住宅ローンの返済が滞っている場合や今後支払いを続けることが難しい場合は、任意売却という方法を選択することができます。任意売却という言葉を聞いたことがある人でも、詳しい仕組みやどんなメリットが得られるのか知らない人も少なくありません。
マイホームを手放すことを考えているのであれば、できるだけリスクを避けた方法を選びたいものです。そこで今回は、任意売却のメリットや業者選びのコツなどを紹介していきます。
この記事の目次
そもそも任意売却ってなに?
マイホームを購入する際、多くの人が住宅ローンを組んで長期間に渡って返済を続けていきます。購入するタイミングにもよりますが、定年後にも支払いが続くといった内容のものもあります。
マイホームを購入するときには計画的に返済できると考えていたにもかかわらず、ライフスタイルの変化や景気の悪化などさまざまな原因で支払いが困難になることもあるかもしれません。そんなときに、マイホームを手放すひとつの手段として任意売却があります。
任意売却とは、債権者との合意があればローンが残った状態でも抵当権を解除できるという債務者にとってメリットが大きい方法です。本来なら、ローンの返済ができなくなれば土地や家屋など抵当権を設定している資産が差し押さえられてしまいます。
マイホームを売却して住宅ローンを完済できれば問題ありませんが、それができなければ金融機関に差し押さえられ立ち退きを求められることになるでしょう。残債の一括返済を迫られるだけでなく、家族の生活の場まで失うことになりかねません。しかし任意売却をする場合、抵当権の解除ができる可能性があるので今後の手立てを考える時間を確保することができます。
ただし、任意売却は気軽に借金を値下げできるものではありません。
あくまで
1.他の支出を徹底的に下げて返済に充てる費用を収入から確保したか
2.収入が途絶えている場合、その理由があくまで正当な理由か
3.競売での売却より任意売却の方が債権者にとってメリットが大きいと考えれる状況か
という3つの視点に立脚しており、特に3が最も重要です。そしてこれについては売主側の考えや事情は一切考慮されないという厳しい事実も認識しておく必要があります。
知っておきたい任意売却と競売の違い
任意売却と競売の違いがわからないという人も多いのではないでしょうか。競売は、住宅ローンの債権者である銀行や保証会社が裁判所に対して競売の申し立てを行います。その後、裁判所によってオークションスタイルで購入者を決めるのが特徴です。
裁判所は土地や住宅の売買に特化しているわけではないので、市場価格よりも安い価格で競売がスタートします。一方で、任意売却は債権者との交渉によって抵当権を解除できるだけでなく、専門家に依頼することで競売よりも高値で売却できるという特徴があります。
住宅ローンの返済ができない状態が続くと、行政による競売手続きが自動的に進められてしまうので注意が必要です。住宅はもちろん家具や自家用車など、価値のあるものはすべて差し押さえの対象となります。そうなれば、引っ越しや転校など家族のライフスタイルが変化することは避けられないでしょう。できるだけリスクを軽減するためにも、競売にかけられる前に任意売却の手続きを行うことがポイントです。
銀行から督促状・催告書が届いているようであれば、できるだけ早いタイミングで任意売却を進める必要があります。
任意売却の流れ
競売になってしまう前に任意売却を進めるには、どのような手順で進めていけばいいのでしょうか。
実際に任意売却を行う場合の準備や流れを解説します。
- 【債権者(金融機関等)から督促状、催告書が届く】
- 【任意売却業者へ相談する】
- 【不動産査定】
- 【債権者との交渉】
- 【売却活動】
- 【売買契約の締結】
- 【任意売却の完了】
1.【債権者(金融機関等)から督促状、催告書が届く】
住宅ローンの滞納期間が1ヶ月ほど経過した際、
住宅ローンの借入をしていた債権者(銀行などの金融機関)から督促状や催告書の通知が届きます。
住宅ローンの滞納期間が3カ月~5カ月ほどになると「期限の利益の喪失」という書面が債権者から届きます。これは分割払いの権利を失うことを意味していて、この書面が届いたタイミングから任意売却の申請をすることができます。
債権者に対して任意売却の手続き申請を行い、合意を得られれば手続きを進められるというわけです。「期限の利益の喪失」が成立すると、保証会社が債務者に代わって住宅ローンを支払う代位弁済が行われます。この代位弁済から競売開札前日までの間に申請をしなければ、任意売却のタイミングを逃してしまうことになるので注意が必要です。
