不動産売買を行う際には、立地をはじめとした諸条件はもちろん、対象となっている土地の面積は重要な情報です。
売主も買主も、坪単価や平米単価などで周囲の相場と比較し、その土地の価格が適正なのかを判断し、売買価格を算定するためです。
しかし売主と買主との間で土地の面積について、トラブルが生じることがあります。その多くは「公簿売買」という契約方法を選んでいることが原因です。
売買契約の方法には、登記記録上の面積を基準に契約を結ぶ「公簿売買」と、実際に測量して得られた面積を基準に契約を結ぶ「実測売買」の2種類があり、それぞれ公簿面積と実測面積をもとに価格が決められています。
「公簿売買」と「実測売買」はどのような特徴があるのでしょうか。また、そもそも不動産取引で対象となる物件の面積は何を根拠にしているのでしょうか。
今回の記事では「公簿売買」と「実測売買」について詳しく解説していきます。
この記事の目次
公簿売買と実測売買の違いとは?
不動産売買を行う際、契約前に不動産仲介会社が交付して説明を行う重要事項説明書や売買契約書には必ず土地の面積が記載されています。
土地の面積は法務局で閲覧することができる不動産登記簿に記載されており、不動産登記簿には土地や建物に関するさまざまな情報が記載されています。
登記簿上に記載されている地積がいわゆる公簿面積であり、公簿面積をもとにした価格で取引されるのが公簿売買です。
一方、実測面積は実際に測量して得られた面積を指し、実測面積をもとに価格を決定して行うのが実測売買です。
ただし、公簿面積と実測面積は同じだとは限りません。公的機関で管理されている公簿面積だから正しいに違いないと考える人も多いことでしょう。しかし、実際は法改正や境界標の移動、換地処分などに伴い、現況を正しく表していないこともあるのです。
また古い時代の測量技術では正確さに欠けていることもあり、不動産登記簿に記載されている公簿面積と実測面積には誤差が生じている可能性があります。さらに、そもそも測量図がないような場合にはより注意が必要です。
ここからは「公簿売買」と「実測売買」について詳しく解説していきます。
公簿売買とは?
登記簿上に記載されている地積がいわゆる公簿面積であり、公簿面積をもとにした価格で取引されるのが公簿売買です。
公簿売買においては、土地を実際に測量した結果が登記記録上の面積と異なっていても、売買価格の総額は変更されません。したがって、公簿売買では実測自体を行わないことも多く、実測を行ってもその結果によって、売買価格の変更を行わないことを約束している契約もあります。これも公簿売買に該当します。
実測売買を行ったほうがトラブルにはなりにくいのですが、実際には多くの取引が公簿売買によって行われています。理由として不動産登記簿とともに法務局に備え付けられている地積測量図や建物建築時の現況測量図などがある場合には実測しなくても土地の面積をほぼ正確に推定できることも多く、契約当事者は面積単価で土地の価格が妥当であるかどうかを判断しているためです。
地積測量図には土地の所在や面積・測量図などの測量結果が記載されているのはもちろん、面積の計算方法や境界標の有無・種類なども詳しく書かれています。そのため、比較的新しい時期に作成された地積測量図ならば現況を正確に表しているといえるでしょう。
ただし地積測量図があっても、測量技術が高くなかった時代や隣接地所有者の承諾なしで登記が可能だった時期もあり、古い地積測量図は信頼性が低いこともあるため注意が必要です。
また、土地の測量をする際の費用や時間がかからない点は公簿売買のメリットであり、当事者がこれを避けようとすることも、公簿売買が多い原因となっています。
さらに現実的に測量するのが困難な山林や敷地面積が広い物件などの場合、測量にかかる費用も高額になるため、実測せず公簿売買で取引を行うことがほとんどです。
都市部では地価が高額になりがちであるため、面積が少し違うだけで土地の価格にかなり誤差がでます。ところが地価が低い郊外では、面積に多少の違いがあってもそれほど大きな誤差にならないこともあります。面積の誤差による価格の違いよりも、むしろ測量費用のほうが高くつく場合は公簿面積で取引されるケースが多い傾向です。
公簿売買の注意点
公簿売買の場合には、売買契約書や重要事項説明書にその旨が明記されます。また、公簿売買であることが明記されていない場合でも、土地の単価が表示されていないと公簿売買であることが推定されることが多いです。
しかし、単価表示がなければ必ず公簿売買だと理解されることができるとは限らないため、基本的には公簿売買である旨を明記することが重要です。
また、それらに合わせ、双方異議申し立てを行わないなどの前提条件の明示も重要です。
実測売買とは?
