不動産の売却にあたって、仲介業者や不動産鑑定士などの専門家に依頼する場合も多いでしょう。不動産の売り手や買い手以外にも、流通や鑑定に携わる人たちの判断基準を押さえておくことは大切です。

不動産鑑定評価の3つの方法と鑑定評価・価格査定の違いについて詳しく解説していきます。

不動産鑑定評価が必要となる理由

不動産取引では「鑑定評価」というものが重要な要素です。自動車や電化製品などの動産と違って同じ不動産というものがないため、評価の基準となる指標が必要となります。

不動産取引では評価の基準となる指標が必要

不動産を評価する方法はひとつではなく、さまざまなものがあります。そのなかでも一般的によく用いられる「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」という3つの方法があります。

不動産の仲介を行う宅地建物取引業者は、顧客に評価額や販売価格を説明するときに宅地建物取引業法第34条の2という法律によって根拠を明示する義務があります。したがって、不動産取引業者は不動産評価法を使って評価額を算出し売り主と販売価格を決めて、事業を行わなければならないのです。

また、不動産鑑定士も同様に顧客からの鑑定依頼に対しては評価を行うにあたっての売買価格や税額の参考となる基準を示す必要があります。算出にあたる不動産鑑定士によって鑑定価格が異なる場合が多く、鑑定士自身の判断に委ねられている面も実務面ではあると言えます。

不動産の売却を円滑に進めるためにも、売主も不動産が評価される流れを押さえておくことは大切です。

再調達原価を基にした「原価法」

不動産鑑定評価のひとつの方法として「原価法」というものがあります。原価法は不動産の再調達原価を基礎として価格を決める方法です。

ちなみに、再調達原価とは買手と売手の市場が分けられている場合に市場価格となる時価に購入するための費用をプラスしたものを指します。具体的には土地の取得原価・造成費用・建築費などがあてはまるでしょう。

再調達原価に対して減価修正を行い、対象となる不動産の試算価格(積算価格)を割り出していくのです。減価修正を行うのは、建物が老朽化したり設備が陳腐化したりしているときには、その分を適正に反映させるために評価額から差し引く必要があるからだと言えるでしょう。

注意点としては、建物単体や建物と敷地といった不動産の評価額を算出するのには向いているものの土地のみの評価額を算出するときにはあまり向いていません。建物などの不動産は構造によって「耐用年数」があります。耐用年数は法定耐用年数と経済的耐用年数の2種類です。

法定耐用年数は適切に減価償却を行うためのものであり、法律によって定められています。その一方で、経済的耐用年数は対象となる建物を十分に使える年数のことです。実務面では法定耐用年数を使用する場合が多いのも特徴だと言えます。

近隣との比較によって算出する「取引事例比較法」

取引事例比較法は不動産単体だけに注目しないという点で、原価法や収益還元法と異なります。近隣の不動産をひとつの基準として評価額を算出していく方法です。近隣の不動産で過去の取引を基準に、地域的な要因や対象となる不動産が抱える要因を補正して不動産価格を求めます。

収益物件ではなく居住用物件の評価に向いており、地域の実情に合わせた取引価格を算出できる点にメリットがあるのです。近隣の過去における取引が適正なものであるかの判断が必要なため、地域に根ざした不動産業者に強みがあると言えるでしょう。

取引事例比較法による不動産評価額は「比準価格」と呼ばれており、エンドユーザー向けの居住用物件において活用される機会が多いと言えます。重要なポイントとしては、どの取引事例を選ぶのかという点です。参考とする地域によって不動産価格は異なるため、結果的に不動産鑑定士の評価も個人差が出てくるでしょう。

また、取引事例ではいわゆる売り急ぎや買い急ぎといった特別な事情の取引は除外します。投機目的などで高い価格で購入された事例などは参考となりにくいためで、事情に合わせて補正するため「事情補正」と呼ばれているのです。そして、不動産価格は市場動向に合わせて常に変動しているため取引事例と不動産評価を行う時点が大きく離れているときには、その変動分を考慮する必要があります。「時点修正」を行うことによって、適正な不動産評価が可能になります。

将来得られる収益に注目した「収益還元法」

収益還元法とは対象となる不動産から得られる将来的な価値に注目して算出します。具体的には得られる家賃や地代などの収益を現在価値に置き換えることを指しています。なぜこのような方法を取るかと言えば、現在価値と将来価値では同じ価値でも差が生じてしまうからだと言えます。

仮に、今すぐ受け取れる500万円と5年後に受け取れる500万円であれば、今すぐ受け取れる500万円のほうに価値があるでしょう。その500万円を5年間運用したときに収益を得られる可能性があるため、5年後には500万円以上になっていると言えるからです。

