親子・夫婦で家の購入を予定していると、「共有名義にすべきか」と迷うことがあります。共有名義にすることで、もちろんメリットはありますが、気をつけたいのはすべてのケースで共有名義にできるわけではないということです。また、共有にしないほうが良いケースもあります。不動産の共有名義・共有持分について、メリットやデメリットも含めて詳しくご紹介しましょう。
不動産の共有持分とは
不動産を購入したときには、登記簿に所有権を登記しなくてはなりません。この所有権を持つ人が複数いる状態を「共有名義」といい、それぞれの所有権の割合を「共有持分」といいます。
夫婦で住宅を購入し、所有権を半分ずつ持つとしましょう。このとき登記簿には、共有者として夫婦それぞれの氏名と「持分2分の1」というように割合が記載されます。
持分割合はどのように決められるかというと、不動産購入のために出資した金額に応じて定められます。単純に「家族4人で住む家だから、それぞれ4分の1で登記しよう」ということはできません。
また、自身の持分については売却や抵当権設定も可能で、しばしばトラブルの原因になることがあります。ちなみに不動産購入にかかる費用(取得費)として、認められるものと認められないものがあるので注意しましょう。
取得費になるもの
土地建物の購入代金、新築の場合は建設費用、中古住宅を購入したときの建物の撤去費用やリフォーム費用は取得費になります。また、登記にかかる費用や印紙代、不動産取得税、不動産業者に支払う仲介手数料なども取得費に含まれます。
取得費にならないもの
引っ越し代金や家具家電の購入費、火災保険料などは、生活にかかるものなので取得費には含まれません。また、住宅ローンを組むときに必要なローン保証料や団体信用生命保険料、金利なども対象外です。まとまったお金が動くため混同しがちですが、注意しましょう。
不動産が共有持分となる例
共有持分の例としては、不動産の共同購入、マンションなど集合住宅の共用部分、住宅造成地の私道、複数人で相続した不動産などがあげられます。
そのなかでも特に代表的なのは、親子や夫婦で住宅を購入するケースではないでしょうか。さまざまな家族構成がありますが、取得費5,000万円、夫婦で購入した場合を例にご説明します。
出資額:夫2500万円妻2500万円
出資額がきっちり半分ずつなので、夫・妻ともに持分は2分の1ずつです。
出資額:夫2000万円妻2000万円ローン:夫名義1000万円
出資額は同額ですが不足分を夫名義のローンで補うため、夫の持分は5分の3、妻の持分は5分の2となります。
出資額:夫2000万円妻1000万円ローン:夫名義500万円妻名義1500万円
出資額は妻のほうが少額ですが、不足分を補うローンは妻が多めに負担します。最終的な出資額は同額となるため、夫・妻ともに持分は2分の1ずつです。
不動産登記は「自身の所有物である」ことを証明するものです。持分はその所有の割合を表すものなので、誰がいくら出したのかをはっきりさせなくてはなりません。
資金の出どころと所有者が異なる場合には、贈与とみなされて贈与税が課税されることがあるため、十分に注意しましょう。
共有持分のメリット
夫婦または親子が共有名義で住宅を購入した場合、どのようなメリットが考えられるでしょうか。ライフスタイルによってはメリットがない場合もあります。事前に確認しておきましょう。
住宅ローン控除
住宅ローン控除とは、住宅を購入してから10年間、年末のローン残高の1%が税額控除できるという制度です。対象となるのは所得税と住民税で、ローンを組んでいる人それぞれが利用できるため、減税額が大きくなります。
気をつけたいのは、あくまで「住宅ローンを組んだときの優遇措置」ということです。キャッシュで購入した場合は対象外になります。また、仕事をやめて扶養家族になった場合も控除は受けられません。共有名義にするときには、この先10年間働き続けるかどうかも考慮しましょう。
相続税の節税
単独名義の場合、所有者が亡くなって相続が発生すると、不動産の評価額がすべて課税対象になります。共有名義の場合は持分のみが課税対象となるため、相続税の節税につながります。
居住用財産の買替えの特例
