不動産売買において登記は必要不可欠な作業です。しかし、建物や土地自体の情報収集はしても登記などの不動産の決まり事についてはあまり調べないという方が多いのではないでしょうか。たしかに、登記の関係法規で使われる専門用語は難しく感じられるかもしれませんが、一つひとつ理解してしまえばあとは流れ作業です。

ここでは、表示登記をメインにその周辺知識といくつかのモデルケースを紹介します。

表示登記とは

不動産売買にともなう登記では、大きく分けて二つの項目があります。それは、土地・建物の存在を証明するための「表題部」とそれらを保有する権利などをあらわす「権利部」です。

表題部
登記の表紙ともいうべきもので、どの場所にどのような建物がどのくらいの規模であるのかが詳細に記載されています

これは実際の建築物や土地の形状・範囲を正確に反映しており、これが物件の価格などの評価につながることもあります。

表示登記
この表題部の登記を意味する言葉で、所有権についての登記です

所有権という名の通り、だれがどの建物および土地を所有しているかを証明するものです。

抵当権
銀行などの金融機関が資金を提供する代わりに対象の不動産を担保にしていること示しています

登記における表示登記の基礎知識

表示登記が表題部の登記であるということですが、それでもパッとみて何が書いてあるか、にわかにはわからないという人も多いかもしれません。たしかに、表示登記を含む登記関連の書類は公的な書類であることから、難しく見える専門用語を多用していますが、表している意味は難しくありません。

登記の表題部と権利部の2つに区分され、土地登録登記と建物登録登記でそれぞれ表示されます。

土地登録登記・表題部
権利部
土地の所在地や形状など記載
その土地の所有権はだれが持っているか、抵当権などはあるのかが記されている

建物登録登記も土地登録登記と同様に、表題部と権利部にそれぞれの証明がされています。権利部の登記はさらに細かく、甲区と乙区に分けられます。つまり、表題部・権利部甲区・権利部乙区の3部で登記はできており、その表題部が表示登記にあたります。

住宅を取得する際に現金で一括払いできるならば、登記しないという手段を取ることも可能ではあります。登記をしないことで土地・建物の所有者を伏せておきたいという人がするようですが法的には基本的に認められておらず、仮に登記をしていなくても税金は発生するためデメリットだけしかないと言えます。そのうえ、いざ売却するとなるとさまざまな条件がつくため、表示登記のない物件はいろいろな面で不利に働くと言えます。

さらに、登記をするつもりがなくても住宅をローンで購入する場合には強制的に登記がなされます。これは、銀行が対象の不動産を担保として管理したいからですが、このときに銀行側は提携の司法書士事務所を紹介することが多いようです。

登記が難しくて時間もとれないという方であれば、そのまますんなり紹介してもらった司法書士を頼るのも手ですが、それにかかる費用を考えるとあまり賢い選択とは言えません。

表示登記はどんなときに必要?

表示登記は登記でも最初の段階とも言える作業ですが、この登記が求められるケースはマイホームの購入でその土地に新しく家を建てる場合などがあります。

中古の物件は、最初にその土地に建てられた段階で表示登記が済んでいるので改めて登記をする必要はありません。表示登記はあくまでその建物や土地のありのままを表すものであり、それに何の変更もなければ登記しなくてもいいのです。

逆に、建物の外観や土地の形状などが変わると登記する必要があります。たとえば、ある土地で長年住み続けた家をリフォームするというケースでは、部屋を増築したり減築したりすることがあるでしょう。この場合、建物の構造が変わってしまうので以前にしていた登記内容と違いが出てきます。

登記内容と実際の状態が違えば建物登記変更の申請をしなければなりません。建物を減築して固定資産税などを節約するためには、やはり事前に表示登記の変更申請をしておくことが望ましいでしょう。表示登記を含む登記の内容は、第三者が手数料を払えばいつでも自由に閲覧することができます。

不動産を扱うあらゆる人が平等に取引できるよう公示される書類だからこそ、間違いのない情報を記載していく必要があります。

表示登記しないとどうなる?

表示登記は、通常物件が建てられた際に登記されなければなりません。固定資産税の課税に参考されることもあり、国に義務づけられるものです。

新築などで、建設より1カ月以内に表示登記がなされないとペナルティとして10万円の罰金も科されることから、ほとんどの住宅は表示登記されているでしょう。しかし、なかには表示登記されていない物件もあります。これは未登記物件とよばれており、いわば「そこに建っているだけ」の物件です。つまり、公に認められていない物件ということになります。

表示登記しなければ新築であれば10万の罰刑

不動産売買は登記がなされている前提で取引が進められていくため、未登記物件の売買をするケースは少ないでしょう。ただ、未登記物件であっても売買することは可能です。

買主に対して物件を引き渡した後、買主名義であらためて表示登記と所有権などの保存登記をすればいいのです。この場合、表示登記には対象物件の元所有者である売主の協力が必要であることに加え、買主が現金でローンを組まずに物件を購入するという条件があります。それには、未登記の物件には資産価値が認められにくいことがあるため金融機関から資金を得ることができないという事情が影響しています。

表示登記がしてある物件は売却しやすいですが、未登記でもいくつかの条件がそろえば売却が可能ということは知っておくと役に立つでしょう。

表示登記にはお金がかかる?

