市場経済では、一物一価の法則と呼ばれる経験則が成立しひとつの商品に対する価格はひとつだけしか成立しません。しかし、不動産の世界ではひとつの不動産(土地)に対する価格を、場面によって使い分けることになります。これが不動産は一物四価であると言われる理由です。

ここでは、一物四価と何か、複数の価格をどのように使い分ければ良いのかを解説します。

一物四価とは

一物四価は、ひとつの不動産について複数の価格が存在することを意味する言葉として使われています。

一物四価は一つの不動産に複数の価格が存在することを意味する

不動産についての代表的な価格は

◇実勢価格(時価)
◇公示価格
◇基準地価格
◇相続税評価額(路線価)
◇固定資産税評価額

の5つです。そのため、一物五価という言葉を使う人もいます。

一物四価や一物五価は、法律などに厳密な定義があるわけではなく自然と使われるようになった言葉ですから、意味を覚える必要はありません。しかし、不動産では一物四価と呼ばれるように複数の価格が存在していることを理解して場面によって使い分けられていることを知っておく必要があります。

一物四価を知らずにいると、土地を売却する際に固定資産税評価額を参考にして安売りしてしまうなど、損をしてしまうことがあるでしょう。

実勢価格(時価)

実勢価格とは実際の不動産取引で成立するだろう売買価格をいい、時期によって価格が変化することから時価と呼ばれることもあります。市場経済における一物一価の法則に対応する価格だと言えるでしょう。

一物一価の法則とは自由な市場経済では、同じ市場では同じ商品について、同じ時点では同じ価格のみが成立するという経験則です。もし、ある商品に2つの値段が付けられていた場合、安いほうの価格のみが成立することを根拠としています。

同じ商品でも、日本ではいくら・アメリカではいくらと価格が異なることがありますが、これは市場が異なるということです。安売り店の在庫が売り切れてしまったので、価格が高くなることもありますがこれは時点が異なると考えます。

実勢価格(時価)は実際の不動産取引で成立するだろう売買価格をいう

このほかにも、ある商品を隣のお店ではもっと安く売っていることを知らないで高く買ってしまうということもあるでしょう。結局、一物一価の法則というのは経済学上のフィクションに過ぎないのですが、それでも目の前の取引に限っては価格はひとつだけしか成立しないと言い切ることができます。もし売値と買値が異なるならば、代金はいくらなのかわからなくなってしまうからです。

ある不動産について、実勢価格はひとつだけなのですがそれがいくらであるのかはとても難しい問題になります。不動産は一つひとつが異なった個性を持っており、同じ不動産は世の中にひとつだけしかありません。

同じ面積、同じ形状で区分けされた土地であっても日当たりが異なったり傾斜が異なったり、全く同じ物ではありません。近くに交通量の多い道路や線路があれば騒音の大きさも異なるでしょう。そのため、実勢価格を判断するには単に近時の近傍の取引事例を拾い上げるだけでは不足です。

取引事例と目の前の物件との違いを評価に反映させることが求められます。実勢価格を判断するには不動産に関する深い知識と、その不動産に対する入念な調査が必要になるのです。

実勢価格を知らずに不動産の取引を行なうと、安売りしてしまったり高値掴みをしてしまったりします。そのため、実勢価格は不動産の取引をする際の目安として知っておくべき価格です。実勢価格を知る方法としては、土地勘のある不動産業者に相場観を聞いてみたり不動産鑑定士の鑑定評価を受けたりすることが考えられます。

公示価格・基準地価格

公示価格とは地価公示法に基づいて、国土交通省土地鑑定委員会が毎年1月1日時点における標準地の1平方メートルあたりの正常な価格を判定したものをいいます。

標準地とは、その地域において通常と考えられる土地のことです。また、正常な価格とは所有者が売り急いでいたり特定の人にしか情報が公開されていなかったりという、特殊な事情がない場合の価格であることを意味します。

地価公示の目的は、一般との土地の取引価格に対して指標を与え公共用地の取得価格の算定に資するとともに、適正な地価の形成に寄与することです。なお、公示価格は更地の場合の価格として判定されています。

基準地価格とは、国土利用計画法施行令に基づいて都道府県知事が毎年7月1日時点における基準値の1平方メートルあたりの正常な価格を判定したものをいいます。都道府県が行なうこと、基準とする日付が違うこと以外は公示価格と同様のものだと考えてよいでしょう。こちらの目的も、一般の土地の取引価格の目安としたり公共用地の取得価格を算定する際のよりどころにしたりすることです。

公示価格も基準値価格も、取引価格の目安とするために判定されているものであり実勢価格とほぼ同水準の金額になっています。また、公的に判定されたものであり公開されているので便利に利用することが可能です。