実際に測量して得られた実測面積をもとに価格を決定して行うのが実測売買です。
実測売買には2種類あり、ひとつは売買契約締結時に、平米単価や坪単価を元に登記記録の面積で売買価格を定めておき、後日実測面積で計算した売買価格との差額を精算するやり方です。
売買契約時にはまだ実測がされていないため、売買契約書や重要事項説明書には実測面積は記載されず、測量の方法や測量図を作成する旨が記載されます。(売買代金清算型)
もうひとつは売買契約前に測量を行い、確定した面積に単価を掛けて売買価格を決定し、実測面積と公簿面積の差異を明記する方法です。(売買代金固定型)
実測売買は実際に土地の広さを測量して価格に反映させるため、当事者間でのトラブルが生じにくい点がメリットです。
反対に、実測をする際には土地家屋調査士などに依頼する費用や時間がかかる点がデメリットとなるため、費用負担や時間がかかることについて、当事者が合意できる場合には実測売買が選択されます。
実測売買の注意点
実測売買を行うにあたっては、売主と買主のあいだで後々トラブルにならないよう、あらかじめさまざまなことを定めておかなければなりません。
まずは測量によって実測面積に差異が出た場合、どんな単価でどう清算を行うのかという点を決めておく必要があります。
必ずこうしなければならないという決まりがあるわけではありませんが、一般的には1平方メートルあたりの単価を決め、小数点以下2桁で計算するケースが多いです。そして測量の結果、実測面積が公簿面積より大きかった場合は買主が売主に対して差額分を支払う、小さい場合は相当分の減額を行うなど詳細も契約書に記載します。
さらにセットバックが必要な土地の場合や私道が含まれる場合、セットバック部分や私道も清算対象に含めるかどうかも考えておかなければいけないポイントです。
通常はセットバック部分や私道を除き、実際に建築可能な範囲だけを清算対象とします。
建築可能範囲面積が5㎡違うだけで、買主が目的とする建築物が建築できないなどの場合もあるため、清算対象の範囲は重要です。
ただし、どのような契約を交わすかについては、売主と買主の間で同意が得られればどのような内容にしても構いません。売主と買主の間で同意できるのなら、わずかな差異ならば清算をせず一定面積以上の差異が出た場合のみ清算するという契約にすることも可能なのです。
測量のための費用に関しても、売主と買主のどちらが出しても構いません。ただ、よほど買主が強く望んで購入したい申し込んできたケース以外、一般的には売主が負担することのほうが多い傾向です。なぜなら、売主が不動産を所有しており、面積を明示して販売を行う立場だからです。
土地の実測はどうやって行うの?
信ぴょう性の高い地積測量図などがない場合、実測売買で売買価格を決定するためには正確に行われた測量結果を図面として表した実測図(測量図)を作成することが必要です。
実測図には確定実測図(確定測量図)と現況実測図(現況測量図)という2種類があります。
確定実測図とは?
2種類の実測図のうち隣接地の所有者や前面を通る道路などを管轄する国・地方公共団体すべての立会いのもとで境界確認を行い、全員の承認印を得て作成された図面が確定実測図です。
確定実測図では周囲の土地を所有する個人や法人など民間同士「民民」での確認作業に加え、前面道路を管轄する国や地方公共団体など官公庁と民間の「官民」での確認・承認手続きも加わるため、最も信頼性の高い図面だと言えます。
ただ、確定実測図を作成するためには国や地方公共団体に協力してもらう必要があり、長ければ作業に数カ月の時間と手間がかかってしまうことも多いです。
また、隣接地の所有者が確認・承認作業に協力してくれないケースも想定されるため、最悪全員の承認が得られずに確定実測図が作成できないということもあり得ます。
現況実測図とは
一方、隣接地との境界だけを確認して作成した測量図や単にその時点での土地の状況を測量して作成したものは、現況実測図と呼ばれています。現況実測図は前面道路を所有する国や地方公共団体の確認はされていませんし、隣接地の所有者の承認も得られているとは限りません。
ただ、実際に不動産取引が行われる際に確定実測図まで作成して用意するのが難しいことも多く、現況実測図を用いて取引するケースは多いです。
土地家屋調査士に実測図を作成してもらう
土地の境界を明らかにし、測量して実測図を作成する仕事は土地家屋調査士だけに認められた独占業務です。そのため、有効な地積測量図や実測図がない場合は土地家屋調査士に依頼する必要があります。
個人的に信頼できる土地家屋調査士がいれば、もちろん自分で調査を依頼することができます。しかし、既に不動産業者で実測売買を依頼しているなら、不動産業者が提携している土地家屋調査士が行ってくれることが多いため心配ないでしょう。
土地家屋調査士が確定実測図を作成する流れとしては、まず現地や資料を調査し、実際に測量を行います。そして、必要に応じて隣接地の所有者など各方面との調整や交渉も任せることができます。
各方面の承認を得て境界が確定したら、境界杭(境界標)を埋設し、最終的に実測図を作成します。
確定測量にかかる費用は、100坪以下の土地の場合約50~80万円ほどで、官民立ち会いが必要である場合や土地の面積が広いほど費用も上がります。