不動産売却時の優遇として、「居住用財産の買替えの特例(3000万円特別措置)」というものがあります。不動産を売却して出た利益(譲渡所得)のうち、3000万円を控除するという制度です。
共有名義の場合はそれぞれに適用されるため、もし夫婦で共有している不動産なら、6000万円まで控除される計算になります。ただし、住宅を共有名義にするメリットとしては、あまり現実的ではないでしょう。バブル期のように地価が高騰する以外に、一般住宅でそれほどの譲渡益が出ることは考えにくいためです。
共有持分のデメリット
逆に共有持分を持つことで考えられるデメリットをご紹介します。
共有者の承諾を得ないと売却できない
共有であっても、自身の持分についてのみ売却や抵当権設定などは自由に行うことができます。ただし、共有者間の共有物の使用を制限する結果を招く行為には、共有者全員の承諾が必要です(民法251条)。
住宅の場合、部分的に売却するということはできません。そのため、全員の意思がそろわないと売却はむずかしくなります。
相続発生時に共有名義人が増えることがある
相続時には配偶者、子、兄弟姉妹など、法定相続人の数だけ共有名義人が増えることになります。
取得時の費用が人数分必要
共有名義にすると、登記や住宅ローンの諸費用が人数分必要になります。
ローン返済中に贈与税が発生する可能性がある
住宅ローンの返済中に共有名義人の誰かが無収入になった場合、その人の返済分は収入のある人が負担しなくてはなりません。これが贈与とみなされて、贈与税が課税される可能性があります。
共有持分で多いトラブル
共有持分がついた不動産は、売却や相続のときにトラブルになりやすいようです。具体的なケースをご紹介しましょう。
相続時のトラブル
Aさん・Bさん・Cさん兄弟は、親が亡くなったため共有名義で実家を相続登記しました。しかし、住む人がいない実家は手入れもされず、老朽化が進むばかりです。
所有する間は固定資産税も支払わなくてはなりません。そこでAさんは共有名義人であるBさん・Cさんに、「実家を売却して、売ったお金を3人で分配しよう」と提案しました。ところが、Bさんは「思い出のある実家を手放したくない」と反対です。
Cさんは「できれば実家は残したいが、お金が必要なので自分の持分を買い取ってほしい」といいます。兄弟の意見がそろわないため、なかなか売却できないケースです。
離婚時のトラブル
共有名義のマンションを購入したDさん・Eさん夫婦が、離婚することになりました。
Dさんにとっては職場も近く、とても気に入っていたマンションです。できれば住み続けたいところですが、ふたりの収入をあてにして住宅ローンを組んだため、ひとりでは返済はむずかしくなります。
また、Eさんの持分を買い取る資金もないため、やむを得ず売却することになりました。
また、珍しいケースですが、「共有名義人が行方不明」ということもあり得ます。売却には全員の承諾が必要で、ひとりでも同意が得られなければ売却ができません。
まずは行方がわからない共有名義人を捜すことからはじまります。捜しても見つからない場合には、裁判所に不在者財産管理人を選任してもらい、権限外行為許可を申立てて売却の許可を得るといった複雑な手続きが必要です。
共有持分にする際はしっかり検討しよう
お金を出し合って共有名義にすれば、ひとりで購入するよりもグレードの高い住宅を購入できるかもしれません。共有持分を持つことで税制面での優遇もあり、メリットが大きいように見えるのではないでしょうか。
しかし、安易に決めるべきではありません。共有したがために、親族間の仲たがいや思いがけない出費、煩わしい手続きなどのトラブルにつながることもあります。共有するかどうかは、夫婦や親子・兄弟でしっかりと話し合い、慎重に考えるようにしましょう。
まとめ
住宅といえば一生に一度とも言えるほど高額な買い物です。
そんな高額な買い物をするのですから共有名義にしてお金を出し合おうと考えるのも自然なことかもしれません。
しかし生活というのは変化していくものなので購入時とは状況が変わっていくかもしれません、そのときに後悔しないようにしっかりと考えて最高の選択ができるようにしましょう。