土地区画整理事業対象の土地を保有している人が売却を検討する場合は、事業開始前に売却するか完了後に売却するかをよく考える必要があります。そのためには、土地区画整理事業の仕組みを理解することが大切です。

特に、土地区画整理事業によって生じる保留地が事業に果たす役割などについて理解しておくと売却のタイミングや売却するか否かの検討時に役立つでしょう。

そこで、土地区画整理事業や保留地などについてお伝えします。

保留地を理解する前提!土地区画整理事業とは?

保留地は、土地区画整理事業を行うことで生じるものです。そのため、保留地を理解するためには、まず土地区画整理事業に関する仕組みや流れ、特徴などを把握しておく必要があります。

土地区画整理事業
土地区画整理法に基づいて、区画整理されていない地域を再開発により区画を整えて宅地としての利用を増進することを目的として行う事業

施行者は、個人でもなれますし一定数以上集まれば土地区画整理組合を設立して施行者とすることもできます。また、国や地方公共団体が施行者となることも可能です。

単に区画整理を行うだけでなく、地権者から土地の一部を提供してもらい道路の拡張や公園の設置なども行います。さらに、地権者から提供を受けた土地の一部は保留地として更地などにしておくこともあります。

のちに売却することで土地区画整理事業の収入にすることが可能です。事業に関する資金としては保留地売却だけでなく、地方公共団体などの公共側から支出される都市計画道路や公共施設等の整備費が収入源です。さらに助成制度が利用できる場合は国の道路整備特別会計による国庫補助も収入となります。
全国各地の市街地整備に広く活用されている手法

土地区画整理事業は、全国各地の市街地整備に広く活用されている手法です。災害復興時などにも利用された実績があります。土地区画整理事業の主な特徴は3つあります。

特徴1

区画が整理され公共施設も整った都市空間を形成できる手法であることです。魅力的な街づくりに利用できます。

特徴2

すでに市街化されている地域だけでなく、これから市街化を図る地域までさまざまな地域で活用できることです。関連事業と組み合わせて進めることもできます。

特徴3

土地保有者が整理事業中も土地を所有したまま街づくりに参加できることです。土地区画整理事業の多くは、地権者も参加して共同で行う組合施行事業となっています。

土地区画整理事業の仕組み

土地区画整理事業の仕組みや保留地が生じる理由を知るためには、換地と仮換地・減歩を理解する必要があります。特に、減歩に関しては保留地と深くかかわる制度です。

換地

土地区画整理事業は、区画整備されていない不整形の土地が多い地域が対象になります。その土地の保有者は、土地区画整理事業後に整備された新たな土地を指定されます。この新たな土地を換地と呼びます。

ただし、区画整理事業を行うまでは換地は存在しません。そのため、換地の所有権を手に入れるのは土地区画整理事業完了後ということになります。

仮換地

区画整理事業においては、従前から使用している土地と換地を交換することになります。しかし、区画整理事業を行っているあいだは従前の土地が全く使えないとなると不便が生じます。

店舗を建てて営業していた人などは、移転して仮店舗で営業することもありえます。その場合は、移転に関する補償が行われます。また、新たに指定される換地のうち区画整理工事が行われない部分などについては使用収益が可能です。

工事が終了するまでのあいだに使用収益できる土地のことを仮換地といいます。仮換地は将来の換地が指定されるのが一般的ですが、換地以外の場所を仮換地として指定されることもあります。

減歩

減歩は「減る」という文字が入っていることからもわかるとおり、従前の土地面積よりも換地面積が小さくなってしまう場合のことを指します。

減歩により交換後の換地面積は小さくなりますが、事業完了後は区画整備された換地が手に入りますし、接道する道路の幅員が広くなったり公園などが整備されたりして土地の価値が上昇することが期待できるでしょう。

減歩が行われる場合は、減少分について清算金を受け取ることができるのが一般的です。減歩が行われた分の土地は、拡張される道路や公園などの公共施設の整備用地、保留地などに充てられることになります。

土地区画整理事業における保留地とは?

保留地とは、減歩で生み出された土地の一部を土地区画整理事業者が売却して資金化するための土地です。

土地区画整理事業においては、曲がりくねった道路に沿った不整形地などを長方形や正方形の土地に整理することになります。また、公園などの施設を設置したり道路の幅を拡張したりすることも必要です。そのため、土地所有者は従前の土地の一部を土地区画整理事業の施工者に差し出す減歩が行われることが多くなります。

この減歩によって生み出された土地の一部は保留地とされることがあります。保留地は、土地区画整理事業を行う施行者の所有になります。

施設を建てたり従前の土地所有者に割り振られたりせず保留することになるため保留地と呼ばれるのです。事業の施行者は、この保留地を売却することで事業資金の一部を得ます。保留地を設定する目的は、事業収入の確保にあるということです。

