耕作放棄地を保有している場合、その土地を有効活用できているとは言えないでしょう。農地として固定資産課税を受けている場合でも、現況に合わせて将来的には農地課税ではなくなり固定資産税が増加するリスクもあります。有効活用の方法はさまざまですが、売却することも選択肢のひとつです。

そこで、耕作放棄地とは何か、耕作放棄地の現状、さらには売却する場合の注意点などについてお伝えします。

耕作放棄地とは?

耕作放棄地とは、その名の通り、耕作に利用されるべき農地が耕作されていない状態が継続している土地のことをいいます。基本的には、過去1年以上にわたって作物の栽培が行われておらず、耕作再開の見込みがない土地です。

仮に耕作が放棄されている場合であっても、放棄されて間もない時間しか経過していない場合は容易に復元できますので耕作放棄地には該当しません。

容易に復元できる状態というのは具体的には2つあげられます。

1.雑草を刈り取ったうえで耕せば耕作可能な状態になる農地

雑草の刈り取りは容易に行えますので、すぐに復元は可能だと言えるでしょう。

2.直ちに耕作はできない状態であっても整備を進めれば耕作可能な状態になる農地

水路の整備などを行えば耕作できる状態などで該当する可能性があります。長期間放置されたことにより復元が困難な場合は耕作放棄地に区分される可能性が高いです。

放棄期間が容易に復元できるほど短い経過期間であれば耕作放棄地には該当しない

耕作放棄地を正しく理解するためには、休耕地や遊休農地との違いを把握しておくことも大切になります。休耕地は、直ちに耕作できる農地で、耕作の意思がある農家が一定の理由があってあえて耕作していない農地のことです。

放棄をしているわけではありませんし、直ちに耕作できるように農地のメンテナンスを行っている点が耕作放棄地とは違います。

また、遊休農地とは、耕作されていたとしても利用の程度が一般的な農地よりも著しく劣っている場合の農地です。自家用栽培だけ行っているケースなどは遊休農地に区分される可能性があります。

ただし、耕作放棄地と休耕地・遊休農地の区分は明確にできない場合も多いです。そのため、耕作放棄地は、原則として一定期間以上耕作されておらず所有者が耕作を放棄した土地だと理解しておけばよいでしょう。

耕作放棄地の問題点とは?

耕作放棄地は、土地所有者本人にとってだけでなく社会的にも問題になる可能性があります。本人にとっての問題は、使用収益によるメリットがないということです。

耕作することによって得られる収入があれば、土地を保有する固定資産税などのコストをまかなうことができます。また、耕作した作物の売却価格が、耕作にかかわる費用を上回れば売却益を得ることも可能です。

しかし、土地を売却などせずに耕作放棄地のまま保有する場合は、保有コストばかりかかることになります。

耕作放棄地は社会問題になることも。。。

耕作放棄の社会的な問題も見逃せません。問題点は4つ挙げられます。

1.雑草や害虫、鳥獣の増加により周辺の耕作地や住宅地などが被害を受けること

耕作を放棄してしまえば土地は荒れ放題になります。そういった状態になると、雑草が増え、それに伴って害虫なども増えてしまいます。さらに草や虫が増えることによって野生動物が食料を求めて寄り付くようになる点も問題です。

2.食料自給率の低下

農作物を育てる土地が減少することによって、日本の職業自給率も低下することになります。食料が輸入しにくくなる事態に備えて一定の食料自給率を確保することは大切です。耕作放棄地の増加は、国にとっても頭の痛い問題のひとつです。

3.ごみの不法投棄の問題

耕作放棄地は、荒れ放題で人の目に触れにくい場所だと判断されてしまうおそれがあります。そういった土地は不法投棄の恰好のターゲットになるでしょう。

4.耕作地の持つ貯水機能が失われてしまうこと

耕作地の土壌は水分を保つ性質があります。その耕作地が失われてしまうと、周辺地域の保水能力が下がり洪水などが発生しやすくなるおそれがあるといわれています。

耕作放棄地の現状

国土交通省は、5年ごとに耕作放棄地などについて調査を行っています。平成29年7月に発表された「荒廃農地の現状と対策について」によると、田や畑などの耕作地は減少傾向にあります。

昭和37年には約600万ヘクタールあった耕作地面積は平成28年に約447万ヘクタールにまで減少している状況です。一方、耕作放棄地は増加傾向にあります。昭和50年における耕作放棄地の面積は約13.1万ヘクタールでした。しかし、平成27年には42.3万ヘクタールにまで増加しています。

さまざまな事情で耕作を放棄することになり耕作放棄地を保有している人のなかには、売却を検討したことがある人もいるでしょう。それでも、買い手が現れなかったり価格が折り合わなかったりして保有を続けているという人が多いというのが現状です。

耕作地放棄地に対する対策も打ち出されています。たとえば、耕作放棄地再生利用緊急対策交付金事業です。

作物生産を再開する農業者などに対して再生作業や土壌改良、作付け・加工・販売試行、さらには必要な施設の整備等の取り組みを総合的に支援する事業内容です。また、荒廃農地等利用促進交付金制度も整えられています。

