不動産取引において不動産登記は重要な役割を果たしています。不動産登記制度は不動産の権利関係を公に示すための制度であり、誰でも登記事項証明書を取得して内容を見ることができるものです。ここでは、不動産登記の役割や機能について説明するとともに、登記事項証明書の内容についても解説します。

登記事項証明書とは

不動産に関する権利関係の記録は法務局の登記官が管理しています。以前は登記記録を「登記簿」と呼ばれる帳簿に保管していましたが、現在ではコンピュータデータとして電磁的に記録されオンラインデータベース化されています。

登記事項証明書は今やオンラインデータベース化されている

不動産登記制度は不動産に関する権利関係を公に示すための制度であるため、登記記録は誰でも閲覧することができるようになっています。かつては登記簿の写しを得ることで登記記録を閲覧していたため「登記簿謄本」と呼んでいましたが、現在はデータメースから記録を出力した証明書を得るようになったため「登記事項証明書」と呼ばれています。

不動産登記制度の役割

誰でも確認ができるように作られた制度

土地や建物といった不動産は所有者が持ち歩くわけにはいきません。持ち歩くことのできる動産であれば、それを持っている人が所有者であるだろうと推測がつきますが、不動産では所有者を簡単に推測することができません。土地の上に建っている建物に住んでいる人が土地の所有者であるとは限りませんし、建物も住んでいる人以外が所有している可能性があります。

そこで、不動産に関する権利関係を明らかにする記録を保管し、誰でも確認できるようにしたのが不動産登記制度です。

不動産登記制度について
民法177条
「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」

という規定があります。これは、登記をしておかなければ不動産の権利を他の人に主張できないという意味です。

もっとも、民法177条が定めているのは「物権」についてだけです。民法上の権利のうち物権に対するものは「債権」ですが、債権は誰かに対して何かをすることを請求する権利であるのに対し、物権は他の人に何かをしてもらう必要のない権利です。

トラブル対策

たとえば物権の代表格である所有権は、「自由に物を使用」「収益」「処分する権利」ですが、所有権を実現するために他の人の力は必要ありません。物権は物を直接的に支配する強力な権利であり、1つの物に対しては1人の権利しか成立しないものです。

民法177条が不動産に関する物権について登記制度の効力を定めているのは、物権という強力で排他的な権利が誰にあるのかについて明確にすることによってトラブルが起こらないようにしたり、トラブルを簡単に処理したりするためです。

民法177条では登記しなければ「対抗することができない」と定めていますが、その意味は自分の物権があることを主張することができないという意味です。たとえば、不動産の所有権をめぐって紛争になったとき、登記をしていなければ裁判で所有権の主張をしても認められない可能性があるということを意味します。

不動産登記は権利を対外的に主張するためのもの

二重譲渡のしくみ

不動産登記によって不動産に対する物権についての争いが解決される典型的な場面は、「二重譲渡」と呼ばれる事態が発生した場合です。二重譲渡とは、不動産を所有する人が、別々の2人に対して同じ不動産を売却する契約を締結した場合を指します。

不動産の売買契約は、買主が不動産の引き渡しと所有権移転を売主に請求し、売主が買主に代金の支払いを請求するという債権を発生させるものです。相手に行為を要求する権利である債権が発生するだけなので、二重譲渡であっても2つの売買契約は有効に成立します。しかし、2人の買主の所有権は両立できません。物権である所有権は1つの不動産に対して1つしか成立しないからです。

不動産登記は二重譲渡のトラブルを解決する

すると、2人の買主はお互いに自分に所有権があることを主張し合い争いになってしまいます。

このようなトラブルになった場合に適用されるのが民法177条です。民法177条は登記がなければ物権を第三者に主張できないとしています。したがって、二重譲渡の場合は先に所有権移転登記を備えた買主がもう一方の買主に対して所有権を主張することができ、登記を備えていない買主は所有権を主張できないということになるのです。

つまり

二重譲渡において所有権をどちらが取得できるのかは、登記を先に備えるかどうかの早い者勝ちで決まる

ということになります。

物権が誰にあるかを明確にしたのが民法177条

民法177条で決まるのは物権が誰にあるのかについてであり、債権の問題とは関係ありません。したがって、所有権についての争いで他の買主に負けてしまった買主も、売主との関係では未だに債権を有していることになります。

売主に所有権を移転するように請求する権利は存在しているのですが他の買主に所有権が移転してしまっているため、売主は義務を果たすことができません。この場合、買主は売主に支払った代金の返還を求めたり損害賠償請求をしたりすることになります。しかし、元々の不動産の所有権を取得するという目的は達成することはできません。

このように、民法177条の存在によって、不動産取引においては不動産登記を備えることが極めて重要なものとなっているのです。また、このような不動産登記の機能によって、不動産登記記録を確認すれば、誰に不動産に対する所有権などの物権が帰属しているのかを容易に推測することができます。

登記事項証明書に記載されている事項

不動産登記は土地と建物のそれぞれについて、個々の不動産ごとに記録されています。各不動産に関する登記記録は、登記事項証明書を取得すれば見ることができます。登記事項証明書に記載されている事項について説明していきます。

表題部

登記記録ではまず対象となる不動産を特定しなければなりません。その不動産の所在地をはじめとして、土地の用途や建物の構造、土地面積や建物の床面積などの情報を記録して他の不動産と識別します。これらの不動産を識別するための情報を記載しているのが「表題部」と呼ばれる部分で、登記事項証明書の上部にあります。

権利部

不動産に対する権利を記録するのが「権利部」と呼ばれる部分です。権利部では、その不動産に対して誰がいつどのような物権を取得したのかが記録されています。不動産や権利を売却することによって権利者が移転していった記録についても記載されます。

