この記事でわかること

・建物の耐用年数には、「法定耐用年数」と「物理的耐用年数」の2種類がある

・鉄骨造は、「軽量鉄骨造」と「重量鉄骨造」の2つに分類される

・物理的耐用年数は、適切なメンテナンスを行うことで50〜60年延ばすことが可能

鉄骨造の建物は、その耐久性の高さから住宅、事務所、商業施設など幅広い用途で利用されていますが、所有者の方々にとって気になるのが建物の寿命である「耐用年数」でしょう。「所有する鉄骨造の建物はそろそろ寿命だろうか?」と不安に感じている方もいるかもしれません。

この記事では、鉄骨造の耐用年数について、法定耐用年数と物理的耐用年数の違いから、耐用年数(減価償却できる年数)の計算方法、耐用年数を超えた物件の注意点や取るべき対策、売却方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。

鉄骨造の耐用年数とは?

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建物の耐用年数には、主に「法定耐用年数」と「物理的耐用年数」の2種類があります。
また、一つに「鉄骨造」と言っても「軽量鉄骨造」と「重量鉄骨造」の2つに分類されます。

これらは意味合いや耐用年数が大きく異なるため、まずはその違いを理解することが重要です。
以下で詳しく解説していきます。

法定耐用年数と物理的耐用年数の違い

法定耐用年数」は、税法上の減価償却計算に用いられる指標であるため、建物の実際の寿命である「物理的耐用年数」とは異なります 。

事業用の建物などを購入した場合、その費用を一度に計上せず、決められた年数に分けて費用化する減価償却を行います。
このとき、基準となるのが法定耐用年数です。
つまり、税務上の会計処理に使われる年数であり、建物が実際に使用できる年数を示すものではありません。

一方、「物理的耐用年数」は、建物が実際に使用できる期間を指します。
適切なメンテナンスを定期的に行い、管理が行き届いた鉄骨造の建物であれば、50〜60年程度にわたって存続する可能性があるとされています 。

軽量鉄骨造と重量鉄骨造による耐用年数の違い

鉄骨造は、建物の骨組みに使用される鋼材の厚さの違いによって、「軽量鉄骨造」と「重量鉄骨造」の2つに分類されています。

軽量鉄骨造は、鋼材の厚さが6mm以下のものを指し、6mm以上のものが重量鉄骨造と呼ばれます。
これらの構造の違いによって、法定耐用年数には差があります。   

耐用年数の違いを以下の表にまとめました。

構造 耐用年数
軽量鉄骨造
(鋼材の厚さ3mm以下)
19年
軽量鉄骨造
(鋼材の厚さ3㎜~4㎜)
27年
重量鉄骨造
(鋼材の厚さ4㎜超)
34年

表から分かるように、鋼材の厚さが3mm以下の場合は19年3mmを超え4mm以下の場合は27年となっているのに対し、重量鉄骨造の法定耐用年数は34年と定められています 。
このように、同じ鉄骨造でも使用する鋼材の厚さによって税法上の耐用年数が違うため注意が必要です。   

しかし、物理的な寿命においては、軽量鉄骨造も重量鉄骨造も、適切な管理を行うことで長く保つことが可能です 。
法定耐用年数はあくまで減価償却の期間を定めるものであり、建物の実際の寿命を示すものではないという点を改めて認識しておきましょう。

建物の用途による法定耐用年数の違い

法定耐用年数は、建物の種類や使用目的によっても細かく定められています 。
住宅用としてだけでなく、事務所用店舗用飲食店・車庫用工場・倉庫用など、用途に応じて異なる耐用年数が設定されています。

構造 住宅・店舗用 事務所用 飲食店・車庫用 工場・倉庫用
軽量鉄骨造
(鋼材の厚さ3mm以下)
19年 22年 19年 17年
軽量鉄骨造
(鋼材の厚さ3㎜~4㎜)
27年 30年 25年 24年
重量鉄骨造
(鋼材の厚さ4㎜超)
34年 38年 31年 31年

上記の表からも分かるように、同じ鉄骨造の建物であっても用途によって法定耐用年数が異なるため、ご自身の建物の種類を確認することが重要です。

耐用年数(減価償却できる年数)の計算方法とは?

