土地や建物を賃借する場合に適用される法律に「借地借家法」があります。読み方には2種類あり、「しゃくちしゃっかほう」または「しゃくちしゃくやほう」と呼ばれます。

一般の賃貸借についは民法に規定がありますが、借地借家法では借主の保護がより優先されることが特徴です。

ここでは、基本的な考え方を紹介した後で、借地と借家を分けながら詳しく検討してみましょう。

借地借家法を理解するための基本的な考え方

借主の保護が目的

土地の貸し借りをする際に賃借の主体は2つです。土地を所有したり、利用権を持っていたりする「貸主」と、何らかの理由で土地の賃借を希望する「借主」が存在します。

民法では、契約の当事者同士は対等とみなすのですが、一般の不動産取引契約では貸主のほうが、何かと強い立場にあるものです。そのため、借地借家法によって借主が保護されています。

借地借家法第9条等によれば、借地借家法の規定と異なる特約は有効なのですが、その場合でも借主に有利な特約は有効とされ、借主に不利なものは無効とされます。

例えば、家賃関連の規定を見てみましょう。物価の変動などを考慮した、貸主からの借賃の増額請求、及び借主からの減額請求は、借地借家法で規定があるため適法です。

ここで、「貸主からの借賃の増額請求は不可」及び「借主からの減額請求は不可」という、借地借家法の規定と異なる特約を結んだとします。この場合、前者は有効で、後者は無効となります。なぜなら、借主の立場で考えると、貸主からの借賃の増額請求は避けたいのですが、自分からの減額請求の可能性は残しておくほうが有利だからです。

このような、借主優位の思想が借地借家法の基本となっています。

借主優位の思想が借地借家法の基本

借地借家法が適用されない場合とは?

すべてのケースに借地借家法が適用さるわけではありません。

まず、一時使用の目的での賃借には不適用です。例えば、選挙事務所などの一定期間利用すれば撤去することがわかっている場合などでは借地借家法の適用除外となります。

また、旧法が適用される案件に関しても同様に適用除外です。現行の借地借家法は平成4年8月1日から施行されました。それ以前の借地法と借家法のもとで締結された契約は、内容的に借主保護の規定が現行法より強いため、そのまま旧法の規定が適用されます。

このあたりにも、借地借家法の借主優位の思想が現れています。

借地権とはなにか?

借地権には2つの要素がある

土地を借りる権利を「借地権」と呼びます。正確には「建物の所有を目的とする地上権」と「建物の所有を目的とする土地賃借権」を合わせたものです。

このとき地上権は「物権」であり、賃借権は「債権」である点に注意しましょう。つまり民法の規定では、物権は物を支配する権利でその権利種別は法律で定められています。

それに対して債権は他人への請求する権利のことで、権利種別は契約当事者間で自由に設定可能です。このような物権と債権の違いから、地上権と賃借権は同じ行為でも有効性が変わってきます。

例えば、地上権には抵当権の設定・意思表示のみでの譲渡・登記が可能ですが、賃借権では登記のみ有効となり抵当権の設定はできず譲渡には地主の承諾が必要です。

なお、このときの地主は法的には「借地権設定者」と呼ばれます。

土地を借りる権利が「借地権」

借地権の存続期間

借地権の存続期間は30年とされていますが、契約で期間を定める場合には注意が必要となります。この30年というのは「法定期間」と呼ばれ、契約で定めなかった場合の期間なのです。

契約上定める場合は「約定期間」と称されますが、30年未満の期間を定めても無効になります。つまり、何も定めなければ自動的に30年となるのが基本です。

さらに、「約定期間を20年とする」など30年未満の期間を定めても30年となります。「約定期間を40年とする」場合は、法定期間の30年以上を満たしているため、約定された40年がそのまま有効となるのです。

建物が滅失した場合の借地権の存続期間

借地権は建物の所有を目的とすることが要件となりますが、建物は災害などで消失や倒壊してしまう可能性があります。ここで、借地上の建物が滅失した場合の借地権について考えましょう。