何らかの事情で物権が消滅したことも記録の対象です。権利部を見れば、不動産に関する物権については過去から現在まですべて確認できます。権利部はさらに「甲区」と「乙区」に分かれています。

甲区

甲区は所有権に関する登記だけが記録される部分として設けられています。所有権は物を全面的に支配する物権の中でも最も強力な権利であるため、誰が所有者であるのかは非常に重要な情報です。そのため独立した項目にしてわかりやすく記録をするようにしています。

甲区には、建物を新築した際に最初の所有者となる人が所有権の登記をする所有権保存登記や、売買によって新たに所有者となった人が記録される所有権移転登記などが記録されます。

登記の目的欄には「所有権保存」や「所有権移転」などと記載されます。権利者その他の事項欄には、「新築」や「売買」などと登記原因が記載され、新しい所有者の氏名と住所が記載されます。

甲区にはこの他に所有権を制限するような事項が登記される場合があります。

たとえば差押の登記がなされている場合は、その不動産を競売や公売にかける手続が正式に始まっていることを示しています。所有権を制限するような登記がなされている場合には、その不動産を購入して所有権を取得しても、競売手続などによって所有権を失ってしまう可能性があるということです。

乙区

乙区には、所有権以外の物権についての登記が記録されます。所有権以外の物権とは、地上権や地役権、永小作権などの用益物権と、抵当権や質権、先取特権などの担保物権のことを指します。また、例外的に債権である賃借権が登記されている場合もあります。

用益物権は、完全に物を支配する所有権の一部を制限するものです。

たとえば、土地を購入して建物を建てようとしたのに、他の人の地上権が設定されていたら思い通りに建物を建てられなくなります。したがって、これらの物権も登記によって確認できなければなりません。また、担保物権は債権の担保のために物に設定される権利です。

たとえば借金の担保として設定される抵当権は、借金の返済がされなくなった時に実行され、その不動産を競売にかけて代金から弁済を受けられるという権利です。

抵当権が実行されると競落人に不動産の所有権は移転してしまうため、そのような可能性があるのかどうかは事前に知っておかなければ不動産の取引はできません。またお金を貸す側としても抵当権を設定したことを当事者だけでなく第三者に対しても主張できなければ債権を担保することができなくなります。抵当権の登記をしておけば、不動産が転売された場合でも新たな所有者に対して抵当権を主張できるので安心です。

このように、所有権以外の物権についても、設定や移転、消滅などについて記録しているのが権利部の乙区です。

登記事項証明書を取得する方法

不動産登記記録はインターネットからも閲覧可能

不動産登記記録は法務局が管理する公の制度であり、誰でも閲覧することが可能です。法務局にいけば簡単に登記事項証明書を取得することができます。

対象となる不動産を管轄する法務局に備え付けられている「登記事項証明書(登記簿謄本・抄本)交付申請書」に必要事項を記入し提出すればその場で発行されます。手数料は1通600円(2018年4月現在)で、法務局の印紙売り場で収入印紙を購入して納めます。登記事項証明書には証明文や公印があり、登記記録を公的に証明する書類です。

これ以外にも「登記情報提供サービス」というインターネットを利用した登記情報閲覧サービスがあります。

手数料は安く、過去から現在までのすべての登記履歴が記載されている「全部事項証明書」で335円、所有権登記名義人の情報だけであれば145円(2018年4月現在)です。このサービスで得られる登記情報は、請求時点で法務局に保管されている登記記録と内容は同一ですが、証明文や公印はないため公的な証明書類としては使えません。

登記情報提供サービス
http://www1.touki.or.jp/

不動産売買の際に行う登記手続

不動産取引時

不動産取引を行う際には、まず登記記録を確認することが大切です。対象となる不動産の登記事項証明書を確認し、所有者が誰なのか、所有権に制限はないか、用益物権の設定や担保物件の有無をチェックします。これらの情報は、安全に取引を行えるのかどうかや、不動産購入の可否、価格の妥当性などの判断に大きな影響を与えるのです。

不動産取得時

また、不動産を取得した場合には必ず所有権の登記を備えておく必要があります。建物を新築した場合には最初の所有者として所有権保存登記をしておきましょう。新築建物については表題登記をする法律上の義務はあるものの、所有権保存登記をする義務までは定められていません。しかし、建物を転売しようとする場合には買主は必ず登記を確認します。

抵当権設定の前提として

また、建物を担保にお金を借りようとする場合には抵当権設定の前提として所有権保存登記が必要です。対外的に所有権を主張するために登記は必須のものなので、所有権保存登記も備えておくべきでしょう。

不動産購入時

また、不動産を購入した場合には、所有権移転登記を必ずしなければなりません。二重譲渡の例のように、第三者からの権利主張によって自分の所有権が覆されてしまう可能性があるからです。不動産の売買契約では、売主は買主の代金支払いと引き換えに所有権移転登記を行う必要があります。

抵当権の抹消も忘れずに

また、所有権移転登記をするまでに抵当権などを抹消する義務も負っているのが通常です。これらの義務を果たさない限り、売主は売買契約上の義務を履行したとはいえません。

具体的には、売主は所有権移転登記に必要な書類一式を買主に交付することでこの義務を履行します。取引の現場では司法書士が決済日に立会い、買主からの残金支払いを確認した上で、登記に必要な書類を売主から受け取り、登記手続きを行うことを当事者に約束するという方法が採られています。

不動産登記を備えることは必須!きちんと手続を

不動産取引において不動産登記は非常に重要なものです。不動産取引を行う場合には、登記事項証明書と取得してきちんと内容を確認しておくようにしましょう。

また、不動産登記は民法177条によって、自分の権利を対外的に主張するためにも欠かせないものとなっています。建物を新築したり、不動産を購入したりした場合には、忘れずに登記を備えるようにしてください。