大切な不動産売却は、損のないように売りたいところですが、そのためには、専門家の手を借りることです。不動産鑑定士に相談してみましょう。

この記事では、不動産売却における不動産鑑定士の役割について解説します。

不動産鑑定士とはどんな資格?

不動産鑑定士とは、不動産の経済的価値を鑑定する専門家です。不動産の利用価値や資産価値を、お金に換算して示せるのは、不動産鑑定士だけに許された独占業務です。周辺環境や諸条件を考慮しつつ、鑑定依頼された不動産の適正価格を判断します。不動産の経済的価値や利用価値は、対象不動産だけでなく周囲にも影響を与えるため、非常に社会的責任の重い資格です。

不動産の経済的価値を鑑定するのが不動産鑑定士

不動産鑑定士資格が誕生した背景には、1963年に「不動産の鑑定評価に関する法律」が公布されたことがあります。

それまで、不動産の取引価格はほぼ売主と買主の言い値で決まっていたことから、適正価格なのかという疑問が常に付きまとっていましたが、1969年に「地価公示法」が公布され、土地取引を行う際の指標となる地価が公示されるようになります。その際、土地の公示価格の評価を不動産鑑定士が行うようになり、不動産資格の最高峰として定着するようになりました。

不動産鑑定士は、特別な受験資格がないため誰でも受けることができます。しかし、短答式試験と論文試験の両方に受からなければなりません。そのため、合格率は10%~15%という、難関国家資格です。ただし、国家試験に合格したのみでは、不動産鑑定士として仕事に就くことはできません。試験合格後に、講義・基本演習・実地演習を受講した後、修了考査に合格して初めて不動産鑑定士として仕事をすることができます。

不動産鑑定士の活躍の場として、不動産鑑定事務所や銀行が一般的です。

銀行では担保評価部門や信託部門などに所属しています。そのため、一般の土地取引で依頼するなら不動産鑑定事務所を訪ねましょう。

不動産鑑定士って何をする人?

不動産鑑定士の主な仕事は、不動産鑑定業務とコンサルティング業務です。

不動産鑑定業務
◇相続税標準地の鑑定評価
◇固定資産税標準宅地の鑑定評価
◇公共用地を取得する際の鑑定評価
◇裁判を行ううえでの資産価値の評価
◇会社が合併する際の資産評価など

鑑定だけでなく不動産のコンサルティングも行う

コンサルティング業務
◇不動産の有効活用方法のアドバイス
◇開発計画の策定

経済や法律など、不動産に関する知識を幅広く持ち合わせている不動産鑑定士だからこそできる業務といえます。

コンサルティング業務は、企業のみを相手にしたものではありません。個人資産としての不動産を売却するときにも、不動産鑑定士に相談すれば、適正な土地活用方法を一緒に考えてくれます。不動産鑑定士は、地価の公示を行うような遠い存在だと思いがちですが、実際は、不動産取引に関するエキスパートとして、身近に存在しているのです。

不動産鑑定士に依頼できる仕事とは?

個人が依頼できる主な仕事の内容は、売却時や相続時の適正価格や経済的価値、利用価値の鑑定と活用方法の相談、遊休土地などを利用し賃貸経営を始める際などには、適正な賃料についてのアドバイスしてくれます。

不動産売却の取引仲介は、不動産会社にしかできません。そのため、査定もつい不動産会社に任せてしまいがちですが、不動産会社が提示する価格に疑問が残ることは少なくありません。そのため、そのまま売却すれば、後々トラブルに発展することもあります。不動産鑑定士に依頼し、適正価格を知ることも大切です。

不動産鑑定士が提示した価格には、不動産会社も文句を言えません。それだけ、専門的な資格として認められているのです。味方につけておくと心強い存在です。敷居が高いなどと思わず、気軽に相談してみましょう。ただし、不動産鑑定士に評価依頼する場合は、無料でとはいきません。10万円単位の費用がかかりますが、信頼度の高さは抜群です。

不動産業者に依頼するのと何が違う?

資格の差もありますが、もっとも大きな両者の違いは鑑定や査定の基準です。

特に、不動産会社の査定は一定のガイドラインがありません。不動産会社独自の基準は設けられていても、それはあくまでも、その不動産会社の営業ツールに過ぎず、対外的な効力を持つものではありません。そのため、信頼度の面でも不動産鑑定士の出す評価のほうが高いのです。

また、不動産鑑定士の鑑定評価は、土地そのものの状態だけでなく、その時の物価や行政の政策・天候・土地活用の仕方など、幅広い視点で行われます。

広くて形のよい高そうな土地でも、天候によって状態が左右される面があるなら、評価価値は低くなります。逆に、自治体が予定している周辺地域の開発内容によっては、高く評価される場合もあります。

不動産会社の査定だけでは見落とされがちなプラスの資産価値を、不動産鑑定士なら拾い出してくれる可能性があります。

不動産鑑定士に依頼した方がよい場合とは?

