不動産鑑定とは、不動産鑑定士が不動産の適正な価値・時価を見極める事を言います。不動産屋さんが不動産売買時に行う査定とは似て非なるものです。通常の不動産の売買であれば、売りたい人と買いたい人が合意した価格で不動産の価格が決定します。

しかし、不動産には個別性があったり、売りたい人と買いたい人の動機によって価格が変わって来るので、適正な価格や賃料とは言い得ない場合があります。そこで、適正な不動産鑑定評価が必要となるのです。

不動産鑑定は不動産会社の仕事ではない

不動産の鑑定は、誰でもできるわけではなく不動産鑑定士が見極めます。 不動産鑑定士は、合格率2%〜3%という非常に難しいとされている国家試験を合格したものだけがとれる資格です。

不動産鑑定は不動産会社が行うのではなく不動産鑑定士が行う

不動産の鑑定評価は不動産の価値をお金に置き換える行為全般を指しますが、この鑑定方法についてはガイドラインが法律で定められていて、国土交通省に「不動産鑑定士」として登録されている方のみが鑑定評価を行うことができます。

不動産鑑定士試験は、非常に難関と言われていて、司法試験や公認会計士試験と並んで難易度が高く、ステータスも高いという印象の不動産鑑定士ですが、実際どんなことをやっているかは知らないという人が多いのではないでしょうか。

今回は、みなさんにも出来るだけわかりやすく、鑑定評価とは何かを説明していきます。

不動産の鑑定評価とは

不動産鑑定評価は、不動産の経済的価値を判定しその額を提示することを言います。不動産価格が全て個人の判断基準に基づくものであっては公正な取引が保証されるとは言い難くなります。

不動産価格は「言い値」「時価」で取引が出来る価格では無いのです。

例えば、相続税を試算するときに、個人が価格を決めるのでは節税のために安く見積もってしまいますよね。逆に、税を取る国が物凄い高く見積もって…などということが起きないように、公的な価格基準を作らなければなりません。

不動産鑑定士は、様々な諸条件を勘案して不動産価格を算出する必要があります。

日本経済の状況のみならず、不動産のあるエリアの地域経済状況、経済状況だけではなく個別の物件による不動産市場の諸条件(交通・立地条件などの環境面、土地建物に関連する法律面等)を考慮し、住宅やオフィス、店舗等、不動産の適正価格を決める専門家です。

不動産鑑定士は不動産系資格の最高峰

不動産に関する法律や経済、税金、会計等の専門知識を持つ不動産のプロフェッショナルなので、非常に多岐にわたる分野で不動産エキスパートとしての能力を活かせるチャンスの多い、不動産系資格の最高峰なのです。

「不動産の鑑定評価に関する法律」の第一条(目的)の項目には、こう書かれています。この法律は、不動産の鑑定評価に関し、不動産鑑定士及び不動産鑑定業について必要な事項を定め、もって土地等の適正な価格の形成に資することを目的とする。

「不動産の適正な価格の形成」が、不動産鑑定士の仕事の目的ということがわかりますね。 さて、では不動産鑑定士が実際にどんな仕事をしているかというと、大きくは2つに分けられます。「公的評価」と「民間評価」です。

①公的評価

国・都道府県・市町村・裁判所等から依頼を受けて鑑定評価を行うものです。国は鑑定士に「地価公示」のための価格評価を依頼しています。その他に、都道府県の地価調査や、相続路線価評価、固定資産税評価など、公的な価格評価は人が住んでいる限りニーズが絶えることはありません。

あまり皆さんに馴染みは無いかもしれませんが、日本全国の土地に評価額がついています。その評価のための業務量を考えたら膨大極まりないですよね。そのため、不動産鑑定士は安定した仕事・収入が得られるとされているのです。

公的な評価によって、私たちの支払う税金も決まっています。経済状況が良いときは、評価額が上がって税金も上がります。その逆もしかりです。その評価を絶えず見直してもらわないと、不況のときに高い税金のままでは私達も困りますよね。

少し余談ですが地価公示は、毎回大きなニュースになりますね。2015年は銀座4-5-6が日本一高い土地です。その額、何と坪1億1173万5537円。例えば都内あたりで戸建を建てる土地は30坪5000万円位が平均でしょうか。