2.【任意売却業者へ相談する】
任意売却を取り扱っている不動産会社・弁護士、任意売却専門会社を探します。
任意売却では一般の不動産売却と異なり債権者との交渉なども必要となりますので、任意売却の実績がある会社を選びましょう。
現在の物件・債務状況や希望を相談した上で売却方法やスケジュールを決めていきます。
3.【不動産の査定】
仲介業者の現地調査により物件の不動産査定を行います。
任意売却の場合は限られた期間内で売却する必要がありますが、相場より著しく安い値段で売却したとしても売却後のローン返済の負担が大きくなるため、適正な値段で価格査定してもらうことが重要です。
4.【債権者との交渉】
任意売却をするためには全ての債権者の同意が必要となるので、仲介業者が交渉を行います。
競売の取り下げ申請、売却活動、任意売却後の残債の返済方法等を調整します。
5.【売却活動】
インターネット、新聞、広告等を通じて売却活動を行います。
任意売却は一般的な物件の売却活動と同じ流れとなります。
6.【売買契約の締結・引き渡し】
買主が見つかり、債権者の同意が得られたら売買契約の締結をします。
債権者が納得しなければ契約の締結が出来ないので、締結前に細かい条件のすり合わせをする必要があります。
売買契約の締結後、1ヶ月を目安に決済・物件の引き渡しを行います。
7.【残債の整理をする】
任意売却は住宅ローンの支払ができなくなった際に選択する販売方法となるので、売却後も債務が残ります。
残債の支払いに関しては返済計画を見直した上で債務者と交渉の上で決定します。
とにかく督促状到着からは時間がありません。1週間遅れるだけで致命的になり、任意売却による債権の交渉期間は失われ、競売に移行する可能性もあるので、ローン滞納が無いことにこしたことはありませんが、万が一ローンの返済が遅れた場合には速やかに債権者である銀行にまずは連絡を入れましょう。
任意売却で得られるメリットとは?
競売を避けるための手段として有効な任意売却ですが、得られるメリットはまだあります。なぜ競売よりも任意売却を選んだほうがお得なのか知っておくことで、いざというときにスムーズな決断ができるでしょう。自分や家族にとってリスクが少なくメリットが大きい方法を選ぶことがポイントです。
・競売より適正な金額で売却ができる
任意売却を不動産のプロに依頼すれば、市場価格に近い価格でマイホームを売却することができます。競売は転売目的で入札する人も多いので、高値で購入者が決まる可能性は低いと言えるでしょう。立地や物件の状態をトータルで判断したうえで適正な価格で売却を検討できるのは任意売却ならではです。
・差し押さえや立ち退きが発生しない
任意売却なら債権者との交渉によって無理のない返済ができるので、給料の差し押さえや落札後の強制立ち退きを求められる心配がありません。そのため、金銭面はもちろん精神的な負担も軽減できるのが大きなメリットです。
・近所に家庭事情が知られずに手続きができる
競売が決まれば物件調査のために不動産会社が周辺調査をすることもあります。そうなれば、近所の人に住宅ローンの支払いが苦しいという家庭事情が知られてしまうことにもなりかねません。しかし、任意売却なら周辺の人に知られることなく手続きが進められるので安心です。
任意売却のデメリット
任意売却はメリットがたくさんありますが、少なからずデメリットもあるということを頭に入れておきましょう。
・手続きに時間や手間がかかる
競売は何もしなくても勝手に話が進んでいきますが、任意売却をするとなると自分からアクションを起こさない限り何も始まりません。債権者との交渉を円滑に進めるためには、しっかりサポートしてくれる専門知識を持つ人の存在が大きいと言えます。
・保証人の同意を得られなければ任意売却の手続き自体を進めることができない
任意売却を希望する場合は、債権者との交渉以前に保証人の理解を得ておく必要があります。なかには同意を渋る人もいますが、保証人にとっても競売よりもメリットが大きいということをしっかり説明しながら説得を試みましょう。
ただし、行方不明や音信不通など保証人との連絡がつかない場合は残念ながら競売の一択しかありません。
・希望価格での売却が成立しない可能性がある
競売よりも高値がつきやすい任意売却ではありますが、買い手がつかない場合や債権者の納得のいく売買価格に至らない場合は、解決できずにタイムアップとなり、競売になることもあります。
つまり、債権者との交渉力や不動産売買のスキルなど、依頼する業者選びもリスク回避の大きなポイントと言えます。
任意売却が向いているのはこんな人!