借地権の存続期間満了前であれば、滅失原因に関係なく借地権は存続します。

例えば「約定期間を40年とする」借地権が設定された場合、20年目に借地人により建物が取り壊されたとしても、借地権自体は40年間消失しないのです。これは火災による消失、建物の老朽化による自然朽廃などでも同じで建物が無くなった原因は問われません。

借地権の更新

借地権の存続期間が満了しても借りた土地を継続的に使いたい場合には、更新手続きを行います。

なお、更新の説明では借主としての「借地権者」と貸主としての「借地権設定者」という用語が使われることが一般的です。更新には4つの方法があります。

1.当事者間の合意による更新方法(合意更新)

合意更新です。これは貸主・借主の双方で合意して更新する場合です。更新の回数によって存続期間が異なってきます。最初の更新では20年、第2回目以降では10年が基本です。なお、貸主・借主の双方で合意したこの規定より長い期間の特約があれば、そちらが有効になります。

2.建物が残存する場合の更新方法(請求更新)

請求更新と3のいすわり更新は、借地権の存続期間満了後も建物が残存している場合の方法となります。建物があれば、更新を請求するという穏当な方法と、建物の使用を継続するという借地権設定者の意向を考慮しない方法が選べるわけです。このとき、借地権設定者が更新に対抗するには、正当事由をもって遅滞なく異議を述べる必要があります。

なお、更新後の存続期間は合意更新のケースに準じます。

3.建物が残存しない場合の更新方法(いすわり更新)

請求更新といすわり更新は借地借家法上の更新方法であり、建物の残存が要件です。建物がない時には民法上のいすわり更新が可能です。ただし、こちらは借地権設定者にとって有利となっていて更新阻止には正当事由が不要となっています。

4.建物の建替えによる更新方法(建替え更新)

ある土地に設定された借地権があり、そこに建てられていた建物を残存期間を超えるような建物に建て替えた場合の方法となります。既存の建物に新たな建物を付加する「増築」ではなく、既存の建物をいったん壊して新たに建築する「再築」という点に注意しましょう。

この建替え更新のケースでは、再築の際に借地権設定者の承諾を得ているかどうかはそれほど問題ではありません。もし承諾を得ているときにはその承諾日か建物の再築日のどちらか早いほうが基準となり、そこから20年間借地権が存続することになります。

承諾を得ていなくても、借地権者から借地権設定者に対して「再築の通知」を行い、借地権設定者が2ヶ月以内に異議を述べないときには承諾したことになります。

なお、借地権の残存期間が十分に長く20年以上残っていれば建替え更新の規定は適用されません。

更新後に建物が滅失した場合

無事に更新が完了して借地権の残存期間が延長されても、その後で建物が滅失した場合には条件により借地権自体を消滅させることができます。

借地権消滅の申し入れは、借地権者及び借地権設定者のどちらからでも可能です。借地権者からは一方的な申し入れが有効で、申し入れ後3ヶ月経過した時点で借地権が消滅します。

借地権設定者からの申し入れは、借地権者が無断で建物を再築した場合のみ可能です。

建物賃借権とはなにか?

建物賃借権には使用貸借は含まない

借地借家法では建物を借りる権利を「建物賃借権」と呼びます。このとき使用貸借は含まず、賃貸借のみ適用されることに注意しましょう。

使用貸借とは賃料を払わない貸し借りのことです。使用貸借と区別するために、賃貸借での「貸主」と「借主」を「賃貸人」と「賃借人」と呼ぶことがあります。

また「借家」という言葉からは居住用の建物が連想されますが、賃貸借であれば営業用の建物も借地借家法の適用範囲に含みます。

建物賃借権の存続期間

借地権では、契約で定めないときの存続期間は自動的に30年となりました。

建物賃借権の場合、契約で定めないときには「期間の定めのない賃貸借」となり、定めがあればそれが約定期間となる点が異なります。さらに最低期間が決められており、1年未満の期間を約定しても「期間の定めのない賃貸借」となるのです。