日本一高い土地の銀座

それでもお金持ちだなぁと感じますが、銀座だと…恐ろしいですね。

②民間評価

企業や個人から依頼を受けて鑑定評価を行うものです。不動産の「売却・購入」の際の鑑定評価や資産価値を調べるための「資産評価」などがあります。実際には、個人が家を売却・購入する際の不動産取引の現場で、不動産鑑定士が試算した額をもとに取引をするというのは、あまり現実味がありません。

戸建・マンションなど、数多くの取引がされるものは事例が数多くあります。価格の基準が、取引事例によって出来あがっていると言えます。

建物個別の痛み具合から想定されるリフォームなどの費用も比較的簡単に資産が出来るため個人や不動産業者が価格を決めてもそこまで大きなブレはありませんし、個人間で協議をして売買価格を決めればいいのです。

ビルなどのある程度大きな金額になる物件、再開発・街づくりなどの大規模な開発がされる場面で鑑定評価が役に立ちます。こういった取引になると、企業間取引等で大人数が売買の判断にかかわるため、個人の感覚差を埋める協議をしているとキリがありません。

公平な判断基準をプロがつくることが必要になります。

活躍が期待される不動産鑑定士

近年、不動産鑑定士が活躍する場が広がっています。ファンドやREITによる不動産の証券化、時価会計の導入に関する依頼が新しいニーズとして出てきて、企業内鑑定士のニーズも多くあります。
また、鑑定評価の経験や知識を活かしたコンサルティング業務もあります。

土地の有効活用提案、マンション建て替えコンサルティング、ビルのデューデリジェンス、プロパティマネジメント、市街地開発の権利調整、CRE戦略など活躍の場が広がっています。以下に、特に注目される3つの業務について説明していきます。

1.国際財務報告基準の適用に関する業務

特に、国際財務報告基準(IFRS)適用に向けて不動産鑑定士に期待される役割は大きいとされています。不動産の時価評価、企業価値向上、経営戦略のなかで重要な位置づけとしてのCRE戦略に関連した業務が拡大しています。

国際財務報告基準とは、世界110カ国以上で採用されているもので、企業活動がグローバル化している現在、会計基準を国際的に統一するという流れがあり、EU圏内だけに統一基準として採用されている財務報告基準です。

企業保有の不動産に関し、不動産鑑定士が算定・評価をして客観性・信頼性を保った報告をするための業務拡大が期待されています。

2.CRE戦略に関する業務

「CRE戦略」というのは、新聞などでも特集されていますので耳馴染みのある方もいらっしゃるかもしれません。「Corporate Real Estate」の略で、直訳すると「企業不動産」です。

企業不動産に関して、アベノミクスで上向きとなった経済状況や株価の上昇により、余裕のできた企業が企業価値向上のために不動産に資金投下したり、もしくは保有状況の見直しをすることで、不動産投資効率の向上を目指すという戦略を指しています。

3.ADR(裁判外紛争解決手続)に関する業務

現在、司法制度改革の一環としてADRという手法が注目されています。リーマンショック後に、大手不動産デベロッパーがこの手法で企業再生を図ったことでも注目を浴びました。

不動産の分野では相続や賃料改定に関する紛争など、第三者からの苦情に中立的に対応して紛争を迅速的確に処理するために、不動産鑑定士がその役割を発揮するということが期待されています。

このあたりは、人と人の間に立って話をまとめる調整能力等も重要であることから、机上の理論をかざすことだけでは通用しない非常に難しい仕事ともいえます。上記のような業務は、時代の流れを読み、高度な知的戦略を提案するスペシャリスト業務です。

知的財産権という言葉はもう一般化していますが、このようなものを守るために、その価値を評価するということが求められています。法律、事業、経営の観点から総合的に判断・評価するというスキルを磨いてきた職業はそう多くありません。

そのため、不動産鑑定士という高度な知識を持つ専門職に期待が集まっているのです。あまり、一般的には馴染みが無い方が多いかもしれない不動産鑑定士の業務について、おわかりいただけたでしょうか。

不動産鑑定評価基準・価格等調査ガイドライン

国土交通省では、不動産鑑定士がクライアントに提出する成果報告書の記載事項について、統一基準を設けるためにガイドラインを作成しています。誰から依頼を受けて・何の目的で・いつ時点で・どういった評価方法を・どういった手順で行うか、などを記載することを定めています。