アパートやテナントビルなど家賃収入を得られる不動産であれば、収益還元法を用いれば有効に評価額を算出できるでしょう。実際の家賃収入は将来的に手に入るものなので、収益還元法によって正しい評価額を求められます。

逆に、居住用の物件においては収益還元法を使うのは不向きだと言えるでしょう。あくまでも、不動産から何らかの収益を得られる場合に収益還元法を用いるのです。

鑑定評価と価格査定の違い

鑑定評価と価格査定は混同されて使われてしまいがちなものの、実際には明確な違いがあります。

「価格査定」は不動産業者が売り主から売却を依頼されたときに、参考価格として算出されるものです。仲介業務の一環として行われるものであり、無料の参考意見として書面もしくは口頭で示されます。有料で行ってしまうと、不動産の鑑定評価に関する法律に触れてしまうため、どの不動産業者も無料で行っています。したがって、提示する査定価格について法的な責任は発生しません。

査定価格を算出するにあたって、不動産業者によって調査方法や査定方法も異なり算出される価格についても幅が広いと言えます。地域の実情に詳しく類似物件の取引実績がある業者であれば、実際の売却価格に近い査定価格を示してもらえる可能性が高いでしょう。

その一方で、経験の浅い業者だと査定価格と売却価格に開きが出てしまう可能性もあります。そして、査定価格については関係する当事者以外に提示するときには注意が必要です。

相続税や贈与税の申告で税務署に書類を提出する場合や訴訟などで裁判所に提出する書類では、不動産価格の根拠について高い証明性が問われます。そのため、税務署類などで不動産業者が出した査定価格を提示しても証拠として認められないと捉えておいたほうがいいでしょう。

鑑定評価は不動産鑑定士がおこなうもの

「鑑定評価」とは不動産鑑定士が行うものであり、不動産の鑑定評価に関する法律に基づくものです。適正な不動産価値を把握することを目的としており、国家資格保有者として不動産鑑定士だけが唯一行える独占業務が鑑定評価だと言えます。鑑定士が作成する「不動産鑑定評価書」は公的機関などの第三者に対して、高い立証性を示す資料なのです。したがって、税務署や裁判所に提出される書類として不動産鑑定評価書は大きな意味を持っています。

不動産鑑定士は高い専門性を求められ、鑑定評価額について法的な責任を負うものとされているのも特徴です。不動産鑑定評価書の作成にあたっては、評価の手法や評価書への記載事項などが関連する法律と不動産鑑定評価基準によって定められており、一定の要件を満たすように義務付けられています。そのため、不動産鑑定評価書の作成には数週間を必要とし評価報酬も一筆あたり30万円前後と設定されています。

価格査定と鑑定評価では、対象となる不動産価格を算出するにあたって評価の手法や対外的な信頼性の面で大きな違いがあります。不動産を売却する目的によって使い分けが必要なため、注意をしておきましょう。

取引の実態を知ったうえで、売却のタイミングを見極める!

不動産取引に慣れていない場合には、どのように売却価格を決めていけばいいのか悩んでしまうでしょう。まずは仲介を行う不動産業者に見積りを依頼するところから始め、できるだけ複数の業者から情報を得ることが重要です。

不動産業者が提示する査定価格は無料で出してもらえるものの、業者の力量によって価格の精度も異なります。経験豊富な業者であれば、実際の売却価格に近い数字を算出してもらえる可能性が高いでしょう。

相続や贈与、訴訟などの目的がある場合には価格査定に加えて不動産鑑定士による鑑定評価を行う必要もあります。不動産業者が行う価格査定はあくまでも仲介業務に伴うサービスの一環であり、どれほど精度が高いものであっても公的な証明とはならないからです。

不動産鑑定士のみが作成できる「不動産鑑定評価書」は鑑定士自身も法的な責任を負うものであるため、資料としての信頼性が格段に高いといった特徴があります。ただ、鑑定評価を依頼するためにはそれなりの時間と費用が必要になるため、不動産を売却する目的に合わせて検討を行いましょう。

また、鑑定評価としては代表的なものに「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」といった3つの手法があります。

収益物件か居住用物件かで手法の使い分けが必要であり、同一の不動産であっても評価方法によって鑑定評価額は異なります。適正な不動産価格を把握すれば、どのタイミングで売却をするべきかの目安となるでしょう。

不動産取引は売却価格を精査するのも大切であるものの、取引が終了してからの税金の支払いの部分も考えておかなければなりません。売却するタイミングが適切でなければ、負担する税金が重くなる可能性もあります。

ただ、不動産価格は動産などと違って価格の算定が難しいものであるため必要に応じて専門家の力を頼ってみることが重要です。不動産取引を通じて、それまで気がつかなかった保有する不動産の新たな価値を発見する機会にもなります。不動産取引を円滑に進めるためにも、保有する不動産の価値をしっかりと把握してみましょう。