不動産の取引を一度でも行ったことがある人であれば「市街化区域」や「市街化調整区域」という言葉を聞いたことがあるでしょう。これらは都市計画法に基づいて指定される区域であり、そのいずれに該当するかによって土地をどう利用できるのかに大きな影響があるものです。

ここでは、市街化区域とはどのようなものなのかについて説明し、都市計画を把握したうえで不動産取引を行うことの重要性について解説します。

都市計画と市街化区域

街づくりをどのように進めていくかについての計画がないと、極端な人口や産業の集中によって都市環境が悪化したり無秩序な開発によって非効率な投資が行われたりするなどの弊害が生じます。集中的に発展させるべき地域を定めたり、その地域で土地の利用用途を区分けしたりするなどすることで計画的に都市開発を行っていかなければなりません。

そこで、計画的な街づくりを進めるため、都市計画法という法律によって地域によって土地の利用方法や建物の立て方などのルールを定めているのが都市計画です。

計画的な街づくりをすすめるための都市計画

都市計画区域の指定

都市計画を進めていくためには、まず都市の範囲を定める必要があります。都市計画法では、まず都市計画の対象となる区域を都道府県や国土交通大臣が「都市計画区域」として指定することとなっています(都市計画法第5条)。

都市計画区域内の線引き

都市計画区域について、計画的な市街化を図り無秩序な市街化を防止するために必要がある場合には、さらに「市街化区域」と「市街化調整区域」の区分を定めることができます(都市計画法第7条)。これを法律上は「区域区分」といいますが、一般的には「線引き」と呼んでいます。

都市計画区域について必ず線引きが行われるわけではなく、区域区分を設けていない「非線引き区域」もあります。

ただし、政令指定都市では必ず線引きを行わなければなりません(都市計画法第7条1項)。

市街化区域と市街化調整区域

市街化区域とは「すでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」(都市計画法第7条2項)です。一方、市街化調整区域とは「市街化を抑制すべき区域」とされるものです(都市計画法第7条3項)。

つまり、市街化区域は街としての発展を計画している地域で、多くの人たちに住んでもらい商業施設なども集めて街としての活性化を図っていく地域ということです。一方、市街化調整区域は農地や森林などを保全して第一次産業が行われる地域として維持していけるように、一般の住居や商業施設などの建築を抑制して市街化にならないようにする地域だと言えます。

市街化区域と用途地域

市街化区域は街としての発展を図る地域ですが、その区域内でも地域ごとに土地の利用方法などのルールがなければ無秩序な街になってしまいます。そこで、似たような施設を一箇所に集めて効率的な活動が行えるようにしたり、住宅地の環境を維持したりするなど良好な都市環境を整備していくことが必要です。そのため、市街化区域内の土地についてはその利用目的に応じて建築できる建物に制限を設ける「用途地域」が定められます(都市計画法第8条)。

用途地域は大きく分けて「住居系」「商業系」「工業系」の3つに分かれます。住宅地としての環境を維持していくべき地域なのか、商業地としての発展を図る地域なのか、工業用地としての活用をしていく地域なのかを決めることで、効率的でそれぞれの目的に応じた環境を維持していくように街づくりをしていくのです。

用途地域は区別することによって効率的な環境維持をした街づくり

住居系の用途地域

住居系の用途地域には、低層住宅のための地域として第一種低層住居専用地域と第二種低層住居専用地域があります。第一種では、低層住居のほかには小規模な店舗や事務所などを兼ねた住宅、小中学校などしか建てられませんが、第二種では150平米までの一定の店舗などを建てることができます。

第一種中高層住居専用地域や第二種中高層住居専用地域は中高層住宅のための地域です。第一種では病院、大学、500平米までの一定の店舗などが建築できます。一方、第二種では1,500平米までの店舗や事務所などの利便施設を建築することも可能です。

第一種住居地域や第二種住居地域は住居の環境を守るための地域ですが、第一種では3,000平米までの店舗や事務所、ホテルなどを建築することが可能です。第二種では、店舗や事務所はもちろん、カラオケボックスやパチンコ店などを建築することができます。

準住居地域は、住居系の用途地域ですが、自動車関連施設やパーキング付の大型施設なども建築可能で道路沿いの立地を活かした発展を図る地域です。

商業系の用途地域

商業系の用途地域は、商業地域と近隣商業地域の2種類です。商業地域は商業施設の集積によってにぎわいのある地域として発展させることが図られている地域であり、銀行や映画館、飲食店や百貨店などが集まる便利な地域になるようにされています。

一方、近隣商業地域は、周囲の住民が日用品の買い物などをするための地域として設定されているものです。商業地域も近隣商業地域も住宅や小規模の工場などを建築することができます。

工業系の用途地域

工業系の用途地域には工業専用地域、工業地域、準工業地域があります。工場専用地域はどのような工場でも建築できますが、住宅や店舗、学校や病院などは建てられません。工場地域はどのような工場でも建てられると同時に住宅や店舗などを建てることも可能です。

準工業地域は、主に軽工業の工場などの立地を目的とした地域で、危険性や環境悪化のおそれが大きい工場は建てられません。

用途地域と建ぺい率・容積率

用途地域では、建築物の用途の制限がなされると同時に、建築物の建て方についてもルールが定められています。指定した用途に応じた環境を確保するためには、そこに建築される建物のあり方についても規制しなければならないからです。そのため、用途地域に応じて建物の大きさや高さなどについても規制が行われています。

用途地域における建築物の建て方のルールとして代表的なものは「建ぺい率」と「容積率」です。建ぺい率とは敷地面積に対する建築面積の割合であり、敷地の何パーセントが建物を建てるために使えるのかを示す数値です。式で表すと「建築面積÷敷地面積=建ぺい率」となります。