また、依頼者との関係において利害関係があるか無いかといったことも記載がされるように、ガイドラインに定めています。公正な評価をするためのものなので、依頼者や対象不動産との間に特別な関係があってはならないという原則です。

一方、有利なように数字を書き換えるようなことが起きては信用問題に関わります。

不動産鑑定士の業務は兎にも角にも、公正を期すということです。高度な知識を要し、一般にはわかりやすいとは言えない内容を扱うものなので、不正をされても見抜き難いと言えるのかもしれません。

そのため、国交省が定めるガイドラインに従って、ある一定基準の報告をするよう定めることは、消費者保護の観点から非常に大事なことです。不動産鑑定士は、当然ながら正当な鑑定評価をすることを法律でも求められており、違反した場合には処分が決められています。

例えば「不動産の鑑定評価に関する法律」第40条には以下のように書かれています。

不動産鑑定士が、故意に不当な不動産の鑑定評価、その他鑑定評価等業務に関する不正又は著しく不当な行為(以下「不当な鑑定評価等」という。)を行ったときは、懲戒処分として、1年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止し、又はその不動産鑑定士の登録を消除することができる。同法律には、その他の違反行為に関しては罰金なども定められており、厳しい監督基準があるからこそ、不動産鑑定士には独占業務(不動産鑑定士にしか認められていない業務)が認められているということです。

不動産鑑定士の探し方

実際に不動産鑑定士を探さなければならないとき、どうすればいいのか、これは結構難しい問題だと思います。一般的な認知度が低いので「知り合いに不動産鑑定士がいる」という人も少ないのではないでしょうか。

また、知り合いにいたとしても、その不動産鑑定士が自分の求めている仕事に適した人材か否かをどうやって判断したらいいかもわからないですよね。

そのため、鑑定士をどのようにして探せばいいのか、以下を参考にしていただくためいくつかのやり方をご紹介しておきます。

1.不動産鑑定士と仕事をしている

一番のおススメは、この方法です。士業の方々は、専門業同士、独自のネットワークを自分で作って仕事をしています。不動産鑑定士と一緒に仕事をしたことがある、信頼出来る専門家にお願いして紹介してもらうのが一番安心です。

自分が、不動産鑑定士を必要としている理由をしっかり伝えて、その上で紹介された方であればミスマッチも少ないでしょうし、ご自身に不動産鑑定に関する専門知識がなくても支障はないでしょう。

相性の良さそうな不動産鑑定士を探して任せる

また、紹介で仕事を依頼いただけるというのは非常に嬉しいことでもあり、責任感を強く持つのが人間というものです。受託した以上、的確に業務を進めてトラブルが無いように努めるものと思われます。

問題点があるとすれば、知り合いの紹介だと、断りづらくなってしまうということです。 相性の問題や、対応の良し悪しに不満を抱えながら代金を支払うということでは本末転倒です。

そこは、普段から自分のパーソナリティを良く知ってもらって、相性の良さそうな人を紹介してもらえるようにする努力も必要だと思います。不動産鑑定を依頼するような重要な局面だので、よっぽど急ぎでなければ時間の許す限り相性が合う方を探すべきです。

紹介いただいた一社のみで話を進めると、料金を他社と比較検討ができないということもありますが、インターネットで一般的な価格は公開されています。情報を得ようと思えばいくらでも得られる時代です。

自助努力で比較検討することも意識し、何よりも適正な仕事には適正な報酬をお支払いして満足いく仕事をしてもらう方が、いざ不動産鑑定士が必要という場面では大事になるのではないでしょうか。

2.インターネットで探す

今や、これがスタンダードとも言えます。ですが、不動産鑑定業者のHPに限らず、専門職のHPは大概見た目・直感が頼りということになってしまいがちです。そこで、良質な不動産鑑定のホームページの条件を考えてみました。

  1. 見た目が良い(項目がわかりやすく整理されている)
  2. 無料相談を行っている
  3. 料金体系がわかりやすく掲載されている

1.について、項目分けがわかりやすければ、その内容について知識を得られて、自分が取りたい情報にアクセスできます。

2.について、無料相談は集客のためでもありますが、お客様のニーズを的確に把握する訓練になっているので、問合せ内容を正しく理解してくれる可能性が高いとも考えられます。

