建物の大きさや高さなどに関する規定の1つに容積率があります。土地の売却を検討する場合は、土地に建つ建物の大きさに関する制限についても理解しておくことが大切です。

そこで、容積率の定義や原則・特例計算方法・容積率の売買・さらには容積率オーバーの建物が建つ土地売却の注意点などについてお伝えします。

容積率とは?

容積率とは、敷地面積に対する建築物の延べ床面積の割合のことで建築基準法に規定されています。

延べ床面積は、建物の各階の床面積の合計です。ただし、共用部分など同じ床面積でも容積率の算出においては算入する必要がない部分もあります。容積率が大きければ、同じ敷地であっても階数が高い建物を建設することができます。

敷地面積に対する建築物の延べ床面積の割合

容積率は、都市計画で上限が定められています。都市計画とは、都道府県が作成するマスタープランに基づく土地の利用計画のことです。都市計画が決定されると、地域ごとにどのように土地を利用するかを表す用途地域が定められます。

用途地域は住居系・商業系・工業系の3つに大別され、それぞれについてさらに細かく区分されています。用途地域ごとに上限の容積率の定めがあり、最低は50%・最高は1300%です。

たとえば

第1種低層住居専用地域
50%から200%
商業地域
200%から1300%

それぞれ、都市計画において上記の範囲で指定されます。

敷地面積に対する建築面積の割合である建ぺい率と合わせて、敷地に対する建物の大きさを規制することが容積率の役割です。

容積率の上限を超える建物の建築はできません。その結果、日照や風通しなど住環境の確保や火事などの災害時の避難場所・消火活動場所の確保などにつながります。

建物の高さが規定されることによって、日陰になる住居などを最小限に抑えることが可能になります。また、はしご車が入れないような狭い道路しかない場所に高層の建物が建って消火活動に支障が出るといった問題も回避できるでしょう。

土地の売却価格を決めるうえで、容積率は土地の利用価値を決める大きな要素です。

容積率の上限が高い用途地域にある土地は、大きな建物を建築して延べ床面積を広げることができるため、商業施設の運営や賃貸事業を行う買主には魅力的でしょう。

容積率が低い地域の土地は大きな建物を建てることはできませんが、快適な住環境が期待できる点が魅力です。容積率と土地の価値の関係について正しく理解したうえで売却に臨むことが大切です。

複数の用途地域にまたがる場合の容積率計算方法

敷地のすべてが1つの用途地域に含まれている場合は、都市計画で定められた敷地面積に指定容積率を乗じることによって建築できる最大の延べ床面積を求めることになります。
敷地が複数の用途地域にまたがっている場合は?

たとえば200平方メートルの敷地面積で指定容積率が200%である場合

最大延べ床面積は400平方メートル

になります。しかし、敷地が複数の用途地域にまたがっている場合もあります。その場合の容積率の計算には注意が必要です。保有している土地の用途地域が2以上の用途地域にまたがっている場合、容積率は加重平均で求める必要があります。

例:第1種低層住居地域で指定容積率が100%の部分が40%
商業地域で指定容積率が200%となっている部分が60%で構成されている敷地の場合
第1種低層住宅地域
100%×40%=40%
             +
商業地域
200%×60%=120%

=160%(敷地全体に対する容積率)

土地売却にあたって売却価格を想定する場合は、都市計画図を入手して都市計画の情報を収集することが大切になるでしょう。

指定容積率を確認するとともに、保有している土地が複数の用途地域にまたがっているかどうかを確認することが重要です。正しい容積率を知ることが適正価格での売却につながります。

都市計画図は地方自治体で入手可能です。販売されていますので購入したうえで利用できますし、閲覧することもできます。土地売却を検討するときは必ず入手しましょう。

前面道路の幅員による容積率の制限

容積率から最大延べ床面積を計算する場合、原則は都市計画で指定されている容積率を使用します。しかし、前面道路の幅員が一定以下である場合は、指定容積率よりも小さい容積率しか認められないケースがあります。そのため、土地の売却を検討している人は、容積率を制限する規定についても理解しておく必要があるでしょう。

