不動産を売却するということは、売買代金を受け取る代わりに不動産の所有権を、買主に移転することを意味します。それでは、不動産の所有権は、いつ買主に移転するのでしょうか。また、不動産取引では登記が重要だといわれますが、それはなぜなのでしょう。

ここでは、不動産所有権の移転時期や所有権移転登記の重要性などについて説明します。

所有権の移転は物権変動の一種

所有権は民法の定める物権の一種です。

■物権
物を直接に支配する権利

物権の代表格である所有権を例にすると
所有権者は
◇自身で使用
◇賃貸に出して賃料を得るなど収益にできる
◇誰かに売るなどをして処分ができる

物権はこの点が、誰かに何かの行為を要求する権利である債権とは異なるものです。
所有権の移転は物権変動の一種

物権には所有権のほかにも

◇他人の物を使用する権利である地上権
◇地役権などの用益物権
◇物を債権の担保にするための権利の担保物権である抵当権や質権、先取特権

などがあります。この物権の発生・変更・消滅を物権変動と呼びます。

■物権の発生
家を新築→新築建物に対する所有権が新に発生

■建物所有権の内容が変更になる
建物を増築して建物が大きくなる

■物権の変更
建物を誰かに売却する⇒建物所有権は買主に移転する

■物権の消滅
建物を完全に取り壊したり滅失したりする⇒建物所有権が消滅する(権利自体がなくなってしまう)

物権変動は当事者の意思表示のみで生じるのが原則

不動産は、財産的な価値が高く金銭のやり取りも高額です。いつ誰が使用・収益・処分できるかの決定は、当事者の利益を大きく左右するため、物権変動がいつ起こるのかが、非常に重要になります。

物権変動の時期については、民法第176条が

物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる

と定めています。

つまり、売買契約などで当事者が意思表示をすれば、登記を備えるなどほかの行為をしなくても物権変動は生ずるものとしているのです。この規定に従えば、不動産を売買する時も、不動産の所有権は売買契約締結したときに売主から買主に移転することになります。

不動産売買では、売買契約時に買主が一定額の手付金だけを支払い、後日残代金を支払うのが通常ですが、もし買主が何らかの事情で残代金を支払わない場合でも、不動産の所有権は売買契約時に買主に移転してしまうことにります。

しかしこれでは、売主は不安で売買契約を締結することはできません。この不安をなくすためには、売買契約締結と同時に代金の全額を買主から受け取ることですが、それは現実的ではありません。買主が、金融機関にローンを正式に申し込むためには、売買契約が締結されていなければならないのです。

そこで、不動産取引では所有権の移転は、売買契約締結時ではなく残金決済時にするよう契約で定めるのが通常です。所有権移転時期を当事者間で定めることは、民法176条では問題ないため、契約で定めた時期に所有権が移転することになります。

登記はなぜ重要なのか?物権変動の対抗要件

ところが一方で、民法177条は

不動産の物権変動は登記なしには第三者に対抗することができない

と定めています。176条の定めでは、当事者間の合意だけで物権変動は生じると定めているはずが、177条では登記をしなければ第三者に対抗することができないとしています。

たとえば、財布などであれば所有者が簡単にわかり、周知することも難しくありません。しかし、不動産は自分が所有者であることを明確に知らしめることが容易ではありません。所有権などの物権が誰にあるのかを、公に示さなければ容易に権利者を知ることができないのです。

この、不動産の物権を公に示すための制度が、不動産登記制度です。

不動産の物権を公に示すための制度が不動産登記制度

不動産登記制度

不動産登記は、法務局管理のもと、誰でも見られるようになっています。

誰が、所有権者であるのか抵当権者であるのかなど、不動産に関する権利関係は不動産登記を見れば、わかるようになっています。ただ、単に記録があるということだけでは、物権に関するトラブルに対処できません。

たとえば、まだ記録が書き換えられていないだけで自分が権利者だと主張する人が出て来た場合、民法第177条が登記の法律上の効力を定め、「物権変動は登記を備えなければ第三者に対抗できない」としているのです。

たとえば、不動産を購入して代金を支払っており、契約でも所有権を取得しているはずの買主であっても、登記を備えていなければ対外的には所有権を主張できなくなることを意味しているのです。

このように、不動産の物権変動において登記は、重要な役割を果たしているのです。

売主は登記手続きに協力しなければならない

不動産売却の際、通常は売買契約で残金決済時に不動産の所有権が買主に移転することを定めますが、残金決済と同時に売主が不動産の引渡しを行うと同時に、所有権移転登記手続きに協力することも定められます。所有権移転登記は買主にとって非常に重要なものだからです。

買主は、購入した不動産の所有権を取得したことを、誰に対しても主張できるようにしておかなければ、安心できません。そのためには、所有権移転登記をして、自分に所有権登記を移すことが必要です。だからこそ、残金決済と引き換えに所有権移転登記手続きをすることが、売買契約に定められているのです。

残金決済と引き換えに所有権移転登記手続きをすることが売買契約に定められている

取引の現場では、残金決済の日に司法書士が立会い、残金が売主に支払われたことを確認すると同時に、所有権移転登記に必要な書類の一式を預かるということが行われています。これにより、代金全額が支払われたにもかかわらず売主が登記手続きに協力しない、ということが起こらないようにしているのです。

したがって、売主は残金決済日に、移転登記手続きに必要な書類の一式をそろえて持参しなければなりません。もしこれを怠れば残金決済手続きが行えなくなるだけでなく、売主の債務不履行責任を問われる可能性もあるのです。

買主にとって重要な義務を果たすことが契約上大切だということを認識しておきましょう。

トラブルに巻き込まれたときも登記が重要になる

所有権移転登記は、買主が自分の権利を確保するために必要なものですが、物権変動に関する登記は売主の利益に直接関係する場合もあります。

たとえば、売却する不動産に抵当権の登記が付いている場合、売主は抵当権の登記を抹消してから所有権を移転しなければならないのが通常です。抵当権の登記が残っていると、買主が所有権を取得した後に抵当権が実行されてしまい、買主が不動産の所有権を失うおそれがあるからです。したがって、売主は残金決済日までに残債務を精算し、抵当権の抹消登記をしなければなりません。

この場合、残債務を精算したにもかかわらず抵当権の抹消登記がされていないということが起こらないように、売主は注意を払う必要があります。

抵当権の抹消登記は、買主から支払われる残金によって残債務を精算して行われ、所有権移転登記の準備としてなされます。したがって、取引の実務では、残金が支払われたことを確認した司法書士が、抵当権抹消登記手続きに関する書類を、その場で預かるのが通常です。

トラブルに巻き込まれた際に、売主が所有権移転登記によって自分の利益を確保しなければならない場面もあります。

不動産を売却して、所有権移転登記を済ませたあとに買主とのトラブルが発覚して、所有権を取り戻さなければならなくなる場合もあり得ます。その際は、一刻も早く自分に所有権登記を戻すように、行動しなければなりません。

売主も自身の利益を確保するためには、所有権登記について関心を払わなければならないということに、注意しておきましょう。

登記の重要性を意識して安全な取引を

不動産売却において、物権変動と不動産登記は非常に重要な役割を果たします。法律的な知識がなくても、認識しておかなければならない事柄です。

売主として、買主に対する義務をきちんと果たすためには、所有権移転登記手続きが滞りなく行われるように努力する必要があります。また、トラブルが生じたときには、不動産登記がどのようになっているのかを意識して、自身の権利を守れるように行動しなければなりません。

不動産物件変動における登記の重要性をきちんと理解し、登記手続きに十分な注意を払って、安全に不動産売却を進めるようにしましょう。