3.について、料金体系が明確で、追加費用がどういった場合にかかるのか等についても記載があればベストです。エンドユーザー向けのサービスが多いのか、企業向けサービスが多いのか、不動産鑑定士も得意不得意があります。

問合せを受ける事に抵抗があるという業者は居ないので、まずは、気楽に問い合わせをして、その反応で相性を確かめていきましょう。

インターネットで探せば心の負担は減る一方かえって時間や経費がかかる恐れも。。。

また、インターネットのメリットは、直接顔を合わせずに済むので、実際に発注に至らなくても罪悪感にとらわれる事も無いですし、メール等で連絡を取り合える事でスムーズに相談が進みます。

デメリットとしては、良い不動産鑑定業者かどうかを、実際に合わないで判断しなければならないので、正確にわからない点にあります。結局は、運も大事になってしまいますし、紹介のように自分を知る人のフィルターを通していないので、相性がわからず、合わなかったときに時間も経費も余計にかかってしまうということです。

3.電話帳、タウンページで探す

電話帳やタウンページで不動産鑑定士を探すのはおすすめできません

もう一般的とは言えませんし、あまりオススメしません。電話帳で探すことのメリットは近くの不動産鑑定業者を探すことができる点にあるといえるかもしれませんが、インターネットの方が確実です。

インターネット対応していないというのは、不動産鑑定という最新の専門知識を求められる業種において信用度が下がると言えます。

不動産鑑定の実務自体は、依頼する物件の近くでないと受託できないものではなく、全国どこでも取り扱いが出来ます。近所の業者じゃなくても、特に安いとかいう理由で離れた業者に依頼を検討されるかもしれません。

ただ、依頼する業務にもよりますが、よっぽど簡単なことで無い限り、当然ながら対面で依頼されることをお勧めします。

~注意すべき点~

 1.不動産鑑定料金(費用・報酬)は明確か?  

不動産鑑定料は法的な決まりがない

不動産鑑定料金(料金・費用・報酬等 以下、不動産鑑定料金)は依頼する不動産の種類や、鑑定評価によって算出された金額の総額によって、一定の定率で計算されます。

不動産鑑定料金には、基本的には不動産の種類と鑑定評価額に応じた料金表があり、それによって不動産鑑定料が決まります。この料金表は「公共事業に係る不動産鑑定報酬基準」で定められている金額を使っていることが多いです。

評価額が出るのは、鑑定完了後なので、事前に鑑定料を出すのは概算でしかだせず、評価後でないと確定しません。「公共事業に係る不動産鑑定報酬基準」を利用して鑑定料を出すと、鑑定料が高額になる場合が多いようです。

そこで、不動産の種類(更地、戸建、マンション、アパート等)に応じて一律の料金で行う業者もあります。料金を一律にして明確にし、鑑定料を抑えています。鑑定料金に法律の定めはないので、各業者が独自に取り決めています。

これは、弁護士や司法書士も同じです。従って、同一の不動産であっても各業者により料金は異なります。インターネット等で情報を仕入れて、事前に見積りを出してもらって比較検討すれば、鑑定料を抑えられます。

2.事務所の規模によって差はあるのか?

一般的な小規模の居住用不動産、例えば戸建住宅、マンション一戸などは、事例も多く、不動産鑑定業者によって大きな差は出にくいと思われます。

しかし、事例の少ない大規模物件、借地権等の権利関係が絡む物件、ゴルフ場などは、経験がない中でいきなり出来るものではありませんし、スタッフも多くを抱えていて事例も豊富な大手事務所に一日の長はあると思います。

もちろん、小さな業者に依頼したとしても不動産鑑定業者の横のつながりでチームを組んで取り組んでもらえば、全く問題なく業務は進むでしょう。専門職である不動産鑑定の中でもさらに細かい住み分けはあります。ご自身の依頼したい業務のプロに依頼しましょう。    

不動産鑑定の活用方法

  • 不動産鑑定士による適正な不動産の価格がわかるので、売主は、買主の不信感を払拭できます。
  • 買主側にとっては不動産の適正価値を把握する資料にもなります。
  • 相続・裁判などで、価格についての双方の意見が対立した時に、第三者による評価として問題解決に活用が出来ます。