前面道路の幅員によって容積率が制限される

前面道路とは敷地が接道している道路のことで、幅員とは道路の幅のことです。

建築基準法の定めにより、建物を建設する敷地は幅員4メートル以上の道路に接道していることが求められます。ただし、4メートルに満たない道路であっても、現行の建築基準法施行以前から建物が建っている場合などは、4メートル以下の道路でもよい場合があります。

建築基準法が、道路の幅員に関して規定を設けている理由は、環境面と安全面の両方を考慮しているからです。一定以上の幅員がある道路であれば、通風や日照が確保しやすくなります。また、災害が発生した場合でも避難や消火活動が可能です。

前面道路が12メートル未満である場合の容積率の計算は、一定の方法により計算した率と指定容積率を比較して小さい方とされています。そのため、12メートル未満の道路に接道している場合は指定容積率よりも小さい容積率しか認められない可能性があることを知っておきましょう。

一定の方法
前面道路
×
用途地域が商業系と工業系の場合
10分の6

用途地域が住居系の場合
10分の4

たとえば

商業系の敷地で前面道路の幅員が6メートルだった場合
前面道路の「6」×10分の6=360%

をまず計算

指定容積率が400%だった場合
360%の方が小さく容積率は360%しか認められない
指定容積率が300%だった場合
指定容積率の方が小さく容積率は300%となる

保有している敷地に接道する前面道路の幅員が12メートル以下の道路の場合は、正確に容積率を求められるようにしておきましょう。

特定道路までの距離条件による制限緩和

容積率の計算には、前面道路の幅員による制限を緩和する規定もあります。この規定の適用を受けるためには、前面道路から特定道路までの距離が一定以内であることが求められます。

特定道路とは、幅員が15メートル以上の道路です。幹線道路や交通量の多い国道などをイメージするとよいでしょう。敷地が接道している前面道路が特定道路から近ければ災害時の避難や消火活動もしやすくなるため、前面道路が12メートル未満の制限に関して緩和が認められるのです。

特定道路までの距離が遠い場合はこの特例は使えません。特定道路までの距離は70メートル以内とされています。距離が70メートル以内の場合の計算は、まず前面道路に加算できる数値を求めます。

計算式の分子
(12-前面道路)×(70-特定道路までの距離)
計算式の分母は70の定数となる

次に、計算した数値を前面道路に加算したうえで幅員12メートル未満の場合の容積率制限値を求め、指定容積率と比較して小さい方がその敷地の容積率です。

例:商業地域にある敷地
指定容積率500%
特定道路までの距離が35メートル
前面道路が6メートルの場合

前面道路に加算する数値
(12-6)×(70-35)
=210÷70=3

(6✕35=210÷70=3)

制限容積率
前面道路は(6+3=9)になるので
前面道路の(9)×10分の6=540%

容積率
指定容積率と比較すると指定容積率の方が小さくなるため
500%
という結果になる

この特例がないと
前面道路6×10分の6=360%
の方が小さくなり容積率は360%止まり

特例を適用することによって、指定容積率500%までの利用が可能になる

保有している土地の近くに特定道路があるかどうかも、売却前によく確認しておきましょう。

容積率オーバーの建物が建つ土地の売却

保有している土地に建っている建物の延べ床面積が、現行の建築基準法などで規定している容積率に基づく延べ床面積を超えているというケースもありえます。

現行法施行前に建物を建設した場合などは、現行法よりも容積率の制限が緩かったケースもあるからです。こういったケースを既存不適格物件と呼びます。こういった土地は売却にあたって注意が必要になります。既存不適格物件を取得した人が建て替えを行う場合、既存の建物よりも小さい建物しか建てられなくなってしまうため、売却が難しくなる可能性があるからです。

