不動産の売却を検討する場合は、売却にかかる税金についても考慮して資金計画を立てておくことが重要です。売却にあたってはさまざまな税金がかかりますので、どんな税金がかかるのかを把握しておく必要があります。特に、所得税に関しては節税可能な特例についても理解しておくことが大切です。そこで、投資用や住宅用、事業用の不動産売却における節税についてお伝えします。

不動産売却時にかかる税金を把握する

投資用や住宅用、事業用の土地や建物などの不動産を売却する場合は、いくつかの税金が課税されます。売却後の手取り額がいくらになるかを把握するためにも、不動産売却にかかる課税負担について理解しておくことが重要です。不動産投資を行う場合はもちろん、住宅や事業用不動産に関する全体的な税の仕組みを理解しておきましょう。不動産の売却時に課税される主な税金は3つあります。

不動産売却時にかかる税金を把握

1.印紙税

印紙税は国税で、文書に課税される税金です。不動産を売却する場合は、売買契約書を締結することになります。この契約書は、印紙税の課税対象です。契約書に記載されている売買金額に応じて印紙税の税額が決まります。

2.登録免許税

登録免許税も国税で、不動産の所有権の保存や移転、抵当権の設定や抹消に関する登記にかかる手数料だと理解すればよいでしょう。不動産の売却を行う場合は、所有権の移転や抵当権抹消を行うことになるケースが多いです。権利関係を明確にするためも、不動産登記は欠かせない手続きと言えます。固定資産税評価額に応じて一定の税率を適用して税額を求める仕組みです。

3.売却益にかかる所得税や復興特別所得税、住民税

個人が不動産を売却した場合に生じる売却益は、譲渡所得に該当します。不動産の譲渡所得は、原則として、売却金額である収入金額から取得費と譲渡費用を控除して求めます。また、不動産を売却したときの売却益については分離課税とされ、ほかの所得とは切り離して売却益に比例税率を適用して税額を確定する仕組みです。ただし、所得税と住民税は適用される税率が違います。また、復興特別所得税の税額は所得税に対して2.1%です。

長期譲渡に該当すると適用税率は低くなる

不動産を売却するにあたって生じる税負担のなかでも、所得税と住民税は多額になる可能性があります。ともに比例税率が適用される仕組みであるため、売却益が大きくなると売却益に比例して多額の税負担が生じます。そのため投資用不動産の売却時には、特に所得税や住民税に関する適用税率の仕組みを理解しておくことが重要です。

不動産の譲渡所得は、長期譲渡と短期譲渡に分けられそれぞれで違う税率が適用される仕組みになっています。長期譲渡のほうが短期譲渡よりも税率は低く設定されていますので、売却を行う場合は長期譲渡の適用条件を満たしたうえで売却すると節税につながります。

長期譲渡と短期譲渡の判定基準は、所有期間が5年を超えるかどうかです。5年を超えて所有してから売却すれば長期譲渡に該当し、適用税率が低くなります。長期譲渡に該当する場合の税率は、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて約20%です。それに対して短期譲渡の場合は約40%となります。

ただし、長期短期の判定を行う場合には注意すべき点があります。5年を超えるかどうかは、実質的な所有期間ではなく暦年で判断されることが注意点です。税法上の所有期間は、売却を行った年の1月1日時点で判断することになっています。そのため、実質的に5年を超えて所有していても長期譲渡に該当しないケースがあります。

例えば、不動産購入後5年経過した4月30日の翌日である5月1日に売却した場合、実質的な所有期間は5年を超えていることになります。しかし税法上、所有期間を判定する日付は5月1日ではなくその年の1月1日です。1月1日時点では所有期間は5年以内となり、税率が高い短期譲渡扱いとなります。

勘違いしていると思わぬ税負担につながる可能性がありますので注意しましょう。

居住用不動産売却における3,000万円特別控除

居住用不動産を売却する場合は、3,000万円特別控除を使った節税が有効です。3,000万円の特別控除とは、居住用の建物や土地を売却したときに生じる譲渡所得から3,000万円を控除できる制度です。3,000万円分の所得に対する所得税や住民税などの税負担をゼロにすることができます。

3,000万円特別控除は、自分が住んでいた住宅や住宅とともに売却する敷地が対象です。つまり、居住していない建物や土地の売却や居住用であっても敷地だけを売却する場合は、原則として特別控除の適用はありません。ただし、例外もあります。自分が住んでいない場合でも、住まなくなってから3年を経過した年末までに売却すれば適用を受けられます。

また、住まなくなった住宅を取り壊した場合は取り壊し後1年以内に売買契約を締結し、住まなくなってから3年経過した年末までに売却をすれば敷地の売却益について特例の適用が可能です。さらに、災害などで建物がなくなってしまった場合も同様に3年経過した年末までの売却であれば適用できます。

この特例は、長期譲渡・短期譲渡にかかわらず適用できることもメリットです。税率が高い短期譲渡に該当する場合でも、居住用財産であれば譲渡所得を大幅に減らすことができ、大きな節税効果を得られます。注意すべき点は、適用除外になるケースを理解しておくことです。まず、売却先が親族である場合はこの特例の適用は受けられません。また、投資用不動産や別荘などの趣味や娯楽目的の不動産も対象外です。

