自分の所有する一戸建てやマンションを売却するとき、汚れてしまっている壁紙を張り替えたほうが高く売れるのではないかと考える人もいるでしょう。また、壁紙が汚いと不動産会社の価格査定でも安い価格になってしまうのではないかと心配する人がいるかもしれません。そこで、不動産を売却する際に壁紙を張り替えたほうが良いのかについて、買主や不動産会社の視点に立ちながら説明します。

買主は壁紙のきれいさに関心があるのか?

買主にとって壁紙の貼りかえは意味があるの?

不動産の購入を検討している人の立場に立って、壁紙のきれいさにどれくらい関心を持っているのか考えてみましょう。

購入する不動産を探している人にとって重要なのは、まず不動産の所在地、日照や接道状況などの立地条件、周辺環境などです。不動産は文字通り動かすことのできない財産ですから、購入後自分の力で変えることができないこれらの条件がまず重要になります。

次に重要なのは物件そのものの性能です。一戸建てであれば土地の擁壁などの状況、建物の構造、耐震性はどうかなどが問題になります。また、マンションの場合は建物の構造や専有部分の劣化状況、共有部分のメンテナンス状態や管理状況、居室内部の設備のグレードや劣化状況などです。

これらの条件も自分自身で改めるとなると多額の費用が必要であったり、変更に時間がかかったりするので希望するレベルに合ったものであるかどうかは重要な問題となります。特に建物躯体の品質は、購入希望者にとって大きな関心事だと言えるでしょう。

結局室内はどうなの?

もちろん、購入希望者が居室内部を見学したとき、壁紙が汚いよりもきれいなほうが良い感じを受ける可能性はあります。ただ、購入する不動産を比較検討している人は、壁紙が単に表面的な印象を左右するだけのものだということを理解していることがほとんどです。

特に複数の候補物件を見学した経験のある人であれば、壁紙の見た目などで惑わされるべきではないと考えている場合もあるでしょう。

また、壁紙の張り替えは最も安い部類のリフォームですから、買主が購入後に自分でリフォームすることもできます。したがって、買主が壁紙のきれいさに対してあまり関心を持っていないといって良いでしょう。

不動産会社が査定でチェックしていることは?

担当者は違うところを見ている

担当者は壁紙を意識していない

不動産会社の訪問査定を受けることを検討しはじめたときに「壁紙を張り替えたほうが良いのではないか」と考える人もいるでしょう。査定を受けようとすると所有する不動産を客観的な目で見るようになり、売り物だと思うと壁紙の汚れが急に気になるようになるからです。

しかし、不動産会社の訪問査定を受ける前に壁紙の張り替えをする必要はありません。不動産会社の価格査定のプロですから、買主が重視するポイントを主な材料として査定を行い、壁紙のきれいさを特別に重視することはないからです。

もちろん、室内のきれいさも評価項目に入っていますが、その与える影響はあまり大きくはありません。

建物の構造や状況が重要

建物の評価の中心は、築年数に比して躯体や外壁の劣化状況が特に進んでいないかどうか、早急に補修しなければならないような劣化がないかどうかなど、建物そのもの性能に影響のある項目です。

たとえば壁紙がきれいかどうかよりも、建物の構造からくる壁や天井のひびが生じていないかどうか、床に傾きや軋みが生じていないかどうか、ドアや窓サッシなどに歪みがないかどうかのほうが重視されます。つまり、表面的な見た目よりも、建物の性能が維持されているかどうかを見るようにしているのです。

また、キッチンや浴室などの水まわりについては、設備更新に費用がかかる部分ですので必要な性能が維持されているか、劣化の程度がどれくらいなのかなどは重視してチェックされます。不動産会社の訪問査定を受ける前に気をつけるとすれば、壁紙を気にするよりも、水まわりの清掃をしておいたほうが効果的です。

また、不動産会社は不動産売却のプロです。物件の特性と市場のニーズを考えて販売戦略をきちんと練ってくれるはずなので、壁紙の張り替えをしたほうが良いのかどうか率直に質問してみると良いでしょう。ただ、多くの不動産会社は壁紙の張り替えは不要であると回答するはずです。

壁紙を張り替えたほうが良い場合はあるのか?

買主と不動産会社いずれの視点から見ても、不動産売却時に壁紙を張り替える必要は通常ありません。ただ、壁紙の張り替えを検討したほうが良い場合も時にはあります。

それは、築年数の浅い一戸建てやマンションを売却する際に、極端に壁紙が汚れているような場合です。
築年数の浅い建物を購入しようとしている人は、建物のきれいさに対して期待していることが多いため、壁紙が極端に汚いとそれだけで購入対象から外してしまうことがあります。

あまり汚い場合築年数の浅い物件は注意

築浅物件を探しているということは、特に自分で手を入れることなく使用できることを希望している可能性が高いため、そのまま使用することをイメージできないと買う気を失くしてしまうのです。

特に気にしなくてもいい場合

したがって、築年数10年以内程度で、築年数に見合わないような汚れのある壁紙については張り替えをしたほうが良いでしょう。たとえば、いくつかの部屋のうち特に壁紙が汚れている部屋があったら、その部屋だけでも壁紙を張り替えるなどです。

ただし、トイレや洗面など特に清潔感が求められるゾーンで壁紙が汚れている場合は、壁紙の張り替えは効果的です。これらのゾーンは中古物件に入居する際に抵抗感が生まれやすいので、ここがきれいであることは購入検討者に対するアピールになります。

一方、築年数が経っている建物の場合は、購入検討者も室内が汚れていることをある程度覚悟しています。また、室内を自分でリフォームすることを前提に物件を探している人も多いものです。したがって、築年数が経っている物件の場合に、壁紙を張り替える必要性はほとんどないと考えて良いでしょう。

売却前の大がかりなリフォームはおすすめできない

リフォームした金額上乗せで売れるとは限らない

大掛かりなリフォームは必要ない?