保留地の性質を理解するためには、仮換地との違いを把握することも大切になります。保留地と仮換地は、事業が完了するまでともに土地区画整理事業者の所有となる点は同じです。

しかし、相違点が2点あります。

1.従前の土地所有者の使用収益権の違い

従前の土地所有者は、仮換地を使用することはできますが、保留地は使用できないという点が違います。

2.保留地や仮換地を購入する人から見た場合の違い

保留地や仮換地は、購入できます。従前の土地保有者は、土地区画整理事業中でも土地の売却はできるということです。

売却対象は事業完了後の換地ですが、購入者は工事が完了するまでは換地を手に入れることはできませんので、仮換地の使用収益ができることになります。工事完了後に換地の所有権を得ることが可能です。

購入者は、清算金についても購入代金に加味して価格検討することになります。一方、保留地を購入する場合は、購入先は土地区画整理事業の施工者です。

保留地に関しては、清算金は考慮せずに購入することになります。

保留地確保目的などで減歩が行われる可能性がある土地保有者の売却判断

土地区画整理事業の対象になると、保留地確保などの目的で減歩が行われ換地の面積は減少する可能性があります。そのため、土地を売却してしまおうと考える人もいるでしょう。

土地区画整理事業の対象になりそうな土地保有している場合

土地区画整理事業の対象となりそうな土地を保有している人は、その土地を売却するにあたって3つの選択肢があります。

1.土地区画整理事業開始の公告前に売却する方法

区画整理が土地活用に不利になると考える場合は、事業開始前に売却することができます。この方法による売却は、通常の土地の売却と同じです。ただし、土地区画整理事業の対象予定地であるという情報は重要説明事項となるでしょう。

一般的に区画整理後は、その地域に含まれる土地の価値は上昇するといわれています。その点を考慮して売却価格を設定することがポイントです。

2.土地区画整理事業中に売却する方法

土地区画整理事業中でも、売却はできます。ただし、取得者は事業完了後の換地に関する所有権を得る形になり、事業期間中は仮換地の使用収益権を取得することになります。譲渡契約締結にあたっては権利関係について誤解が生じないようにすることがポイントです。

3.土地区画整理事業後に換地を売却する方法

工事が完了して換地の所有権を得ることができれば、原則として、そのあと売却することができます。減歩が行われていれば清算金も手にできるでしょう。事業完了後は、通常の土地売買と同様の方法で売却することになります。

土地区画整理事業の対象予定地となった場合は、これら3つの方法のうちどの方法が有利かを検討することが大切です。売り急いで損をすることがないように慎重に検討しましょう。

保留地予定地を購入後に転売する場合のポイント

土地の売却を検討している人のなかには、保留地予定地を購入して転売しようと考えている人もいるでしょう。保留地は相場よりも安い価格になるケースが多く、転売による利益が狙える可能性があります。

保留地予定地の購入・転売を行う場合は、3つのポイントを理解しておくことが大切です。

1.保留地予定地を購入したあとで転売することが可能かどうか

一般的には、保留地の購入後に転売することは可能ですが、施行者とのあいだに転売禁止特約がないかどうかを確認する必要があります。

転売禁止特約がある場合は、転売目的での保留地予定地の購入は避けるべきです。また、転売可能であっても、土地区画整理事業者の承認か許可を得ることが求められることになります。さらに、保留地の処分方法については施行規定に細かく定められていますので、その規定に抵触しない方法で売却を行うようにすることも必要です。

2.保留地予定地購入から売却までの権利関係

保留地は、換地処分の公告日翌日に施行者が所有権を取得することになっています。そのため、保留地予定地を購入することによって得られる権利は使用収益権です。この保留予定地をさらに転売する場合は、その使用収益権を譲渡することになります。

3.登記方法

保留地予定地は、換地処分後に施行者が法務局において一括して所有権保存登記申請が行われます。そのため保留地予定地を取得した場合は、保存登記後に移転登記を行い、さらに転売している場合は譲渡先への所有権移転登記を行うことになるということを理解しておきましょう。

仕組みの理解が不動産売却成功につながる

 保留地は、土地区画整理事業者にとって事業収入確保のために欠かせない存在です。保留地確保のために減歩が行われると換地の面積は従前の土地面積よりも減少します。そのため、その土地を売却することを考える人もいるでしょう。

その場合は事業開始前と事業中、そして事業完了後のいつ売却するのが有利かを検討することが大切です。しかし、一般的にはこれらに詳しくなければそれも難しいことでしょう。そこで、不動産業者と一緒にすすめていくことが賢明です。

また、売り出される保留地を購入して転売することを検討している人は、権利関係について正しく理解することが重要です。

土地区画整理事業に関わる土地の売却については、整理事業の仕組みを正しく理解したうえで売却の決定を行うようにしましょう。