農業者や農業者組織などが荒廃農地などを引き受けて作物生産を再開するために行う各種作業や施設整備を支援する内容です。

こういった制度を利用すれば、耕作地を保有し続けるだけでなく、耕作地再生を目指す人や事業者に売却するという選択肢も出てくるでしょう。

耕作放棄地が発生する原因とその背景

耕作放棄地が発生する原因にはさまざまなことが挙げられます。「荒廃農地の現状と対策について」では、農家などに対して自己申告の形をとって調査を行っており、調査項目には耕作放棄地となった理由も含まれています。挙げられている主な原因は5つです。

1.高齢化による労働力が不足している点

全体の23%と最も多い原因となっています。耕作の担い手が高齢化することによって耕作ができなくなります。新たに耕作を担う身内などがいない場合は、そのまま耕作放棄地になってしまうケースが多いということです。

これは農業に限らず小規模な農業・工業に共通している課題だと言えるでしょう。

2.作物価格の低迷

小規模な耕作地で栽培する作物は、大規模耕作により栽培された作物よりもコストが高くなってしまいます。そのため、価格競争力がなく希望する価格で作物を売ることができません。その結果、採算が合わなくなり耕作をやめてしまうのです。

これも日本の農業に共通する課題で、それが耕作放棄地の増加として表れていると分析されています。

3.土地持ち非農家の増加

かつては手広く農業を手掛けていた農家が農業をやめてほかの事業に転じるという例が増えています。その結果、耕作放棄地の増加につながっています。

4.収益が上がる作物がないこと

内容的には、2つ目の価格低迷と共通している点が原因と言えます。ただし、収益が上がる作物がないと感じる農家が増えている背景には、個人消費の多様化が関係しているといわれています。

消費傾向が変わったために、従来から耕作していた作物の需要が相対的に減少してしまったことが原因だと同調査では分析しています。

5.傾斜地や湿地など自然条件が悪い土地だったため

こういった土地の場合は、耕作に向いていないだけでなく宅地としても適していない場合が多いでしょう。そのため、売却するつもりではなかなか買い手がつかず、結果的に耕作放棄地となってしまうことにつながります。

耕作放棄地を売却する場合の注意点

耕作放棄地となった場合、そのまま保有し続けるよりはほかの目的に転用するか売却するかしたほうがよいケースが多いです。もちろん、売却する場合は買い手がいることが前提です。

各種の支援施策などを活用する前提であれば買い手を見つけることは不可能ではないでしょう。また、賃貸事業など農地以外の目的で転用して土地を利用する予定の購入者への売却も選択肢のひとつです。

売却が決まっても農地法の規定に注意!

売却が決まった場合は注意すべき点があります。注意すべき点は農地法の規定です。

農地として使用する予定の購入者への売却や転用目的での購入者への売却は、いずれも農地法に基づき都道府県知事や農業委員会の許可が必要になります。

農地を転売することで権利移転が発生し取得者が農地として利用する場合は、農地法3条が適用されます。また、取得者が農地ではなく別の目的で取得する場合の売却については、農地法5条の適用です。

農地法3条が適用される売却については、農業委員会の許可が必要とされています。

農業委員会は市町村に設置される行政委員会です。農地のまま使用が継続されますので都道府県知事の許可までは必要とされません。許可なく売買が行われた場合、その売買契約は無効とされます。また、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という罰則が適用されることになっていますので注意しましょう。

農地法5条が適用される場合の許可権者は原則として都道府県知事です。

許可を得ないで売買を行った場合は契約無効とされ罰則適用がある点は3条と同じです。また許可を得ない売買を行ったあとで転用した場合は、原状回復義務も課されることになっています。

耕作放棄地を売却する場合はこれらの点に十分注意し、必ず許可を得て売却を実行するようにしましょう。

耕作放棄地の有効活用は売却も選択肢のひとつ

耕作放棄地を保有している人は、そのまま保有するか売却するか迷っているケースも多いでしょう。耕作放棄地をそのまま保有していても十分な利益が得られないどころか固定資産税の負担が増えるリスクもあります。

売却は有効活用の有効な選択肢です。売却を視野に入れて有効活用を検討するとよいでしょう。売却にあたっては農地法などの規制に注意が必要です。

必要な許可を受けずに売却すると、契約は無効になり原状回復義務も生じます。土地購入者とのトラブルに発展することもありえます。売却の際には必ず信頼できる不動産仲介業者に依頼しましょう。

そこで、不動産売却査定サイト「イエイ」を活用してみてはいかがでしょうか。「イエイ」では不動産売却査定価格の比較はもちろんのこと、多様な不動産業者との取引があるので、自身の希望に合う不動産業者選びにも一役買ってくれるのではないでしょうか。

耕作放棄地を売却する場合は、安心して任せられる不動産業者を入念に選び、規制などをしっかり理解したうえで売買契約を締結することがポイントです。