建物を建てる際には法的な規制について事前に検討する必要があります。建築基準法等によって設けられているさまざまな制限をクリアしなければ違法建築になってしまうからです。

制限のなかでも、建物の形態に直接関係するものに「北側斜線制限」があります。ここでは、どのような制限なのか具体的に解説していきます。

北側斜線制限の概要とは

建築基準法における建物の高さの制限について

  • 北側斜線制限
建築基準法で規定された「斜線制限」の1つです

建築基準法では、建物の高さに関する制限が4種類定められています。

  • 1.「木造の建物等」に関するもの

建築基準法第21条に、高さ13m、または軒高9mを超える建物の主要構造部に木材やプラスチックを用いる場合には、一定の耐火性能が必要とされる制限が記載されています。

  • 2.「 第1種・第2種低層住居専用地域」における高さ制限

第1種・第2種低層住居専用地域とは、簡単にいえば、主に低層住宅のための良好な環境を保護するための地域です。

建築基準法第55条に、この地域では建物の高さは10mまたは12mを超えてはならないとの規定があります。どちらにするかは、この地域に適用される「都市計画」で定められ、また、特定行政庁の許可があれば例外も認められています。

  • 3.「日影規制」

敷地周辺に建つ他人の住居に対して、自分の住居の影が落ちる時間帯を制限する規制です。対象になる地区と建物の規模によって、日影規制の対象になるかどうかが決まります。建築基準法第56条第2項に記載があります。

  • 4.「斜線制限」

日影規制の対象地域に建てる予定の建物で、建築基準法第56条で具体的な高さを指定するための「制限線」を規定しています。

斜線制限規定における「北側斜線制限」の特徴とは?

制限の適用範囲は用途地域によって決まっている

斜線制限には

  • 北側斜線制限
  • 隣地斜線制限
  • 道路斜線制限

の3種類があります。

この3つの制限の適用範囲は用途地域によって決まっています。用途地域とは、建築できる建物の種類や用途が決められたエリアのことです。大まかに住居系・商業系・工業系の3グループがあり、全体で12種類のエリアが決められています。

北側斜線制限は低層住居専用地域・中高層住居専用地域のみで適用されるのです。

ちなみに、隣地斜線制限は低層住居専用地域は適用外で、中高層住居専用地域を含むそれ以外の用途地域等に適用されます。

道路斜線制限は、すべて用途地域等に適用されます。3種類の斜線制限のうちで、北側斜線制限は最も適用範囲が狭いのです。

北側斜線制限がある理由

斜線制限が必要な理由

北側斜線制限が設けられる理由は、敷地の北側の隣接地に建つ住宅の日照権を保護するためです。

日照権とは、住宅などに太陽光が射し込むことを阻害されない権利のことです。法律の条文に規定はないのですが、判例からは認められている権利です。

たとえば、Aさんが自分の敷地に建物を建てるときに、その北側にBさんの土地があり既に住宅が建っていたとします。ここで、Bさんの立場で考えると、自分の家の南側に新しいAさんの建物が建つわけです。

一般的な日本の住宅では、敷地の南側の周辺環境は非常に重視されます。一般的な住宅の設計では、建物の南側には開放的で日当たりの良いリビングが配置され、1階であれば縁側またはベランダが設けられるでしょう。そして、その先には庭を計画し、日照と通風が確保されます。

もし、南側にAさんが高層マンションなどを建ててしまえば、Bさんとしては日照や眺望が阻害されてしまいます。そうはいっても、Aさんとしては敷地の価値を最大化するために、可能な限り高層化するはずです。この状態を放っておくと、トラブルになることは目に見えています。

そこで、建築基準法では日影規制を設けて、権利として主張できる最低限の日照時間を確保するわけです。この例の場合は、Bさんの日照権を保護することになります。建築基準法は、日影規制と同時に斜線制限も規定して、隣地への日照を考慮した建物の外形を考えるガイドラインを示しているのです。

敷地の北側の隣接地に建つ住宅の日照権を保護

北側斜線制限の考え方

北側斜線制限を含む、斜線制限の基本的な考え方は、敷地境界線を垂直に伸ばした線に対して、その内側に建物を建てられない範囲を設定するというものです。

本来、敷地には空中権があり、基本的には排他独占的に利用することができます。つまり、敷地内であれば好きなだけ高い建物を建ててよいのです。しかし、その考え方は自分の敷地内では合理的であっても、周辺環境との整合性が考慮されていません。

そこで、建築基準法では隣地への日照を確保するための、合理的な制限方法として「制限斜線」を設定しています。具体的には、ある基準で離れた位置からの「斜めの線」を設定して、敷地境界線の垂直線と斜めの線で切り取られた範囲の内側に建物のボリュームを抑えるというものです。

「斜めの線」の始点は、敷地境界線から一定の距離で離れた位置や道路境界線を基準にして設けます。

どんな制限が設けられる?