不動産鑑定士に依頼した方がよい場合として、まず挙げられるのは不動産を売買するときです。

不動産会社に査定を依頼すると、納得のいかない値段で手放さなければならなくなることがあります。満足いかない値段なら、売るのをやめておこうと考える人は少なくありませんが、不動産会社に売買の話を持って行く前には、不動産の適正な評価額を知っておくことが大事です。不動産会社との取引では、専門知識を持つ不動産会社のペースで話が進む傾向がありますが、前もって不動産鑑定士に適正な価格を計算してもらうことで、安心して不動産会社と対等に話を進められるようになります。

また、不動産を買うときや賃貸にするときも、不動産鑑定士に依頼するのはおすすめです。貸し手と借り手の双方が納得いく賃料を評価をしてくれます。家賃の他、地代や契約更新料なども、鑑定評価対象になっています。

不動産を担保にお金を借りるときや、相続が発生したときなども不動産鑑定士に相談すると、適正な鑑定評価をしてもらえるので安心です。とくに、相続の場合は土地や建物の分割方法などで揉めるケースが多々あります。そんな時にも、不動産鑑定士による鑑定評価を受けていれば、適正価格を相続人全員が把握できるので、公平な分割が可能です。

不動産鑑定士を依頼すると費用はどれくらい?

不動産鑑定士を依頼した際の費用は、不動産鑑定事務所によって異なります。

報酬基準は存在しますが、中には独自の報酬価格表に基づいて報酬を請求する不動産鑑定事務所もあります。

不動産鑑定業務に関しては、評価額が高い不動産ほど、不動産鑑定士への報酬額が高くなる傾向があります。業務内容や対象不動産の評価額により異なりますが、30万円~50万円が目安です。

評価額が高いほど報酬額が高くなるのは、不動産の鑑定業務が不動産鑑定士の独占業務である点が、関係しています。

不動産鑑定士の評価額は、税額の決定に使われたり、裁判で証拠として採用されたりする重いものです。高い評価額を付けた不動産に対して疑義が生じたときには、損賠賠償請求されるケースもあるため、責任の重さに伴って報酬額も高くなっていきます。

また、不動産の所有権に関する評価を行うときよりも、借地権に関する評価を行うときの方が鑑定料金が高額です。これには、評価技術の難易度の差が関係しています。作業量が多く、技術的にも難しい鑑定評価の方が高くなるのは当然のことです。

依頼を躊躇する人もいるかもしれませんが、費用に関しては見積もり依頼ができます。複数の不動産鑑定士に見積もりを出してもらえるので、比較検討して依頼先を決めましょう。

不動産鑑定士選びの注意ポイント

不動産鑑定士選びは慎重に行いましょう。不動産鑑定士選びで失敗しないために押さえておきたいポイントがいくつかありますが、その前に、どのようなときにトラブルが起こりやすいかを紹介します。

不動産鑑定士もいろいろ!

不動産鑑定士とのやり取りでトラブルが起こりやすいのは、次の3つのタイミングです。

1.電話をかけたとき

電話をかけたとき、相談する側の話をよく聞かずに、面談の予約を急かされるときは注意した方がよいでしょう。

簡易鑑定という言葉を出してくる場合には、要注意です。また、電話で不動産鑑定にかかる費用について質問してもはっきり答えてくれないケースもよくあります。確かに、鑑定内容によって価格は変わりますが、目安だけでも教えてもらえるところの方が安心です。

2.相談したとき

相談や依頼に対して反応が遅い場合や、その場で返事がないなどは不安要素になります。期限までに、きちんと仕上げてもらえない可能性もあるので、注意が必要です。

3.納品時

納品時は、不動産鑑定評価書の納品だけで、アドバイスなどが一切ないことなどがトラブルになります。これらのタイミングでトラブルになることを避けるためには、実は不動産鑑定士だけでなく、依頼する側にも注意が必要です。

不動産鑑定士を信頼して、依頼の目的や情報などは包み隠さず話すこととできるだけ早い時期に依頼することが欠かせません。それさえできていれば、あとは経験豊富な不動産鑑定士に依頼することでトラブルは避けられます。

不動産を売るなら不動産鑑定士を選ぼう

不動産を売却するなら、信頼できる不動産鑑定士を味方につけましょう。

不動産仲介は不動産会社に任せなければなりませんが、その際にも不動産鑑定を受けていることが強みになります。どのような売り方をすればよいかという点のアドバイスも、参考にしましょう。せっかくの、大切な資産です。損をしない売り方をすることが肝心です。

不動産鑑定士の鑑定を受ければ、適正な価格で取引できます。経験豊富な不動産鑑定士を選んでよい不動産売買を行いましょう。