居住用不動産売却時における長期譲渡軽減税率の特例

居住用財産を売却した場合は、長期譲渡の軽減税率特例を使える可能性があります。軽減税率の特例とは、長期譲渡に対する税率である約20%の税率よりも低い税率の適用を受けられる制度です。適用要件を満たせば、税負担を大幅に減らせます。長期譲渡の軽減税率を受けるための適用要件は5つあります。

1.自己の居住用財産の譲渡に限られること

賃貸アパートなどを売却した場合は適用対象になりません。住宅を取り壊して売却する場合や被災して敷地だけを売却する場合にも適用が受けられる点は3,000万円特別控除と同じです。

2.売却年の1月1日において所有期間が10年を超えていること

5年を超えているだけでは適用を受けられない点に注意する必要があります。

3.売却年の前年や前々年に軽減税率の適用を受けていないこと

3年ごとであれば何度も適用が受けられます。

4.居住用住宅の売却に関する買換え特例などの適用を受けていないこと

原則として、そのほかの特例とは併用はできません。ただし、3,000万円の特別控除とは併用可能です。

5.親族間の売却ではないことです。


適用される税率は約14%です。通常の長期譲渡所得に適用される税率よりも約6%軽減できますが、軽減税率の適用を受けられる譲渡所得には上限の設定があることも注意しましょう。適用限度額は譲渡益6,000万円までです。

たとえば居住用住宅を売却して譲渡所得が1億円だった場合、まず3,000万円特別控除の適用を受けます。残りの7,000万円のうち6,000万円について軽減税率である約14%の税率が適用され、1,000万円については通常の長期譲渡に対する税率である約20%が適用されることになります。

買い換え特例による税の繰り延べ

不動産を売却して別の不動産に買い換える場合は、売却した不動産の売却益に対して買い換え特例の適用を受けて節税できる可能性もあります。3,000万円特別控除や軽減税率の特例は、税額そのものを減額できる点が特徴です。しかし買い換え特例の適用を受ける場合の節税効果は、税負担の繰り延べになります。

買い換え特例

税負担の繰り延べとは、発生した税金の支払い時期を先延ばしにできるというものです。税額そのものを減らす効果はありませんが、税金の支払い時期を遅らせて資金負担を軽減できるタイプの節税効果が得られます。買い換え特例は、居住用財産に対するものと事業用資産に対するものに大別できます。

まず、居住用財産を買い換えた場合の特例についてです。居住用財産の売却について譲渡所得が生じている場合に、売却資金を買い換える住宅に投入したときは売却時の税負担は生じないことになっています。売却益に対して課税されると、売却資金のすべてを新しい住宅に投入できず売却した住宅と同等の住宅を取得できないことになってしまいます。そのため、税負担を繰り延べる特例が用意されました。

買い換え住宅に関しては、延床面積が50平方メートル以上であることや、売却する居住用財産の所有期間が10年を超えることなどの適用要件があります。事業用の不動産についても買い換え特例がいくつか用意されています。ただし、居住用財産の場合とは違い、売却益のすべてを繰り延べることはできません。最大で売却益の80%の繰り延べが可能です。投資用不動産の売却を行う場合は、この特例の適用を受けると節税につながります。

売却損が生じた場合の買い換え特例

不動産売却に関する節税は、売却益に対する税負担をいかに軽くするかということだけに注意を向けがちです。しかし、居住用不動産の売却に関する特例は譲渡益が生じた場合だけに限りません。売却損が生じた場合の特例もあります。特例は2種類あります。

売却損が生じた場合の特例もある

1.居住用財産を買い換えた場合における譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例

居住用財産を売却した場合に生じた譲渡損について、売却年の給与所得などほかの所得との相殺を認める特例です。売却年のほかの所得と相殺しきれない損失については、売却年の翌年以降3年間にわたって生じる所得との相殺も認められます。

適用要件は、所有期間が5年を超えること・買い換える住宅の延床面積が50平方メートル以上であること・買い換えに際しては住宅ローンを借りることなどがあげられます。親族への売却は対象外である点は、そのほかの特例の場合と同じです。

2.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および損失繰越控除の特例

この特例は、住宅を買い換えずに賃貸住宅などに入居したり、すでにある実家などに住み換えたりする場合でも適用できます。ただし、適用について売却資金で住宅ローンが完済できない場合に限られる点に注意が必要です。

損益通算や繰越控除の対象となる金額は、譲渡損失と住宅ローン残債から売却金額を控除した残額のどちらか低い額とされています。

【不動産売却時に譲渡損が出た場合の税金について】

税法を理解して賢く節税を

 不動産の売却にあたって譲渡益が生じた場合は、税負担が重くなり売却手取り額が減少してしまう可能性があります。できる限り税負担を減らすことが大切です。税負担を減らすためには、各種特例を賢く活用する必要があるでしょう。

税額そのものを減らせるものや税負担を繰り延べできるものまで複数の特例があります。また、譲渡損が生じた場合でも、そのほかの所得と譲渡損を相殺して税負担を軽減できる特例もあります。

それぞれについて適用要件を理解したうえで、最も有利になる特例の適用を受けるようにしましょう。ただし、投資用不動産を売却する場合に適用を受けられる特例の種類は買い換え特例などに限られます。

短期譲渡に該当しない時期の売却や事業用の買い替え特例の適用を受けることが有効な節税対策となるでしょう。