容積率オーバーの既存不適格物件を売却する主な方法は3つあります。

1.古家付き土地として売却する方法

古い住宅などが建っている土地の場合、土地を購入した人はそのまま古い家に住むとは限りません。土地に魅力を感じて、建物は建て替えるつもりで購入する可能性があります。そのため、売却段階から古い家の価値は考慮しない価格を提示して売却を進めると売却契約締結にこぎつけられる可能性があるでしょう。

2.建物を取り壊して更地で売却する方法

既存の建物を取り壊して利用するには、取り壊し費用の負担が生じます。土地購入後に取り壊して利用することを検討している購入予定者は、取り壊し費用の発生を嫌って売買契約に至らないこともよくあるケースです。

そういった場合は、売主側で建物を取り壊したあと更地で売却することでスムーズに売却が実現できる可能性があります。

3.一般の買主を探すのではなく、買い取り業者を探して買い取ってもらう方法

買い取り業者の中には、容積率オーバーの既存不適格物件を積極的に購入している業者もあります。取得後に更地にして売却したり、魅力的な建物を建築したうえで有利な価格で売却したりするのです。

容積率を売却できる場合もある

建物を建設する場合、必ずしも認められている容積率をいっぱいに使って建てるとは限りません。容積率に余裕がある建物を建築している場合もあるでしょう。容積率が余っている場合は、容積率の余裕分の経済価値を売却することができる場合もあります。

容積率の売却は、俗に空中権の売却とも呼ばれます。空中権の売買ができる地域は限られていますが、土地そのものを売却せずに、土地の権利である容積率を売却できる可能性があることを知っておくことも大切です。

一定の商業地など容積率の売買が認められている地域では、容積率の売主にとって余っている空中権という資産を換金できるメリットがあります。また、購入者側のメリットは容積率を購入することで、その地域で認められている容積率に基づく建物よりも延べ床面積が大きい建物が建てられることです。

容積率の売買ができるといっても、その価格はどのように決まるのか疑問を持つ人もいるでしょう。

一般的には、収益還元法によって求められた経済価値が売買価格の目安になります。収益還元法は、主に賃貸物件の売買価値を決める場合に使われる不動産価格の計算方法です。

不動産の取得者は、容積率の購入によって賃貸できる延べ床面積が増加することになります。増加する延べ床面積から将来的に得られる賃貸利益を、期待収益率などで割引計算を行って現在価値の合計を算出することで売買価格を求めます。

容積率が余っている土地保有者が売却を検討する場合は、対象となる土地がある地域で容積率の売買が認められているかを確認しましょう。認められる場合は、土地の売却と容積率の売却のどちらが、メリットが大きいかを判断してから土地売却の可否を判断することが大切です。

土地売却を検討する場合は容積率の確認を

土地売却を検討する場合は、売却価格をいくらにするかが重要です。価格が高すぎれば売却実現までに時間がかかってしまったり、最悪の場合は買い手がつかなかったりします。適正な売却価格を知るためには、相場を知ることが大切です。

相場は、さまざまな要素によって決まりますが、その1つとして容積率も重要な要素となります。容積率が大きい土地は利用価値が高く、高い価格での売却が期待できます。そのため、売却前に売却対象地の容積率を正確に把握しておきましょう。

正しい容積率を把握するためには、都市計画図などを入手して指定容積率を確認することが大切です。

また、前面道路が12メートル以内の場合は指定容積率に制限がかかる場合もあります。さらに、特定道路が近くにあれば制限容積率は緩和されます。売却前に容積率を把握し、売却価格に反映するようにしましょう。

また、売却価格を手軽に知りたい場合には、査定サイトを利用するのもおすすめです。

不動産売却査定サイト「イエイ」では、売却したい不動産内容を一度入力すると最短60秒で、複数の不動産会社の査定額比較と売却価格の相場を知ることができます。

また、「イエイ」では売却についてなんでも相談できる独自のサポート体制があるので、知りたいことがあれば一度利用してみてはいかがでしょうか。

そうして売却前に容積率を把握し、売却価格に反映するようにしましょう。