一方、容積率とは敷地に対してどれだけの延床面積の建物を建てることができるのかを示す割合です。式で表すと「延床面積÷敷地面積=容積率」となります。

建ぺい率と容積率は、用途地域に応じて建築基準法で定められています(建築基準法第52条、第53条)。建ぺい率や容積率についての規制は、環境の維持や防災上の必要性などから設けられているため、住居系の地域ほど制限は厳しく、たとえば第一種低層住居専用地域に建ぺい率は30%から60%のあいだで、容積率は50%から200%のあいだで定められることとなっています。

一方、商業地域における建ぺい率は80%、容積率は200%から1000%のあいだで定められることとなっており、大規模な建物を建築できるように配慮されています。これらの制限の違いが、それぞれの用途地域の街並みの様子に大きな影響を及ぼしています。

建ぺい率や容積率は原則として建築基準法の定めるこれらの制限のなかで、各都道府県や市町村が地域の実情に合わせて地域ごとに指定しています。

不動産売買における都市計画の重要性

市街化区域と市街化調整区域の違いや、市街化区域における用途地域の指定などは土地を活用方法に大きな違いを生じさせます。したがって、不動産を購入する場合にはこれらの都市計画を十分に把握しておかなければなりません。

たとえば、市街化調整区域は市街化を抑制する地域なので農林水産業を営む人の住宅などを除き、特別の許可を受けない限り一般の人が住宅を建築することはできません。したがって、住宅を建てる目的で市街化調整区域内の土地を購入してしまうと後で家を建てることができずに困ってしまうことになります。

また、用途地域の指定についても把握しておかないと目的の用途で建物を建てることができない可能性があります。また、用途に問題がなくても具体的な建ぺい率や容積率も確認しておかなければ、必要な規模の建物を建築できないということもありえるのです。

たとえば、賃貸アパートを建てて収益を得ようと土地を購入したところ、容積率の制限によって十分な延床面積のアパートを建てることができずに必要な賃料収入が得られなくなるということも起こりえます。

土地を借りて建物を建てるような場合でも、その土地の用途地域指定の内容や建ぺい率・容積率を把握しておくことは必須です。

また、土地の売主としても買主の使用目的を知っているのであればその目的に沿った建物を建築できる土地であるかどうかに配慮は必要です。その土地が都市計画上どのような区域にありどのような建物を建てられるのかは、売却する商品の性質として非常に重要な要素なのです。

このように不動産売買においては、対象となる不動産が都市計画上どのように扱われているのかを把握することは非常に大切なのです。

都市計画を調べてみよう

土地にどれくらいの資産価値があるのかは、立地や広さなどの条件だけではなく都市計画上どのように扱われているのかによって大きく異なってきます。市街化調整区域にある土地は、原則として建物を建てることができないため資産価値は低くなりがちです。

また、市街化区域内の土地であっても用途地域や建ぺい率.容積率によって大きく市場価格は変わります。また、自分の家を建てるために土地を探している人にとっては建ぺい率や容積率が低くても良好な住環境が維持される住居系の用途地域のほうが好ましいでしょう。一方、賃貸アパートなどを経営しようとする人にとって容積率は土地から得られる収益を判断するための重要な要素です。

これらを知るためには、都市計画を確認しなければなりません。

土地の資産価値を知るためにも都市計画を調べましょう

都市計画の内容は誰でも確認することができます。市町村役場などに行けば都市計画図を閲覧することができて担当者から説明を受けることも可能です。

自治体によって窓口の名前は異なりますが、都市計画課や建設課などの窓口に問い合わせれば良いでしょう。また、各自治体が都市計画図を有償で配布している場合や、インターネットで都市計画図を閲覧できるサービスを提供している場合もあります。

多くの都市計画図では、用途地域が色分けされていると同時にその地域の用途地域名と建ぺい率・容積率が文字で記入されています。これらの情報のほかに、高度地区や防火地域・地区計画や都市計画道路などの情報も見ることが可能です。

都市計画法や建築基準法による制限は必ず確認を

不動産の取引において、対象となっている土地が市街化区域内にあるのかどうかは非常に重要な情報です。また、市街化区域においてどの用途地域に指定されており、建ぺい率や容積率がどうなっているのかも取引の前提として欠かせない情報です。

そのため、宅地建物取引業者が仲介する取引の場合には、契約締結前に行われる重要事項説明でこれらの情報は必ず説明されます。

重要事項説明を宅地建物取引業者に義務付けている宅建業法35条でも「都市計画法 、建築基準法 その他の法令に基づく制限で契約内容の別に応じて政令で定めるものに関する事項の概要」として説明の必要な事項として明記されているのです。

したがって、重要事項説明書には市街化区域なのか市街化調整区域なのかなどや、用途地域名・建ぺい率や容積率などが必ず記載されています。

 これらの情報をきちんと調べて契約当事者に知らせるのは宅地建物取引業者の当然の義務ですが、自分でも確認しておくと安心でしょう。また、宅地建物取引業者の仲介なしに取引を行うような場合には、都市計画法や建築基準法による制限を売買する際は自ら把握するようにしておかなければなりません。

しかし、後の起こりうるかもしれないトラブル対策としてやはり不動産のプロを仲介に入れることが賢明ではないでしょうか。不動産における如何なるトラブルでも、プロであれば迅速に解決してくれることでしょう。特に自ら売却に臨むより、賢く確実に売却してくれるに違いありません。

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自身で所有不動産の情報をよく知り、自身に合う信頼できる不動産業者を仲介い入れ、トラブルなく賢い不動産売買に臨みましょう。