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中古で鉄骨造の物件を購入した場合は、「法定耐用年数の一部を消化済みの物件」と「全て消化済みの物件」によって計算方法が異なります。

法定耐用年数の一部を消化済みの物件は以下の計算式で求められます。

耐用年数=(耐用年数-経過年数)+経過年数×20%

法定耐用年数を全て消化済みの物件は以下の計算式で求められます。

耐用年数=法定耐用年数×20%

耐用年数を超えた物件における4つの注意点

耐用年数を超えた物件における4つの注意点のイメージ画像

耐用年数を超えた物件は、安いからといって安易に購入してしまうと経済的なデメリットが発生する恐れがあります。
こちらでは、耐用年数が超えた物件における注意点を4つ紹介していくので参考にしてください。

①住宅ローンを使用した購入が難しい

住宅ローンを組んで物件を購入する場合には、審査に耐用年数も影響します。

本来、住宅ローンを組んで物件を購入する場合、購入する不動産を担保にお金を借りますが、法定耐用年数を超えた物件は評価額が低く、担保として認められないケースがほとんどです。

仮に、融資を受けられたとしても、ローンの期間が短くなったり融資額が低くなったりする可能性があります。

②維持費がかかる

築年数の経過とともに、建物や設備の劣化は進みます。

耐用年数を超えた中古の物件は、修繕やメンテナンスの頻度や費用が増加する傾向にあります。

大規模な修繕を行うとなると、屋根や外壁、内装、設備などの詳細なメンテナンス費用や設備の交換費用がかさむため、資金計画を慎重に立てる必要があります。

③節税効果が薄くなる

節税効果においては、法定耐用年数が短いほうが望ましく、その年の経費となる減価償却費が多くなり、その分税金を少なくすることができます。

減価償却費」とは、固定資産の購入額を耐用年数に合わせて分割し、その期ごとに費用として計上するための勘定科目のことをいいます。

そのため、法定耐用年数を超えている物件は、それだけ節税効果が望めないことになり、納める税金も増えることになります。

④売却しにくくなる

先述したように、耐用年数を超えた物件は住宅ローンが組みにくく維持費がかかり節税効果も薄いため、もし売却を検討したとしても買い手が付きにくくなってしまいます。

売却活動を行ったとしても早期での売却は難しく、売却価格を大幅に値下げするなどの対応が必要になる場合もあります。

耐用年数を超えた鉄骨造物件はどうすればいい?

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耐用年数を超えた物件の購入を検討している方に向けての注意点をご紹介しましたが、耐用年数を超えた物件でも活用できる方法があれば知りたいですよね。

また、すでに耐用年数を超えた物件、もしくは超えそうな物件に住んでいる方は、耐用年数を過ぎても快適に暮らしていきたいでしょう。

こちらでは、耐用年数を超えた鉄骨造物件における対策についてご紹介していきます。

現状維持と定期的なメンテナンスを行う

法定耐用年数を超えたとしても、適切なメンテナンスを継続することで、安全に住み続けることは十分に可能です 。
むしろ、定期的なメンテナンスこそが建物の寿命を延ばす最も重要な要素と言えるでしょう。   

そのためには、専門家による定期的な点検を受けることをおすすめします 。
専門家は、普段見落としがちな建物の細部までチェックし、早期に問題を発見して適切な対策を講じることができます。

また、小さな損傷や劣化を早期に発見し、適切な修繕を行うことが、建物の寿命を長く保つためには非常に重要です 。

物理的耐用年数を延ばすためのリフォーム

建物の寿命をさらに延ばし、快適性を向上させるためには、リフォームも有効な手段です。
断熱性や気密性を向上させるリフォームは、室内の温度を快適に保ち、結露の発生を抑える効果があります 。
結露は鉄骨の腐食リスクを高めるため、断熱・気密性の向上は建物の寿命を延ばすことに繋がります。   

屋根や外壁の改修、防水工事なども、雨漏りを防ぎ、建物の寿命を延ばすために非常に有効です 。
特に、屋根や外壁の劣化は雨漏りの直接的な原因となるため、定期的なメンテナンスや改修は欠かせません。   

日本は地震の多い国であるため、耐震補強リフォームも重要な選択肢の一つです 。
耐震補強を行うことで、地震に対する建物の安全性を高め、より長く安心して住み続けることが可能になります。   

リフォームを検討する際には、その費用も気になりますよね。
以下に、鉄骨造住宅のリフォーム費用の相場をまとめました。
ただし、これはあくまで目安であり、建物の状態や工事内容によって大きく変動することを理解しておいてください 。

リフォームの種類 内容 費用相場(目安)
キッチン システムキッチン交換(位置変更なし) 80〜150万円
  対面式キッチンに変更 150〜300万円
浴室 ユニットバス交換 80〜150万円
壁・天井 クロス張替え 8〜15万円
  珪藻土に変更 30〜40万円
フローリング上張り 15〜20万円
  フローリング張替え 50〜80万円
外壁 塗替え 50〜100万円
  重ね張り(カバー工法) 100〜200万円
  張替え 150〜300万円
屋根 塗替え 50〜80万円
  重ね張り(カバー工法) 100〜200万円
  張替え 180〜300万円
断熱工事 外壁・屋根断熱 50〜200万円
  内窓設置(1箇所) 8〜30万円
耐震補強 壁の補強、基礎の補強など(程度による) 50〜300万円
スケルトンリフォーム 内装を全て解体し、構造躯体のみ残して行う大規模リフォーム(70平米の場合) 1500〜2500万円
スケルトンリフォーム(坪単価)   6〜7万円/坪