特約がなければトラブルが生じやすい公簿売買
公簿売買と実測売買では、公簿売買の方が当事者間の大きなトラブルに発展しやすいです。不動産登記簿上の面積と、後日実測した際の面積が異なることがトラブルの原因です。トラブルの多くは、実測面積が登記記録の面積よりも小さく、買主が不満に感じる場合です。
そのため公簿売買では、契約内容となっている土地の面積が実測により誤差があった場合でも、売買価格の変更を行わないことを約束している契約もあります。実測面積が、広ければ売主が、狭ければ買主が損をすることになりますが、それらのリスクはお互いに承知していることが前提です。
それにもかかわらず、トラブルになってしまうのは、契約当事者が公簿売買の意味やリスクを十分に理解していないことや、測量によって判明した面積の誤差が、当事者の予想を超えて許容できないほど大きいことが原因です。
売買契約書などに公簿売買と明記されていても、不動産取引の専門家でない一般人の多くが、意味を十分に理解できているとは限りません。また、実際に登記記録上の面積と実測面積に誤差が生じることが多いにもかかわらず、多くの人は法務局が管理している登記記録が正しいものだと思い込んでいるのです。
そのため実測によって判明した面積では、土地を購入した目的が達成できなくなる可能性もあります。たとえば、買主が公簿面積を参照し、建ぺい率ギリギリの大きさの建物を立てようと計画していた場合、実測面積が小さいと計画していた建築プランの実現ができない可能性があります。
もちろん、多少の誤差があっても買主が納得している場合や許容できる範囲であれば問題ないこともあります。しかし公簿売買の意味を理解していない買主が、意味を理解していたら契約を結ばなかったと不満をもった場合や、理解していても実測により生じた誤差が、予想の範囲を大幅に超えており、買主が考えていたような取引が達成できなかったという事態に陥る可能性もあります。
公簿売買を行う場合には、後日トラブルにならないように十分な注意を払うことが必要です。
公簿売買でのトラブルを回避する方法
公簿売買でのトラブルを回避するために何よりも大切なことは、売主・買主ともに公簿売買の意味を正確に理解することです。
契約書上に公簿売買だと明記されていない場合、契約当事者は公簿売買であること自体を認識していない可能性があります。また、公簿売買と記載されていても契約当事者がその意味を十分理解できていない可能性もあります。
その為、契約当事者はお互いに公簿売買の場合、実測精算をしないことや登記記録上の面積と実測面積に大きな差が生じる可能性があることなどを明確に確認し理解したうえで、契約を締結しましょう。また売買契約書の売買対象面積条項には、下記のような内容を盛り込み、面積の誤差が判明しても異議を申し立てない、または売買価格は変更しないという旨を記載しておくことをおすすめします。
【全宅連の契約書】 |
さらに、契約を進める途中でも「後日測量した数値と異なっていても価格の変更や差額の清算はしませんが、よろしいですか」という確認をしっかりしておく必要があります。後になって面積が違うことがわかるとトラブルにならないように売主・買主ともに十分に注意を払うことが必要です。
万一買主の同意を得られない場合や、実測値を推察できる書類がそろわない場合などは、公簿売買より実測売買を選んだ方が賢明だと言えるでしょう。
また宅地建物取引業者が売買契約を仲介する場合、義務として契約締結前に重要事項説明を行いますが、公簿売買なのか実測売買なのかを明記したうえで説明を行わなければなりません。宅地建物取引業者が、公簿売買についてきちんと説明を行ってくれれば、大きなトラブルが生じる可能性は、ほとんどなくなるはずです。
まとめ
公簿売買も実測売買もそれぞれにメリットやデメリットがあります。公簿面積と実測面積が一致しない可能性も考えられますが、測量しなくてもトラブルが起こらないと判断できるケースでは、公簿売買で取引しても良いでしょう。
実測売買は測量に費用や時間がかかるものの、正確な面積を測った結果をもとに売買するため後日のトラブルを避けるためには、より確実な方法だと言えます。どちらの売買方法を選べばいいかは、状況によって異なるため一概には言えません。
登記簿上の面積が実際の面積と違う可能性があるかどうか、測量費用を負担しても売却するのにメリットを見出せるのかなど、さまざまな状況を検討しながら決めると良いでしょう。
どちらにしても売主と買主がお互い納得し、売買契約書にも詳細を記載して後日のトラブルを避けられるよう対策を施しておくことが大切です。そして、そのための不動産業者選びもしっかり行いましょう。
不動産会社選びが重要
土地面積をめぐるトラブルが生じやすい公簿売買ですが、トラブル回避のためには、契約当事者がその意味やリスクを正しく理解できるよう、きちんとした説明をしてくれる信頼できる不動産会社へ仲介を依頼することです。
信頼できる不動産会社とは、自身の希望に沿い親身になり、なおかつ無用なトラブルをなるべく避けるよう動いてくれる不動産会社です。
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