表示登記にはお金がかかるといわれていますが、それは物件の価値によって変動します。

売買する土地の価値が高ければ表示登記にかかる登録免許税も高額になります。表示登記にかかるお金のなかでも比較的大きな割合を占めるのが、登録免許税です。

司法書士に登記を代行してもらった場合なら司法書士手数料が別途必要になりますが、司法書士手数料は依頼する事業所によってもことなるため見積もりを確認、比較してから決めることがおすすめです。

登録免許税は法律で定められた計算方法で算出されていますが、司法書士手数料は事業所が自由に決めることができるのでここに差が生まれます。

その他証明書類を発行してもらう際に発生する手数料を加えると、合計で約40万円はかかるのが一般的です。具体的には、このうち10万円~15万円は登録免許税、司法書士手数料は10万円~30万円程度といわれています。

扱う不動産の価格にも大きく影響されますが、基本的には数十万円の支払いが登記で発生するという認識は持っておくとよいでしょう。

【不動産の登録免許税についてプロが解説!】

表示登記を間違えないためには

登録免許税は法的な支払の強制力があります。

登記において確実に支払わなければなりませんが、司法書士手数料は、自分で表示登記を含む登記作業をすれば、節約できる余地が生まれます。この手数料を節約できればかなり負担が軽減できるでしょう。

サラリーマンの平均的な月収が約20万円~30万円といわれていますから、それを考えると自分で登記をすることは月収の半分ほど価値がある作業とも言えます。しかし、自分で登記をするとなると間違えてしまうのではと不安を感じる方が多いかもしれません。それでも自分で登記はできます。

というのも、登記をする法務局の窓口で必要な書類や条件を確認することができるからです。法務局も市役所みたいなもので、こちらから聞けば必要最低限の説明をしてもらえます。

役所などの公的な機関では書類関係を事務的に扱っており、あまり相談しにくいイメージがあるかもしれませんがこちらが事前に基礎的な用語を勉強しておけば丁寧に案内してくれます。

役所の方も来訪者がどのような目的でどのように対応すればいいのかわからなければ、説明のしようがありません。表示登記についての予備知識を整理しておいて、法務局の窓口で相談してみるとよいでしょう。こうすることで、自分のにわか知識だけで行動して失敗するのを防ぐことができます。

また、法務局に相談に行くだけではなく、登記の準備には十分時間に余裕を持っておくことが肝要です。

登記ではさまざまな書類が求められます。なかには自分だけでなく、銀行や不動産会社など第三者に用意してもらわなければならない書類もあります。期限まで十分に時間をとって計画的に行動すれば、登記での失敗は防げます。ちなみに、法務局での相談は無料です。登記において特に表示登記のミスは、所有権や抵当権の証明にも直接影響します。

出だしで転ばないように、表示登記の記載はミスのないよう冷静に確認しましょう。

表示登記と固定資産税の関係

表示登記は不動産の存在を証明するものです。不動産の売却においても、公的に認められているか否かという点は重要視されます。また、表示登記は固定資産税の算出にも使用されます。

税金を納めるための表示登記でもあることから、不動産登記法でも表示登記は義務付けられているのでしょう。ただ、表示登記をしなければ固定資産税が課税されないというわけではありません。

表示登記などを管轄しているのは法務局であり、これは国が管理するものです。一方、固定資産税などの税金は市区町村が主に管理しています。そのため、法務局では表示登記と固定資産税の積極的な関連付けは行われていないことが多いのです。
表示登記は固定資産税の算出にも使用される

固定資産税の徴収に力を入れているのは市区町村であり、こちらが表示登記をしなくても独自で調査をされて固定資産税が請求されます。市区町村は年に一度、航空写真を撮影するなどして住宅の状況を確認しているのです。

表示登記をしていれば固定資産税の参考にはされますが、表示登記をしなければ固定資産税の支払い義務を免れるということにはなりません。ここで注目したいのが、固定資産税の決定が1月1日付けで行われることです。仮に12月に住宅が完成したとして、12月中に表示登記の申請を行うか1月以降にするかで少し固定資産税の計算に差が生まれます。それは、更地にくらべて住宅用の土地は税金が6分の1ほどに安くなるという仕組みが影響しています。

住宅用の土地となると土地分の税金に加えて建物自体にも固定資産税がかかりますが、どちらが得をするかはケースバイケースで明確な答えはありませんが、表示登記を申請するタイミングで税金が変わるということは知っておくと役に立ちます。

スムーズに売却するためにも表示登記はマスト!

 表示登記は、登記における前提条件です。対象物件の所在・地番・地目・地積・ 家屋番号・種類・構造・床面積といった、いわば土地と家の公的な名札とも言えます。この表示登記が確実なものであれば、残りの保存登記である所有権や抵当権の登記もスムーズに済ませることができるでしょう。表示登記さえ済ませておくことで、不動産の売却がスムーズになります。

自分で登記できれば費用を大きく節約することができるため、法務局のスタッフに相談できる程度の基礎的な知識を持っておきましょう。