造物は個人の財産であると同時に社会的な資産でもあるからこそ、維持管理のために住民の税金が投入されるというわけです。
伝統的建造物群保存地区の問題
伝統的建造物群保存地区は建造物の所有者や地域住民にとってメリットの多い制度である一方、いくつかの課題も抱えています。
たとえば、伝統的建造物群保存地区の多くが過疎地域と同じように後継者不在や世帯数・人口の減少、空き家対策、転出者の増加といった問題に直面しています。その理由として、そうした地域は辺鄙な農村部にあることが多い、ということが挙げられるでしょう。
そもそもこうした地域は、インフラ整備などの都市発展から取り残されたがために結果として歴史的景観が保たれた、というケースが多いです。ということは、どうしても交通などの利便性の面において、その他の地域よりも劣る地域が多いのです。
それでは周辺の交通状況などのインフラ整備をすれば問題が解決するかというと、話はそう単純ではありません。というのは、観光客を誘致するために道路を広げたりガレージを作ったりしてしまうと、その地域の景観が損なわれてしまう可能性があるためです。
遺された景観を守りながらいかに生活上の利便性を確保していくのか、ということが伝統的建造物群保存地区における重要な課題となっています。
伝統的建造物群保存地区での不動産売買
さまざまな制約やルールのある伝統的建造物群保存地区ですが、そうした地域の不動産であっても一般の不動産と同様に売買できます。
ただし、そのような地域の場合、建物を買い取っても外観を変更するような工事を自由に行うことができないという特徴があります。外観を変更するような工事の際には前もって市町村に申請を行い、協議会による審議を受けなければなりません。そうした不便さから、伝統的建造物群保存地区の物件は通常の地域と比較するとあまり人気がないというのが実状です。
その一方、伝統的建造物群保存地区の建造物は増改築の際に市町村からの補助金を受けられる場合があるため、そうした制度を上手に利用することもできるでしょう。
また、多くの地域では歴史的景観を活用した地域おこしの活動も盛んに行われています。そういった活動と連携を取ることによって新たな経済的価値を創出しようという動きも出始めています。
さらに、年々増加している外国人観光客の間でも、昔ながらの日本的な街並みは人気です。外国人観光客をターゲットとしたビジネスを始めたい人にとっては、メリットのある物件が多いとも言えます。
地域の歴史的遺産をマイナスの遺産ととるか、それともプラスの遺産ととるかによってその価値は大きく変わってくるでしょう。
どんな制限があるのかを確認しよう
伝統的建造物群保存地区はその名の通り、昔ながらの雰囲気を体感できる素晴らしい環境が魅力です。そのため、観光客をターゲットとしたビジネスを始めたい人だけでなく、都会の喧騒を離れて田舎でゆったり暮らしたいという人も、この地域の空き家を買い取って移住するとよいでしょう。伝統的建造物群保存地区であれば、都会の物件よりも比較的割安であることが多いというメリットもあります。
ただし、その際には、外観においてはさまざま制限やルールが存在します。購入したからといって好き勝手にできるというわけではありません。購入する際にはどのような制限があるのかということをしっかり確認しておくことが大切です。
とはいうものの、生活上の利便性を守るために内装においての制限は少なく設定されていることが多いです。昔ながらの家であってもある程度のインフラは確保できるでしょう。まずは興味ある物件があれば、不動産会社に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
まとめ
伝統的建造物群保存地区は伝統的な街並みを残している地区です。
それ故に外観のリフォームにおいては多くの制限がありますが、内装に関しては比較的自由です。
その上防災に関するリフォームなどには行政からの補助金が出るなどメリットも多い建物です。
都会の喧騒を離れて生活したいという人や、観光客を相手にしたビジネスをしたいという人はぜひ一度購入を検討してみてはいかがでしょうか?