建て替えを検討する

耐用年数を超えた物件は、思い切って建て替えをした方がメリットが大きい可能性があります。

建物を新しくすることで、耐用年数がリセットされ節税にも繋がりますし、耐震性や耐久性の向上も期待できます。

築年数が経った物件はメンテナンスなどの修繕費もかさむため、長期的な視野でみると経済的にも建て替えのほうがコストを抑えることができるかもしれません。

しかし、建て替えには費用がかかるため経済的な計画をしっかり立てるようにしましょう。

鉄骨造の建物を建て替える際の費用は、解体費用、新しい建物の建築費用、そして登記費用や仮住まいの費用などの諸費用を合計すると、一般的に木造よりも高くなる傾向があります 。

以下に、建て替え費用の相場を構造別、坪数別にまとめました 。

構造 解体費用相場(坪単価) 30坪の解体費用相場 40坪の解体費用相場 建築費用相場(坪単価) 30坪の建築費用相場 40坪の建築費用相場
木造 3〜5万円 90〜150万円 120〜200万円 75〜110万円 2250〜3300万円 3000〜4400万円
鉄骨造 5〜7万円 150〜210万円 200〜280万円 80〜120万円 2400〜3600万円 3200〜4800万円
RC造 6〜8万円 180〜240万円 240〜320万円 90〜130万円 2700〜3900万円 3600〜5200万円

上記の表はあくまで目安であり、実際の費用は建物の仕様や設備、依頼する業者によって大きく変動します。
複数の業者から見積もりを取り、比較検討することが重要です。

中古物件として売却する

もし、リフォームや建て替えではなく、現在の建物を売却することを検討しているのであれば、耐用年数を超えた鉄骨造物件でも売却の可能性はあります 。
特に、適切にメンテナンスが行き届いている物件であれば、買い手が見つかる可能性は高まります。   

ただし、一般的に築年数が古い建物は、新しい建物に比べて資産価値が低く評価される傾向にあります 。
そのため、売却価格は新築時よりも大幅に下がる可能性も考慮しておく必要があります。
また、建物の状態によっては、買い手がつきにくい場合もあります。   

売却を検討する際には、まずご自身の建物の状態を正確に把握することが重要です。

必要であれば、専門家によるインスペクション(住宅診断)を行い、建物の現状を客観的に評価してもらうことをおすすめします 。

もし建物が既存不適格物件である場合は、その旨を必ず買い手に告知する義務があります 。
既存不適格物件とは、建築基準法の改正により新しい規定に適合できなくなった建物のことを指します。
詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

耐用年数を超えた鉄骨造物件の売却方法

耐用年数を超えた鉄骨造物件の売却方法のイメージ画像

耐用年数を超えた鉄骨造物件の売却方法には、「建物を残したまま売却する方法」と「建物を解体し更地にして売却する」という2つの方法があります。

こちらでは、その2つの売却方法についてご紹介していきます。

建物を残したまま売却する方法

建物を残したまま売却すると、解体などの手間をかけずに売却することができます。

また、解体費用も買い手側の負担となるため費用を抑えることが可能です。

しかし、先述したように耐用年数を超えた物件は、住宅ローンが組みにくくなったり、維持費がかかるなどの懸念点から買い手が付きにくい傾向にあるためスムーズな売却は困難になるかも知れません。

建物を解体し更地にして売却する

耐用年数を超えた物件は、建物自体の価値がゼロになってしまうため、解体し更地にしてから売却するのも一つの方法です。

土地の価値は減価償却の対象外で、買い手側は土地を担保に融資を受けることが可能になります。
また、解体費用の負担がないため買い手が付きやすいというメリットがあります。
更地は凡庸性が高いため、売却対象も広げることが可能です。
家の解体費用や安く抑えるコツについて知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

鉄骨造の耐用年数を理解し、賢く対策を

鉄骨造の耐用年数を理解し、賢く対策をのイメージ画像

鉄骨造の耐用年数について、所有者が知っておくべき基礎知識から、耐用年数を超えた物件をお持ちの方が取るべき対策まで詳しく解説しました。

法定耐用年数は税法上の指標であり、建物の実際の寿命である物理的耐用年数とは異なることを理解しておくことが重要です。
物理的耐用年数は、適切なメンテナンスを行うことで50〜60年、あるいはそれ以上に延ばすことが可能です。
雨漏りや錆、腐食といった建物の寿命を縮める要因を理解し、定期的なメンテナンスを怠らないように心がけましょう。
もし、ご自身の鉄骨造の建物が耐用年数を超えそうであれば、現状維持に努め、定期的な専門家による点検を受けることをおすすめします。

また、中古物件として売却することも可能です。
売却を行う際には、複数の不動産会社に依頼をし見極めることが重要です。
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ぜひ、ご活用ください。

ご自身の物件の状況を正確に把握し、日々の適切なメンテナンスを継続することで、鉄骨造の建物は長く安全で快適な住まいとして活用していくことができるでしょう。