例えば、存続期間を8カ月に設定したときには約定しないときと同じ扱いになり「期間の定めのない賃貸借」とみなされます。

建物賃借権の更新

期間の定めがある賃貸借の更新と終了

約定期間が明示されているときの基本原則は、自動更新です。つまり契約期間が満了すると、建物の賃貸借契約はそのまま更新してしまいます。

更新後の賃貸借は、特約がなければ期間の定めのない賃貸借に変わります。もちろん、更新を阻止する方法はあります。

期間満了の1年前から6カ月前までの間に更新拒絶通知をすればよいのです。このとき、賃貸人には更新拒絶の正当事由を示す必要があり賃借人にはその必要がないのが特徴といえます。

期間の定めのない賃貸借の更新と終了

期間の定めのない賃貸借では、解約の申し入れで契約が終了します。申し入れは賃貸人、賃借人のどちらからも可能です。

ただし、借主を保護するために付帯条件が異なります。賃貸人からの申し入れには正当事由が必要とされ、申し入れ後終了までに6カ月が必要です。それに対して賃借人からの申し入れに正当事由は不要で、申し入れ後3カ月で契約終了となります。

いすわってしまうと更新される?

賃貸借契約が終了しても賃借人が建物の使用を継続した場合、賃貸人が異議を述べないでいると更新されてしまいます。

更新拒絶通知でも解約申し入れでも、借り手が建物を使い続けていればその意志が優先されるわけです。

保護される転借人の権利

賃貸人から賃借人が借りた建物を別の賃借人が借りると、その人は「転借人」と呼ばれます。借地借家法では、このような転借人も賃借人同様に保護の対象です。例えば賃貸人を甲とし賃借人を乙、その転借人を丙とします。

1.甲乙の間での賃貸借が合意解除された場合

このとき、乙丙の間の転貸借は自動的に終了しません。つまり、もともとの賃貸借契約の当事者ではない第三者的立場である転貸人は、その賃貸借契約の状態に関わらず転貸借として借りた家に住み続けることができるのです。

2.期間満了や解約の申し入れなどで甲乙の間での賃貸借が終了した場合

合意解除の場合と同様に乙丙の間の転貸借は自動的に終了しませんが、甲から丙に対して「終了通知」を行うことで6カ月後には転貸借も終了します。

ところが丙が建物の使用を継続してしまうと、甲が異議を述べない限り甲乙の賃貸借契約が更新されてしまいます。

3.債務不履行による解除の場合

甲乙の間の賃貸借契約が乙の債務不履行が原因で解除されると、その効力は乙丙の間の転貸借にも及びます。つまり、甲から丙への終了通知など不要で転貸人である丙は建物から退去しなければなりません。

更新しないことを前提とする借地権と建物賃借権

土地所有者としての借地権設定者や建物を所有する賃貸人としては、借主を保護する借地借家法の考え方はそのままでは柔軟な資産運用の妨げになる可能性もあります。そのため、貸主の立場を考慮して更新を制限する借地権や建物賃借権が設定されました。

借地権については非居住用の事業用建物に適用される「事業用定期借地権」、50年以上の存続期間が必要な「定期借地権」では更新が制限されます。

また「建物譲渡特約付借地権」は、借地権設定者が建物を買い取って借地権を消滅させることで更新を制限するのです。同様に、建物賃借権については「定期建物賃貸借(定期借家)」「取壊し予定建物の賃貸借」があります。

どこが違うのか?

これらの重要な相違点は、契約形態です。

建物譲渡特約付借地権

一般的な借地借家法に則った契約と同様、口頭で契約が成立します。

定期借地権・定期建物賃貸借(定期借家)・取壊し予定建物の賃貸借

公正証書が推奨されていますが、その他の書面による契約でもOKです。

事業用定期借地権

公正証書による契約に限定することで、更新の制限を明確にしています。

借地借家法をしっかり押さえて投資の柔軟性を確保する

不動産の売却を考える場合、更新の問題は投資の柔軟性に大きく関係します。

所有する土地や建物の賃貸借契約を締結するときには、借地借家法での規定を十分に検討して適切な時期に市場に出せるように資産としての不動産の流動性を損なわない対策を講じるようにしましょう。