任意売却という選択が自分に合っているのか不安に思う人もいることでしょう。住宅ローンの返済に悩んでいるのであれば、任意売却のメリット・デメリットはもちろんどんな人におすすめなのかリサーチしておくことが大切です。ここでは、任意売却が向いている人や役立つケースについて解説していきます。
マイホームを手放したくない人
親族間で任意売却をすることで、売却した後も賃貸契約を結ぶなどしてマイホームに住み続けることが可能です。もちろん、親族間での任意売却に応じてくれる親や子どもがいることが前提となります。また、債権者が合意してくれるようにしっかりと事情を説明する必要があるでしょう。
任意売却が可能な期間中に親族間売買がスムーズにいかない場合は、第三者へのリースバックの検討をおすすめします。
離婚するにあたって住宅を売却したい
パートナーとの離婚をきっかけに任意売却を選択する夫婦も少なくありません。お金が絡んでくる問題だからこそ、離婚前にスッキリさせておきたいと考える人が多いようです。夫婦でローンを組んでいるときは、トラブルを招かないためにもしっかり話し合って解決しておくほうが良いでしょう。
裁判所から「競売開始決定通知書」が届いた
「競売開始決定書」とは、裁判所が競売に必要な手続きを開始したことを意味しています。不動産鑑定士や執行官が住宅の調査を行うため、近所の人の目に付きやすくなるでしょう。競売手続きが進むと任意整理ができなくなってしまうので、すでに裁判所からの通知が届いている人は対応を急ぐ必要があります。
住宅の資産価値が低く住宅ローンの残高が高額の場合
マイホームの資産価値が500万円しかないのに住宅ローン残額が1,500万円あるといったように、資産価値と住宅ローン残高の差が大きい場合は、家を失うだけで済まず借金を抱えるという状況に陥る可能性があります。できるだけ借金を減らせるように、競売にかけられる前に任意売却を進めていきましょう。
上手に任意売却をする業者選びのコツ
任意売却の相談や手続きの力になってくれるのは、不動産会社・弁護士・任意売却専門業者の3者です。どこに依頼すればいいのか迷ってしまうときには、それぞれのメリットとデメリットをチェックしながら選びましょう。
不動産会社
メリット:不動産に特化した販売力や知識が豊富であるという点です。高値で売却できる可能性があります。
デメリット:任意売却の交渉実績が少ない、または取り扱っていない不動産会社も存在します。
弁護士
メリット:法律のプロなので手続き自体はスムーズに進みます。
デメリット:不動産売買は専門外のため不動産会社のように高値で売却するノウハウはあまり期待できません。
一方で、自己破産も視野に入れた相談をしたいのであれば力になってくれることでしょう。弁護士に依頼するのであれば、目的だけでなく費用がどれくらいかかるかにも注目しながら検討する必要があります。
任意売却専門業者
メリット:任意売却に特化しているので知識や経験が豊富です。さまざまなシチュエーションに対応してきた実績があるところであれば、高値での住宅売却や抵当権の抹消といったサポート力に優れています。
デメリット:専門業者だからこそ費用が高めに設定されているケースも少なくありません。
任意売却専門業者といっても、実績が豊富で対応力に優れているかは自分で見極める必要があります。設立からこれまでの年数や取引実績にも注目して選ぶことがポイントです。
任意売却で競売のリスクを回避!
大切なマイホームを手放すことを考えているのなら、損することなく最もメリットが大きい方法を探してみましょう。競売という選択肢もありますが、任意売却のほうが高値で売却できる可能性が高いと言えます。
任意売却をするためにはいくつかの条件をクリアしなければいけませんが、競売のリスクを回避するためにも業者に相談しながらスムーズな手続きを目指しましょう。
債権者との交渉や手続きのタイミングなど、専門知識がない人では難しいことが多いのが任意売却の特徴です。失敗しない任意売却を目指すのであれば、信頼できる実績が豊富な業者にサポートしてもらうことをおすすめします。