建物を建築する際のルールは建築基準法で定められています。ただし、どんな外観や構造にするかは自由で、個人に委ねられています。そのため、デザインを考慮して、落ち着いた住宅にしたい、個性的な商店街にしたいような場合は、別にルールを作ることが必要になります。これが、建築協定です。この記事では、建築協定の内容や要件、認可手続きの流れなどについて紹介します。

建築協定は街並みをつくるためのルール

建築協定とは、ある地区の土地所有者などが、その地区内に建てる建築物に関して一定の基準を定めた取り決めです。

建築基準法では、建築物の大きさや構造などが定められていますが、具体的な建物のデザインや仕様については、所有者の自由に委ねられています。法律では、個々の家の外観などまで規制することはできません。

しかし、これでは美しい街並みなどを維持していくことが難しくなります。そこで、活用されているのが建築協定です。建築協定は、建築基準法の定めを最低基準として、これを超える規制をしたい場合に利用される制度です。

建築協定は、土地所有者などによる契約ですが、特定行政庁が認可することで、契約当事者以外の第三者に対しても効力が発生する点が特徴です。具体的には、建築協定の契約当事者以外の第三者が土地などを取得したときでも、その人にも建築協定が拘束力を持つことになります。

その地区ごとに規制すべき内容が異なるので、協定内容に決まりはありません。契約内容は、契約当事者が自由に決めることができます。

たとえば、敷地に関しては、土地の分割禁止や最低敷地面積の制限などがあります。建物の構造に関しては、その地区内では木造に限る、耐火構造を備えた建物に限るといった取り決めをすることも可能です。

建物の用途を居住専用住宅に限り、店舗などとの併用住宅は認めないというケースもあります。意匠については、建物の外壁の色を制限したり、屋根形状の制限などを設けたりすることもあります。

建築協定の要件と対象となる地域

建築協定を締結できるのは、原則として、区域内の土地所有者、借地権者です。これらの権利者による全員合意に基づき、協定書を作成して、特定行政庁の認可を受けることが必要です。特定行政庁は、一定の基準に協定の内容が適合する場合には、必ず認可しなければなりません。

建築協定の対象地域は、区市町村が条例で定める区域内に限られます。

また、1996年に、建築協定を締結していない地区を事後的に参加させることができる「建築協定区域隣接地」制度が認められました。

これにより、建築協定区域に隣接した土地で、将来的に建築協定区域の一部となることが望ましい土地を、将来的に簡単な手続きだけで建築協定に参加させることができます。この制度は、建築協定をより安定的に運用するために大いに役立ちます。

建築協定認可手続きの流れ

建築協定を定めるには、まず、関係する区域内の住民全員の合意が必要になります

さらに、建築協定を対外的にも拘束力のあるものにするためには、建築協定の認可を特定行政庁から受けなければなりません。この場合の申請手続きの流れは、次の通りです。

まず、住民で建築協定条例を制定し、地権者がこれに合意します。その後、建築協定認可申請を特定行政庁に対して行います。

そして、申請に係る建築協定の公告・縦覧という手続きです。これにより、建築協定の内容が掲示などの方法で住民に告知され、誰でも閲覧することができるようになります。

どのような建築協定が実施されようとしているのか、広く住民が知ることができるのはこの段階です。この後、公開による聴聞が実施されます。聴聞とは、行政機関が建築協定の利害関係者などを集めて意見を聞くことです。土地については利害を持つ人も多いので、意見を述べる機会が保障されています。

そして、問題がなければ認可となります。認可されると、その内容が公告され、建築協定書の縦覧が行われるという流れです。建築協定は多くの人に関わる重要なものなので、一定の行政手続きを踏んでから効力を発する仕組みになっています。

建築協定認可後の運営方法

地区の住民で作ったルールが実際にきちんと守られていくように運営していく必要がある

建築協定は、ただ締結しただけでは意味がありません。地区の住民で作ったルールが実際にきちんと守られていくように運営していく必要があります。

ルールを住民で作ったのなら、運営にも住民の主体的・自発的な取り組みが求められます。具体的には、建築協定運営委員会を設立して、建築協定を運用していくことになります。

建築協定の運営の仕方には、特に決まりはありません。それぞれの地区の住民で運営方法も自由に決めることができます。具体的な活動例としては、その地区内で新築される建物があるときに、その建築計画の内容が建築協定に合っているかを審査することがあります。

建築計画の事前届出を義務付けておき、届出がなされたときに都度確認をして、審査します。建築工事中や完了後の物件チェックに運営委員が参加するケースもあるでしょう。事前および事後に、建築物が建築協定に沿うものであるかどうかを確認する仕組みです。

建築協定違反があった場合に何らかの措置を取ることも可能です。建築協定だよりのような広報紙を作って配布し、建築協定そのものの啓発活動を行うことも重要な仕事です。

勉強会や協議会を開催して、常に新しい情報を取り入れ、建築協定を新しい内容に更新する作業なども運営委員が行うべき仕事になります。せっかく作った建築協定をきちんと運営していける体制をいかに作れるかが、建築協定の成否を分けるといってもよいでしょう。

デベロッパーが締結する1人協定制度

建築協定に関しては、1人協定制度というものもあります。これは、住宅地を新規に開発するデベロッパー(宅地分譲業者)が独自に締結できる建築協定です。

デベロッパーが宅地分譲を開始する前にあらかじめ建築協定を締結しておき、建築協定付き住宅地として販売できる制度になります。土地所有者であるデベロッパーだけで締結することができるので、「1人協定」と呼ばれています。1人協定は、認可の日から3年以内に、その建築協定の区域内に2人以上の土地所有者などが生まれたときから効力が生じます。

建築協定は、土地所有者などが全員で合意しなければならないのが原則です。この点、1人協定は、一人の土地所有者(デベロッパー)のほかに土地所有者がいない地区については、デベロッパーが単独で建築協定を設けることができるという特例です。

単独で設定できるので、認可手続きも簡単にできるのがメリットです。1人協定は事前にその地区の住宅ルールを決めておくことで相隣間のトラブルを防ぐことができます。また、住民にとっても住み良い環境を保つことができる点で、よい制度といえるでしょう。

建築協定区域内でないか確認しよう

建築協定区域内は、その地区に住んでいる人の街づくりへの意識が高く、魅力ある街だといえます。一方で、建築する際にはさまざまな制限もあるので、建築協定に適合するような建物を建てるためにコストもかさみがちという難点もあります。

家を建てる場合には、希望するエリアが建築協定区域内でないかどうかを確認しましょう。この点を疎かにしてしまうと、後で希望の家を建てられないというケースも出てきます。もし、希望する土地が建築協定区域内であれば、どんな制限があるのかを確認するのが大切です。

建築協定で定められている条件が、建てたい家とマッチしていれば、何ら問題ありません。むしろ、建物や街に対して同じような意識を持っている人が集まる地区なので、住みやすいともいえます。建築協定は、住みよい街づくりと、よりよい住環境に資する制度です。どんな建築協定がどの地区にあるのか一度調べておくと、家づくりの際に役立つでしょう。

まとめ

建築協定は土地所有者などによって結ばれる協定で、定行政庁が認可することで、契約当事者以外の第三者に対しても効力が発生します。

建築協定が結ばれている土地は住民の街づくりへの意識が高く、住みやすい街であるというメリットがあります。

一方で、協定により建てたい家が協定によって制限され建てられないといったことも考えられるため事前に希望する土地が建築協定区域内かどうかはしっかりと確認しましょう。