北側斜線制限の制限を具体的に見てみましょう。

制限の基準点は、前面道路がない場合は隣地(敷地)境界線、前面道路がある場合は反対側の道路境界線にとります。制限方向は、方位磁石が示す「磁北」ではなく、南中時に太陽が影を落とす方向の「真北」です。

制限方向は南中時に太陽が影を落とす方向の「真北」

なお、低層住居専用地域と中高層住居専用地域では制限数値が異なる点に注意が必要です。

第一種・第二種低層住居専用地域
第一種・第二種中高層住居専用地域
制限基準点から5m垂直に上がり、そこから勾配1.25の斜め線を想定
制限基準点から10m垂直に上がり、そこから勾配1.25の斜め線を想定

要するに、中高層の場合は斜めの線の始点が5m高くなるのです。

他の制限と重なった場合は?

敷地の北側に道路がある場合などで、用途地域や日影規制の適用が重なると、道路斜線制限と北側斜線制限の両方の規制を受けることがあります。

このように他の制限と重なってしまった場合には、両方の制限内容を照らし合わせ、より厳しい内容が優先的に適用されます。そのため、どのような制限が設けられる場所なのかについて、自治体が制定する各種条例なども含めて、事前にチェックしておくことが重要です。

特に、日影規制については、用途地域の境界にある敷地の場合は要注意です。なぜなら、その敷地自体は規制がかからなくても、日影を生じる隣地が対象区域の場合は、建物の高さによっては規制の対象になってしまうからです。

規制が緩和されることもある

北側斜線制限は、各種条件により緩和される場合があります。また、同じ斜線制限である隣地斜線制限や道路斜線制限では緩和されても、北側斜線制限では適用されないものもあります。以下で、主な注意点をチェックしましょう。

水面・線路敷による緩和

敷地が前面道路に面していて、その先に水面・線路敷などがあると、前面道路の境界線が空地幅の2分の1だけ外側にあるものとみなされます。

要するに、建物が建てられる可能性がない空地があると緩和されるのです。

高低差による緩和

敷地と隣地や前面道路の反対側との間に高低差があるときには緩和されます。

敷地の地盤面が周囲より1m以上低ければ、高低差から1mを引いた値の2分の1だけ、敷地の地盤面が高いところにあるとみなされます。

天空率による緩和

天空率とは、隣地から空を見たときに計画中の建物によって遮られる部分(建物)と遮られない部分(空)の比率のことです。

天空率を算出して、計画中の建物の外形で適合していれば、北側斜線制限が不適合であっても緩和されます。

建物の高さの緩和は適用外

建築基準法施行令第2条第1項第6号では、建物の屋上部分にある階段室などについて、建築面積の8分の1以内であれば12mまでは高さに参入しない緩和規定があります。

これは、隣地斜線制限、道路斜線制限のみに適用され、北側斜線制限では適用外です。

後退距離による緩和は適用外

後退距離とは、敷地境界線から建物の外壁までの距離のことです。

斜線制限では、一般に後退距離の緩和があるのですが、北側斜線制限では適用されません。

制限を意識した家づくりを!

北側斜線制限などの斜線制限はもちろん、住宅建築についてはさまざまな法的な制限が存在します。

都市計画で定められた用途地域や、自治体が指定する条例などにより、適用される制限が複雑に絡み合っている場合があります。また、さまざまな制限は、都市化が進みがちな都市の中心部で厳しくなる傾向が見られるのです。

売却予定の土地が中心部にある場合は、特に注意が必要となります。詳しくは設計を担当する工務店や設計事務所に任せるとしても、売却主として敷地条件についてはきちんと把握しておきましょう。