不動産の価格を査定してもらう際、一般的に行われる算出法は取引事例比較法です。取引事例比較法とはどのように価格を算出するのかということや、その際に生じるデメリットについてしっかり把握しておかないと、相場よりもずっと安い価格で物件を売却することになってしまうかもしれません。

そこで今回は、取引事例比較法について知っておくべきいくつかのポイントについて詳しく解説します。

売主側も査定方法について理解しておくことが大切!

不動産を売却する際には、まず不動産会社に査定額を算出してもらう必要があります。このときに重要なポイントは、どの不動産会社に査定を依頼するのかということです。

もちろん、そういったことも大切なことですがそれ以上に大切なのは売主側が査定方法についてしっかり把握しておくことです。なぜなら、査定がどのように行われるのかを知っていなければ担当者がどれだけていねいに査定額の説明をしてくれても、それを理解することができないからです。

また、その逆に担当者がおざなりな説明しかしなかったとしても、そのことに気づくことができないでしょう。

そういったことから、売主側は不動産会社に判断を委ねるのではなく自分自身も何がどのように査定されているのかということを理解しておくことが大切なのです。

取引事例比較法とは

不動産の鑑定評価には以下の3種類あります。

■原価法
収益還元法
取引事例比較法

これらは国土交通省が定める「不動産鑑定評価基準」です。査定方法によって査定金額が異なってくるので、まずはそれぞれの違いについて把握しておきましょう。

三種類ある不動産評価方法のうちの一つ

1.原価法

その不動産をもう一度建て直した場合、費用が一体いくらになるのかを基準に査定する方法です。

この建て直しのための原価を再調達原価と呼び、再調達原価から経過年数に応じた価値の低下分を差し引きます。また、リフォームを行っている場合にはその分の価値を上乗せします。本来であれば原価法はそれぞれの対象物件について個別に算定する必要がありますが、実際にはそのようなことはあまりありません。

周辺の建築物全体で築10年であれば価値は新築の半分、築20年を超えると価値はゼロ、といったように大まかな基準が各不動産会社にあり、それに当てはめて算出されるのが一般的です。比較的簡単に査定価格を算出できるものの、客観的な根拠に欠ける場合が多い方法だと言えるでしょう。

2.収益還元法

その不動産を賃貸に出したときに賃料がいくらになるのかをベースに価値を求める方法です。

もしも、その不動産が月に10万円の家賃で賃貸に出すことができる物件であり、そこに5%の投資利回りを得たいという場合には、10万円×12カ月÷5%で2,400万円という価格を算出します。この価格に住宅の維持費や売却した場合の価値低下分を差し引いた価格が収益還元法で求められる査定価格です。

この方法は、対象の不動産が投資用の物件であった場合に用いられます。投資用の物件でないにもかかわらず、あえてこの方法を選択するということはあまりありません。

3.取引事例比較法

不動産業者などから過去に行われた実際の取引事例をなるだけ多く収集し、それらを参考に不動産の鑑定を行います。

たとえば、マンションであれば査定するマンションの部屋と同じマンションの違う部屋はどれくらいの成約価格だったのかということや、周辺の同じようなマンションでは成約価格がいくらくらいだったのかということです。

取引事例比較法では、過去の取引事例は過去の取引事例を多く集めれば集めるほど、より妥当な査定価格を算出することができるようになります。そのため、3種類の査定方法の中で最も一般的に行われているのが取引事例比較法です。

取引事例比較法の大まかな流れ

取引事例比較法では、収集した事例の中から適切な事例の選択をします。このとき、収集される取引事例にはいくつかの求められる条件があります。まずその事例は、近隣地域かあるいは同一需給圏内の不動産でなければなりません。

北海道と東京のようにあまりに遠くに離れた地域の事例は、参考にはならないというわけです。

また、その事例が正常であると認められることも重要な条件です。事故物件や不動産業者の投げ売りなどで価格が極端に下がっている事例を含めてしまうと、それだけ査定価格に誤差が生じてしまうでしょう。

そうして集めた事例に事情補正や時点修正を行います。取引に特殊な事情がある場合や、取引時点による地価の推移などがある場合にはそれを補正するわけです。

さらに、地域要因や個別的要因を考慮して査定価格を算出します。査定する物件と収集した取引事例の地域が異なる場合や、対象不動産に個別的な要因がある場合にはそのことを考慮しなければなりません。

このような比較を行うことによって求められた価格は、比準価格と呼ばれます。また取引事例比較法では、販売価格ではなく実際に売れた値段である成約価格が比較されます。

事情補正と時点修正

取引事例比較法では、査定価格の正確さを高めるために収集した事例に事情補正や時点修正を行います。

事情補正とは、対象不動産の個別的な事情を考慮して価格の調整を行うことです。取引価格が何らかの特殊な事情によって高くなっている場合には、そのことを考慮して減額や増額する補正が必要になるわけです。

たとえば、対象不動産の価格が極端な供給不足によって上昇した時期があり、その時期には本来の価格よりも高い値段で取引されていたというような場合には減額の補正が必要となります。

