建物を建築する際の確認申請などは、特定行政庁に対して行います。不動産の新築・増築・改築にあたり、必要となる申請手順を調べると、必ず特定行政庁という名前を見るはずです。そこで、ここでは特定行政庁がどのような機関なのか解説します。また、特定行政庁の主業務である建築確認申請と違反建築物に対する是正命令についても説明します。

特定行政庁とは?

特定行政庁は、建築基準法第2条第35号の規定によって設けられた行政機関です。

主な業務は建築の確認申請、違反建築物に対する是正命令であり、建築行政を司っています。そのため、建築に係る特定の行政機関、役所などと説明されることもよくあります。

しかし、厳密にいうと、建築主事を置く市区町村では当該市区町村の長を指し、建築主事を置かない市区町村では都道府県知事を指しています(建築主事については、次項で詳しく説明します)。

役所のような役割でありながら人を指す言葉でもあるのでわかりにくいと感じる人もいるでしょう。建築基準法特有の表現であるため、そのような用語であると割り切って覚えてしまうしかないかもしれません。

たとえば、建築主事を置く市区町村で新居を建てる場合、建物の設計に問題がないか、建築基準法を満たしているかなどを建築主事が判断します。そして、最終的に申請を認めるのが当該市区町村の長です。

一方、建築主事を置かない市区町村の場合、都道府県知事が認証の印を押します。

建築主事とは?

家をチェックイラスト

建築主事とは建築技術や建築法規に関する専門家であり、建築基準法第4条に従って建築確認を行う、地方公共団体の公務員です。

国土交通大臣が行う建築主事の資格試験に合格した人のなかから、都道府県知事または市区町村の長により任命されています。建築主事の業務は建築確認に関する事務です。

建築確認申請に基づき建築確認をして検査済証を発行すること、違反建築物に対する是正命令を行うことが主な業務です。

ただし、建築主事が全ての建築物をチェックすることは現実的に不可能なので、区域ごとの審査担当者が調査した内容を判断する、最終責任を負う、というのが実質的な業務です。つまり、建築主事の業務を各区域担当に代行させています。

そのため、建築主が実際に確認申請を行う際は、建築主事の部下、担当者とのやり取りになります。

また、従来建築に関する確認と検査業務は、建築主事とその部下しか行えませんでしたが、1998年の建築基準法改正にともない、民間機関も行えるようになりました。この民間機関は「指定確認検査機関」と呼ばれます。指定確認検査機関により、建築の確認が迅速になり、行政対応も充実しました。

一方、民間に門戸を開いたことの弊害も指摘されています。たとえば、検査の厳密性などが欠けていたとされる耐震偽装事件などがあり、特定行政庁による指導監督が問われました。

建築主事のいる市町村は?

建築基準法第4条1項により、建築主事を置かなければならないと定められているのは、政令で指定する人口25万人以上の市です。建築基準法第4条1項には「その長の指揮監督の下に、建築確認に関する事務を司らせるために、建築主事を置かなければならない」とも定められています。その他の市区町村では、建築主事の設置は任意です。

そのため、人口25万以上の市は確認するまでもなく建築主事が置かれていますが、その他の市区町村では役所の建築課などへの問い合わせが必要です。都道府県の公式ホームページの建築課などには、建築主事が置かれている市区町村の一覧が掲載されているので、これらで確認してもよいでしょう。

ちなみに、上述したように建築確認申請といった事務手続きも民間機関が行えるため、特定行政庁に直接申請を行うケースは減ってきています。民間であっても、法的な効力は全く変わらないため、民間機関を利用するのも場合によっては便利です。

ただし、建築の許可を要する場合など、特定行政庁に直接許可を取らなければならないものもあります。また、特定行政庁や民間機関によって、行政指導の内容が異なる点にも注意が必要です。

建築基準法に従っているため基本的には変わりませんが、細かな点を確認したい場合は、事前に問い合わせておく方がよいでしょう。

建築確認申請とは?

建築する建物が建築基準法や条例等に適合しているか

特定行政庁が行っている主な業務は建築確認申請です。この業務は、建築しようとしている建物が建築基準法や条例等に適合しているかを確認することです。

認の結果、適法であると認められると「建築確認済証」が発行されますし、適法でないと判断されれば建築確認済証が発行されず、工事を始められません。また、建築確認は建物の完成後にも行われます。この場合は適法であると認められると「検査済証」が発行されます。

特定行政庁の建築主事、または民間の指定確認検査機関の建築主事に提出する建築確認手順を流れに沿って説明していきます。

手順
建物の新築・改築・増築を行いたい建築主は建築確認申請書を提出

建築主事によって審査が行われる

適法であると認められれば建築確認済証が発行される⇒受領する(この段階で工事の着工が可能)

工事中も施工状況の報告や特定の建築物の場合には中間検査などを行い、建築主事の審査を受ける

建物が完成すれば、完了検査申請書を提出

建築主事によって建築基準法・条例等に適合しているか審査され、適法と認められれば検査済証が発行される
(この書類は工事が竣工(完成)するまで建築業者が保管すること)

工事が竣工したら検査済証を建築主側が受領する

建築主側の最終チェックを経て建築完了

違反建築物に対する是正命令とは?

特定行政庁のもう1つの主な業務は、違反建築物に対する是正命令です。これは、違反建築物を発見した場合に、建物の取り壊し、改築、修繕、使用禁止などの是正命令を出すことです。違反建築物の例としては「建ぺい率や容積率が守られていない」「接道義務に違反している」「建築確認申請をせずに増改築を行った」などの場合です。

なお、建築主事は、是正命令とともに是正勧告もできます。建築基準法第9条には、是正措置が必要な建物について「必要な措置をとることを命ずることができる」とありますが、同法第10条では「必要な措置をとることを勧告することができる」と定められています。

そのため、勧告にとどまるケースが多く、完全に法に違反している物件であったとしても、除去や使用禁止までを命じるケースはあまりありません。これは「財産権は、これを侵してはならない」という憲法第29条に触れる可能性があるため、安易に強い是正命令を行えないためといわれています。

そのため、たとえば、建築確認済証を受けていない建物があり、屋根が傾いて隣の家屋に影響を与えている場合でも、是正措置を命じるだけに留まるケースがよくあります。

他にもいろいろな事例で、近隣住民とその建物の持ち主との間でトラブルになっているのを、テレビなどで見たことがある人も多いでしょう。

建築で困ったら特定行政庁に相談しよう

特定行政庁は建築確認をはじめ建築行政を司る機関です。

また、建築基準法の用語においては、特定行政庁とは、建築主事を置く市区町村の場合は当該市区町村の長、建築主事を置かない市区町村の場合は都道府県知事を指してもいます。建築主事が置かれているかどうかに関わらず、特定行政庁には、建築に関わる事柄について適法かどうかなどをチェックできる担当者が必ずいます。

そのため、「この土地に家を建ててよいのか」「中古の不動産にそのまま住んでも問題はないか」などの疑問について答えを出してくれるでしょう。建築や建物のことで困ったことがあったら、特定行政庁に相談してみてはどうでしょうか。