しかし、公示価格と基準地価格はその地域において通常と考えられる土地の正常な価格を更地として判定したものであることに注意が必要です。そのため、実際の不動産取引の際には数字をそのまま利用することはできず不動産の実情に応じて調整を行なうことが必要になります。

たとえば、地形が悪く土地全体を有効に活用することが難しい場合には近傍の公示価格よりも低い評価を与えるべきです。古屋がある土地を売却しようとする際には近傍の公示価格から算出した土地の更地価格から古屋の取り壊し費用を差し引いて考えるべきでしょう。また、現金が必要になったので不動産を売却するという場合には、できるだけ早く売るために安い価格を付ける覚悟が必要です。

公示価格と基準地価格は、実勢価格そのものではなく実勢価格を考える際の手がかりとして利用するためのものであることを理解する必要があります。

相続税評価額(路線価)

相続税評価額とは、相続税や贈与税を計算する際の不動産の評価額のことをいいます。相続税や贈与税は法律上は、時価に応じて支払うのですが時価がいくらであるのかの判断は困難です。そのため、国税庁は誰でも時価を計算できるように計算式と計算の際に用いる数値を公表しています。相続税評価額を簡単に計算する方法は2種類用意されていて、ひとつは路線価方式と呼ばれるものです。

全国の道路には道路ごとに路線価と呼ばれる金額が存在する

国税庁では、路線価図と呼ばれる地図を公表していて路線価図では、市街地の道路ごとに路線価と呼ばれる金額が記載されています。路線価方式では、相続税評価額を計算したい土地の面積とその土地が面している道路の路線価を乗じた金額を相続税評価額とします。ただし、土地の形状や道路との接し方によっては計算結果への補正が必要です。

もうひとつの方式は倍率方式と呼ばれており、路線価方式が利用できない場合に用いる方法です。

路線価図は市街地の道路の路線価を定めたものであり、路線価図が存在していない地域もあります。そのような地域では、国税庁が公表している倍率表を利用して相続税評価額の計算を行なうことになります。これが倍率方式です。倍率表には、地域ごとで地目に応じた評価倍率が設定されており、この評価倍率を目的となる土地の固定資産税評価相続税評価額を算出します。

なお、路線価および評価倍率は毎年1月1日を評価基準として公示価格の80%になるように設定されており、相続税評価額は実勢価格よりも低い価格になります。

相続税評価額は、相続税や贈与税を計算する際に利用することができる価格です。相続税や贈与税は税務署が計算してくれるのではなく自分で計算して申告を行う必要があります。そのため、相続税や贈与税が発生したときに備えて相続税評価額の計算方法を知っておくことと便利でしょう。

また、金融機関が土地の担保価値を評価する際にも相続税評価額が利用されるといわれています。所有する不動産や購入する不動産を担保にしていくらの借入ができるのかを考える際にも、相続税評価額を知っておくことは有用です。

固定資産税評価額

固定資産税評価額は各市町村が定めたもので、不動産に関係する税金を算定する際の基準になる価格です。金額は総務大臣が定めた固定資産評価基準に基づいて評価されており、公示価格の70%が目安となっています。

不動産に関係する税金には、毎年課税される固定資産税と都市計画税だけでなく不動産を取得した際に支払う不動産取得税や、登記手続の際の登録免許税があります。特に登録免許税は、登記申請を行う際に自分で金額を計算する必要がありその際には固定資産税評価額を調べることが必要です。

固定資産税評価額は、固定資産課税台帳(名寄帳)に記載されているのですが、不動産の所有者や賃借人、それらの代理人だけしか閲覧や写しの請求をすることができません。

また、固定資産税評価額は3年に1度、全件の価格が見直されます。これを評価替えといいます。評価替えがされると、税率が変わらなくても支払うべき税金の金額が変わるので注意が必要です。

固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税と都市計画税の納税通知書の課税明細にも記載されています。その金額は実勢価格とは関係がないものですが、不動産の価値のひとつの目安として頭の片隅に置いておくと良いでしょう。

不動産の価格は場面によって使い分けることが必要

不動産には一物四価と呼ばれるように複数の価格が存在しています。

不動産取引を行う際には実勢価格を考えることが必要ですが、その計算は困難です。公示価格や基準地価格は公的に判定されて公表されているのですが、そのまま実勢価格として使うことはできません。相続税や贈与税の申告をする際、また不動産を担保として借入を行なう際には相続税評価額を自分でも計算できるようにしておくと便利でしょう。

固定資産税評価額は、毎年の固定資産税や都市計画税などの税金を支払う際の基準となるものですが登記手続の際に登録免許税を計算する際の基準にもなります。

不動産の複数の価格については、どの場面ではどの価格を使うのかを理解して適切に使い分けることが必要です。