その一方で、取引事例の価格が特殊な事情で安くなっていると思われる際には増額の補正が行われます。売主が転勤のために売却を急いだため、投げ売りされた場合などです。

対象不動産の事情による価格の変動だけでなく、時価の推移や市場価格の変動といった時間的な理由によっても調整が行われます。それが時点修正です。再開発などの事情によって土地の時価が上がったり下がったりした場合などが挙げられます。

これらの要素を考慮し、取引事例の価格を平均化することを標準化補正と呼びます。

地域要因と個別要因

不動産鑑定評価の地域分析における近隣地域とは、対象不動産の半径何メートルや同一町内といったごく狭い範囲のことをいいます。取引事例が近隣地域に見つからなかった場合には、類似地域の同一需給圏内から事例を収集します。

類似地域は隣町など、対象地域と同じ自治体内の別の地域のことです。この場合、いくら似た地域といっても同じ地域ではないため、要因を比較して価格を調整する必要があります。

そのときに重要視されるのが、同一の需給圏内かどうかということです。簡単に言えば、経済面や文化面で互いに影響を与え合っている地域かどうかということです。

地域要因の具体的な内容としては、日照や温度などの気象環境のほか道路の広さや周辺にどのような商業施設があるのかといった生活環境、眺望や景観といった自然環境などが挙げられます。

最後に、対象不動産とそれぞれの収集事例の個別的要因を比較し価格を補正します。個別的要因は接面道路の幅や商業施設までの距離といった環境要因のほか、建物の年次や面積・耐震性などです。地域要因や個別的要因の項目については、「不動産鑑定評価基準」によって細かく定められています。

詳しく知りたい人は国土交通省のホームページなども参考にするとよいでしょう。

国土交通省 ホームページ http://www.mlit.go.jp/

取引事例比較法のデメリットとは

取引事例比較法は、近隣地域や同一需給圏内の類似地域内で取引事例を多く収集できる場合、より正確な査定価格を算出することができる方法です。しかし逆に言えば、収集事例が少なかった場合には適正価格からぶれてしまいやすいということにもなります。

取引事例比較法では取引事例が少ないほど査定する不動産会社の主観による判断の割合が大きくなる

査定したい物件に似た物件が少ない場合、どのように補正されるかといった力加減は不動産会社によって異なるためです。つまり、取引事例が少なければ少ないほど、査定する不動産会社の主観による判断の割合が大きくなってしまうのです。

そのため、査定を依頼した不動産会社に対してはどれだけの物件を取引事例として抽出し、どのような観点から補正をしたのかということについて説明を求めることが大切だと言えるでしょう。

また、取引事例比較法は一戸建ての物件に対してはあまり向いていない査定方法です。というのは、一戸建てはマンションと比べると一軒一軒の物件の個性が大きいため、比較が難しいからです。

たとえば、隣り合った2件の一戸建てがあるとしましょう。どちらも同じデベロッパーによって同じ時期に建てられたとします。この場合、生活環境や自然環境などはほとんど同じになりますから、査定価格も同じになるはずです。しかし、この2件の一戸建てがちょうど都道府県や市町村の境目にあった場合、両者の価格には差が出てくることがあるのです。

たとえば片方の家が東京都で、もう片方が埼玉県であれば、東京都に含まれる家のほうが高い価格で査定されるでしょう。

そして忘れてはならないポイントは、この査定方法はあくまでも客観的な要因のみで判断されるということです。売主がその物件に対して抱いている愛着や、デザイン上でどんなこだわりがあったのかということが価格に反映されることはありません。

そのため、売主からすると査定価格にがっかりしてしまうということも多く起こりえます。

物件の査定は複数の業者に依頼しよう

取引事例比較法は、取引事例を多く収集できればより論理的な査定を行うことができる反面、売主の気持ちが考慮されないというデメリットがあります。また取引事例が少ない場合には、査定者である不動産会社の主観が大きく介入することになります。そのため、業者によって価格のばらつきが生じるのです。

これらのことを考えると、査定は1社のみに頼るのではなく複数の不動産会社に依頼した方がよいでしょう。各社の査定額について売主の側がしっかり比較を行わなければ、最悪の場合には本来売れるはずだった価格よりもずっと安い価格で売却してしまうことにもなりかねません。

はじめに、多くの人はその会社の対応や事務所の雰囲気や担当者の人柄などで判断するでしょうと書きましたが、不動産売却においては信頼できる不動産業者を選ぶこともまた大切なことです。

査定は複数の業者に依頼することが大事!

そこで不動産売却査定サイト「イエイ」の活用をおすすめします。「イエイ」はまさに複数の不動産会社の査定比較を、自宅に居ながらにして簡単に行うことができます。一社一社回ることなく最大6社の査定価格を比較することができます。

不動産業者との相性が悪ければ信頼関係は築けません。不安や相談ができなければ、納得のいく不動産売却はできないかもしれません。ですので、査定額だけでなく不動産業者との相性にも注目して、業者選びをおこなってください。

不動産物件の査定を依頼する際には取引事例比較法についてよく把握し、信頼できるプロの意見をできるだけ多く聞くことが大切です。