不動産鑑定士とは、不動産関連の法律に基づいて不動産の経済価値などを鑑定評価する専門職です。 あまり耳慣れない名かもしれませんが、不動産鑑定士はれっきとした国家資格です。

不動産鑑定士とは

不動産の鑑定評価をすることは不動産鑑定士の独占業となっています。つまり患者を診察できるのが医師だけなのと同様、不動産の鑑定評価をすることができるのは不動産鑑定士だけなのです。

不動産の鑑定評価ができるのは不動産鑑定士だけ

もしも不動産鑑定士以外の人が不動産の鑑定評価を行なうと、明確な刑事罰はないものの法律違反ということになります。

不動産鑑定士は年間100名の合格者(さらに一定の研修期間を必要とする)しか輩出しないこともあり知名度はそれほど高くありませんが、弁護士や公認会計士と並んで、国家3大資格と言われることもあります。 そして、活動の幅も広く公共でも民間でも実はかなり活躍しているのです。

不動産鑑定士の存在なくしては、国の徴税システムも抵当権(住宅ローン)などの借入も成り立たないといっても過言ではないのです。下記で、不動産鑑定士の業務を具体に列挙してみたいとおもいます。

公的機関からの依頼業務
◇地価公示法に基づいて標準地を鑑定評価する国土交通省が1年に1回決定する土地の公式価格、地価公示価格(公示地価)を決める参考になる
各標準地を2人以上の不動産鑑定士が鑑定評価する

◇国土利用計画法施行令に基づく基準地の鑑定評価都道府県が1年に1回決定する土地価格
基準地価を決める参考になる
各基準値を1人以上の不動産鑑定士が鑑定評価する

◇不動産の相続税・不動産の贈与税課税のための路線価の鑑定評価地価公示価格(公示地価)の80%を目安としている
財務省が不動産鑑定士の意見を聞きながら決定する

◇固定資産評価委員(市町村にある行政委員会)としての業務不動産所有者から固定資産税額に対し不服申し立てがあった際、固定資産税評価額か適正か評価する

◇公共用地として土地を収用するに当たり、補償額を鑑定評価
◇不動産の競売額を鑑定評価
◇国有財産の不動産を鑑定評価

※1~4は申込さえすれば依頼が来ます。 不動産鑑定士は国家公務員ではありませんが、国や地方公共団体と関連が深いのです。 また不動産鑑定士は、民間事業や個人からも仕事を依頼されますがその主な業務は下記のとおりです。

民間や個人からの依頼
◇売買価格の参考
◇株式会社に不動産を現物出資、あるいは減損会計する際の鑑定評価
◇抵当権設定及び抵当証券発行、不動産の証券化
◇会社合併時、あるいは会社更生法及び民事再生法の要請による資産評価、独立行政法人化手続き時の資産評価
◇市街地再開発事業によって生じる権利の鑑定評価
◇地代や家賃の更新時、相続及び発生時の資産価値評価

以上が、不動産鑑定士の主な業務です。 そして上記の業務は、不動産鑑定士だけが行なえます。

司法試験の合格者が、国家公務員である検事と在野で国民を弁護する弁護士に分かれるのに対し、不動産鑑定士においては公共の業務をするのも民間の業務をするのも不動産鑑定士だけなのです。そして同じ不動産鑑定士が、公共と民間の両方を相手に仕事をしていることもあります。もちろん、すべての不動産鑑定士が上記の仕事を全部担っているわけではありません。 

仕事の傾向は、都市部の不動産鑑定士か地方の不動産鑑定士かによっても異なりますし、個人事務所か会社組織かによっても受注する仕事の規模が変わってきます。

一般的には地方の不動産鑑士は公共の仕事が多く、都市部の不動産鑑定士は民間の仕事が多いようです。そして規模の大きな会社は、不動産鑑定のみではなく不動産評価に関連した業務も行っています。

不動産評価に関連した業務
◇固定資産のシステム評価
◇不動産証券化
◇不良債権処理
◇再開発
◇公共の補償コンサルタントなど
個人経営の不動産鑑定士の業務
◇競売専門
◇民間専門
◇公共事業専門

など、特定の分野に特化して仕事をしている傾向にあります。 上記の業務を考えると、不動産鑑定士試験の難易度が高いのもうなずけます。

不動産鑑定士試験

次に不動産鑑定士試験についてです。 不動産鑑定士試験 の受験資格は、学歴・年齢・国籍を問いません。不動産鑑定士試験は年に1回実施されていて、短答形式の1次試験と論文形式の2次試験になっています。1次試験合格後2年以内は、1次試験免除で2次試験を受けることができます。

不動産鑑定士試験の合格率は高くない

2次試験の論文の試験科目
◇鑑定評価理論
◇行政法規
◇民法
◇会計学
◇経済学

の5科目です。司法試験合格者は民法が免除になるなど、いくつかの免除規定もあります。

不動産の資格といえば宅建を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、試験の難易度は不動産鑑定士試験のほうがはるかに高いのです。独学でも取得が比較的容易な宅建に比べ、ほとんどの受験者が専門学校へ行っているといわれています。

不動産鑑定士試験の合格率は、1次試験合格率が30%弱・2次試験合格率が10%前後で、毎年100人前後の2次試験合格者が出ています。しかし、この2次試験合格者はすぐに不動産鑑定士になれるわけではなく、1~3年の実務修習を経て初めて国土交通省の不動産鑑定士名簿に登録されることになります。 ※実務修習は有料です。

大手不動産や信託銀行の社員として資格を取得する場合は、全額会社が払ってくれることが多いようです。もし全額個人で受ける場合には、100万円を超えることもあるようです。不動産鑑定士試験を受ける予定の方は事前に確認をお勧めします。

なお、不動産鑑定士には建築士の資格は必須ではありませんが、建物の鑑定するさいに建築士の知識があると便利なため、建築士の資格も合わせて取得する方も多いようです。

不動産鑑定士は不況時でも強い

さて、これだけ時間とお金を使って取得した不動産鑑定士の資格は 実際のところ、強みになる資格なのでしょうか。

残念なことに、不動産鑑定士になりさえすれば高額所得者になれるという時代はどうも終わりつつあるようです。また、不動産鑑定士の業務領域は多岐にわたりますので、年収は人によるというほうが正しいかもしれません。

仕事においては公共工事が減っている今、公共の補償コンサルタントを請け負う不動産鑑定士の仕事は減っているかもしれません。ですが、競売は増えていまるようです。また一般的な民間の仕事は減ってはいますが、不良債権処理(デューデリジェンス)や不動産の証券化などの仕事は増えているようです。

このように、世間は不況時であってもその時々の状況により依頼があるため、如何様にも活かせる強い資格だといえるのではないでしょうか。