一戸建てやマンションを売却する際、壁紙の張り替えに限らず、リフォームをしたほうが高く売れるのではないかと考える人もいるでしょう。実際、中古の不動産を購入しリフォームをして再販するような不動産会社が利益を上げている場合もあるので、自分でもそうしたほうが良いのではないかと考える人がいるのは当然かもしれません。

しかし、リフォームをしてから売却するというのはおすすめできません。

その理由は、リフォーム費用を支払った分だけ高く売れる保証は全くないからです。たとえば、リフォームしないそのままの状態で売却した物件が2,500万円で売れるとして、300万円でリフォームしたからといって2,800万円以上で売れる保証は全くありません。

また、2,800万円で売れたとしてもリフォーム費用の分が上乗せされているだけで、かかった手間や時間を考えるとマイナスだとも言えます。300万円のリフォーム費用を投下するなら、300万円以上高くならないと意味はないのです。

築年数10年以内の建物であれば通常リフォームをする必要のある箇所はないはずです。そのままの状態で十分築浅物件を探している人の購入対象になります。

古い物件はなおさらリフォームをしなくても良い

一方、築年数が経っている物件であれば、購入希望者は価格の安さに注目して物件探しをしていることが多いでしょう。建物購入の予算を抑えて、その分をリフォームに充てたいと考えている人も多くいます。

にもかかわらず、売主が行ったリフォームのために価格が高くなってしまっていたら購入候補から外れてしまう可能性は高くなるのです。居住空間のデザイン、建具、壁紙などは個人によって大きく好みが分かれます。

売主が行ったリフォームをそのまま気に入って使おうと思う人はそう多くはありません。それよりも物件を安く買って自分好みのリフォームをしたいと思うことのほうが圧倒的に多いのです。

専門のリフォーム販売業者は熟知している

中古物件をリフォームして再販するような不動産会社が利益を上げられる理由は、一般ユーザーがリフォームをする場合に比べて非常に安い費用でリフォームを行えるからです。自らがリフォーム事業を行っている場合もあり、また多数の物件にリフォームをするために部材の調達費や工賃を安く抑えることができます。

さらに、売れやすいリフォームについても熟知しており、力を入れる部分と最小限のリフォームをする部分の違いも良く知っているのです。このようなプロのノウハウがない限り、投下したリフォーム費用を超える高値で中古物件を売却するのは至難の業と言えます。

建物や設備の不具合を隠してはいけない

壁紙の張り替えなどについては、ひとつ注意しておくべき点があります。

壁紙に限りませんが、表面的な補修によって建物の不具合を隠そうとしてはいけないということです。たとえば、建物の構造上の問題によって壁にひびが入っているような場合に、これを隠すために壁紙を張り替えたりしてはいけません。

不動産の売買では、物件の状態を正しく買主に伝え、物件の性能について売主と買主認識を共有して取引をしなければなりません。そのために、売買契約書締結の際には、売主から物件の状況を正しく伝えるための「告知書」を付属書類として買主に交付します。

この際に売主が認識している不具合を故意に隠して告知書を作成すると、後々買主とのあいだでトラブルになってしまいます。

瑕疵担保責任では

瑕疵担保責任を隠すと後々大変なことに。。。

売買契約では民法の瑕疵担保責任の規定により、物件に隠れた瑕疵がある場合、買主が瑕疵を知ってから1年間売主の責任を追及することができるとされています。損害賠償の請求、場合によっては売買契約自体を解除することもできるのです。

ただ、不動産の瑕疵は売買契約のときから存在していたものなのか、購入後経年劣化によって生じた瑕疵なのかを判別することは難しいため、民法の規定のまま買主が瑕疵を知ってから1年間責任追及できるとすると売主に酷だとも言えます。

そのため、実際の売買契約では、売主が責任を負う期間を引き渡しのときから3カ月以内にするなど制限をしています。
しかし、売主が瑕疵を認識していたのにもかかわらず故意に隠していたような場合は、売買契約の内容にかかわらず売主の責任追及が裁判で認められる場合もあるのです。

したがって、建物の状態に関しては、不具合も含めて正しく買主に知らせるようにしなければなりません。間違っても、壁紙の張り替えによって故意に建物の不具合を隠すようなことをしてはならないということは覚えておきましょう。

不動産売却時に壁紙の張り替えは不要!迷ったら不動産会社に相談を

壁紙が汚れていても、不動産売却時に壁紙の張り替えをする必要はありません。買主の多くは築年数に応じた室内の劣化を前提に購入物件を探しています。また、不動産会社も壁紙の張り替えによって高い査定価格を出すことはありません。

壁紙を張り替えしたほうが良い場合は、築年数があまり経っていないにもかかわらず極端に壁紙が汚れているような場合に限ります。

壁紙の張り替えに限らず、不動産を売却する前にリフォームを行う意味はほとんどありません。リフォーム費用に見合うだけ売却価格が高くなることはほとんどないからです。リフォーム費用を回収するために売り出し価格が高くなることは、売却にマイナスの影響を及ぼすこともあるのでおすすめできません。

それでも壁紙の張り替えやリフォームについて迷ったら、売却を依頼する不動産会社に必ず相談してみましょう。市場のニーズを把握している不動産会社であれば、壁紙の張り替えやリフォームの要否について、的確なアドバイスをしてくれるはずです。